
※ イメージ図(©photoAC)
我が国は急速に少子高齢化が進み、その中で人手不足は深刻化し、また経済活力は長期低落傾向にあります。
このような中で、我が国の持続的成長を図るためには、外国人の労働力の活用が不可欠であると、政府、経済界は考えています。
我が国の労働力人口に占める外国人の割合は、近年、増加しつつありますが、同時に外国人の労働災害もまた増加しつつあります。
外国人は、母国語の違いだけでなく、宗教、労働慣習、考え方など様々な違いがあり、労働災害防止に必要な事項には固有の問題があります。
本稿では、その前提として外国人労働者の増加と労働災害の増加を、業種別、在留資格別、国籍別等に分析・解説しています。

※ イメージ図(©photoAC)
厚生労働省は 2024 年の災害統計を確定して5月30日に公表しましたが、数値が誤っていたという理由で、厚労省はWEB上のすべての統計結果を凍結しています。
外国人労働者の労働災害についても凍結されていますが、本ページはあえて凍結前の数字でまとめてあります。正しい数値が公表され次第、当サイトのグラフも修正します。
- 1 はじめに(グローバル化の進展)
- (1)中長期在留者及び特別永住者数の増加
- (2)在留資格別の中長期在留者及び特別永住者数の推移
- 2 国内で就労する外国人数
- (1)業種別にみた外国人労働者数の推移
- (2)在留資格別にみた外国人労働者数の推移
- (3)国籍別にみた外国人労働者数の推移
- (4)事業所規模別にみた外国人労働者数の推移
- 3 外国人労働者の労働災害の発生状況
- (1)業種別に見た外国人労働者の災害発生状況
- (2)災害の型別に見た外国人労働者の災害発生状況
- (3)在留資格別に見た外国人労働者の災害発生状況
- (4)国籍別に見た外国人労働者の災害発生状況
- 4 最後に
1 はじめに(グローバル化の進展)
執筆日時:
(1)中長期在留者及び特別永住者数の増加
第二次世界大戦後、世界は急速にグローバル化が進んでいる。これは、国際的な経済活動の活性化という観点からも、また国際平和という観点からも、大きなプラスの要素となっている。
我が国は、移民や難民の受入れに消極的であるとして国際的な批判を受けることも多い。しかし、好むと好まざるとにかかわらず、グローバル化の急速でかつ大きな潮流は、我が国も避けて通ることはできない状況がある。
図は、出入国在留管理庁のプレスリリース「令和6年6月末現在における在留外国人数について」による、過去 13 年間の国籍別の中長期在留者及び特別永住者の人数の推移をグラフ化したものである(※)。中・長期滞在の外国人は、この 12 年間で 76 %の増加となっている。
※ 本図は、各年の6月末時点の値でまとめられている。
かつて、国籍別の割合は中国(香港・マカオを含む)及び韓国が過半を占めていたが、両国の経済成長を反映してか、中国は横ばいで、韓国は減少傾向にある。
一方、ベトナム、ネパール、インドネシア等の東南アジアの国々の増加傾向が見られ、国籍も多様化しているが、ベトナムを除けば経済成長の大きな国の割合は高くはないのが実態である。
(2)在留資格別の中長期在留者及び特別永住者数の推移
一方、中長期在留者及び特別永住者の推移を在留資格別に見たのが本図である。意外に思われるかもしれないが、最も多いものは永住者である。なお、出入国管理特例法による特別永住者は永住者とは別な在留資格であり、約 30 万人程度が暮らしている。しかし、少子化の影響などもあり(※)、その絶対数は減少傾向にある。
※ その他、日本国籍者と婚姻した場合の子供は日本国籍を有することや、帰化するケースなども減少の一因である。
中長期在留者及び特別永住者であるから当然ともいえるが、これらの外国人の多くは、国内での就労が可能である。家族滞在や留学など、許可が必要で就労時間に制限がある場合もあるが、就労できない在留資格はほとんどない。
ホワイトカラーのみならずブルーカラーの職場においても、母国語、宗教、生活習慣、考え方の異なる人(必ずしも外国人とは限らない)が、日本で育った人(必ずしも日本人とは限らない)と混在して働くことは、これからもますます増加してゆくであろうし、特別なことではなくなってゆくこととなろう。

※ イメージ図(©photoAC)
しかしながら、働く人のあるグループの人数が増加すれば、そのグループの労働災害の発生件数も必然的に増加する。そして、母国語、宗教、生活習慣、考え方の異なる人への対策には、日本で育った人とは異なる配慮が求められることもまた現実である。
以下、本稿においては、外国人労働者の労働災害の防止を考える上での前提知識として、どのような業種、どのような国籍、在留資格の外国人が増加し、また災害が発生しているのかなどについて示す。
なお、一覧性を高めるため、外国人の増加と労働災害の増加の状況について、数値ではなくグラフ化して示している。
2 国内で就労する外国人数
(1)業種別にみた外国人労働者数の推移
厚労省の「外国人雇用状況の届出状況」によると、2012年から、2024 年まで(※)の 12 年ほどで外国人労働者数は、3倍以上に増加している。
※ 外国人雇用状況の届出は、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」第34条に基づき、外国人を雇用する事業主から厚生労働大臣に対して、外国人労働者の雇入れ及び離職の際に届出が義務づけられるものである。本図は、各年の 10 月末時点の値でまとめられている。
なお、本図と第1項で示した「中長期在留者及び特別永住者」の人数との間に大きな違いがある。その理由は、①届け出の対象から、在留資格の「外交」・「公用」及び特別永住者が除かれていること、②「中長期在留者」の中には働いていない者もいること、③必ずしも届出がすべて行われるとは限らないことなどが理由である。
これによると、「製造業」が最も多いことが分かる。マスコミ等で話題になる「建設業」にはそれほど多くの外国人労働者は雇用されていない。その他では、「卸売業、小売業」、「宿泊業、飲食サービス業」、「サービス業(ほかに分類されないもの)」などが多くなっている。
一方、絶対数は多くはないものの、急増しているものに「情報通信業」、「運輸業、郵便業」、「学術研究、専門・技術サービス業」がある。
なお、技能実習のみに限ると、業種別の人数の推移は図のようになっている。技能実習の場合も「製造業」が大部分を占めているのである。
その他、「建設業」が急増しており、2024 年には 10 万人を超えている。また、「卸売業、小売業」、「医療・福祉」も絶対数は多くはないものの、急増している。「医療・福祉」は介護労働がその多くを占めているのであろう。
(2)在留資格別にみた外国人労働者数の推移
次に、在留資格別にみた外国人労働者数の推移を見てみよう。なお、図では 2023 年より「専門的技術的分野」の「その他」から「特定技能」を独立させている。
在留資格別では「専門的・技術的分野」、「技能実習」、「資格外活動」(※)、「身分に基づく在留資格」が多いことが分かる。
※ 現に有している在留資格に属さない収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動を許可を得て行う活動。「留学」や「家族滞在」の在留者などが許可を得て就労する場合など。違法就労ではない。
過去2年間のデータしかないが、「専門的・技術的分野」の中では、特定技能の増加が目立っていることが分かる。
また、割合は高くはないが「特定活動」(※)が急増していることが分かる。
※ 法務大臣が個々の外国人について特に指定する活動である。
(3)国籍別にみた外国人労働者数の推移
国籍別に見た在留外国人数の推移は図のようになっている。ベトナム人、中国人、フィリピン人などが多いが、中国人は横ばい傾向である。これに対して、急増しているのがベトナム人、フィリピン人、ネパール人である。
やはり、ベトナムを除けば、アジアでも経済成長が著しい国は我が国で働くことは多くはない。
なお、「G7等」は、年によって定義が異なっているが、実数は多くないので、そのまま集計している。ロシアを含むいわゆる「先進国」が対象である。
なお、技能実習に限ると、国籍別の人数の推移は図のようになる。
ベトナム人が 2020 年まで急増しており、2024 年においても全体の4割近くを占めている。ただ、新型コロナの影響もあり 2021 年以降は低迷していたが、新型コロナの影響が去った 2024 年においても回復していない。べトナムの経済成長が影響しているのかもしれない(※)。
※ 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「技能実習制度適正化に向けた 調査研究事業 報告書」(2024年3月)によると「ベトナムの経済成長やベトナム国内の給与水準の上昇等から、ベトナムにおいて技能実習の人材募集が難しくなり、売り手市場になっている。また、ベトナム人技能実習生が増加し、ベトナム人同士での仕事内容や賃金等の情報を得る機会が増えたことで、人気職種と不人気職種の差も広がり、農業や建設等の不人気職種では特に募集が難しくなっている
」などとされている。
中国は、かつては技能実習のほとんどを占めていたが、中国の急速な経済発展の影響もあるのだろうが、急速に減少している(※)。
※ 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「技能実習制度適正化に向けた 調査研究事業 報告書」(2024年3月)によると「中国では、かつて技能実習生を多く輩出していた山東省など沿岸部を中心に、賃金水準が上昇して経済的に豊かになってきている。その結果、日本で技能実習生として働くよりも、中国国内の条件の良い職場や、国内より給与が高い国、入国後に永住資格への道が開けている国(ヨーロッパ、オーストラリア、ニュージーランドなど)で働くことを選ぶ労働者が増えてきている
」などとされている。
その他では、インドネシア、フィリピン、ミャンマーが急増している。やはり、母国が経済成長している国は、我が国へ働きに来ることは少なくなっているようだ。
(4)事業所規模別にみた外国人労働者数の推移
事業所規模別に見た在留外国人数の推移は図のようになっている。
いずれの規模の事業所においても、外国人労働者の数は増加している(※)が、30 人未満の事業所でも外国人が働いているケースは多いことが分かる。
※ 本図は、事業者の届出の数値をもとに集計している。一般に、この種の届出は、事業場の規模が小さくなるほど確実に行われなくなる傾向があるため、実態はさらに中小規模事業所の割合が高くなっている可能性がある。
一般に、中小規模事業所では、外国語が分かる日本人労働者の割合は多くはないであろうから、意思の疎通等の不備が原因となる災害のリスクが高いことが危惧される。
3 外国人労働者の労働災害の発生状況
(1)業種別に見た外国人労働者の災害発生状況
2019 年に労働者死傷病報告の様式が改正され、それ以降、外国人労働者の労働災害の詳細が公表されるようになった。
2019年以降の業種別の外国人労働者の休業4日以上の死傷災害の推移は、図のようになっている。
2022 年に減少しているが、これは、厚労省の統計の取り方が 2022 年に変更になったためである。2020 年及び 2021 年は新型コロナウイルスによるものを含んでいたのだが、2022 年以降は統計から新型ウイルスによるものが除かれたためである(※)。従って、その前後で、統計の連続性はない。
※ 災害全体の統計は、後に、2020 年及び 2021 年についても新型コロナウイルスによるものを除いた統計が公表された。しかし、外国人労働者の災害統計では、新型コロナウイルスを除いた統計の追加公表は行われなかった。
なお、技能実習生の数は新型コロナによって、2020 年、2021 年には減少した。しかし、外国人労働者全体の数は、この間は増加傾向みられず停滞はしたものの減少にまでは至っていない。
労働災害発生件数が、2020 年、2021 年に増加したのは、のちに見るように新型コロナによるものであろう。
(2)災害の型別に見た外国人労働者の災害発生状況
災害の型別に見た外国人労働者の労働災害の発生状況は図のようになっている。2020 年及び 2021 年に「その他」が急増しているのは新型コロナウイルスによるものと考えられる(※)。
※ すなわち、2020 年から 2022 年においても「その他」の労働災害発生件数が他の年と同様だったと仮定すれば、外国人労働者の労働災害発生件数は、この間、ゆるやかに増加したと考えられる。
災害の型別では「はさまれ・巻込まれ」が最も多く、「転倒」や「切れこすれ」が増加している。
この他「墜落」と「無理な動作・動作の反動」が増加しているが、外国人労働者も永住者などでは、高齢化が進んでいるためであろう。なお、「墜落・転落」の増加は、建設業で働く外国人労働者が増加しているためかもしれない。
(3)在留資格別に見た外国人労働者の災害発生状況
次に在留資格別の労働災害の発生状況を示そう。ある意味で当然のことかもしれないが、専門性の高い在留資格よりも、技能実習などのそれほど専門性の高くない在留資格で災害発生件数が多くなる現状がある。
また身分に基づく在留資格(永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、及び、定住者)の割合がかなり高い。2024 年の雇用届け出状況による身分に基づく在留資格の外国人労働者数は、629,117 人である。そして、その災害発生件数は、2,283 件である。
従って、身分に基づく在留資格の外国人労働者の年千人率は、3.63 となる。同年の外国人全体の千人率は、2.71 であるからこれと比較してもかなり高いようである。2024 年の日本全体の年千人率は 2.3 であることから考えると異常に高いように思える。
身分に基づく在留資格は、先述したように永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、及び、定住者である。これらの人々は一般の日本人に、さらには一般の外国人に比しても、危険な職務に就くことが多いということであろうか。
(4)国籍別に見た外国人労働者の災害発生状況
国籍別に見た労働災害発生状況は、図のようになっている。ベトナムが最も多く、フィリピン、インドネシア、ブラジルがこれに次いでいる。
国籍別の労働者数では、ベトナムに次いで中国が多いのだが、災害発生件数では中国の割合は高くはない。中国人は、比較的危険性の少ない業務に従事することが多いのであろう。中国の経済発展(と先進技術の発展)がその背景にあるのかもしれない。
各国の「国力の差」がその国の労働者の海外における安全にまで影響を与えるということなのだろうか。
4 最後に

※ イメージ図(©photoAC)
我が国が、G7の中では、長期に経済力が低下している唯一の国家であることはだれの目にも明らかである。かつて発展途上国と呼ばれた国々に抜き去られて後から追いかけているどころか、後ろ向きによたよたと歩いている「転落途上国」だとさえ揶揄される現状にある。
しかも、少子高齢化の進展は、先進国水準となっており、経済力はしぼむ一方となっている。このような中で、我が国が持続的な発展を実現するためには、外国人労働者の導入が必要不可欠になっている。むしろ「働かせてやる」などといえるような状況ではなくなっているのである。
外国人に、日本に来てもらって、ともに日本を発展させ、それが結果的に来日した外国人にとってもプラスになるという方向を模索する必要があろう。日本人よりも外国人の方が、労働災害が多いなどという状況を当然のことととらえてはならない。
外国人も日本人もともに安全な職場を実現してゆかなければならない。その際に、外国人は、母国語が日本語ではなく、宗教や生活習慣、文化や考え方も異なることから、やはり特別な配慮を必要とするのである。
外国人労働者の労働災害防止が急務であるといえよう。
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