外国語による技能講習の受講




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外国人技術者

※ イメージ図(©photoAC)

日本語が自由ではない外国人が技能講習を受けることは困難な面があります。そのため、厚生労働省としても様々な対策をとっています。

また、日本国内で外国語で技能講習が受講できる登録教習機関(技能講習実施機関)も増えつつあります。

本稿では、日本語が不自由な外国人の技能講習の受講について解説し、併せて外国語で受講可能な登録教習機関の探し方について解説しています。



1 外国人労働者の技能講習

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(1)厚生労働省「外国人に対する技能講習実施要領」

外国人技術者

※ イメージ図(©photoAC)

外国人は日本語が理解できない場合があることから、就労の可否とは別に一定の配慮が必要となる。このため、厚労省では令和2年3月 31 日基発 0330 第 43 号「外国人の日本語の理解力に配慮した技能講習の実施について(※)において「外国人に対する技能講習実施要領」を示している。

これによって、日本語が理解できない外国人受講者に対する技能講習について、登録教習機関に対して実施方法についての指導を行っているのである。

※ この通達は令和3年2月 25 日基発 0225 第1号「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令の施行等について」により令和4年4月1日から一部変更されており、氏名欄への通称の併記が認められている。

なお、この令和3年2月 25 日基発 0225 第1号の記の第3には、外国人の技能講習修了証の氏名欄に旧姓が併記できると理解されるような表現があるが、外国人には戸籍がなく従って旧姓も存在していないので旧姓の併記ということはあり得ない。

当然のことだが、この通達は日本語が自在に話せる外国人には適用されない。


(2)外国語による技能講習の受講

外国語による技能講習の受講については、以下のような対応がとられる。

【技能講習における外国人の取扱い】

  • 受講生の日本語の理解力を把握
  • 原則として本人の自己申告による。申告は厚労省の「外国人に対する技能講習実施要領」に示されたものが用いられることが多い。
  • 現実には、事前に面接が行われるケースが多い。
  • 原則として専用のコースを設置
  • ただし、受講者の日本語理解力に応じ、同時通訳の配置等により同時に行われる場合もある。
  • 登録教習機関によっては、別室でリアルタイムでビデオを上映し、同時通訳で対応するケースもある。
  • 講師が外国語に堪能でなければ通訳を配置
  • 受講者側で通訳を確保することを認める場合もある。ただし、通訳には専門知識・技術的な知識が必要である。技能講習を受講している通訳が望ましい。
  • 現時点では、音声翻訳機は不可とされている。
  • 講習時間
  • 通訳に要する時間は講習時間に含めない。通訳に必要な時間を確保するため、法定の講習時間より長くなる傾向がある。ただし、同時通訳の場合は日本人と同じ時間とすることも可能である。
  • 修了試験
  • 原則は筆記試験で行われる。外国語による筆記試験が行われるケースもある。
  • 日本語又は外国語で読み上げる方法がとられる場合もある(※)。この場合、試験時間は1.3倍まで延長可。
  • ※ 外国語で読み上げる場合、受講者側が確保した通訳によって行われることはない。

  • 修了証
  • 氏名は在留カード又はパスポート記載の氏名となる(本人が希望したときは通称名が併記される。)

通訳が行われる場合、その費用は受講料に上乗せされることが多く、日本語による受講よりもかなり割高になる(※)

※ 技能講習の受講料や通訳の費用は、各登録教習機関が決定する。統一された価格で行われるのではない。

なお、日本語が理解できるからという理由で日本人と同じコースの受講を希望する外国人もいる。しかし、ほとんどの登録教習機関は事前に面接を行って、日本語の能力レベルを確認している。実技講習には危険を伴うため、日本語の能力が不十分だと判断した場合、受講の取り下げを要請されることが多い。

また、日本語が分からないまま無理に日本人と同じコースを受講しても、学科講習の修了試験に合格することは困難であろう。


(3)外国語による技能講習補助教材

なお、厚労省で「外国語による技能講習補助教材」を作成している。

これは、実際に使用されている技能講習のテキストから重要な部分を抽出して翻訳したもので、厚労省としてはこの補助教材とオリジナルの日本語教材を用いて技能講習を行うことを想定している。2024年3月時点で、9つの区分で14か国語(日本語含む)が準備されている。

誰でも自由に使うことができるので、事前の学習を行う場合にも利用できるであろう。


2 外国語による受講が可能な技能講習実施機関

(1)各都道府県労働局のサイトから探す

外国人技術者

※ イメージ図(©photoAC)

現実には、日本語の理解が不十分な外国人への技能講習を実施していない登録教習機関も多い。従って、短期滞在ビザ等の外国人が技能講習の受講が禁止されないといっても、すべての登録教習機関で受講できるわけではない。受講できる登録教習機関は、厚労省のWEBサイト「登録教習機関一覧(都道府県別)」から(※)調べることができる。

※ このページから、「外国人を対象とした外国語対応の技能講習を実施している機関の一覧(全国版)(令和5年4月3日時点)」を参照することができる。また、各都道府県労働局の技能講習関連のページにリンクがあり、それぞれの労働局(高知、大分及び宮崎を除く。)のページに外国語対応の登録教習機関の一覧へのリンクがある。

登録教習機関は各都道府県労働局の登録を受けているので、この情報はかなり正確なものと思われる。ただ、各機関の実質的なサービスの内容・レベルが分かるようなものではない。

なお、ほぼ同じ様式で(一社)全国登録教習機関協会のサイトに「外国語対応の技能講習を実施している全登協会員登録教習機関一覧(令和5年1月1日現在)」が掲示されている。こちらは同協会の会員のみの情報で、会員の情報も厚生労働省のデータと微妙に異なっている。

ただ、厚労省のサイトのリンクは、各都道府県労働局の技能講習に関するページへのリンクなので、以下に、外国語による技能講習を実施している機関の情報へのページへのリンクの一覧を示す。

表:各労働局外国人対応技能講習機関一覧のページ
北海道 青森 岩手 宮城 秋田
山形 福島 茨城 栃木 群馬
埼玉 千葉 東京 神奈川 新潟
富山 石川 福井 山梨 長野
岐阜 静岡 愛知 三重 滋賀
京都 大阪 兵庫 奈良 和歌山
鳥取 島根 岡山 広島 山口
徳島 香川 愛媛 高知 福岡
佐賀 長崎 熊本 大分 宮崎
鹿児島 沖縄 ※ 2024年03月05日確認

※1 リンクは2024年03月05日に確認して、厚生労働省のデータをアップデートしている。

※2 多くの労働局は2021年3月~6月時点での外国人対応状況を表示しているようである。

※3 一部の労働局では、一般の登録教習機関の名簿などと同じページで外国語対応状況を付しているケースもある。

※4 2024年03月05日の時点で、高知労働局熊本労働局大分労働局宮崎労働局のサイトには、管内の登録教習機関で外国人を対象とした外国語対応の技能講習を実施している機関についての情報はない。なお、厚生労働省の「外国人を対象とした外国語対応の技能講習を実施している機関の一覧(全国版)(令和5年4月3日時点)」では、高知県内及び熊本県内に外国語の技能講習に対応している機関があるとされている。

※5 福島労働局は、同局のサイトの法令・制度のページにある「外国人労働者対応登録教習機関一覧表」がリンク切れとなっている。

ただし、外国語の実施が可能と言っても、その対応の実態は登録教習機関によってかなり異なっている(※)。外国語の受講を希望されるのであれば、それぞれの登録教習機関に、直接、連絡を取って、実際にどのように講習が行われるのかを確認することをお勧めする。

※ その登録教習機関が行っているすべてのコースに外国人が受講できるというケースはないと考えた方がよい。年に数回、外国人の専用コースを設けているというケースや、外国人の受講申請がある程度(10人とか20人とか)まとまってあったときに臨時にコースを設けるのみというケースもある。

また、通訳を受講者の側で準備することを求められるケースや、通訳料が別料金となっているケースは多い。料金が日本語コースと同じとは限らない。

なお、当然のことだが、日本語が不自由なく話せる外国人であれば、すべての登録教習機関において通常のコースでの受講が可能である。


(2)JITCO のサイトから探す

また、(公社)国際人材協力機構(JITCO)が「技能実習生の技能講習・特別教育受講」のページを公開しており、ここからも外国人の受講可能な機関を探すことができる。

こちらの方は、個々の機関についての対応状況についての詳しい説明がある。ただ、都道府県労働局の資料とかなり矛盾がある(※)ようである。

※ JITCO がそれぞれの登録教習機関から独自に調査したものなので、一部に調査漏れがあったり、やや古い情報が混じっているものであろう。


3 最後に(今後の方向)

(1)外国語による技能講習の実施の難しさ

ただ、技能講習を実施する登録教習機関の側に立ってみると、外国語による技能講習は現時点では(※)必ずしも魅力ある市場ではないのである。現実には外国語による技能講習の実施は、通訳の確保やその能力の確認にかなりのコストが必要となる。しかし、その一方で外国人コースの料金をあまりに高額にすることもできない。

※ もちろん、少子化が進む中で技能講習音事業を今後も持続してゆくためには、外国人の受け入れはきわめて重要な課題である。このような認識は、先端的な登録教習機関の間に広まりつつあることは事実である。

通訳の質に確信が持てなければ、どれだけ講習の内容が伝わったのかの確認も難しい。試験があるので、修了者の質は担保できるかもしれないが、受講生が合格できなければトラブルになることも予想される。

このため、外国語の技能講習が、今後、一定規模の市場に成長する可能性があるにもかかわらず、その実施に二の足を踏む登録教習機関が多いのが現実なのである。


(2)外国語による技能講習の今後の方向

今後、日本における外国人の技能講習はどのようになるだろうか。私は、外国人の技能講習の実施が増加するとすれば、いくつかの方向があり得ると思う。

【外国語技能講習の今後の方向】

  • 日本で技能講習を修了した外国人が、一定の実務経験を経て技能講習の講師の要件(※1)を満たし、各登録教習機関で講師を務めるようになるケース。
  • 外国語の堪能な講師を雇用する会社が設立され、外国語の学科講習を登録教習機関から受託(※2)し、ネットを介してその会社の講師が務める。
  • ネットを介した通訳専門の企業が設立(※3)されたり、外国の日本語学校の学生等の強力を受けたりするケース。
  • 学科講習は、講師の授業をネットを介して通訳会社等で同時通訳し、受講生のヘッドフォンに送信する。
  • 実技講習は、講師と受講生がヘッドセットを使用し、ネットを介して通訳会社等での通訳を通して会話を行う。
  • 自動翻訳機の性能が向上するケース(※4)。現実には英語以外は難しいだろうが、将来的に自動翻訳機によって技能講習を行うことはそれほど困難ではないだろう。

※1 技能講習の講師の資格は、安衛法第 77 条第2項(第二号)及び同法別表第20に定められている。

ほとんどの技能講習の区分で、講師になるためには一定の実務経験が必要となる。この実務経験が国内でなければならないのか、国外でもかまわないのかは条文からは必ずしも明らかではない。行政の実務においても、過去にこれが問題となったことはなく、やや不明瞭である。

※2 技能講習の講師は、登録教習機関が雇用している必要はない。従って、登録教習機関ではない企業と契約し、その企業の労働者が講師を務めることは安衛法違反ではない。当然のことながらリモート講習も可能である。

※3 ネットを介して同時通訳を行う企業は現在も存在している。これが技能講習で活用されるためには、技能講習で用いられる専門用語に対応できるようになる必要があるだろう。

※4 現時点では、自動翻訳機の使用は認められていない。しかし、専門用語への対応が進めば、将来的には認められる可能性もあろう。

日本が、真にグローバル化を進めて、少子高齢化という危機を脱するためには、外国人が技能講習の講師に就くようになることが望ましいだろう。

外国人や帰国子女が登録教習機関において講師を務めることは、それほど遠くない将来に実現する可能性は大きいと私は考えている。


(3)ネットを利用した通訳の確保

しかし、現時点における外国語の技能講習の最大の難しさネックは、一定のレベルの通訳の確保である。技能講習で用いられる専門用語が分かる通訳がほとんどいないのである。講師が適切な講義を行っても、通訳がいいかげんでは、教育をしたことにはならない(※)のだ。

※ 現実には、通訳が技能講習の内容に精通しており、講師の方が講義があまり得意でないという組合せになるケースもある。そうなると、講師の講義内容を無視して、通訳が独自に講義を行うようなこともあるとのことである。

その場合でも、通訳は技能講習の講師要件を満たしていないことが多いので、通訳が講師を務めることは制度的にできない。

技能講習の講師要件がやや不適切で、講師として適格な能力を有する人材が講師になれないという、技能講習の制度の欠陥がここにも現れている。

国内では、技能講習の受講料に見合う金額で通訳を確保することはかなり困難な状況がある。それであれば、会社設立による規模の利益スケールメリットによってコスト削減を図ったり、ネット技術を利用して物価の低い国の通訳を活用することで、その不足の解消が図れないかと思う。


(4)グローバル化のために

とはいえ、それもこれも、外国人にとって、日本が働きやすい魅力をこれからも保ち続けることが要件である。最近の国内外の状況からは、日本が外国人にとって見放されないようにすることが、最も難しいことのような気もする。


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