労働安全コンサルタント試験 2017年 産業安全関係法令 問11

元方事業者の講ずべき措置




問題文
トップ
合格

 このページは、2017年の労働安全衛生コンサルタント試験の「産業安全関係法令」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

 他の問題の解説をご覧になる場合は、グローバルナビの「安全衛生試験の支援」か「パンくずリスト」をご利用ください。

 柳川に著作権があることにご留意ください。

2017年度(平成29年度) 問11 難易度 元方事業者の講ずべき措置に関するかなり詳細な知識問題である。かなりの難問であろう。
元方事業者

問11 元方事業者の講ずべき措置に関する次の記述のうち、労働安全衛生法令に定められているものはどれか。

(1)港湾運送業に属する事業の元方事業者は、その労働者及び関係請負人の労働者の作業が同一の場所において行われることによって生ずる労働災害を防止するため、随時、元方事業者と関係請負人との間及び関係請負人相互間における連絡及び調整を行わなければならない。

(2)鉄鋼業に属する事業の元方事業者は、その労働者及び関係請負人の労働者の作業が同一の場所において行われることによって生ずる労働災害を防止するため、元方事業者及びすべての関係請負人が参加する協議組織を設置し、当該協議組織の会議を定期的に開催しなければならない。

(3)造船業に属する事業の元方事業者は、工程表等の当該仕事の工程に関する計画並びに当該作業場所における主要な機械、設備及び作業用の仮設の建設物の配置に関する計画を作成しなければならない。

(4)建設業に属する事業の元方事業者は、その仕事を行う場所で新たに作業を行うこととなった関係請負人の労働者に対し、当該場所における作業による危害の防止のために必要な事項について教育を行わなければならない。

(5)繊維工業に属する事業の元方事業者は、その労働者及び関係請負人の労働者の作業が同一の場所において行われる場合において、当該作業が積載荷重500キログラムの簡易リフトを用いて行うものであるときは、当該簡易リフトの運転についての合図を統一的に定め、これを関係請負人に周知させなければならない。

正答(5)

【解説】

本問(1)~(3)は安衛法第30条が適用される特定元方事業者とは何かを問うもので、(4)は同条第1項第五号が適用される者を問うものである。

【労働安全衛生法】

(統括安全衛生責任者)

第15条 事業者で、一の場所において行う事業の仕事の一部を請負人に請け負わせているもの(当該事業の仕事の一部を請け負わせる契約が二以上あるため、その者が二以上あることとなるときは、当該請負契約のうちの最も先次の請負契約における注文者とする。以下「元方事業者」という。)のうち、建設業その他政令で定める業種に属する事業(以下「特定事業」という。)を行う者(以下「特定元方事業者」という。)(以下略)

 (以下略)

(作特定元方事業者等の講ずべき措置)

第30条 特定元方事業者は、その労働者及び関係請負人の労働者の作業が同一の場所において行われることによつて生ずる労働災害を防止するため、次の事項に関する必要な措置を講じなければならない。

 協議組織の設置及び運営を行うこと。

 作業間の連絡及び調整を行うこと。

 (略)

 関係請負人が行う労働者の安全又は衛生のための教育に対する指導及び援助を行うこと。

 仕事を行う場所が仕事ごとに異なることを常態とする業種で、厚生労働省令で定めるものに属する事業を行う特定元方事業者にあつては、仕事の工程に関する計画及び作業場所における機械、設備等の配置に関する計画を作成するとともに、当該機械、設備等を使用する作業に関し関係請負人がこの法律又はこれに基づく命令の規定に基づき講ずべき措置についての指導を行うこと。

 (略)

 (以下略)

【労働安全衛生法施行令】

(統括安全衛生責任者を選任すべき業種等)

第7条 法第十五条第一項の政令で定める業種は、造船業とする

 (略)

(1)定められていない。作業間の連絡及び調整は、安衛法第30条第1項(第2号)に規定されており、安衛則第636条には「法第三十条第一項第二号の作業間の連絡及び調整については、随時、特定元方事業者と関係請負人との間及び関係請負人相互間における連絡及び調整を行なわなければならない」と定められている。しかし、これは特定元方事業者(建設業及び造船業(安衛法第15条及び安衛令第7条参照))を対象にしたものであり、港湾運送業には適用がない。

【労働安全衛生規則】

(作業間の連絡及び調整)

第636条 特定元方事業者は、法第三十条第一項第二号の作業間の連絡及び調整については、随時、特定元方事業者と関係請負人との間及び関係請負人相互間における連絡及び調整を行なわなければならない。

(2)定められていない。協議組織の設置についても、安衛法第30条第1項(第1号)に規定されており、また、安衛則第635条には本肢と同様な内容の規定がある。しかし、これは特定元方事業者を対象にしたものであり、鉄鋼業には適用がない。従って、本肢は誤りである。

【労働安全衛生規則】

(協議組織の設置及び運営)

第635条 特定元方事業者(法第十五条第一項の特定元方事業者をいう。以下同じ。)は、法第三十条第一項第一号の協議組織の設置及び運営については、次に定めるところによらなければならない。

 特定元方事業者及びすべての関係請負人が参加する協議組織を設置すること。

 当該協議組織の会議を定期的に開催すること。

 (略)

(3)定められていない。計画の策定についても、安衛法第30条第1項(第5号)に規定されており、また、安衛則第638条の3には本肢と同様な内容の規定がある。しかし、第5号は「厚生労働省令で定めるものに属する事業を行う特定元方事業者」に限られており、これは労働安全衛生規則第638条の2により建設業とされている。

【労働安全衛生規則】

(法第三十条第一項第五号の厚生労働省令で定める業種)

第638条の2 法第三十条第一項第五号の厚生労働省令で定める業種は、建設業とする。

(計画の作成)

第638条の3 法第三十条第一項第五号に規定する特定元方事業者は、同号の計画の作成については、工程表等の当該仕事の工程に関する計画並びに当該作業場所における主要な機械、設備及び作業用の仮設の建設物の配置に関する計画を作成しなければならない。

(4)定められていない。特定元方事業者が行うべきことは、「関係請負人が行う労働者の安全又は衛生のための教育に対する指導及び援助」であって、教育そのものではない(安衛法第30条第1項第四号)。

(5)定められている。クレーン等の運転についての合図の統一は、安衛則第639条に特定元方事業者について定められており、同第643条の3で元方事業者に準用されている。従って、繊維工業に属する事業の元方事業者にも適用がある。また、本条はクレーン則の適用を受ける簡易リフトにも適用があり、積載荷重250キログラム以上の簡易リフトはクレーン則の適用を受ける(クレーン則第2条第2号参照)。

なお、クレーンの合図は日本国内でほぼ統一されているが、建設業協会系とクレーン協会系で微妙に異なっており、技能講習を行う機関でも必ずしも統一されていない。

【労働安全衛生規則】

(クレーン等の運転についての合図の統一)

第639条 特定元方事業者は、その労働者及び関係請負人の労働者の作業が同一の場所において行われる場合において、当該作業がクレーン等(クレーン、移動式クレーン、デリック、簡易リフト又は建設用リフトで、クレーン則の適用を受けるものをいう。以下同じ。)を用いて行うものであるときは、当該クレーン等の運転についての合図を統一的に定め、これを関係請負人に周知させなければならない。

 (略)

(クレーン等の運転についての合図の統一)

第643条の3 第六百三十九条第一項の規定は、元方事業者について準用する。

 (略)

【クレーン等安全規則】

(適用の除外)

第2条 法第三十条第一項第五号に規定する特定元方事業者は、同号の計画の作成については、工程表等の当該仕事の工程に関する計画並びに当該作業場所における主要な機械、設備及び作業用の仮設の建設物の配置に関する計画を作成しなければならない。

 (略)

 エレベーター、建設用リフト又は簡易リフトで、積載荷重が〇・二五トン未満のもの

 (以下略)

2018年10月28日執筆 2020年03月29日修正