※ イメージ図(©photoAC)
2023年10月、祭事でもちいられる「だんじり」によって死亡災害が発生したとの小さな報道がありました。報道が小さな扱いだったのは、だんじりによる死亡災害がそれほどめずらしいものではなく、よく起きる事故だったからでしょう。
しかし、亡くなった方やそのご遺族にとっては、大変に悲惨な事件です。伝統文化の神事でもあり、被災者もある程度の危険は理解していたかもしれません。だからと言って、このような事故の発生を容認してよいことにはなりません。
だんじりによる事故発生のリスクを容認できるレベルまで下げることは、この神事を続けてゆくためにも必要不可欠なことだと思います。
そのためには、どうするべきなのかを考えてみたいと思います。
- 1 だんじりによる災害の特徴
- (1)だんじりによる死亡災害の発生状況
- (2)典型的なだんじりによる事故
- 2 だんじりによる災害を減らすには
- (1)事故発生時の法的な責任
- (2)どうすればリスクを下げることができるのか
- 3 最後に
1 だんじりによる災害の特徴
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(1)だんじりによる死亡災害の発生状況
ア だんじりによる死亡災害の発生件数
2023年10月、だんじりの試験曳きの際に、ガードレールに激突し、間に挟まれた男性が死亡するという災害が報じられた(※)。それほど大きな扱いではなかったのは、だんじりや山車による死亡災害がそれほどめずらしくないからであろう。
※ 2023年10月09日MBSNEWS「だんじりがガードレールに衝突…52歳の男性が挟まれ死亡 試験曳き中の事故 大阪市」
だんじりによる死亡災害は、2020年と2021年は新型コロナウイルスの影響で発生しなかったものの、検索してざっと表示されただけでもかなりの頻度で発生している。
【だんじり・山車による死亡災害】
- 2022年10月 だんじりの横転による圧死(大阪府:死亡1、負傷3)
- 2019年10月 山車と電柱に挟まれて圧死(愛知県:死亡1)
- 2019年08月 だんじりの横転による圧死(兵庫県:死亡1)
- 2019年07月 誘導役が転倒してだんじりの轢過による轢死(大分県:死亡1)
- 2016年10月 だんじりとガードに挟まれて圧死(大阪府:死亡1)
- 2016年04月 だんじりと街灯に挟まれて圧死(大阪府:死亡1)
- 2015年10月 観光客がだんじりに轢過されて轢死(大阪府:死亡1)
- 2015年09月 だんじりの横転によるて圧死(兵庫県:死亡1)
- 2014年10月 だんじりが手水舎に激突して崩れた手水舎の屋根により観光客が圧死(兵庫県:死亡1、負傷16)
- 2013年04月 後でだんじりを押していたところ、だんじりが後退したため転倒して轢過されて轢死(兵庫県:死亡1)
これは、検索して見つかったものだけであり、他にも発生している可能性があることをお断りしておく。また、休業が必要になるレベルの負傷事故は、報道されていないものも含めて、これの数十倍から数百倍は発生しているだろう。
イ だんじりとは
※ イメージ図(©photoAC)
だんじり(※)とは、多人数が2本の綱で曳く車輪(コマ)のついた山車であると思えばよい。岸和田市のサイトの「だんじり各部名称」に分かりやすい図が掲載されている。
※ だんじり祭りには様々な形式があり、事故を起こす恐れの低い形式で行われるタイプもある。以下の記述は、今回、事故を起こしただんじりと同種のだんじり祭についてのものである。
前方に2箇所曳き綱を付けるところがあり、数十名の曳き手がこれを曳くようになっている。現実にかなりの速度が出るようである。
事故を起こしただんじりの車輪は木製で、前後に2輪づつ合わせて4輪が設置されている。左右の車輪は車軸で繋がっているが、独立して回転することが可能である。
だんじりの前部の左右に前挺子が取り付けられており、これを操作することによって左右の前輪にそれぞれブレーキをかけることができるようになっている。前梃子の操作はそれぞれ1名で担当し、だんじりと共に地上を移動しながらテコを操作する。
車輪の方向は固定されており、カーブを曲がろうとして曳き手が曲がりたい方向に曳いても車輪の方向を変えることはできない。そのため方向転換は簡単ではない。だんじりを方向転換するために、だんじり後部に長さ約3.5メートルの後梃子が取り付けられている。20~30人がかりでこの後梃子を肩で押したり、後梃子に取り付けられた綱を引いたりしてだんじりの向きを変えるのである。また、前梃子を用いて左右の前輪に別々にブレーキをかけることで方向転換をやりやすくする。
だんじりには、上段の屋根の上に数人の大工方が乗り、中段には大太鼓、小太鼓、笛、鉦を鳴らす役が乗り込む。一番下の左右には足を載せる踏み台が取り付けられており、立ったまま乗ることができるようになっている。
(2)典型的なだんじりによる事故
次の動画はKANADE Official YouTube Channelで紹介されただんじりの事故の一例(※)である。なお、やりまわしとはカーブを曲がる操作のことである。
※ 悲惨な様子は映っていませんが、事故のシーンですので閲覧はご注意ください。なお、執筆当初は MBS 公式チャンネルの事故の動画を埋め込みで紹介していましたが、当サイトへアップした直後にその動画が削除されましたので、現在の動画に差し替えました。
最初の転倒事故では、カーブの内側から見ると、数人の参加者がだんじりの下部に足を載せて中段につかまっていることが分かる。これは体重を内側にかけて、遠心力でだんじりが外側に振れることを防止するためである。もちろん、反対側(カーブの外側)には参加者はだんじりにつかまってはいない。この動画では浮き上がった後もだんじりを体重をかけて元に戻そうとしている。
だんじりの事故は、YouTubeで検索すると、この動画以外にも事故やヒヤリハットの様子が数多くアップされている。典型的な事故としては次のようなものが多いようだ。
【だんじり・山車による典型的な事故】
- カーブを曲がろうとして、曲がり切れずに電柱、街灯、建造物等に激突する事故。しかし、このタイプの事故では、地上で被災者がだんじりと電柱等の間にはさまれさえしなければ、大きな事故にはならないことが多いようだ。
- 曳き手が転倒して、だんじりに轢かれる事故。しかし、だんじりに近いところで曳いていない限り、曳き手が転倒しても大きな事故にはなることはない。実際には、だんじりの近くで曳くのは経験者が多く、大きな事故にはならないことが多いようだ。
- カーブを曲がろうとして、遠心力で外側に転倒したり、外側に振れただんじりを立て直そうとして逆に内側に倒れたりする事故。倒れる側の道路の幅に余裕があれば、だんじりに乗っている参加者は飛び降りて逃げることができるが、余裕がないと逃げることができない。
もちろん、この他にも様々なケースがあり得るが、典型的なものはこの3つにまとめることができよう。
2 だんじりによる災害を減らすには
(1)事故発生時の法的な責任
ア 民事責任
事故が発生して祭の見物客や参加者が被災した場合、だんじりを操作している者や操作を指示している者に事故発生の責任(過失)があれば、被災者からその責任者に損害賠償請求が可能となると考えられる。この場合の法律上の根拠は不法行為責任(民法第709条)となる。
また、参加者が被災した場合には、主催者と被災者の間に何らかの契約関係があると考えられれば、主催者に対して安全配慮義務違反(民法第415条)による損害賠償請求が可能になるかもしれない(※)。その場合は、実際の事故の原因に責任のある者(過失のある者)が主催者にとっての履行補助者と位置付けられる必要がある。
※ 現実には、事故の直接の責任者よりも主催者の方が、損害賠償の能力があるケースが多いだろうから、被災者としては主催者を訴えたいところである。しかし、祭の神事への参加であるから、法的には難しい問題が生じよう。なお、被災者が祭への参加者であるケースで、主催者側に予見可能性がないとして民事賠償請求が認められなかったケース(神戸地判平成29年9月27日)がある。
現実に、見物客が巻き込まれた事故で、だんじりの前方と後方で誘導や進路の確認をしていた者2名に対して損害賠償請求(不法行為責任(※1))が認められたケースがある(※2)。
※1 見物客の場合、主催者との間に契約関係はないので、事故発生の責任(過失)のある者に対して不法行為責任を追及するしかない。
※2 読売新聞オンライン2021年10月28日「だんじり事故に巻き込まれた見物客に後遺症、自治会役員らに1360万円賠償命令」、神戸新聞NEXT2021年10月27日「三田だんじり17人死傷事故 運行責任者らに1359万円賠償命令」による。
この事件は見物客に対して民事賠償責任が認められたケースである。しかし、被災者が参加者であったとしても、被告側に過失があれば損害賠償責任が認められることとなることは当然である。参加者の場合、一定の危険性があることは理解した上で参加しているだろうが、そのことは損害賠償請求の支障とはならない(※)。
※ 朝日新聞2019年10月30日「死傷事故相次ぐだんじり 息子亡くしても「近所に謝罪」」などを読むと、参加者には一定の危険を容認した上で参加するような風潮があるように感じられる。
イ 刑事責任
また、前述した見物客に対する民事賠償請求が認められた事故では、だんじりの運行責任者の2名が業務上過失致死傷で有罪となっている(※)。
※ 産経新聞2015年11月03日「兵庫・三田だんじり事故、運行責任者2人に罰金50万円略式命令」による。
しかし、訴訟は略式手続きで行われ、課された罰は50万円というかなり低い罰金となった。訴訟が略式手続きとなった時点で、懲役刑はないことが明確になっている。民事賠償訴訟が行われている以上、被害者は宥恕していないわけであり、また示談も成立していない(※)のだが、それでも、悪質なケースではないと考えられたのであろう。
※ 加害者が謝罪したかどうか、また示談を求めずに争ったのかどうかは報道からは分からない。
(2)どうすればリスクを下げることができるのか
ア なぜ事故の危険があるのか
(ア)速度と道幅
※ イメージ図(©photoAC)
では、どうすれば事故のリスクを減らすことができるだろうか。
転倒事故や電柱等への激突事故が発生した際の YouTube の動画を視てみると、かなりの速度でだんじりが曳かれていることが分かる。参加者は壮丁(成人男性)ばかりではなく、女性や子供も多いようである。
そして、ほとんどの事故はだんじりの方向転換(やりまわし)のときに起きているのである。曳き手は数十人おり、方向転換時にもかなりの高速で曳いている。だんじりは4トン近くあり、方向転換は容易ではない。
先述したように、前梃子が内側の前輪にブレーキをかけ、後梃子を数十人がかりで回し、同時に回転の内側に数人の参加者がとりついて重心を内側に移すのである。
道幅が十分に確保されているコースであれば、想定より大きく周回してもそれほど問題ではない。また、外側に傾きかけても屋根に乗っている者は飛び降りて逃げ出せる。内部にいる者は飛び降りて逃げることもできるし、内部でしがみついていれば下敷きになる危険性は少ない。
しかし、道幅がなければ何かにぶつかることもあり得る。また、倒れかけたときに飛び出そうにも着地する場所がなかければ飛び出すこともできないし、着地する場所があってもそこから逃げる場所がなければ下敷きになる恐れがある。
(イ)内側に触れることの危険
また、外側に振れただんじりを倒すまいとして内側に引き戻そうとすると、カーブを曲がり切って直進するときに遠心力がなくなって逆に内側に倒れることがある。このときは、カーブの内側でだんじりにとりついていた参加者は、だんじりの外側にいるため、道路幅に逃げ出せる余裕がないと下敷きになるおそれがある。
先述の KANADE Official の動画では、曲がりきったところでカーブの内側に転倒している。たまたま転倒した場所にスペースがあったので被害が最小限にとどまった可能性もある(※)。
※ この動画の事故で負傷者が出たかどうかは分からない。転倒しただんじりの下敷きになった参加者は、動画で確認できる範囲ではいないようである。
イ ではどうするべきか
事故のリスクを減らす最良の方法は、方向転換のときに速度を落とすことである。しかし、伝統のある神事であってみれば、そのようなことは主催者や参加者が納得しないだろう。
であれば、だんじりそのものを転倒しにくくするべきであろう。もちろん、神事に用いるものであってみれば、簡単には構造を変えることはできないという反論はあり得よう。しかし、そのことは後述するとして、まずはだんじりの構造について考えてみよう。
転倒しにくくする方法は物理学の法則に従うしかない。
【だんじりを転倒させないために】
- だんじりが転倒したYouTubeの動画や、事故が起きている市町村の公式サイトを見てみると、左右の車輪がかなり内側に取り付けられている。すなわち、だんじりの構造が転倒しやすい形状になっているのだ。車輪の位置をだんじりの左右いっぱいにまで広げれば、転倒の危険性はかなり低くなる。
- だんじりには、屋根に数人の参加者が乗り、上部の構造に鳴り物を扱う参加者が数名乗っている。このために重心がかなり高くなっているのである。そこで、できるだけ、上部の構造物を軽くすることで重心を下げることで転倒するリスクは低くなる。ただし、上部構造物を弱くすると乗員の危険性が大きくなるので、強度は落とさないようにしなければならない。そこで、上部の主要構造物はFRPとし、強度に影響を与えない飾りなどはプラスチックに換えてもよいのではないだろうか。
- 通過する道路を広い道に限定することで、カーブを曲がり切れなかったときに道路の構造物に激突するリスクは大きく減らすことができる。どうしても、狭い道を通らざるを得ないときは速度を落とし、とくにカーブを曲がるときは慎重に運行するようにする。
- また、方向転換が難しい最大の理由は前輪が向きを変えることができないからである。前輪が取り付けられている車軸の方向を自由に変えられるようにし、車軸が前方の引手も曳く綱の方向と連動するようにすれば、方向を変えることは容易になり、衝突事故は減らせよう。もちろん、道幅がある程度なければ逆に操作が困難になるし、また操作性がよくなったからといって遠心力がなくなるわけではないが。
これらの方法をとることによって、転倒の危険性はかなり低下するはずである。
ウ 神事であることは、危険を容認する理由となるか
とは言え、伝統のある神事であることから、前述した事故のリスクを減らすための方策を取るべきではないという意見があるだろう。もちろん、それはそれでひとつの考え方ではある。
しかしながら、神事であることは、事故のリスクがあってもそのリスクへの対策を取らないことの理由になるだろうか。
神事だからといって、古代からありとあらゆることを寸分たがわず繰り返しているわけではないだろう。時代が変われば、神事とは言え、時代の感覚に合わせて変えてゆくことはあってしかるべきなのである。
神事だということを理由に、人が亡くなるようなリスクを放置することは許されないと考えるべきである。
3 最後に
だんじり祭は、伝統的な神事であり、また勇壮さが祭の本質で、一定の危険性があることがやむを得ない面もあろう。そのため、死亡事故が頻発しても簡単にそのやり方を変えることができにくいことは分からないでもない。
むしろ、だんじりが高速で動いているときでも、だんじりの屋根の上にいる参加者は立ち上がって屋根の左右に飛び回っている。これを粋であるとして生きがいを感じていることもあろう。
参加者もある程度の危険は承知であろうし、祭の性格からも、リスクを全てなくすということは現実的ではない。しかし、祭の見物客は、自らにリスクがあることを容認してはいないだろう。なによりも見物客には危険が及ばないようにしなければならない。
また、参加者についても、生命の危険があるようなリスクは許容されるものではないだろう。人びとの安全に対する考えも変わりつつある。神事だからと言って、あまりに大きな危険を許容する考え方は、今後は許されなくなってゆくだろう。
だんじり祭りを今後も持続的に発展させてゆくためにも、だんじりの安全について関係者の方には一考をお願いしたいと思う。
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