化学物質の自律的管理と情報公開




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※ イメージ図(©photoAC)

厚労省は、自律的な化学物質管理をめざして2022年2月24日に改正安衛令等を公布し、同5月31日には改正安衛則等を公布しました。

ところが、この改正に関して、明確ではない情報が多く、職場の安全衛生を推進する人々の間に無用な混乱が起きています。

そのひとつは、5年後に廃止が想定されている特化則、有機則等の規定のうち、規則の廃止後も残されるべき規定とは何かです。そして、もうひとつは新たに創設される多くの安衛則の条文の、安衛法上の根拠条文です。

本稿では、これらが明確ではないことの問題点及びなぜこれらを明確にならなければならないかを解説します。




1 厚生労働省が情報を公開しない2つの事項

(1)特別規則の規定で廃止されるものと廃止されないもの

執筆日時:

最終改訂:

やや上から目線の女性

※ イメージ図(©photoAC)

厚労省は、自律的な化学物質管理を志向して2022年2月24日に改正安衛令等を公布し、同5月31日には改正安衛則等を公布した。

そして、この改正の根拠とされる報告書(※)には、次に示すように、化学物質関連の特別規則について、5年後に「自律的な管理の中に残すべき規定を除き、5年後に廃止することを想定」するとされている。すなわち、長年にわたり事業場の化学物質管理の基本であった特別規則について、それを不要とするようなスーパー法令を作るのだと宣言したわけである。

※ 厚労省「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会報告書」(2021年7月)。引用文中の下線強調は引用者による。

なお、特定化学物質障害予防規則、有機溶剤中毒予防規則、鉛中毒予防規則、粉じん障害防止規則、四アルキル鉛中毒予防規則(以下「特化則等」という)は、自律的な管理の中に残すべき規定を除き、5年後に廃止することを想定し、その時点で十分に自律的な管理が定着していないと判断される場合は、特化則等の規制の廃止を見送り、さらにその5年後に改めて評価を行うことが適当である。

また、特定化学物質障害予防規則等への物質追加 を念頭において国が行ってきた化学物質のリスク評価は、今後は行わないこととし、現在リスク評価 を実施途上 の物質に関しては、今後の自律的な管理への円滑な移行に向けて、

  • ① ばく露実態調査が終了した物質については、リスク評価を実施し、リスク評価報告書をとりまとめ公表するとともに、当該物質を取り扱う事業者や関係団体等に対し周知や必要な指導を実施する
  • ② リスク評価結果に基づき健康障害防止措置の検討途上にある物質や、リスク評価が実施途上でありリスクが低いと判定できない物質等については、後述の「ばく露限界値(仮称)」を設定し、これに基づく自律的な管理を推進する

など、各物質の有害性やリスクの状況に応じて、健康障害防止に向けて事業者による適切な対応が講じられるような移行措置について、リスク評価を実施している「リスク評価検討会」等において検討を進めることが適当である。

※ 厚労省「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会報告書」(2021年7月)。下線強調は引用者による。

また、これまで実施していた「リスク評価事業」(※)も、評価作業中の化学物質を含めて、中止することとされた。さすがに、すでにばく露実態調査が終了した物質については、評価を行って、国内の事業者に対して周知や行政指導を行うとはしている。

※ 未規制の化学物質について国としてその労働災害の発生のリスクを評価する事業。この事業で、労働災害発生のリスクが高いと判断された物質は、特化則の対象に加えていた。なお、評価の対象物質は、国際的な評価で発がん性があるとされている物質で、これまで計画的にリスク評価を行っていた。

つまり、これまで、個別の化学物質について、労働災害発生のリスクがあれば特別規則で規制をするという考え方で、多額の国費をかけて推進してきた事業である。それを突然の方針転換でやめるのであれば、せめて国民に対して納得のいく説明をするべきではないかと思う。しかし、そのような説明が行われた形跡は見当たらない。ここでは、その問題には触れないが、民間企業であれば責任問題になりかねないところである。。

そして、報告書の「自律的な管理の中に残すべき規定」が何なのかが説明されていないことから、大きな混乱を引き起こしているのだ。なお、詳細は「化学物質関連特別規則の廃止の合理性」を参照して頂きたい。

自律的な管理の中に残すべき規定」について、厚労省は、第 13 回委員会において次のように述べている。

今回、制度を大きく見直していって自律的な管理に転換をしていく中で、今ある特化則、有機則などをどのようにするかという議論ですが、一定の目標を決めておく必要があるのかという御意見もありましたので、今回の御提案としては、5年を目途として実施状況、定着状況の評価をして、その時点で十分に自律管理が社会に定着をしているというようなことであれば、特化則や有機則などの個別の規制を廃止するかどうか、廃止する場合も自律的な管理の中に一部残すべき規定があるかどうかは、この評価を踏まえて検討、判断することも考えられるのではないかなということです。

その5年後に評価をするときに、全て、全く廃止するということだけではなくて、特化則などの中に規定されているもので、自律管理の中に取り込んでいけるような有用な中身があるのであれば、それも含めて検討するということでどうかということです。仮にその5年後の時点で、まだまだ自律管理は定着していないという評価になるのであれば、更に5年後、10年後ということになりますが、5年先延ばしにして、もう一度評価をすることもあり得るということで、まとめさせていただいております。聞きづらいところもあり申し訳ございませんでしたが、資料1の説明は以上になります。

※ 厚労省「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会 第 13 回議事録」(2021年6月)

要は、5年後に考えて決めるということである。しかし、新しい法令が施行された5年後の時点では必要がない規定が、なぜ、それまでは必要なのだろうか(※)。改正政省令を施行後ただちに法令を遵守する事業者にとっては、必要がない規制の遵守を迫られることになる。

※ 5年間は、守らない事業者が多いからという理由しか考えられない。しかし、5年間、守られないような政省令が、5年たったら守られるようになるものだろうか。少なくとも、5年後に廃止するというなら、それまでにどのように自律的管理を定着させるのかの見通しを示すべきであろう。見通しもなく、5年後にそのときの状況を見て考えるというのでは、行政としての責任を放棄しているとしか言いようがない。

また、特別規則に定められている作業環境測定、特殊健康診断、作業主任者の養成などは、民間の企業等が実施の主体となっているのである。5年か 10 年後に廃止されるかどうかわからない事業では、これらの企業で新規採用や新規設備投資をすることはできないだろう。場合によっては転廃業を急がなければならない。5年後に決めるからと言われて、その間、のほほんと過ごすわけにはいかないのである。

そもそも、今回の改正で、特別規則が廃止されても問題が起きないような法令を作ったと、厚労省は主張しているのである。であれば、何を廃止してもよく、何を廃止してはならないかは分かっているはずである。それさえ言わないのは、あまりにも無責任というべき態度であろう。

【コラム】簡単に決められた特別規則の廃止

厚労省の報告書にある特別規則の原則廃止は、2021年1月の中間とりまとめ(※)の段階では触れられていなかった。中間とりまとめでは、個別の事業場について、特別規則の適用場外を行うとされていただけだったのである。

※ 厚労省「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会中間とりまとめ」(2021年1月)

(オ)特定化学物質障害予防規則等の既存の規制の取扱い

GHS 分類済み危険有害物のうち、特定化学物質障害予防規則、有機溶剤中毒予防規則等の個別の規制で管理方法が具体的に定められているものについては、これらの規定に基づく管理を引き続き適用する

ただし、以下の要件を満たす事業者については、個別に都道府県労働局長等が認定した上で、特定化学物質障害予防規則等の適用を除外し、上記(ア)~(ウ)に基づく管理を認める。なお、具体的な要件は別途国が定める。

  • ① 一定の期間の実務経験を有するインダストリアル・ハイジニスト、衛生工学衛生管理者その他の化学物質管理に関する高い専門性を有する人材が、作業場の規模や取り扱う化学物質の種類、量に応じた体制で関与することとされていること。
  • ② 一定期間、当該物質による労働災害を発生させていないこと。
  • ② 一定期間、当該物質による有所見者を発生させていないこと。
  • ② 一定期間、当該物質を良好な状態で維持管理できていること。
※ 厚労省「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会中間とりまとめ」(2021年1月)。下線強調は引用者による。

すなわち、特別規則の廃止は、中間とりまとめから報告書が出されるまでのわずか6か月の間に決定さているのである。この間、委員会の開催回数は第12回から第15回の4回のみである。

そればかりか、議事録によると、初めて廃止の話が出たのは、中間とりまとめが出された2回後の第 13 回委員会である。しかも、その時点でいきなり廃止を前提とした議論となっているのだ。なんの脈絡もなく、突然、どう廃止するかのスケジュールの議論が始まっている(※)のである。

※ おそらく、中間とりまとめを行う中で、委員会の外で廃止の議論が出たものであろう。なお、第 13 回委員会の席上、日本経団連の委員が廃止のスケジュールについて、やや強硬な意見を出している。しかし、関係者からの情報によると、廃止の話は必ずしも使用者側が切り出して、それに行政が押し切られたという構図ではないようだ。

すなわち、廃止するかどうかの議論は、委員会では行われていないのである。委員会の外でいつの間にか決まっており、委員会では形だけのスケジュールの議論が行われただけなのである。

しかも、今回の自律的な管理関連の改正では、法改正をしないので、廃止について国会での議論も行われることはない。この点について、第 14 回委員会で、厚労省の担当者が次のように述べている。

廃止する対象になっている特化則とか、そういうものは厚生労働省の仕組みなので、それは厚生労働省で判断するということになります。

※ 厚労省「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会 第 14 回議事録」(2021年6月)

今後、事態がどのように進展するかは、やや不透明であるが、厚労省の匙加減さじかげん一つということなのであろう。

国民の側としては、どちらに転んでもよいように、準備を進めてゆく必要がありそうだ。


(2)安衛則の新設条文の安衛法の根拠条文

ア 安衛則等の根拠となる安衛法の条文の判断

安衛法は、事業者が実施すべき具体的な事項は省令で定めるという形をとることが多い。しかし、安衛法という法律に具体的な委任規定がなければ、関係省令で国民に義務を課したり権利を制限することはできない(※)

※ 委任規定とは、「○○は省令で定める」というように、特定の事項を省令にゆだねる規定である。詳細は「省令の義務規定と法律上の根拠条文」を参照して頂きたい。

ところが、安衛則、特化則などの省令の義務を定めた条文には、安衛法のどの条文が根拠なのかが明記されていないものが多い。そればかりか、そもそも安衛法に根拠条文がない条文さえ存在しているのである(※)

※ 法律に根拠がなければ、国民に義務を課したり権利を制限することはできない。従って、省令に義務の形で定められていても、それらは行政指導と同じに過ぎない。すなわち、その条文によって私法上の安全配慮義務が生じることはあり得るが、その条文に国民が拘束されることはない。

すなわち、安衛則、特化則などの省令の条文を見ただけでは、それに罰則があるのかどうかが分からないのである。

しかし、安衛則の規定に違反する行為があった場合、その安衛法の根拠条文が何かが分からないと、労働基準監督官は司法処分(送検)ができない。労働基準監督官は、労働調査会が発行している「安衛法便覧」に、各省令の条文の根拠となる安衛法の条文が記載されているので、それを頼りにしているのが実態なのである(※)

※ 労働基準監督官は、安衛則等の条文への違反について送検するかどうかを判断するに当たって、安衛法上の根拠となる条文を安衛法便覧で調べて、そこに根拠条文が書かれていないと、安衛法に根拠のない条文だと判断して送検しないケースもあると聞く。

一方、安衛則の同じ条文でも、検察官によって根拠条文が異なるものと解釈されることがあり、別な条文で起訴されるケースさえあるという。


イ 2022年5月公布の安衛則等の根拠となる安衛法の条文

今回の政省令の改正では、省令に多くの条文が新設されている。そして、新設された個々の条文の根拠が明らかにされていないのである。詳細は「化学物質の自律的な管理ポータルサイト」の各コンテンツに示したので参照して頂きたい。

筆者(柳川)は、厚労省の担当者にメールで根拠条文を問い合わせたが回答はなかった。法令改正は終わったものの、多忙をきわめている(※)のだろうなと、そのときは担当者に同情しただけだった。

※ 厚労省に問合せをすることなどめったにないが、それまでは、問い合わせのメールを出すと回答が来ていた。

労働調査会の「安衛法便覧」が出版されれば、そこに根拠条文が書かれているだろうから、それを待とうと思ったのである。ところが、令和4年版の安衛法便覧(2022年9月8日発行)には、改正条文は載っていたが根拠条文は記されていなかった。

※ そこで、最近の改正で新設された条文について調べてみると、特化則で、金属アーク溶接等作業に係る措置について定める第 38 条の 21 とリフラクトリーセラミックファイバー等に係る措置について定める第 38 条の 20 にも根拠条文は記されていない。一方、1・3-プロパンスルトン等に係る措置を定める第 38 条の 19 には根拠条文が記されている。ということは、厚労省は、最近になって、根拠条文を公表しない方針に変わったのかもしれない。

しかし、このような単純な条文の場合、根拠条文はその内容からほぼ特定できるので、これまではとくに問題はなかったのである。

根拠条文が記されていることは「安衛法便覧」のセールスポイントのひとつである。労働調査会が、厚労省に問合せを行わないとは考えにくい。おそらく、厚労省は、最近は根拠条文を公表する気がないと考えるのが自然であろう。


ウ 根拠が不明瞭な具体例

とはいえ、ほとんどの条文は根拠が書かれていないにせよ、条文とその内容や過去の例からほぼ根拠条文が特定できるのである。ただ、今回の改正は、これまでとは質の異なるものが多く、以下のものは議論の余地がある。

【根拠条文のやや不明瞭な条文】

1 管理体制関連

(1)安衛則に基づく管理体制

  • 新安衛則第12条の5(化学物質管理者の選任)
  • 新安衛則第12条の6(保護具着用管理責任者の選任)
  • この条文は、安衛法第 22 条が根拠と考えることが可能(※)である。そしてそう考えると、同法第 119 条により罰則が付く。
  • しかし、この2つの条文は、安衛則第1編第2章の安全衛生管理体制の中に新たな章を起こして規定されていることから、安衛法第3章の安全衛生管理体制の中に根拠がなければならないと考えることもできる。
  • そうなると、安衛法第3章には根拠となる条文がないので、そもそも根拠のない条文と考える余地はあろう。そうなると罰則はかからないこととなる。
  • ただ、信頼できる筋からの情報によると、厚労省は安衛法第 22 条が根拠であると考えているようだ。

※ 安衛法第 22 条は、一般的な書き方をしており、その気になれば、安衛則等の労働衛生関連のすべての条文は第 22 条が根拠だと考えることが可能である。

(2)化学物質関連特別規則に基づく管理体制

  • 新特化則第36条の3の2第4項第3号等(保護具着用管理責任者の選任)
  • この条文は、作業環境測定の結果に基づく措置であることから、安衛法第 65 条の2が根拠となると考えることができる。そうなると、安衛法第 65 条の2には罰則規定がないので罰則はかからないことになる。
  • しかし、前項の新設される安衛則第 12 条の6との関係から、第 22 条が根拠と考えることもできよう。そうなると安衛法第 119 条により罰則が付くのである。

2 リスクアセスメント対象物健康診断関連

(1)健康診断の実施

  • 安衛則第577条の2第2項(リスクアセスメント対象物健康診断)
  • 安衛則第577条の2第3項(リスクアセスメント対象物へのばく露時の健康診断)
  • この条文は、健康診断に関する規定であるが、今回の改正省令は前書きにおいて、安衛法第 66 条については第2項のみを根拠とすると明記されている。ところが、以下の条文に対応する政令の定めがない等のいくつかの理由により、同法第 66 条第2項は根拠とはなり得ない。
  • そうなるとその内容から根拠となり得る条文は同法第 22 条しかないが、健康診断の実施が同法第 22 条の射程にあるとは考えにくい。もしそうであれば、そもそも同法第 66 条は必要がないともいえるからだ。従って、根拠のない条文と考えられる。そうなると罰則はないことになる。
  • しかし、この場合も同法第 22 条が根拠とならないとは言い切れないのである。そして、そうなると罰則がかかることになってしまう。

(2)健康診断関連の諸規定

  • 安衛則第577条の2第第5項(記録の保存)
  • 安衛則第577条の2第第6項(医師等への意見の聴取)
  • 安衛則第577条の2第第7項(医師等への情報の提供)
  • 安衛則第577条の2第第8項(事後措置)
  • 安衛則第577条の2第第9項(本人への結果の通知)
  • 安衛則第577条の2第第10項(関係労働者の意見の聴取)
  • これらの条文は、上記の安衛則第577条の2第2項及び第3項と同様に、根拠のない条文であろうが、安衛法第 22 条が根拠となる余地がある。

3 監督署長指示関連

(1)監督署長の指示に基づく措置

  • 安衛則第34条の2の10第2項及び第4項(労基署長による改善の指示を受けた措置)
  • この条文は、労基署長の改善の指示による措置を義務付けるものである。しかし、そもそもその監督署長の指示が法律に根拠のないものなのである。従って、罪刑法定主義から罰則がつくとは考えにくく、罰則のつく安衛法の条文を根拠としているとは思えない。
  • しかし、この条文も安衛法第 22 条が根拠となるという解釈もできないわけではないのである。そうなると、罰則がつくかどうかは必ずしも明確ではない。

(2)監督署長の指示に基づく措置の報告と記録の保存

  • 安衛則第34条の2の10第5項(労基署長による改善の指示を受けた措置の報告)
  • 安衛則第34条の2の10第6項(労基署長による改善の指示を受けた措置の記録の保存)
  • これらの条文については、安衛法に根拠となりそうな条文が存在している。報告については安衛法第 100 条、記録の保存については同法第 103 条と考えられるのである。そうなると、これらには罰則がつくと考える余地がある。
  • しかし、そもそも法律に根拠のない労基署長の改善の指示によるものであり、罰則が付くと考えるには躊躇ちゅうちょをせざるを得ない。従って、根拠のない条文という解釈もできないわけではない。

すなわち、法令の文言だけでは、それへの違反が刑事罰を科されるものなのかどうかが判然としないのである。この件に関して、何人かの専門家や実務家と意見交換をしたが、根拠となる条文は明らかではないとの意見が多かった。

厚労省は、当然のことながら、それぞれの省令の条文について、安衛法の根拠が何かという解釈はしているはずである。なぜ、それを明らかにしようとしないのかは分からない。


2 情報が明らかにならないことの問題点

(1)特別規則の規定で廃止されるものと廃止されないもの

化学物質関連の特別規則について、5年後に廃止すると行政がアナウンスしておきながら、何を廃止して何を廃止しないのかを明らかにしないことによって起き得る問題については「化学物質関連特別規則の廃止の合理性」で指摘した。

厚労省は、今回の政省令の改正をしたことによって、それによる自律的な管理が十分に定着すれば、化学物質関連の特別規則は廃止されても問題はないと宣言したのである。

にもかかわらず、特別規則のうち何を廃止するかについて(※)、5年後に検討するというのは、明らかに矛盾しているのである。

※ 自律的な管理が十分に定着したかどうかについて、将来のある時点で評価するというのは、現実問題として理解できる。しかし、何は廃止しても問題はなく、何は廃止することができないのかについては、すでに公布された条文が何をターゲットとしているかによって決まるはずである。

将来、評価するというようなものではあるまい。それを法令を公布した時点で評価できないというなら、公布された法令は、どのような役に立つのかも分からないものだということになろう。

法令を守れと国民に対して命じておきながら、それがどんな役に立つのか=現行法令のうち何が必要なくなるのか、これを説明しないというのは、如何なものであろうか。


(2)安衛則の新設条文の安衛法の根拠条文

近代国家においては、どのような行為が犯罪として処罰されることになるのかは法律によって明らかにされていなければならない。これを罪刑法定主義といい、法律学の基本中の基本であろう。

※ 詳しくは「省令の義務規定と法律上の根拠条文」を参照して頂きたい。

ところが、今回の政省令改正については、罰則がついているのかいないのか、専門家でさえ分からないのである。

少なくとも、ある行為が犯罪として送検されるかどうかが、都道府県や監督署の所轄区域によって異なって良いわけはない。従って、厚労省は、当然、各都道府県労働局に対しては、根拠条文を示す(※)はずである。

※ 現時点で示されていなくても、少なくとも施行までには示すのではなかろうか。まさか、「条文を読めばわかる」とか「送検するときに検察官の判断を仰げ」などとは言わないだろう。

であればそれを公開しないのは、やや理解に苦しむ。


3 最後に

目隠しされた女性

※ イメージ図(©photoAC)

行政が、将来的な行政の方針を明確化することについて慎重になる気持ちは理解できなくもない。しかし、繰り返しになるが、政省令を改正して、それを国民に遵守することを命じておきながら、それによって何を目指そうとしているのかを国民に示さないというのは如何なものであろうか。

また、それらの政省令に違反すると、罰則が科せられるかどうかを示さないというのは、異常というより他はない。

まさか、孔子の「論語 泰伯編」の「子曰、民可使由之、不可使知之」(※)を誤解したわけでもないだろうが、正しい情報や行政の考え方を隠すことによって、何かがよくなることはないのである。

※ 氏いわく、たみはこれにらしむべし、これを知らしむべからず。孔子は「民を政治に従わせることはできるが、理解させることは難しい」と述べたという趣旨。わが国では「政治は、国民を従わせるべきだが、知識は与えるべきではない」という趣旨に理解されることが多い。


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