労働安全コンサルタント試験 2021年 産業安全一般 問01

安全管理等(一般)




問題文
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試験を受ける女性

 このページは、2021年の労働安全衛生コンサルタント試験の「産業安全一般」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等を削除した場合があります。

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2021年度(令和03年度) 問01 難易度 基本的な問題である。一部に不適切な肢もあるが、確実に正答しなければならない問題である。
安全管理等(一般)

※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上

問1 安全管理などに関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。

(1)安全管理規程の内容としては、安全管理体制、安全委員会の開催、安全管理者の選任と職務、安全教育、災害・事故の調査などが含まれているものが多い。

(2)安全管理者は、事業者や総括安全衛生管理者の指揮監督を受けながら安全に係る技術的事項を管理する者で、専任でない場合であってもその職務を確実に遂行できることが必要である。

(3)労働災害が発生した場合においては、法令に基づいて被災者に支払われる労災保険による補償費とこれ以外の費用及び損失を比較すると、一般的に後者の方が大きい。

(4)災害調査に当たっては、災害発生の背後にある管理的要因よりも、直接原因である不安全な状態及び不安全な行動を発見・把握することの方が重要である。

(5)日本の職場で実施されているツールボックスミーティング、4Sなどの安全活動は、QC活動など職場の労働者全員による活動の一環として発展したもので、我が国の企業文化と結び付いている。

正答(4)

【解説】

問1試験結果

試験解答状況
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(1)適切とも不適切とも言えない。本肢は、常時雇用する労働者が50人以上で、安全管理者を選任する必要のある業種を前提としている。それが、問題文に明記されていないことはともかくとしても、本肢の末尾が「いるものが多い」とされているため、判断のしようがないのである。

本肢が正しいかどうかを判断するには、現実の事業場に対する調査等の結果を参照する必要があるだろう。しかし、そのような調査で、一般に知られているものはないといってよい。その意味で、問題文が不適切である。

ただ、安全管理規程の内容として、安全管理体制、安全委員会の開催、安全管理者の選任と職務、安全教育、災害・事故の調査などを含めることは間違いではない。もっとも、現実には、安全教育、災害・事故の調査などは安全管理規程に含めるのではなく、別規程とするケースの方が多いのではないだろうか。中災防の「JISHA方式適格OSHMS認証手引き」もそのようになっている。

なお、茨城労働局の示している「安全衛生管理規程(例)」には本肢の項目がすべて含まれているが、東京労働局の示している「作成例 安全衛生管理規程」には、本肢の災害・事故の調査に関する項目が含まれていない。

(2)適切である。安衛法第11条(及び同第10条)の規定によれば、安全管理者とは、事業者や総括安全衛生管理者の指揮監督を受けながら安全に係る技術的事項を管理する者であり、安衛則第6条第2項の規定により、専任でない場合であってもその職務を確実に遂行できる権限を付与されなければならない。

【労働安全衛生法】

(総括安全衛生管理者)

第10条 事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定めるところにより、総括安全衛生管理者を選任し、その者に安全管理者、衛生管理者又は第二十五条の二第二項の規定により技術的事項を管理する者の指揮をさせるとともに、次の業務を統括管理させなければならない。

一~五 (略)

2及び3 (略)

(安全管理者)

第11条 事業者は、政令で定める業種及び規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定める資格を有する者のうちから、厚生労働省令で定めるところにより、安全管理者を選任し、その者に前条第一項各号の業務(第二十五条の二第二項の規定により技術的事項を管理する者を選任した場合においては、同条第一項各号の措置に該当するものを除く。)のうち安全に係る技術的事項を管理させなければならない。

 (略)

【労働安全衛生規則】

(安全管理者の巡視及び権限の付与)

第6条 (第1項 略)

 事業者は、安全管理者に対し、安全に関する措置をなし得る権限を与えなければならない

(3)適切とも不適切とも言えない。そもそも労働災害には、重篤な傷害を受けて高額の療養費を要するものから、たんなる救急箱災害までさまざまなものがある。まず、本肢は、これについて限定していない。

一方、「これ以外の費用及び損失」の範囲が書かれていない。例えば、休業した場合には労災補償として平均賃金の6割(+2割)が給付されるが、民事訴訟で敗訴しない限り残り4割(2割の加算額は控除されない)は支払わないケースが多い。その場合、これは「これ以外の費用及び損失」に含まれるのだろうか。また、再発防止のために調査や対策のコストをかけた場合はどうだろうか。第三者災害による過失で災害が発生した場合、その第三者に再発防止のためのコストを民事賠償請求しても、まず認められない。では、これは「これ以外の費用及び損失」に含めるべきだろうか。

あまりにも内容が曖昧模糊としていて、出題の意図がつかめないのである。これで「一般的に」と言われても正誤の判断などできるわけがない。問題が不適切である。なお、本肢は2017年問1の(2)と同じである。そのときの解説にも詳しく述べたが、適切とも不適切とも言えないので、本肢は正答とはならない。

災害調査法の一例(4M法)

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(4)不適切である。災害調査にあたっては、直接原因を把握することは重要ではあるが、さらに災害の背景にある人的要因、管理的要因、施設・設備などの環境の要因、作業に関する要因など背景にあった要因を発見・把握することが重要である。右図に災害調査法のひとつである4M法を示す。

中災防の「管理的要因を考慮した災害分析手法モデル」の調査研究概要にも「労働災害の再発を防止するためには、人的要因及び物的要因にとどまらずに、その背景にある管理的要因にも踏み込んだ本質的な原因の究明を行い、それに基づく本質的な対策を実施する必要があります。しかしながら、労働災害の発生状況をみると、災害が発生した場合に、その管理的要因まで追究した対策がなされないために、同様な原因による災害の発生が繰り返されているケースが多くあります」とされている。

(5)不適切であるとは言えない。日本の職場で実施されているツールボックスミーティング、4Sなどの安全活動がいつから始まったかについて定説はない。とりわけツールボックスミーティングと4Sという用語が、最初にどの企業から始まったのかについては明らかではない(※)

※ 4Sについて、大森信「日本企業と清掃」(日本経営学会誌 第42号 2019年)によると、ホンダでは「1960年の社内報の中で、3Sという言葉が登場」し、トヨタでは「1961年9月から4Sが全社的に推進され始めた」とされているが、それ以前については判然としない。どなたか、TBM、4Sについて、発祥の経緯をご存知の方がおられたらご教示いただきたい。

しかし、QC活動など職場の労働者全員による活動の一環として発展したもので、我が国の企業文化と結び付いていることは誤りとは言えないだろう。なお、本肢は2017年問2の(2)と同じである。

2021年11月14日執筆