労働安全コンサルタント試験 2021年 産業安全関係法令 問15

労働安全衛生法令全般




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 このページは、2021年の労働安全衛生コンサルタント試験の「産業安全関係法令」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2021年度(令和03年度) 問15 難易度 安衛法令全般からの出題。やや細かい内容の問題である。
安衛法令全般

※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上

問15 常時250人の労働者を使用する金属製品製造業の事業場から、労働安全コンサルタントに安全診断の依頼があり、安全診断を行った結果、当該事業場における状況は次のとおりであった。このうち、労働安全衛生法令上、違反となるものはどれか。

(1)安全衛生担当の課を設け、その課長を安全管理者として選任していたが、総括安全衛生管理者は選任していなかった。

(2)工場内では、この事業場の労働者と関係請負人の労働者の作業が同一の場所において行われており、混在作業による労働災害を防止するため、作業間の連絡調整は行われていたが、その作業場所の毎作業日の巡視は行われていなかった。

(3)動力プレスについては、1年以内ごとに1回、定期に、スライドによる危険を防止するための機構の異常の有無その他必要な事項について、厚生労働大臣の登録を受けた検査業者による特定自主検査を実施し、その記録を過去3年分保存していた。

(4)フォークリフトを用いて行う荷役運搬作業においては、十分な経験を有する者の中から作業指揮者が定められ、その者の指揮により作業が行われていたが、作業計画は定められていなかった。

(5)高さ12メートルの足場を設置して行う工場の外壁の塗装の仕事を専門業者に請け負わせていたが、その足場の組立てから解体までの期間が50 日であったので、足場に係る計画の届出が労働基準監督署長に提出されていなかった。

正答(4)

【解説】

問15試験結果

試験解答状況
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(1)違反にはならない。総括安全衛生管理者を選任していないが、本肢の工場は製造業であり、安衛令第2条(第二号)の規定により、選任義務があるのは常時雇用する労働者数が300人以上の場合である。従って、この点には違反はない。

安全管理者が1名しか選任されていないことについては、安衛法令では安全管理者の人数は特殊な場合を除いて定められていないので違反とはならない。安全管理者が専任でないが、これも安衛則第4条第1項(第四号)の対象ではないので違反とはならない。

安全管理者の資格については明確ではないが、明確ではない以上、違反があるとすることはできない。

【労働安全衛生法】

(総括安全衛生管理者)

第10条 事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定めるところにより、総括安全衛生管理者を選任し、その者に安全管理者、衛生管理者又は第二十五条の二第二項の規定により技術的事項を管理する者の指揮をさせるとともに、次の業務を統括管理させなければならない。

一~五 (略)

2及び3 (略)

(安全管理者)

第11条 事業者は、政令で定める業種及び規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定める資格を有する者のうちから、厚生労働省令で定めるところにより、安全管理者を選任し、その者に前条第一項各号の業務(第二十五条の二第二項の規定により技術的事項を管理する者を選任した場合においては、同条第一項各号の措置に該当するものを除く。)のうち安全に係る技術的事項を管理させなければならない。

 (略)

【労働安全衛生法施行令】

(総括安全衛生管理者を選任すべき事業場)

第2条 労働安全衛生法(以下「法」という。)第十条第一項の政令で定める規模の事業場は、次の各号に掲げる業種の区分に応じ、常時当該各号に掲げる数以上の労働者を使用する事業場とする。

 (略)

 製造業(物の加工業を含む。)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、家具・建具・じゆう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゆう器小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業、自動車整備業及び機械修理業 三百人

 (略)

【労働安全衛生規則】

(安全管理者の選任)

第4条 法第十一条第一項の規定による安全管理者の選任は、次に定めるところにより行わなければならない。

一~三 (略)

 次の表の中欄に掲げる業種に応じて、常時同表の下欄に掲げる数以上の労働者を使用する事業場にあつては、その事業場全体について法第十条第一項各号の業務のうち安全に係る技術的事項を管理する安全管理者のうち少なくとも一人を専任の安全管理者とすること。ただし、同表四の項の業種にあつては、過去三年間の労働災害による休業一日以上の死傷者数の合計が百人を超える事業場に限る。

建設業 三百人
有機化学工業製品製造業
石油製品製造業
無機化学工業製品製造業 五百人
化学肥料製造業
道路貨物運送業
港湾運送業
紙・パルプ製造業 千人
鉄鋼業
造船業
令第二条第一号及び第二号に掲げる業種(一の項から三の項までに掲げる業種を除く。) 二千人

 (略)

(安全管理者の資格)

第5条 法第十一条第一項の厚生労働省令で定める資格を有する者は、次のとおりとする。

 次のいずれかに該当する者で、法第十条第一項各号の業務のうち安全に係る技術的事項を管理するのに必要な知識についての研修であつて厚生労働大臣が定めるものを修了したもの

 学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)による大学(旧大学令(大正七年勅令第三百八十八号)による大学を含む。以下同じ。)又は高等専門学校(旧専門学校令(明治三十六年勅令第六十一号)による専門学校を含む。以下同じ。)における理科系統の正規の課程を修めて卒業した者(独立行政法人大学改革支援・学位授与機構(以下「大学改革支援・学位授与機構」という。)により学士の学位を授与された者(当該課程を修めた者に限る。)若しくはこれと同等以上の学力を有すると認められる者又は当該課程を修めて同法による専門職大学の前期課程(以下「専門職大学前期課程」という。)を修了した者を含む。第十八条の四第一号において同じ。)で、その後二年以上産業安全の実務に従事した経験を有するもの

 学校教育法による高等学校(旧中等学校令(昭和十八年勅令第三十六号)による中等学校を含む。以下同じ。)又は中等教育学校において理科系統の正規の学科を修めて卒業した者で、その後四年以上産業安全の実務に従事した経験を有するもの

 労働安全コンサルタント

 前二号に掲げる者のほか、厚生労働大臣が定める者

(2)違反にはならない。まず、作業間の連絡調整は行われていたということについては、そのこと自体については違反になりようがない。仮に、協議組織の設置及び運営を行っていなかったとしても、協議組織の設置及び運営を義務付ける安衛法第30条第1項の規定は、特定元方事業者に対して義務付けられるものである。そして、特定元方事業者とは、安衛法第15条第1項(及び安衛令第7条第1項)により、建設業と造船業の元方事業者であるから、本肢の事業者には適用がない。

なお、製造業等の元方事業者に適用される同法第30条の2は、第30条第1項を準用していない。

次に、毎作業日の巡視が行われていないことに関しても、(同法第30条の2は、第30条第1項を準用しておらず)そもそも製造業等の元方事業者には「労働者及び関係請負人の労働者の作業が同一の場所において行われることによつて生ずる労働災害を防止する」ことを目的とした作業巡視(安衛法第30条第1項(第三号)及び安衛則第637条参照)は義務付けられていない。

また、一般的な意味での安全管理者の職場巡視が安衛則第6条に規定されているが、頻度が定められていないので、毎作業日の巡視が行われていなかったとしてもただちに違反とは言えない。

【労働安全衛生法】

(特定元方事業者等の講ずべき措置)

第30条 特定元方事業者は、その労働者及び関係請負人の労働者の作業が同一の場所において行われることによつて生ずる労働災害を防止するため、次の事項に関する必要な措置を講じなければならない。

 協議組織の設置及び運営を行うこと。

 作業間の連絡及び調整を行うこと。

 作業場所を巡視すること。

四~六 (略)

2~4 (略)

第30条の2 製造業その他政令で定める業種に属する事業(特定事業を除く。)の元方事業者は、その労働者及び関係請負人の労働者の作業が同一の場所において行われることによつて生ずる労働災害を防止するため、作業間の連絡及び調整を行うことに関する措置その他必要な措置を講じなければならない。

 前条第二項の規定は、前項に規定する事業の仕事の発注者について準用する。この場合において、同条第二項中「特定元方事業者」とあるのは「元方事業者」と、「特定事業の仕事を二以上」とあるのは「仕事を二以上」と、「前項」とあるのは「次条第一項」と、「特定事業の仕事の全部」とあるのは「仕事の全部」と読み替えるものとする。

3及び4 (略)

【労働安全衛生法施行令】

(統括安全衛生責任者を選任すべき業種等)

第7条 法第十五条第一項の政令で定める業種は、造船業とする。

 (略)

【労働安全衛生規則】

(安全管理者の巡視及び権限の付与)

第6条 安全管理者は、作業場等を巡視し、設備、作業方法等に危険のおそれがあるときは、直ちに、その危険を防止するため必要な措置を講じなければならない。

 (略)

(作業場所の巡視)

第637条 特定元方事業者は、法第三十条第一項第三号の規定による巡視については、毎作業日に少なくとも一回、これを行なわなければならない。

 (略)

(3)違反にはならない。動力プレスについては、安衛法第45条第1項(及び安衛則第134条の3第1項)の規定により、1年以内ごとに1回、定期に、スライドによる危険を防止するための機構の異常の有無その他必要な事項について定期自主検査を行わなければならない。

そして、この自主検査は労働安全衛生規則第135条の3第1項により、安衛法第45条第2項の特定自主検査である。従って、外部に委託する場合は、厚生労働大臣の登録を受けた検査業者に行わせる必要がある。

また、この自主検査の記録は、安衛則第135条の2により、必要事項を過去3年分保存していなければならない。

この事業者は、それをすべて満たしているのであるから、違反とはならない。

【労働安全衛生法】

(定期自主検査)

第45条 事業者は、ボイラーその他の機械等で、政令で定めるものについて、厚生労働省令で定めるところにより、定期に自主検査を行ない、及びその結果を記録しておかなければならない。

 事業者は、前項の機械等で政令で定めるものについて同項の規定による自主検査のうち厚生労働省令で定める自主検査(以下「特定自主検査」という。)を行うときは、その使用する労働者で厚生労働省令で定める資格を有するもの又は第五十四条の三第一項に規定する登録を受け、他人の求めに応じて当該機械等について特定自主検査を行う者(以下「検査業者」という。)に実施させなければならない。

3及び4 (略)

【労働安全衛生法施行令】

(定期に自主検査を行うべき機械等)

第15条 法第四十五条第一項の政令で定める機械等は、次のとおりとする。

 (略)

 動力により駆動されるプレス機械

三~十一 (略)

 法第四十五条第二項の政令で定める機械等は、第十三条第三項第八号、第九号、第三十三号及び第三十四号に掲げる機械等並びに前項第二号に掲げる機械等とする。

【労働安全衛生規則】

(定期自主検査)

第134条の3 事業者は、動力プレスについては、一年以内ごとに一回、定期に、次の事項について自主検査を行わなければならない。ただし、一年を超える期間使用しない動力プレスの当該使用しない期間においては、この限りでない。

一~八 (略)

 スライドによる危険を防止するための機構の異常の有無

 (略)

(定期自主検査の記録)

第135条の2 事業者は、前二条(引用者注:第134条の3は含まれる。)の自主検査を行つたときは、次の事項を記録し、これを三年間保存しなければならない。

一~六 (略)

(特定自主検査)

第135条の3 動力プレスに係る法第四十五条第二項の厚生労働省令で定める自主検査(以下「特定自主検査」という。)は、第百三十四条の三に規定する自主検査とする。

2~4 (略)

(4)違反となる。フォークリフトは安衛則第151条の2により車両系荷役運搬機械であるとされている。そして、同第151条の3の規定により、車両系荷役運搬機械を用いて行う荷役運搬作業においては、作業計画は定めなければならない。このことは、十分な経験を有する者の中から作業指揮者が定められ、その者の指揮により作業が行われている場合だったとしても変わらない。

なお、試験合格後の実務においては、作業計画は工場内の走行のみの作業であったとしても定める必要があることに留意すること。

【労働安全衛生規則】

(定義)

第151条の2 この省令において車両系荷役運搬機械等とは、次の各号のいずれかに該当するものをいう。

 フオークリフト

二~七 (略)

(作業計画)

第151条の3 事業者は、車両系荷役運搬機械等を用いて作業(不整地運搬車又は貨物自動車を用いて行う道路上の走行の作業を除く。以下第百五十一条の七までにおいて同じ。)を行うときは、あらかじめ、当該作業に係る場所の広さ及び地形、当該車両系荷役運搬機械等の種類及び能力、荷の種類及び形状等に適応する作業計画を定め、かつ、当該作業計画により作業を行わなければならない。

2~4 (略)

(作業指揮者)

第151条の4 事業者は、車両系荷役運搬機械等を用いて作業を行うときは、当該作業の指揮者を定め、その者に前条第一項の作業計画に基づき作業の指揮を行わせなければならない。

(5)違反にはならない。そもそも、専門業者に請け負わせていたのであれば、届け出はその専門工事業者が行うべきことであり、その発注した事業者には届出の義務はない。

なお、高さ12メートルの足場の設置は、原則として安衛法第88条第1項(及び安衛則第85条/同別表第7(第九号))により、足場に係る計画の届出を労働基準監督署長に提出しなければならないが、安衛則第85条但書(第二号)により、組立てから解体までの期間が六十日未満のものは除外されている。

いずれにせよ、違反になりようがない。

【労働安全衛生法】

(計画の届出等)

第88条 事業者は、機械等で、危険若しくは有害な作業を必要とするもの、危険な場所において使用するもの又は危険若しくは健康障害を防止するため使用するもののうち、厚生労働省令で定めるものを設置し、若しくは移転し、又はこれらの主要構造部分を変更しようとするときは、その計画を当該工事の開始の日の三十日前までに、厚生労働省令で定めるところにより、労働基準監督署長に届け出なければならない。ただし、第二十八条の二第一項に規定する措置その他の厚生労働省令で定める措置を講じているものとして、厚生労働省令で定めるところにより労働基準監督署長が認定した事業者については、この限りでない。

2~7 (略)

【労働安全衛生規則】

(計画の届出をすべき機械等)

第85条 法第八十八条第一項の厚生労働省令で定める機械等は、法に基づく他の省令に定めるもののほか、別表第七の上欄に掲げる機械等とする。ただし、別表第七の上欄に掲げる機械等で次の各号のいずれかに該当するものを除く。

 (略)

 機械集材装置、運材索道、架設通路又は足場で、組立てから解体までの期間が六十日未満のもの

別表第7 (第八十五条、第八十六条関係)

機械等の種類 事項 図面等
(略) (略) (略)

十二 足場(つり足場、張出し足場以外の足場にあつては、高さが十メートル以上の構造のものに限る。)

一 設置箇所

二 種類及び用途

三 構造、材質及び主要寸法

組立図及び配置図
(略) (略) (略)
2021年11月13日執筆

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