労働安全コンサルタント試験 2013年 産業安全一般 問10

錯覚




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 このページは、2013年の労働安全衛生コンサルタント試験の「産業安全一般」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2013年度(平成25年度) 問10 難易度 ほとんど出題されない分野の問題だが、一般によく知られている内容なので正答できる問題だろう。
錯覚

問10 錯覚に関する次の記述のうち誤っているものはどれか。

(1)錯覚には必ず視覚が関連している。

(2)静止したいくつかの光源が順番に点滅すると、一つの光源が動いているように感じる等の運動に関する錯覚がある。

(3)線分の両端にある矢印の矢尻(<)の付き方によって線分の長さが違って見える等の長さや大きさに関する錯覚がある。

(4)錯覚とは、実際に存在する刺激又は対象を実際と異なって知覚する現象であり、通常の状態において生じる知覚現象である。

(5)同じ重さのものでも、体積の大きいものが小さいものより重く感じる錯覚がある。

正答(1)

【解説】

(1)誤り。本問で「錯覚」という言葉に定義が示されていないが、一般に用いられる「錯覚」という言葉は「勘違い」を意味し、常に視覚が関連しているわけではない。

例えば、聴覚が関連している例として、「狭帯域音源に対しては、実際とは無関係な別の方向に音源が錯覚されることが知られている(※)。また、ある音源からの音が壁に反射して、音源とは異なる方向から作業者に届くと、作業者は実際の音源の方向とは異なった方向に音源があると錯覚することがあることは、日常よく経験することである。

※ 古川茂人「音を聴く仕組みを探る」(計測と制御 第43巻 第4号 2004年)

さらに「錯覚」という言葉の意味を広くとらえると、放射線医学総合研究所によれば、人の「自分は平均より優れている」と思う心の錯覚は、脳内のドーパミンと脳活動ネットワークの相互関係から生じるという。視覚が常に関連しているわけではない。

(2)正しい。本肢は仮現運動(apparent movement)と呼ばれる現象のことで、静止したいくつかの光源が順番に点滅すると、一つの光源が動いているように感じる。他にも様々な運動に関する錯覚がある。

(3)正しい。本肢の「線分の両端にある矢印の矢尻(<)の付き方によって線分の長さが違って見える」のは、ミュラー・リヤー錯視のことであろう(※)。なお、立命館大学の北岡教授が錯視に関するサイトの中で、ミュラー・リヤー錯視を紹介されている。また、同サイトには、大きさに関する錯覚なども紹介されている。関心のある方は参照されたい。

※ 島田一男「ミユラーリヤー錯視に關する文獻の整理」(心理學研究 第23卷 第2號 1952年)

(4)正しい。当然のことである。

(5)疑問がないわけではないが、誤っているとまでは言えない。ただ、一般には、本肢とはむしろ逆の錯覚があると考えられている(※1)。同じ重さのものでも、体積の小さいもののほうが、大きいものよりも重く感じられ、これはシャルパンティエの錯覚(Charpentier's illusion)(※2)として知られている。

※1 例えば、森岡周他「持ち上げ運動制御過程に影響を及ぼす物体の大きさ知覚とその内部モデル」(理学療法研究 第32巻 第6号 2005年)など

※2 井頭均「重さの知覚(その4):シャルパンティエ効果」(日本保育学会大会研究論文集 39 1986年)など

しかし、シャルパンティエ効果は経験によるものであり(※)、本肢のように感じる錯覚もあり得ないわけではない。表面が同じ材質でできた、内部が空洞になっている大きな物体と内部が詰まっている小さな物体があれば、大きい方が小さい方より重いと「錯誤」することもあるだろう。(1)が明らかに誤っているので、本肢は正しいとしておく。

※ 例えば、田中俊輔他「視覚情報の与え方の違いによる持ち上げ動作時の脳活動と体幹筋活動に関する研究」(理学療法科学 第28巻 6号 2013年)など

2021年01月24日執筆