学校の体育祭などで行われる組体操(人間ピラミッド、タワーなど)による災害が重大な問題となっています。
子供に多段の人間ピラミッドをやらせれば、重大な事故の恐れがあることは容易に予想できます。それが、重大な災害を繰り返されながらも止められなかったのか、その問題を解説しています。
- 1 はじめに
- 2 組体操事故の特徴
- (1)組体操の事故とは
- (2)組体操の危険性
- 3 なぜ、警告が無視されたのか
- (1)危険性についての警告はあった
- (2)スポーツ庁と地方自治体の対応
- (3)警告はまたも無視された
- 4 組体操の持つ“価値”とリスク
- (1)“価値”と“許された危険”の理論
- (2)ピラミッドの事故の特徴
- (3)組体操のリスクアセスメントの試み
- 5 最後に
1 はじめに
執筆日時:
最終改訂:
労働安全衛生の活動を行う上では、実際に発生した災害に学ぶことが極めて重要である。近年、重要視されているリスクアセスメントにおいては、過去の災害に学び、その再発を防止するのが主眼ではないかのような誤解が一部にあるが、もちろん、そのような考えは誤りである。過去の過ちや失敗に学び、過ちを繰り返さないようにすることは、リスクアセスメントを効果的に進める上で、必要不可欠な事項である。
そして、労働災害のみならず、労働災害以外の分野における災害にも、学ぶべき点は多い。そして、少なくない一般の災害において事故調査報告書が作成されて、公開されている。それらの災害では、発生の原因や機序を学ぶことが可能なのだ。
本サイトでは、いくつかの一般の災害を、労働安全衛生という観点から、分析・評価してみたいと思う。第一回目となる本稿では、比較的、単純な事故として学校における組体操、とりわけタワー及び人間ピラミッド(以下、たんに「ピラミッド」と記す)における事故を取り上げてみよう。
2 組体操事故の特徴
(1)組体操の事故とは
小中学校の運動会で組体操が行われることは、最近まではごく普通のことであった。そして、いつの頃からか、組体操の中にタワーやピラミッドと呼ばれる演技が導入されるようになった。
ピラミッドとは、数人の子供が四つん這いになって横一列に並び、その背中の上に人数を一人減らして子供たちが四つん這いで並び、さらに一人減らしてその上に・・・というように順に上まで上がってゆき、一番上の子供は正立して両手を左右に広げるというものである。実際には、段数が増えるときは下段の人数を増やして前後に数列並ぶようにする。前からみると、三角形になっているのでピラミッドと呼ばれる。
タワーでは、演技する子供たちは、まず数人の子供が正立して円陣を組み、その肩の上に人数を減らして他の子供が乗って円陣を組みというように上に向かって組み上げ、一番上の子はやはり正立して両手を左右に広げる。
説明だけではわかりにくいので、神戸市教育委員会が、2015年9月に神戸市の学校に通知した「運動会・体育大会の実施と健康安全管理について」の中に示している図を示す。
図2-1では、ピラミッド、タワーともに、一番上の子供の足場(背中または肩)の高さは、労働安全衛生法で高所作業とされる2メートルを明らかに超えており、かつ狭くて安定もよくない。ピラミッドの一番上の子が乗っている背中は前後に傾いており、手で下の子につかまっているわけでもないから、滑り落ちる危険性はかなり高いものと思われる。
また、タワーの中段及び下段の子供たちは背中を曲げている。実は、このような方法は脊椎に大きな力がかかり、正しくない方法であると三宅良輔教授が指摘しておられる(※)やりかたなのである。教育委員会の写真からも、これらの演技の安全対策がとれているなどとは言い難いことが分かるのである。
※ 三宅良輔「組立体操の指導における怪我の現状と今後の在り方」(2019年の神戸市のパネルディスカッションの資料)
さらに問題は、少なくない学校で、これらの演技の高さを競い合うようになっていたことだ。場合によっては10段などというケースさえあるという。ところが、子供のことである。バランスを崩してピラミッドが崩れることが避けられない。そうなると、上にいる子はかなりの高さを墜落することになり、下の子は上から落ちてくる子に押しつぶされることとなる。
周囲に教師がいたとしても、事故が起こればなすすべもないだろう。このような事故のため、実際にかなりの数の死傷者が発生し、障害を負う子供たちも出ているのである。このことが2014年頃から大きな問題となっていたのだ。
(2)組体操の危険性
ア 災害発生件数
2016年3月にスポーツ庁政策課学校対策室から発出された事務連絡「組体操による事故の防止について」によると、1969年度以降の約48年間で、見舞金が支払われた学校事故のうち、死亡、障害を対象としたもので、組体操による事故として確認できたものの件数は以下のようになっているという。
【約48年間の見舞金が支払われた学校事故(死亡、障害)】
- 死亡見舞金:9件(組体操時の突然死2件を含む。)
- 障害見舞金:92 件支給実績
また、組体操時の事故による医療費等の支給件数は、2011~2014年度の4年間では、年間8,000件を上回るとされており、そのうち小学校が約6,300件であった。また、平成26年度に、組体操を原因とする災害で技別が明らかになったものの件数は、次のようになっている。
- タ ワ ー:1,241件
- 倒 立:1,167件
- ピラミッド:1,133件
- 肩 車: 640件
- サボテン(※):487件
※ 2人で一組となり、前後に並んで後ろの子供が膝を曲げて、前の子供がその膝に乗った状態で後ろの子供が前の子供を支え、前の子が前方に傾いた状態で両手を広げるもの。図は(独法)日本スポーツ振興センター「(平成28年度スポーツ庁委託事業)体育的行事における事故防止事例」より
これを見ると、タワー、倒立、ピラミッドの3種目が危険であることが分かる。
イ 労働災害との比較の試み
この発生件数のリスクを同時期の労働災害と比較してみよう。2012年の労災保険の新規受給者数(※)は607,237人であり、労働力調査による同年の労働者数は5,161万人となっている。従って、異なる統計間での計算なのでやや正確性には欠けるが、医療機関で治療を受ける程度以上の労働災害に遭った被災者は、全労働者の1.18%程度だったことになる。
※ 労災保険の新規受給者に、即死して医療機関で治療を受けなかった被災者数を加えれば、(医療機関で治療を受けた程度以上の)新たな労働災害の発生件数に一致する。そして、即死したような者は医療機関で治療受けた者の数に比して十分に小さいので、新規受給者数は、医療機関にかかる程度以上の労災事故の発生件数とみてよい。
一方、同じ2012年の学校基本調査による小学生の児童の数は6,764,619人であるから、組体操による災害で医療費等を受けた小学生6,300人は、(危険な組体操に参加していない児童も含めた)全小学生の0.0931%となる。
さて、この組体操による被災児童の割合0.0931%は、先ほどの労働災害全体の被災割合である1.17%を100とすると7.96となる。つまり、労働者がすべての労働災害に被災するリスクの7.96%に当たる程度のリスクを、小学生は組体操だけの実施によって負っているということになろう。
すべての労働災害 | 小学校の組体操 | |
---|---|---|
対象者数 (全労働者・全小学生) |
5161万人 (労働力調査) |
6,764,619人 (学校基本調査) |
医療機関による治療者 | 607,237人 | 6,300人 |
年千人率 | 11.8 | 0.931 |
年千人率の指数 (労働災害を100) |
100 | 7.96 |
そして、休業4日以上の災害に限れば、2012年に労働災害中に占める墜落・転落の割合は約17.0%である。言葉を換えれば、事務員や販売員なども含めてのことではあるが、労働者が墜落転落によって被災する半分程度の被災リスクを、小学生は組体操のみによって負っていることになる。
しかも、小学生は1年中組体操の練習や本番を行っているわけではない。これを行っている時期を1年間のうち3か月程度とみれば、小学生はこの3か月間においては、労働者にとっての墜落・転落による事故リスクの2倍程度のリスクを組体操によって負っていることになろう。
やや、強引な試算ではあるが、このことで小学校の運動会における組体操の被災リスクの程度を感覚的に分かっていただけよう。小学校の組体操による事故は、決して “特異な事故” でもなければ、“めったにない事故” でもないのである。
3 なぜ、警告が無視されたのか
(1)危険性についての警告はあった
しかも、組体操によって一定の災害が発生しているという公開された情報がなかったわけではない。そして公開された情報があれば、教師たちには「知らなかった」などと主張することは許されない。教職員には、児童生徒の安全を守る責任があり、自らの行う教育の内容に危険性があるかどうかを、常に調査・研究する義務があるというべきだからである。
ア 民事事件の判例
1993年5月には福岡地裁が、ある高校で8段ピラミッドの練習中の事故で脊髄骨折の障害を負った3年の生徒と両親に対し、学校側に1億2930万円の賠償を命じた判決を出している(※)。
※ 本件は学校側から控訴されたが、1994年12月に賠償額を一部減じたものの(1億1150万円)福岡高裁で原告側が勝訴して確定している。
さらに、2009年12月には、名古屋地裁が、ある小学校で4段ピラミッドの練習中に怪我をした児童に対して、110万円の賠償を命じた判決を出している。
これらの判例は公開された情報であり、いずれも大きく報道されている。学校の教職員も知ることができたはずのものなのである。
なお、2006年8月には、倒立に関するものであるが、組体操の練習中の事故について東京地裁が160万円の賠償を命じている。
イ 内田准教授の指摘など
また、2014年5月19日から9月26日まで、名古屋大学大学院教育発達科学研究科・准教授の内田良氏がYAHOOニュースに「組体操リスク」を5回に渡って連載しておられる。これは、現在でもYAHOOのサイトで読むことができるが、内田氏はその中で組体操の危険性を詳細に指摘しておられる。なお、この中で氏は、高所での墜落転落防止措置を事業者に義務付けた労働安全衛生規則第519条を紹介している。
さらに、氏は、「組体操では、体の中心を成す体幹部の負傷が多い。なかでも,重大事故につながりやすい頸部の割合も高い。また同じく重大事故になりうる頭部の負傷の割合も大きい。組体操は、身体の根幹部分、あるいは重大事故につながりうる部分の負傷が、バスケットボールに比して多い
」(※)と指摘しておられる。
※ 内田良「組体操が「危険」な理由―大人でも許されない高所の無防備作業」(2014年5月)
すなわち、取り返しのつかない事故が起きる可能性が大きいことを指摘しておられるのである。
また、2014年11月2日には弁護士の多田猛氏が弁護士ドットコムに、組体操の事故における損害賠償の危険性について寄稿しておられる。
※ 多田猛「人間ピラミッド崩壊で『1億円賠償』判決もーー弁護士が指摘する『組体操』のリスク」(弁護士ドットコム記事)
その中で氏は「なるべくケガをしないように安全にスポーツすることや、万一ケガをしても、その結果を最小限にとどめることなどを教えるのも教育です。ですから、教職員の役割は、なるべく子どもたちが安全にスポーツをするよう、指導すること
」が必要だと指摘しておられる。
ウ 公的機関の報告書
さらに2015年10月には、神戸市教育委員会が、組体操に関する報告書(※)を公表している。この中にも、数多くの事故事例が紹介されている。
※ 神戸市教育委員会「神戸市立小・中学校の運動会・体育大会「組体操」の状況について」(2015年(平成27年)10月29日)
また、2016年2月には、八尾市運動会・体育大会における組立体操事故検証委員会が報告書(※)を提出している。この八尾市の報告書の調査対象となっている市立中学校は、2014年に練習中に骨折事故が起きていたにもかかわらず、本番の体育祭で10段ピラミッドを披露しようとして失敗して骨折事故を起こし、その年の組体操で計4名の骨折事故を起こしている。ところが翌年に再び10段ピラミッドに挑戦しようとして6人が重軽傷を負う事故を引き起こしたのである。
※ 八尾市「八尾市運動会・体育大会における組立体操事故検証委員会報告書」
報告書は次のように指摘しているが、「認識の甘さ」というよりも、もはや理解不可能というべきであろう。
【八尾市の調査報告書より】
学校は、過去10年間で20件の骨折者数を多いと認識していたが、骨折事故がさらなる重大事故につながるという認識を持てていなかった。また、10段ピラミッドについては、平成26年度には練習中及び体育大会当日各1件、タワーについては練習中に2件の骨折事故があったにもかかわらず、演技の見直しが行われなかったのは、10段ピラミッドやタワーの危険性に対する認識に、問題があったものと考えられる。
また、補助につく教員の数の確保が、事故の防止や安全の確保につながると考えていたところにも認識の甘さがあったと考えられる。
※ 八尾市「八尾市運動会・体育大会における組立体操事故検証委員会報告書」
まさに、「警告は無視された」のだ。なお、この市立中学校は、2015年の事故時には周囲に11名の教員を補助役として配置していたという(※1)が、子供のピラミッドが崩れれば、事故は一瞬である。補助役は眺めているしかなかっただろう(※2)。そもそも学校側が補助役の教員に何をやらせようとしていたのかは不明である。
※1 産経新聞2015年9月30日記事「組み体操「ピラミッド」で事故 中1男子生徒が崩れて骨折 大阪」による。
※2 この事故の様子は下記の、ユーチューブ動画で視ることができる。(けが人が映っているので閲覧は注意されたい。)ピラミッドが崩壊した時、補助役の教員たちが何らかの対応をとっているようには見えない。
(2)スポーツ庁と地方自治体の対応
このような状況下で、各地方の教育委員会やスポーツ庁が、様ざまな対策を講じてゆく。
2015年9月には大阪市教育委員会が、タワーは3段、ピラミッドは5段に制限する。また同教育委員会は、翌2016年2月にはタワーとピラミッドの禁止を決めた。この結果、大阪市の組体操による骨折事故は、中学校が2015年の11件から0件に減少し、小学校も42件から12件に減少した(※)。
※ 朝日新聞2016年11月23日記事「大阪)組み体操での骨折減少 大阪市の小中学校」による。
同様な対策は、静岡県、東京都、石川県金沢市、千葉県流山市、福岡県福岡市などでも行われている。
また、2016年3月には、スポーツ庁から事務連絡「組体操等による事故の防止について」が発出されている。この中で、「各学校においては、タワーやピラミッド等の児童生徒が高い位置に上る技、跳んできた児童生徒を受け止める技、一人に多大な負荷のかかる技など、大きな事故につながる可能性がある組体操の技については、確実に安全な状態で実施できるかどうかをしっかりと確認し、できないと判断される場合には実施を見合わせること
」とされている。
(3)警告はまたも無視された
ア 西日本新聞の記事より
ところが、これらの警告が学校によって意図的に無視されるケースもあるようなのだ。2016年5月12日の西日本新聞は次のように報じている。
【西日本新聞記事より】
国からの通知を受け、体育科主任のヨシダ教諭(44)=仮名=は、3月から同僚と話し合いを始めたという。
「何かあったら、すぐ中止、自粛…。その流れ、どうなんだろう」「子どもの安全が最優先だからね」「子どもたちが厳しいことに挑戦し、力を合わせ、作り上げていくのが組み体操。その体験は貴重」「学級集団づくりにもつながっている」
体育科教諭らの話し合いを受け、校長が出した答えは「安全に配慮し、今年も実施する」。職員会議で4月中旬、伝えられたが、異論は出なかった。
この学校ではこの数年、「5段ピラミッド」と「3段タワー」=イラスト参照=に運動会で取り組み、これまで大きなけがはなかったという。今年はどんな形になるのだろう。「それは、授業で生徒たちの運動能力を見極めながら、考えていくしかない」。ヨシダはそう話した。
※ 西日本新聞2016年5月12日記事「組み体操(1)悩む体育教諭 ピラミッドはなぜもろい」
(ア)ヨシダ教諭の問題点
このヨシダ教諭をはじめとするこの学校の教師たちの災害に対する考え方には、きわめて重大な問題を含んでいると言わざるを得ない。
確かに、運動のみならず教育の場においては一定の災害の発生するリスクは避けられない。"少しでも災害のリスクのあることはやめるべきだ"という発想は誤っている。一定のリスクは許されるということ、それ自体は間違ってはいない。
問題は、"許されるリスクの大きさ"をどう考えるかなのである。この学校では「5段ピラミッド」と「3段タワー」を実施していたとのことであるが、これらの場合、いずれも最上段の子供の位置は、安衛法で墜落防止措置を義務付けている2メートルを超えるだろう。労働安全衛生法に照らせば、違反状態なのである。
西山氏(※)によれば、小6女子児童の2段タワーでの死亡事故、小6男子児童の4段ピラミッドでの死亡事故、中3男子生徒の4段タワーの死亡事故が発生している。すなわち「5段ピラミッド」や「3段タワー」でも死亡災害の実例があるのだ。
※ 西山豊「巨大組体操の危険性を検証する―必要とされる科学の眼」(「日本の科学者」2016年9月号)
死亡災害の発生が予測されるようなことは、やはりやるべきではないのである。ヨシダ教諭の考え方からは、災害発生の重篤度と可能性というリスクの観点が欠け落ちているのだ。
(イ)危険の負担をしてまでする組体操は必要なことなのか
また、「子どもたちが厳しいことに挑戦し、力を合わせ、作り上げていくのが組み体操。その体験は貴重」「学級集団づくりにもつながっている」というが、死亡災害や障害災害が発生する可能性のあることを行うことが、貴重な経験であるという発想は理解に苦しむ。
校長は「安全に配慮し、今年も実施する」と決定したとされているが、そもそも5段ピラミッドや3段タワーの上に子供を立たせるということそのものがきわめて危険な状態なのである(※)。
※ 福岡地判平成11年5月11日は、8段ピラミッドの練習の際にピラミッドが崩れて身体障害1級の被災を受けた事例で「人間ピラミッドが大規模であるときには下段のものに過重な負担がかかることになり、安全なスポーツとは断じ難い」とし、「指導教諭らが人間ピラミッドの危険性や生徒の危険回避の方法を工夫する事なく、5段以上の高段を目指した」と指摘した。
考えてみて頂きたい。もし小中学校の学校の教師が、その児童・生徒に対して、2階建ての家の屋根の縁から数十センチのところに立てと指示して、実際に立たせたとしたらどうなるだろうか。おそらくその教師は、なんらかの処分を受けることは間違いないだろう。そのような危険なことをやらせることは常軌を逸していることは明らかだ。
ところが人間ピラミッドでは、さらに危険なことをやらせるのだ。家の屋根は崩れることはないし、揺れることも(普通は)ないが、人間ピラミッドは崩れることもあり、揺れることもあるのだ。
「力を合わせ作り上げていく」ものは、死者が出るような危険なことである必要はないだろう。小中学生の教育においては、「厳しいこと」を安全に行うべきであろう。ソーラン節に合わせて、全員がダンスを行うことによっても貴重な経験はできるのだ。
バランス感覚について身に着けたければ平均台があろう。力をつけたいのであれば他にも様々な方法がある。
(ウ)災害が起きていないことと安全は別である
この学校ではこの数年、「5段ピラミッド」と「3段タワー」に運動会で取り組み、これまで大きなけがはなかったという。しかし、数年間事故がなかったということが、安全だということの証拠にならないことは、安全工学の世界にいるものにとっては基本中の基本=常識なのである。
この学校の教師たちは、あまりにも安全に対する理解・知識のレベルが低すぎるというべきであろう。
イ 読売新聞の記事より
(ア)災害について認識の甘さ
また、読売新聞の記事(※)によれば、「知識のない教員が、安全対策を怠ったまま子供に無理をさせる。兵庫県伊丹市の中学校で30年以上、組み体操に取り組むY教諭(54)は、問題の本質はそこにあると見る
」という。確かに、まさにその通りであろう。
※ 2016年3月1日読売新聞記事「組み体操 高さ制限の動き…事故年8000件超、禁止する自治体も」による。以下、記事中の実名を頭文字で略した。
ところが、この記事には続きがある。これによると「Y教諭が指導した学校では10段ピラミッドに成功。準備は3年計画で、下級生は受け身の練習や体力作りを重ね、中3で大技に挑む。力を合わせて作り上げる過程で『コミュニケーション能力を学び、成功体験で自信も付く。集中力や精神力も養われる』と意義を語り、『指導力や生徒の力量には差がある。現場に即した対策を考えてほしい』と、一律の規制に疑問を呈する
」というのだ。
一方で、記事には、内田教授の「10段ピラミッドの最下段の負荷は最大200キロ超。『下段の生徒は逃げ場がなく、内側に崩れると周囲も助けることができない』という
」との指摘も紹介されている。
いくら「体力作りを重ね」たとしても、200キロの荷重がかかれば、耐えかねて崩壊するおそれは十分にあろう。平成26年の学校段階別体格測定の結果によれば中学3年生の体重は53.23キロである。崩壊すれば、最下段にいる生徒の上に9人の生徒(合計の体重480キロ)が落下して激突するおそれがあるのだ。
また、同測定結果によれば中学3年の身長は165.00センチである。四つん這いになった状態で地面から肩まで60センチはあろう。10段ともなれば高さは6メートル近くになる。6メートルだと普通のアパートやマンションの3階のベランダの手すりの高さにほぼ等しいのである。落下すれば無事ではすむまい。
アパートの3階から落ちて「受け身の練習や体力作り」で対策がとれるようなものではあるまい。しかも、ピラミッドの勾配を転がり落ちた場合、受け身などとれるものではない。
このY教諭は、実際にピラミッドの実演をユーチューブにいくつかアップしておられる。その中で同教諭は10段ピラミッドに成功したことがあるとも述べておられ、安全なピラミッドの組方について説明しておられる。
しかし、なぜそれが安全なのかについての納得できる説明をしている動画を見つけることはできなかった。むしろ、八尾市の市立中学校の事故時の動画のピラミッドの組方と大差があるようには、私には見えなかった。
成功したのはたんなる"幸運"にすぎないのではなかろうか。「知識のない教員が、安全対策を怠ったまま子供に無理をさせる」という批判は、まさにY教諭自身に向けられるべきであろう。
(イ)障害についての想像力の欠如
この読売新聞の記事によれば、「長女(13)が左肘を脱臼、骨折するけがを負った都内の母親」が「組み体操の中止を求めたが、校長に「本校の伝統」と一蹴された」とされている。この長女は「これまで3度手術を受けたが、成長期にけがをした代償は大きく、医者から『球技は難しい』と告げられ、中学で運動部に入る夢を諦めた。『今も事故を思い出すと涙が出る。こんな怖い思いをするのは私だけで十分』と訴える」という。
この記事が事実とすれば、この校長は教え子の気持ちや辛さを想像する能力が欠如しているのであろう。
教え子に重大な傷害を負わせてこのような思いまでさせ、その母親の必死の願いを無視してまで守らなければならない「学校の伝統」とはいったいなんなのであろうか。
ウ 無知・無理解の背景
(ア)危険に対する慣れ
そして、このような教員たちの危険に対する感性の低さや、知識の欠如の原因には、"慣れ"があるように思える。普通に考えれば、2メートル以上の高さのところで、手すりも何もない所に立てば恐怖感を感じるであろう。そのようなところへ小中学生を立たせるのであるから、恐怖感を感じないとすれば逆に異常である。
ところが、"危険というものは慣れる"ものなのだ。私自身、初めて高所作業を行ったときは恐怖感を感じたものだった。しかし、今では海岸の岸壁で、手すりのない場所へ行っても怖いとは感じなくなっている。まさに危険に慣れたのである。
先ほどの西日本新聞の記事にも「この学校ではこの数年、『5段ピラミッド』と『3段タワー』=イラスト参照=に運動会で取り組み、これまで大きなけがはなかった
」という記述がある。最初は、2段や3段のそれほど危険ではないピラミッドから始めて、徐々に教職員が危険に慣れてしまい、すなわちマヒしてしまい、危険を危険と感じずに段数を高くしたのではないだろうか。
このような危険に対する慣れが、事故に対する危険を理解しようとしないことの遠因となっているように思える。
(イ)Buzz Feed Newsの記事より
教員たちの無知・無理解の背景の一端に何があるのかについては、2017年4月25日のBuzz Feed Newsの渡辺一樹氏の記事(※)の中にヒントがあるかもしれない。これによると、組体操の練習中の事故で重い後遺症が出たとして、両親が世田谷区と担当教諭を訴えた裁判において、被告となった教員は「国家賠償法に基づき、法的責任は負わない」と主張しているのだそうだ。
※ 渡辺一樹「世田谷区小6男子・組体操事故 3年後も後遺症『息子はきのうも倒れた』」
確かに、国家賠償法により、公務員である教員については民事賠償責任を負わない(※)。そのことを彼らは知っているのである。さすがに意図してはいないだろうが、自らは怪我をする危険もなく、民事賠償の責任も問われない立場にいて、児童・生徒に危険な組体操を強制しているとすれば、これは教育の名に値しないというべきではなかろうか。
※ ただし、その公務員に重大な過失があれば、国や地方自治体はその教員に対して求償することは可能であり、熱中症に関して実際にそのような例もある(福岡高判平成29年10月2日)。また、業務上過失致死罪を問われることもあり得る(東京高判昭和51年3月25日、札幌地裁昭和30年7月4日など)。
また、児童・生徒に対して危険な組体操の実施を強制しておきながら、その結果として教え子が被害に遭ったときに、責任を逃れようとする教師たちを見て、子供たちはどのように感じているのであろうか。
4 組体操の持つ"価値"とリスク
(1)"価値"と"許された危険"の理論
このように、多くの災害の発生にもかかわらず、組体操が長年にわたって続けられてきた理由の一つには、学校の関係者によって、それの持つ"価値"があると考えられてきたからであろう。
もちろん、リスクもそれに見合う"価値"があれば許されることになる。刑法学者の、前田氏は刑法学において"許される危険量"の理論を提唱しておられる(※)。それによると、
※ 前田雅英「刑法の理論と実務 過失犯論をめぐって」
※ ただし、
X:許される危険量
U:その行為の持つ価値
V:実害発生の蓋然性
Z:予想される危険の大きさ
とされている。このような考え方は、災害においても採用することが許されるであろう。ここで、V×Z は、リスクそのものである。ここで、注意しなければならないことは、両辺は等号"="ではなく不等号"<"で結ばれているということだ。
はたして、組体操によるリスクを負担することは、それに見合う価値のあることなのであろうか。教師たちが、組体操の"価値"によって、そのリスクを負担することが許されるというのであれば、まずそのリスクの大きさ及び不等号の"等しからざるレベルの大きさ"がどの程度かが問題とされなければならないであろう。
(2)ピラミッドの事故の特徴
ア 労働安全衛生法と組体操
先述したが、学校の現場でピラミッドが、安易に段数を増やすことを競うようになってきている。先述した内田氏(※)は、10段ピラミッドでは「中学3年生だと高さは7m、土台の最大負荷は200kgに達する
」、(10段に至らないまでも)「高さが4~5m、負荷が100kgを超えるような組み方は、珍しくない。ピラミッドもタワーも、より巨大で高い組み方がもてはやされ、それが小学校さらには幼稚園にまで拡がっている
」と指摘する。
※ 内田良「"10段ピラミッド"を肯定する自主性の怖さ」(PRESIDENT Online 2017年8月4日)
何度か触れたように、安全衛生法では2メートル以上の箇所における作業では墜落防止措置をとる必要がある。また労働基準法では、18歳に満たないものに5メートル以上の高所作業を行わせてはならないこととされている。
「1メートルは1命取る」と言われるが、小学生が4~5mの高さから墜落すれば、無事では済まないであろう。また、児童とは言え数人の子供が上から落下してくれば、下にいる子供も無事ではすむまい。
そのような状況であるにも拘わらず、一番上の児童は、2人の児童の背中や肩に乗って、足を広げて正立して両手を横に広げるのである。足場は平らではなく1m2もない。しかも、不安定で揺れることもあるだろう。ところが、墜落防止の命綱とてないのだ。
さらに悪いことには、足場となっているのは、子供たちで、その背中には数百キロもの荷重がかかっており、いつ崩れても不思議ではない状態なのだ。
これは、労働安全衛生の考え方に照らせば、きわめて危険な状態であるというよりほかはない。
イ 障害を残す事故発生の可能性と危害の大きさ
先述した内田氏(※)が、2015年に、1983年から2013年の31年分の「学校管理下の組体操による障害事故」をまとめておられる。これによると「学校の組体操において障害の残った事故が88件起きている
」とされる。これには、31年分の事例が載っている。タワーとピラミッドによる小中学生の障害事例を筆者が抜き出したものを別ファイルに示す。
※ 内田良「組体操事故の死角 ピラミッド型よりタワー型で障害事故が多発」(2015年5月19日BLOGOS記事)
表4-1:学校管理下の組体操による傷害事故なお、この上肢切断などの重篤な障害は、2002年以降に急増しているが、これはタワーやピラミッドの高さを競うようになったことと関係があるのかもしれない。
また、外貌・露出部分の醜状障害も複数発生している。昔、ある写真集の中に「心の傷よりも体の傷の方が耐えられない年齢というものがあるものだ」と書かれていたことを読んだことがある。確かにその通りだろう。
これらの大勢の子供たちは、将来に重い障害を負って生きていかなければならなくなったのである。
ウ 被災者から文部科学大臣宛の手紙より
加藤順子氏は2016年2月24日のYAHOOニュースで、組体操でけがをした生徒の文部科学大臣宛の手紙を紹介しておられる。それには、
【組体操で怪我をした生徒の手紙より】
小学校生活、最後の楽しい思い出つくりは何もありませんでした。
音楽鑑賞会、ミュージカル、遠足、修学旅行、プール、バレーボール…。全て失いました。
たくさんの普通に出来ていた事が出来なくなる苦しみがわかりますか?!
食事や着替え、トイレやお風呂、鉛筆を持ってノートに書く、消しゴムで消す事が出来ない。
普通に毎日やっていた事が授業が生活が出来なくなる苦しみがわかりますか?!
※ 加藤順子「「先生が、絆なんだよ!伝統なんだよ!と言っていた」組体操事故の被害生徒が馳文科相に怒りの手紙」(2016年2月24日 YAHOOニュース)
などと綴られている。
考えてみて頂きたい。組体操によって得られる"効用"とは、何なのだろうか。この被害者に対して、"組体操の実施によって社会全体が得る効用は、君の苦痛よりも大きいのだ(従って被害が発生したことは社会全体として容認できるのだ)"といえるようなものなのであろうか。
(3)組体操のリスクアセスメントの試み
ここで、結果論になるかもしれないが、組体操についてリスクアセスメントを試みよう。ここでは、マトリクス法を用い、マトリクスには当サイトの「労働安全衛生法の化学物質のリスクアセスメントの進め方」で作成したマトリクスを用いることとしよう。
危険又は健康障害の程度 (重篤度) |
|||||
---|---|---|---|---|---|
死亡 | 後遺 障害 |
休業 | 軽傷 | ||
危険又は健康障害を生ずるおそれの程度 (発生可能性) |
起こり得る (5年に1回) |
Ⅴ | Ⅴ | Ⅳ | Ⅲ |
可能性はある (10年に1回) |
Ⅴ | Ⅳ | Ⅲ | Ⅱ | |
考えにくいが可能性がある (50年に1回) |
Ⅳ | Ⅲ | Ⅱ | Ⅰ | |
きわめて可能性は低い (500年に1回) |
Ⅲ | Ⅱ | Ⅰ | Ⅰ | |
通常、あり得ない (5,000年に1回) |
Ⅰ | Ⅰ | Ⅰ | Ⅰ |
このマトリクスによって得られたリスクレベルから、下記表によって、優先度を求める。
リスク | 優先度 | |
---|---|---|
Ⅴ | 高 | リスクの低下措置をとるまで作業停止する。 |
Ⅳ | 直ちに対策を講じる。 | |
Ⅲ | 中 | 速やかにリスク低減措置を講ずる。 |
Ⅱ | できるだけ早くリスク低減措置を講ずる。 | |
Ⅰ | 低 | 必要に応じて対策をとるか、保険をかける。 |
ア 死亡災害または障害災害のリスク
(ア)リスクレベルの判定
まず、危険又は健康障害の程度としては、死亡災害や障害災害が出ているので、まず、これらについて検討してみる。これらの発生のおそれの程度(発生する可能性)を検討するために、実際の災害の発生件数を調べて見よう。
スポーツ庁の事務連絡「組体操等による事故の防止について」には、昭和46年から平成28年までの48年間の災害件数が記載されている。これによると、この間の死亡災害は9件、障害災害は92件発生している。従って1年当たりの発生件数は死亡0.188件/年、障害1.92件/年となる。
しかし、これらは日本全体の件数であるから、個々の学校にとってのリスクアセスメントを行うには、組体操を実施している小学校1校当たりの数を算出しなければならないだろう。
学校基本調査において各年毎の小学校の学校数が公表されている。これを用いて、昭和46年から平成28年までの48年間の小学校の数の平均値を計算すると22,869校となる。ただし、すべての小学校において組体操を実施していたとは限らないので、このうち、組体操を実施している学校数を推定しなければならない。
小学校全体での組体操を実施している学校の割合は公表されていない。そこで、サンプル調査を見てみよう。できるだけ、地域や種別に偏りのないものがよいが、そのような調査はなかなか見つからない。地域的には限定されているが、いくつかの調査結果が公表されている。
平成27年10月29の神戸市教育委員会「神戸市立小・中学校の運動会・体育大会「組体操」の状況について」によると、小学校164校中162校(内ピラミッド実施112校・タワー実施132校)が実施しているとされ、一方、平成28年11月30日千葉県教育庁教育振興部体育課「(平成28年11月)組体操の実施に関する調査の結果について」によると、小学校690校のうち247校が実施しているとされている。
しかし、千葉県の調査はスポーツ庁の事務連絡「組体操等による事故の防止について」の後の調査なので昭和46年から平成28年までの48年間のデータとしては使用できない。神戸市の調査では、ほぼすべての小学校で組体操を実施しているとされているので、ここではすべての小学校が実施していたと考えることとしよう。このように考えると、リスクが低く出る可能性があるが、それほど実態と違っているわけではないだろう。
そこで、スポーツ庁の調査した災害発生件数を、小学校1校当たりでみると、死亡災害は122,000年に一度、障害災害は11,900年に1度発生することとなる。これらを、前述のマトリクスに当てはめると、「危険又は健康障害を生ずるおそれの程度」は、「死亡」「後遺障害」ともに「通常、あり得ない」となり、これだけで考えると、リスクレベルはⅠとなり"容認できる"レベルとなる。
(イ)小学生であることによるリスクレベルの修正
しかし、対象者は小学生である。一般に、公衆災害では、労働災害よりも容認できるリスクのレベルを10倍程度厳しくするべきだと考えられている。そこで発生可能性を10倍厳しくすると、少なくとも障害災害については「危険又は健康障害を生ずるおそれの程度」は「きわめて可能性は低い」となり、リスクレベルⅡに上がって、優先度は「できるだけ早くリスク低減措置を講ずる」となる。
ところが、組体操、とりわけピラミッドやタワーについては、墜落防止の措置をとることが不可能に近いのである。また、組体操を行うことが教育上、不可欠とも思えない(※)ことを考えれば、リスクアセスメントの結果は、組体操は中止するべきであることを示していると言わざるを得ない。
※ 組体操は「学習指導要領」にも記載はなく、制度上も実施する必要性はない。
なお、①たんなる公衆災害ではなく子供が対象であることや、②スポーツ庁の調査は確認できた件数のみであり、確認できなかった件数があり得ることの2点をも考慮すれば、リスクレベルはⅡより高いと判断する余地もあろう。
イ 要治療災害のリスク
リスクアセスメントは、考えられるもっとも重篤な災害を対象にして行うのが原則であるが、組体操の場合、ハインリヒの法則を大きく外れる数の負傷災害が発生している。そこで、負傷災害についてもリスクアセスメントを行ってみるべきであろう。
小学校1校当たりの災害発生件数を、3つの調査結果から算出してみよう。
【小学校1校当たりの災害発生件数の推定】
- ① 組体操によって、小学生が医療機関での治療を要する怪我をする件数は、スポーツ庁の事務連絡によれば、昭和46年から平成28年までの48年間では1年当たり6,300件とされている。従って、1校当たりでは3.63年に1件発生していることとなる。
- ② 前述の神戸市教育委員会の調査では、組体操を行っている小学校162校において、救急搬送したものが、平成27年度2件、平成26年度0件、平成25年度5件と3年で7件、1校当たりでは69.4年に1回発生することとなる。
- ③ 千葉県教育委員会の調査では、平成28年度に組体操を実施した小学校は247校で怪我が発生した校数は74校、怪我の件数は154件となっている。従って、1校当たりでは1.60年に1回発生することとなる。
したがって、スポーツ庁の事務連絡(①)と神戸市の調査(②)の対象の怪我を「休業」とみると、「危険又は健康障害を生ずるおそれの程度」は、それぞれ①が「起こりえる」、②が「考えにくいが可能性がある」となるから、リスクレベルは、①がⅣ、②がⅡとなる。
また、千葉県の調査の怪我を「軽症」とみると、「危険又は健康障害を生ずるおそれの程度」は「起こり得る」で、リスクレベルⅢとなる。
ウ 総合的なリスクレベル
総合的に判断すれば、全てのリスクアセスメントの結果のうち、最も高いリスクレベルを採用するべきであるから、リスクレベルはⅣで、優先順位は「直ちに対策を講じる」となる。
ところが、前述したように組体操は有効な対策をとることが不可能に近いのであるから、即時、中止するべきと判断するべき(対策は"中止"による)であろう。
5 最後に
三宅良輔氏(※)は「指導者に対する安全な指導法に関してほとんど実技研修会が行われてこなかった」と指摘しておられる。すなわち、そもそもタワーやピラミッドという危険な組体操の演技を行うにあたって、そもそも安全な方法の知識さえ、教育の現場には不足していたというのである。
※ 三宅良輔「組立体操の指導における怪我の現状と今後の在り方」(2019年の神戸市のパネルディスカッションの資料(=URLは前掲)から)
そして、そのような状況のまま、ピラミッドやタワーは高さを競い、危険を顧みられることなく5~7メートルの高さに達していたのだ。
小学校で、高いピラミッドが継続された理由は、教育目的だというがそれは違うであろう。怪我をしたり、死亡したり、重い障害を負った子供たちは、一部の教師たちの災害に対する意識の低さ、そして知識不足の犠牲になったのである。