問5 掘削作業等における労働災害を防止するため事業者が講じた措置に関する次の記述のうち、労働安全衛生法令上、違反となるものはどれか。
(1)砂からなる地山の掘削の作業を手掘りにより行うとき、掘削面のこう配を 35 度とし、かつ、掘削面の高さを4mとした。
(2)たて坑の内部で明り掘削の作業を行うとき、掘下げの深さが 10m であったので、作業箇所と外部との連絡のための電話、電鈴等の設備を設けなかった。
(3)採石作業を行うとき、岩石の採取のための掘削箇所の附近であったが、移動させることが著しく困難な岩石だったので、当該場所で当該岩石の小割の作業を行った。
(4)明り掘削の作業を行うとき、点検者を指名して、その日の作業を開始してから直ちに、作業箇所及びその周辺の地山について、浮石及びき裂の有無及び状態並びに含水、湧水及び凍結の状態の変化を点検させた。
(5)土石流危険河川において建設工事の作業を行うとき、臨時の作業であったので、作業場所から上流の河川及びその周辺の状況の調査を行わなかった。

このページは、2013年の労働安全衛生コンサルタント試験の「産業安全関係法令」問題の解説と解答例を示しています。
解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。
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2013年度(平成25年度) | 問05 | 難易度 | 掘削作業に関するやや詳細な内容の知識問題である。しかし、常識で判断すれば正答は可能である。 |
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掘削作業等 | 2 |
問5 掘削作業等における労働災害を防止するため事業者が講じた措置に関する次の記述のうち、労働安全衛生法令上、違反となるものはどれか。
(1)砂からなる地山の掘削の作業を手掘りにより行うとき、掘削面のこう配を 35 度とし、かつ、掘削面の高さを4mとした。
(2)たて坑の内部で明り掘削の作業を行うとき、掘下げの深さが 10m であったので、作業箇所と外部との連絡のための電話、電鈴等の設備を設けなかった。
(3)採石作業を行うとき、岩石の採取のための掘削箇所の附近であったが、移動させることが著しく困難な岩石だったので、当該場所で当該岩石の小割の作業を行った。
(4)明り掘削の作業を行うとき、点検者を指名して、その日の作業を開始してから直ちに、作業箇所及びその周辺の地山について、浮石及びき裂の有無及び状態並びに含水、湧水及び凍結の状態の変化を点検させた。
(5)土石流危険河川において建設工事の作業を行うとき、臨時の作業であったので、作業場所から上流の河川及びその周辺の状況の調査を行わなかった。
正答(4)
【解説】
(1)違反とはならない。安衛則第 357 条第1項(第一号)により、砂からなる地山の掘削の作業を手掘りにより行うときは、掘削面のこう配を 35 度以下とし、かつ、掘削面の高さを5m未満とすれば、違反とはならない。
【労働安全衛生規則】
第357条 事業者は、手掘りにより砂からなる地山又は発破等により崩壊しやすい状態になつている地山の掘削の作業を行なうときは、次に定めるところによらなければならない。
一 砂からなる地山にあつては、掘削面のこう配を35度以下とし、又は掘削面の高さを5メートル未満とすること。
二 (略)
2 (略)
(2)違反とはならない。たて坑の内部で明り掘削の作業を行う場合に、作業箇所と外部との連絡のための電話、電鈴等の設備を設けなければならないのは、安衛則第 377 条第1項(第三号)の規定により掘下げの深さが 20m を超えるときである。
【労働安全衛生規則】
(潜函等の内部における作業)
第377条 事業者は、潜函、井筒、たて坑、井戸その他これらに準ずる建設物又は設備(以下「潜函等」という。)の内部で明り掘削の作業を行うときは、次の措置を講じなければならない。
一及び二 (略)
三 掘下げの深さが20メートルを超えるときは、当該作業を行う箇所と外部との連絡のための電話、電鈴等の設備を設けること。
2 (略)
(3)違反とはならない。安衛則第 410 条により、採石作業を行うときに、岩石の採取のための掘削箇所の附近では、原則として小割の作業を行ってはならない。しかし、同項但書の規定により、移動させることが著しく困難な岩石は除外されている。
【労働安全衛生規則】
(掘削箇所附近での作業禁止)
第410条 事業者は、掘削箇所の附近で岩石の小割又は加工の作業を行なつてはならない。ただし、当該岩石を移動させることが著しく困難なときは、この限りでない。
(4)違反となる。安衛則第 358 条の規定により、明り掘削の作業を行うときは、点検者を指名して、その日の作業を開始する前に、作業箇所及びその周辺の地山について、浮石及びき裂の有無及び状態並びに含水、湧水及び凍結の状態の変化を点検させなければならない。
常識で考えれば、このような点検は作業を開始する前に行うべきだと分かるだろう。作業を開始した直後に点検を行ったとしても、点検を行っている間に事故が起きたらどうするのだ(※)。
※ もっとも現場の感覚では、例えば作業時間が9時からと定められている現場で、「9時から作業が開始され、まず TBM を行った後、現場監督が直ちに本肢の点検を行い、それが終わってから明り掘削の仕事を始めた」などという文章に違和感を抱く者はいないだろう。
安衛法の文章に慣れているものにとっては、問題文中の「明り掘削の作業」は、掘削そのものの作業だと理解されるだろうが、一般の現場責任者には、点検や TBM も含めて「明り掘削の作業」だと理解されるかもしれない。
そう理解すれば、本肢は違反ではないということになる。その意味では、(出題者が意図的にしたとは思わないが)やや受検者を迷わせる表現になっている。
【労働安全衛生規則】
(点検)
第358条 事業者は、明り掘削の作業を行なうときは、地山の崩壊又は土石の落下による労働者の危険を防止するため、次の措置を講じなければならない。
一 点検者を指名して、作業箇所及びその周辺の地山について、その日の作業を開始する前、大雨の後及び中震以上の地震の後、浮石及びき裂の有無及び状態並びに含水、湧水及び凍結の状態の変化を点検させること。
二 (略)
(5)違反とはならない。土石流危険河川において建設工事の作業を行うときは、安衛則第 575 条の9の規定により、作業場所から上流の河川及びその周辺の状況の調査を行わなければならない。しかし、臨時の作業(※)については、カッコ書きにより除外されている。
【労働安全衛生規則】
(調査及び記録)
第575条の9 事業者は、降雨、融雪又は地震に伴い土石流が発生するおそれのある河川(以下「土石流危険河川」という。)において建設工事の作業(臨時の作業を除く。以下同じ。)を行うときは、土石流による労働者の危険を防止するため、あらかじめ、作業場所から上流の河川及びその周辺の状況を調査し、その結果を記録しておかなければならない。
なお、コンサルタント試験の筆記試験においては気にする必要はないが、ここにいう臨時の作業とは「短時間の作業」とか「反復されない作業」を意味するものではない。本条の「臨時の作業」についての解釈は行政からは示されていないが、他の条文について以下のような解釈が示されている。
本条に関しては、その趣旨から考えれば、「事前に予測していなかった作業」をいうと考えるべきである。
通達番号 | 該当法令 | 解釈 |
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昭和 42 年3月 31 日基発第 442 号 | 鉛則第 32 条 (現第 39 条) |
本条ただし書の「臨時の作業」には、修理の業務があること |
昭和 42 年3月 31 日基発第 442号 | 鉛則第2条 (現第3条)第二号 |
「臨時に行なう業務」とは、当該事業において通常行なつている業務以外の業務であつて、一時的必要に応じて行なう鉛業務をいい、従つて、一般的には作業期間が短いといえるが、必ずしもそのような場合に限る趣旨でないこと |
昭和 46 年5月 24 日基発第 399 号 | 特化則第4条 (現第5条)第1項 |
「臨時の作業を行なう場合」とは、その事業において通常行なつている作業のほかに一時的必要に応じて行なう第二類物質に係る作業を行なう場合をいうこと。 したがつて、一般的には、作業時間が短時間の場合が少なくないが、必ずしもそのような場合のみに限られる趣旨ではないこと |
昭和 53 年 12 月 25 日基発第 707 号 | 有機則第8条 | 「臨時に有機溶剤業務を行う」とは、当該事業場において通常行つている本来の業務のほかに、一時的必要に応じて本来の業務以外の有機溶剤業務を行うことをいうこと。したがつて、一般的には、当該有機溶剤業務に要する時間は短時間であるといえるが、必ずしもそのような場合に限る趣旨ではないこと。 例えば、有機溶剤等を用いて作業場内の床面に通路であることを示す表示を当該事業場の労働者が行う場合は、一般的には「臨時に有機溶剤業務を行う」場合に該当すること。 |
昭和 54 年7月 26日基発第 382 号 | 粉じん則第7条第1項第一号 | 「臨時」とは、一期間をもつて終了し、くり返されない作業であつて、かつ、当該作業を行う期間が概ね三月を超えない場合をいうこと |