労働安全コンサルタント試験 2015年 産業安全一般 問23

産業廃棄物による火災




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合格

 このページは、2015年の労働安全衛生コンサルタント試験の「産業安全一般」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2015年度(平成27年度) 問23 難易度 産業廃棄物による火災に関するやや高度な知識問題である。難問といえるだろう。
産業廃棄物による火災

問23 産業廃棄物による火災などに関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。

(1)廃水や汚泥の混合処理では著しく発熱する場合があるため、少量ずつ時間をかけて処理を行う。

(2)廃油は長時間密閉した状態に放置すると、嫌気性発酵によりメタンガスを発生する。

(3)廃プラスチックは空気中の酸素により自然発火する可能性があるため、長期間放置することは避ける。

(4)廃油は引火点が低くなっている可能性があるため、取扱いには注意が必要である。

(5)不飽和結合を持つ脂肪酸エステル(油類)は、ぼろきれにしみると酸塩基反応が起こるため、なるべく早期に処理する。

正答(5)

【解説】

本問を見た印象であるが、いずれの肢も、実施に労働災害が発生し、国立の研究所が原因の調査を行った事例が背景にあるのではないかと思う。かなりの難問だったかもしれない。

(1)適切である。排水や汚泥の処理で、もっとも注意しなければならないのは硫化水素中毒であるが、汚水や汚泥の中には様々な物質が含まれていることから、これらが発熱・発火して災害になるケースがある。私自身、行政に在職していたとき、この種の災害で研究所に調査を依頼したことがある。本肢は適切でないとはいえない。

なお、廃油についてではあるが、2001年に若倉正英は廃棄物学会誌に「産業廃棄物 における災害の発生動向と安全上の問題点」を投稿している。この中で若倉は「実際には種々の化学物質が廃油の中に混入しており、重合反応や酸化還元反応、加水分解などの発熱により液温が上昇し、時には内容物の沸騰による噴出を引き起こすこともある」としている。

(2)適切である。廃油は長時間密閉した状態に放置すると、嫌気性消化(嫌気性発酵)によって消化ガスが発生する。嫌気性消化とは、酸素の存在しない(嫌気性)条件下で行われる有機物の生物分解のことである。このガスは、60~65%程度がメタン、33~35%程度が二酸化炭素であり、その他、微量の水素、窒素、硫化水素等を含んでいる。

(3)適切である。プラスチックが紫外線を受けると、酸素と反応(酸化)して劣化することはよく知られている。もっとも、粉状のものは別として、純粋なプラスチックが空気中の酸素と反応して自然発火したという災害事例は、筆者は聞いたことがない。

しかし、廃プラスチックに酸化しやすいものが混じっていると自然発火することはありえよう。稲葉敏寛「廃プラスチックのリサイクル施設における自然発火事例」(安全工学2001年)に、磁気テープとプラスチックの小片を混合した廃プラスチックが自然発火した事例が報告されている。本件は、磁性体に純鉄を用いているものがあり、これと空気が反応して発熱したのではないかと推測されている。また、消防防災博物館のWEBサイトにも、さいたま市消防局の「磁気カードからの出火事例」が(原因不明とはされているが)紹介されている。

廃プラスチックが空気中の酸素により自然発火するという記述にはやや疑問はあるが、「廃プラスチック」とは異物が混じっているものだと考えれば間違いではなく、また本肢は「可能性がある」とされており、適切でないとまではいえないのではないかと思う。

(4)適切である。2種類の引火点の異なる液体が混じっていると、混合物の引火点は低い方の液体の引火点とほぼ同じになる。食用油の中にも引火点の低いものは混じっており、廃油の引火点は測定してみないと明確には分からないというのが実態である。廃油の引火点が低くなっている可能性はあると思う。本肢は、適切でないとはいえないと思う。

また、廃油の場合、引火点70℃未満の廃油は「引火性廃油」であり、特別管理産業廃棄物となるので注意が必要である。

なお、船野誠他「天ぷら油火災の発生要因に関する研究」(大阪市立大学生活科学紀要1992年)によると「油の新しい・古いによる影響については、古い油の方が若干着火時聞か長くなった」という記述があることを紹介しておく。

(5)適切ではない。酸塩基反応とは、酸と塩基の中和反応のことである。不飽和結合を持つ脂肪酸エステルを布にしみ込ませたからと言って、酸塩基反応が起きるわけがない。

2018年10月27日執筆 2020年05月12日修正