労働安全コンサルタント試験 2023年 産業安全一般 問10

ヒューマンエラーの対策




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※ イメージ図(©photoAC)

 このページは、2023年の労働安全衛生コンサルタント試験の「産業安全一般」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等を削除した場合があります。

 他の問題の解説をご覧になる場合は、「下表の左欄」、グローバルナビの「安全衛生試験の支援」又は「パンくずリスト」をご利用ください。

 柳川に著作権があることにご留意ください。

2023年度(令和05年度) 問10 難易度 ヒューマンエラーに関する知識問題。過去の出題は多い。正答率は半数以下で、合否を分けるレベルか。
ヒューマンエラー

※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上

問10 ヒューマンエラーの対策等に関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。

(1)フールプルーフとは、人間が機械操作の方法や手順を間違えても、危険な状態にならないようにする安全機構をいう。

(2)ヒューマンエラーは、大脳の情報処理過程の観点から、検出過程(認知)、媒介過程(判断)及び出力過程(確認)の三つの過程におけるものに分類することができる。

(3)人間の意識レベルをフェーズ0からフェーズⅣの5段階に分けているモデルにおいて、意識レベルをフェーズⅡからフェーズⅢに切り替える手法としては、チームの中で声を掛け合うのもよい。

(4)操作装置を操作する際に指差し呼称を行うことは、ヒューマンエラーを起さないようにするために有効である。

(5)危険予知活動は、リスクアセスメントを行い、設備対策等によリリスク低減措置を講じてもなお残るリスク(残留リスク)や作業者の行動に起因するリスクに対して有効である。

正答(2)

【解説】

問10試験結果

試験解答状況
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本問は、正答の肢である(2)よりも誤答の肢である(1)に解答した受験者の方がわずかに多かった。過去の同種の問題をきちんと学習していれば正答できた問題である。その意味で、学習にかけた時間によって差が出る問題と言えよう。

正答率はほぼ 50 %程度である。あまりに正答率の高い問題は誰でも解け、一方、あまりに正答率の低い問題は解けなくても合格できる。本問のような問題に正答できるかどうかで、合否が決まると言ってよい。

(1)適切である。2017年の産業安全一般の問9に同趣旨の問題が出題されている。そのときの解説の表を再掲するが、本肢の「人間が機械操作の方法や手順を間違えても、危険な状態にならないようにする安全機構」はフールプルーフの説明である。

フェールセーフ

故障が安全側に起きるようにすること。

例:安全装置故障時に、起動できないようにする。信号の故障(固定)時には、赤に固定する(青にしない)。

フェールソフト

事故の際に、より被害の少ない方を破壊すること。

例:自動車のボンネットを弱くし、衝突時に乗員を守る。

フェールオーバー

システムに冗長性を持たせて、部分的な故障が影響を及ぼさないようにすること。

例:多重化(航空機の燃料計。電力供給網。HDDのRAID)

フールプルーフ

人間の誤判断、誤操作等が悪影響を発生させないようにすること。

例:航空機の自動操縦(誤操作では失速しない(はず)。)

※ 多重化による信頼性向上をフォールトトレランスと呼び、フェールオーバーと区別する考え方もある。

(2)適切ではない。ヒューマンエラーは、その発生の機序から①入力エラー、②媒介エラー及び③出力エラーに分けることができる。ここで、入力エラーは認知・確認のミスであり、媒介エラーは判断・決定のミス、出力エラーは動作・実施のミスである(※)

※ 芳賀繁「うっかりミスはなぜ起きる-ヒューマンエラーを乗り越えて-」(中央労働災害防止協会 2019年)。

出力過程のエラー(出力エラー)は操作・動作のミスであり、「確認」とすることは適切ではない。なお、工藤(※)の次の解説が分かりやすい。

【税務行政におけるヒューマンエラーの防止についての一考察】

ヒューマンエラー対策に結びつけられる分類として、「認知心理学的な分類法」が考えられている。この分類法は、人間の情報プロセスの中に、入力エラー、媒介エラー及び出力エラーの3つのエラーを位置づける方法である。入力エラーは、見間違いや聞き違いなどの感覚、知覚の際のエラーであり、媒介エラーは、判断の狂いや意図的な規則違反などの情報の媒介、処理の段階のエラーであり、出力エラーは、未熟な操作や動作の失敗など、身体による反応を起こす際のエラーとされている。また、エラーを起こした心理的背景に踏み込み、エラーの背景要因を、①判断の甘さ、②習慣的操作、③注意転換の遅れ、④思い込み・省略、⑤情報収集の誤りの5因子に整理した「エラーの心理的背景の分類」がある。

※ 工藤誠「税務行政におけるヒューマンエラーの防止についての一考察」(税務大学校論叢第 107 号 令和4年6月)

(3)適切である。人間の意識レベルをフェーズ0からフェーズⅣの5段階に分けているモデルは、2020年度の産業安全一般の問10で出題されている。このモデルの詳細は、その解説を参照して頂きたい。

意識レベルをフェーズⅡからフェーズⅢに切り替える手法として、チームの中で声を掛け合うのがよいかどうかについて、このモデルに詳しい橋本(※)が「非定常作業時にはフェーズⅡでは対応し切れない場面が多いので、平常時にはフェーズⅡで作業し、いざというときには指差称呼をするとかチーム内で声をかけ合うといったやり方でフェーズⅢに切り替えることが有効といえる」としており、有効と考えられている。

※ 橋本邦衛「ヒューマン・エラーと安全設計」(人間工学 Vol.17. No.4 1981年)

(4)適切である。厚生労働省の職場のあんぜんサイトの安全衛生キーワード「指差呼称」の項に次のように記載されている。そもそも、指差呼称は厚生労働省が積極的にその普及に努めているものである。このような肢を間違いとして厚労省の国家試験に出題するはずがないだろう。

【安全衛生キーワード 指差呼称】

3 指差呼称の効果

 1994年、財団法人(現、公益財団法人)鉄道総合技術研究所により、効果検定実験が行われました。同実験によれば、「指差しと呼称を、共に行わなかった」場合の操作ボタンの押し間違いの発生率が2.38%であったのに対し、「呼称のみ行った」場合の押し間違いの発生率は1.0%、「指差しだけ行った」場合の押し間違いの発生率は0.75%でした。

 一方、指差しと呼称を「共に行った場合」の押し間違いの発生率は0.38%となり、指差しと呼称を「共に行った」場合の押し間違いの発生率は、「共に行わなかった」場合の発生率に比べ、約6分の1という結果でした。

 また、2010年、広島大学大学院保健学研究科による研究論文「確認作業に『指差し呼称』を用いた時の前頭葉局所血流変動の比較」が発表されました。この研究は、医療現場における確認・観察の怠慢、誤判断を回避する手段として「指差し呼称」の有効性を検証する目的をもって行われました。

 同論文によれば、「『指差し呼称』法のほうが、『黙読』法、『指差し』法、『呼称』法よりも前頭葉におけるHV(前頭葉における血中酸素化ヘモグロビン変化量)が多かった」、「『指差し呼称』法が、『黙読』法とでは左前頭前部、『指差し』法とでは、右前頭前部において認知機能の活性化が図られている可能性が示唆された」、「これらのことから、与薬(薬を処方すること)の準備段階においてなされる作業の確認方法として、『指差し呼称』法の有効性が示唆された」と結論付けられています。

 指差呼称だけでヒューマンエラーの根絶を実現することはできませんが、上記の実験、研究から、指差呼称は、「意識レベルを上げ、確認の精度を向上させる有効な手段」であるといえます。

※ 厚生労働省職場のあんぜんサイト「指差呼称

(5)適切である。なお、岐阜労働局のパンフレット「職場における安全衛生活動について」に「リスクアセスメントとの関連で言えば、設備対策などによりリスク低減措置を講じてもなお残るリスク(残留リスク)や作業者の行動に起因するリスクに対して、KYKは有効な活動です」と記載されている。

2023年12月25日執筆