労働安全コンサルタント試験 2015年 産業安全一般 問15

非破壊検査法




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合格

 このページは、2015年の労働安全衛生コンサルタント試験の「産業安全一般」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2015年度(平成27年度) 問15 難易度 非破壊検査法に関するやや高度な知識問題。合否を分けるレベルか。確実に正答しておきたいところ。
非破壊検査法

問15 非破壊検査法に関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。

(1)蛍光浸透探傷試験は、一般に、染色浸透探傷試験より欠陥検出が容易であり、屋内での小さな部品の検査に用いる。

(2)極間法による磁粉探傷試験で電磁石のコイルに交流を流して磁化するのは、磁束が試験体表面近くに集中して流れ、表面及び表面近傍の欠陥検出能力が高くなるためである。

(3)磁粉探傷試験は、適用できるのが強磁性体に限られるが、表面に開口した割れ状の欠陥の検出性能は一般に浸透探傷試験より優れている。

(4)浸透探傷試験で割れを検出する場合、一般に浅い割れの方が深い割れよりも検出が容易である。

(5)突合せ溶接継手の超音波探傷試験において、余盛を除去して垂直探傷が可能な場合でも、最も有害な板厚方向の面上欠陥を確実に検出するため、一般に斜角探傷法を用いる。

正答(4)

【解説】

(1)適切である。蛍光浸透探傷試験と染色浸透探傷試験の原理は同じであり、金属表面に目立つ色調の浸透液を塗布して欠陥の中に浸透液を浸透させてから、表面の浸透液をふき取り、さらに現像液を塗布して、欠陥の中に浸透した浸透液が現像液に吸収された状況を目視することで欠陥を発見しようというものである。その違いは浸透させる染料の違いである。

染色浸透探傷試験では赤色染料を用いた染色浸透液が使われ、蛍光浸透探傷試験には黄緑色の蛍光染料を用いた蛍光浸透液が使われる。この蛍光浸透液は、波長域315~400nmの紫外線を照射するブラックライトで照らすと蛍光色で輝く。そして、たんに色を見る染色浸透探傷試験より、輝きを見る蛍光浸透探傷試験の方が、欠陥の検出精度は高いといわれている。

しかし、蛍光浸透探傷試験を行う場所は暗くなければならず、屋外での検査は困難である。なお、JIS Z 2343-1:2001(非破壊試験―浸透探傷試験―第一部:一般通則)では20Lx以下の暗さの中で観察すること、紫外線強度は1000μW/cm2以上などと規定されている。

そのため、蛍光浸透探傷試験は、航空機部品などの屋内で行える小物部品の製品検査や保守検査に用いられる。

(2)適切である。極間法による磁粉探傷試験では、試験体を電磁石又は永久磁石の磁極間に置いて磁化させる。この方法は、試験体に流れるのが電流ではなく磁束であるため、試験体を損傷するおそれが低い。

直流によって発生させた磁束は、試験体を流れるときは全体に広がって流れる。これに対し、交流で磁化した場合は、表皮効果によって試験体の表面近くに集中して流れる。このときの磁束密度は、表面が最も大きく、表面からの距離に対して指数関数的に減少する。磁束密度が表面の1/eになる深さを表皮の厚さというが、商用の周波数でも2mm前後である。

このため交流で磁化すると、試験体の厚さにかかわらず表面近くの磁束密度が減少しないのである。そこで、表面の欠陥を極間法を用いて探傷する場合には交流を用いることが多い。なお、板厚が6mmを超えると交流を用いた方がよいとされている。

(3)適切である。磁粉探傷試験とは、試験片に磁束を流したとき、表面の欠陥があると、磁束が抵抗を受けて漏洩する。これを利用して欠陥の探傷を行う試験法である。そのため、磁化の程度に応じて試験体中の磁束密度が大きくなる強磁性体にしか使えない。従って前段は正しい。

また、一般に、強磁性体であれば、磁粉探傷試験の方が、浸透探傷試験より、割れなどの線状欠陥の検出性能は優れているとされている。従って、後段も不適切とまでは言えない。

なお、本肢の2つの試験の特徴は次のように言うことができる。

磁粉探傷試験 浸透探傷試験
強磁性体にしか使えない 強磁性体以外でも使用可能
欠陥指示模様は、時間が経過しても変化しない 湿式現像法又は速乾式現像法を用いると、指示模様が時間の経過と共に変化し、形がくずれ、滲んだり、色が薄くなったりすることがある
磁化する方向を変えて、数回、探傷しなければならない 1回の探傷操作で試験面全体を探傷できる
円形状の欠陥は指示模様がぼけて明確な形状を示さず、線状の欠陥も磁化方向により検出できる方向が決まってしまう 円形状の欠陥でも見やすい指示模様を示す
電源又は磁化装置及び磁粉を必要とする 探傷剤のみ、又は若干の装置を備えれば探傷ができる

(4)適切ではない。浸透探傷試験は表面が開口したキズや欠陥を検出するためのものであるが、浅くて幅が広い欠陥では、浸透液が取り除かれて欠陥の指示模様が現れなくなるという問題がある。一般に、打傷、引掻き傷などで、深さが幅よりも小さな欠陥は検出が困難となる。

なお、幅が広く浅い割れには、後乳化性染色浸透液が適している。

(5)適切である。溶接部の超音波探傷では、垂直探傷法は、ビードが平滑で接触がよく音波の伝播がよい場合であっても、①ビード表面直下の傷は探傷器の不感距離の中に入るため検出されない、②溶込不良など音波進行方向と平行な傷は検出されないなどの問題がある。このため、垂直探傷法は、板厚が厚くて表面が平滑な場合を除いては用いられることはなく、斜角探傷法が用いられる。

2018年10月27日執筆 2020年05月10日修正