2021年3月26日に、フリーランスを含めた事故防止対策について、厚生労働省など3省1庁連名の文書が発出されています。
我が国の、文化芸術のよりよい発展、継承のためにも、芸能関係者が働きやすい環境を確保できる必要があります。
芸術を理由に、危険な撮影を行ったり、立場を利用してのセクハラ・パワハラが許されるような風潮は根絶されなければなりません。
1 政府要請と芸能従事者の労働者性
執筆日時:
最終改訂:
3月26日に、フリーランスを含めた事故防止対策について、厚生労働省など3省1庁連名の文書が発出されている(※)。
※ 他省庁にまたがる事業者団体宛の文書というのは、実は、かなり珍しいものである。私の公務員時代でも、再生砕石に石綿が混入しているとして2011年に社会問題になったときに経験したくらいで、ほとんど経験がない。
この文書では、芸能関係者の事故一般についての「安全衛生対策」が要請されている。なお、「労働安全衛生」とされていないのは、芸能関係者の多くは労働者ではないということであろう。
一般にはあまり知られていないが、2021年4月から「芸能関係作業従事者」が個人事業主として労災保険の特別加入の対象となっている(※)。しかし、あくまでも特別加入の対象となるのであって、労働者としての労災保険の適用があるわけではない。
※ 厚生労働省WEBサイト「令和3年4月1日から労災保険の「特別加入」の対象が広がります」を参照されたい。
しかしながら、映画撮影技師の労働者性が争われた新宿労基署長事件では、労働者性を認めなかった地裁判決を破棄して、東京高裁が労働者性を認めた(平成14年7月11日判決)事例もあり、芸能関係者の労働者性については、ややグレーな面もないわけではない(※)。
※ 俳優や歌手など、芸能人そのものが、労働基準法上の労働者として認められる可能性は極めて低いものと考えられる。その意味では、労働安全衛生法の適用もないと言ってよい。
2 芸能従事者の事故防止対策に何が必要か
私のサイトの「映画撮影時のヒヤリハット事例」でも一部紹介しているが、映画撮影などで危険な撮影を行うことはよくある。このような撮影は、できる限りCGで代替するなど、安全を確保しての撮影を徹底するべきであろう。
冒頭の政府の要請文書でも、計画段階における安全性の検討、現場における災害防止措置及び安全衛生に関する対策の確立等が必要であるとしている。
しかし、芸能活動に当たるスタッフは、事故防止についての専門家ではない。映画やドラマ、あるいはバラエティ番組などの活動の現場において、労働災害防止の専門家にかかわらせることも重要であろう。
3 芸能の現場におけるパワハラ・セクハラの実態
政府の要請文書にもハラスメントについて言及されている。東京新聞WEB2021年3月24日記事「創作の現場でパワハラが深刻 女性やフリーの被害多く」においても指摘されているが、芸能活動の現場では、一部の有名な俳優や歌手などを除けば、どうしても芸能人の立場は弱い状況にある。
表現の現場調査団が行った調査「『表現の現場』ハラスメント⽩書 2021」(概要)においても、回答者1,449名のなかで、「セクハラ経験がある」1,161名、「パワハラ経験がある」1,298名などされており、「望まない性行為を強要された」129名など深刻なケースもかなりの割合となっている。
また、SNSによる誹謗中傷の対象にもされやすい。最近では、プロレスラーの木村花さんがSNSでの誹謗中傷を受けて、自ら生命を絶たれた痛ましい事例が記憶に新しい。
さらに、一部に根強く残っているSOGI(LGBTQ)に対するハラスメントの防止も重要であろう。
4 芸能の現場における環境改善が急務だ
我が国の、文化芸術のよりよい発展、継承のためにも、芸能関係者が働きやすい環境を確保できる必要がある。芸術を理由に、危険な撮影を行ったり、立場を利用してのセクハラ・パワハラが許されるような風潮は根絶されなければならない。