労働安全コンサルタント試験 2013年 産業安全一般 問08

人体に関する外力刺激等




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合格

 このページは、2013年の労働安全衛生コンサルタント試験の「産業安全一般」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2013年度(平成25年度) 問08 難易度 ほとんど出題されない分野の問題であり、知識で解くことは困難だろう。捨て問と割り切ってよい。
人体に関する外力刺激等

問8 人体に関する外力刺激等に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。

(1)身体に対する直線加速度の影響は、前方向、後方向、上方向、下方向、左右方向等の方向によって異なる。

(2)頭部に対する衝撃の安全限界を定める大きな要因は、衝撃加速度とその継続時間である。

(3)痛覚刺激に対する単純反応時間は、冷覚刺激や温覚刺激に対するそれよりも短い。

(4)両耳で聞くときは、単耳で聞くときより音が大きく聞こえる。

(5)光源が視線の上下左右30度以内に入ると、作業者はまぶしさを感じる。

正答(3)

【解説】

(1)正しい。身体に対する直線加速度の影響は、戦闘機のパイロットなどの搭乗員が受ける加速度に関して、前方向(-Gx)、後方向(+Gx)、上方向(-Gz)、下方向(+Gz)、左方向(+Gy)、右方向(-Gy)についての影響が研究されている。

最も危険とされているのが下方向(+Gz)の加速度で、脳への血流が減少するためブラックアウトという現象が起き、この加速度が極端に大きいとジーロックと呼ばれる失神状態になることがある。逆に後ろ向きの加速度(+Gx)は人体への影響が小さいため、ロケット型の宇宙船の発射時にはパイロットを進行方向に向けて寝かせるようなスタイルにする。

衝撃を受けたときの頭部の耐性曲線

図をクリックすると拡大します

(2)正しい。JIS T 8133:2015「乗車用ヘルメット」は、衝撃吸収性の基準を「最大衝撃加速度」と「継続時間」によって示している。これは、衝撃を受けたときの頭部の耐性曲線WSTC(Wayne State Tolerance Curve)(※)が、頭部の耐性が衝撃加速度とその継続時間に依存するとしていることに基づいている。

※ Leanne Young、Gregory T.Rule、Robert T. Bocchieri、Timothy J. Walilko、Jennie M. Burns、Geoffrey Ling「When physics meets biology: low and high-velocity penetration, blunt impact, and blast injuries to the brain」(Frontiers in Neurology Vol.6:2015年)

ただ、常識で考えても、当たり前ではないかという気はする。頭部にパンチで衝撃を受ければ、その影響はパンチの衝撃の大きさと、パンチが当たっている時間によることは当然だろう。

(3)誤り。横溝他によると、痛覚の反応時間は0.4~1.0(秒)、冷覚は0.15(秒)、温覚は0.18(秒)とされている。これによると、痛覚刺激に対する単純反応時間は、冷覚刺激や温覚刺激に対するそれよりも長い。

※ 横溝克己、小松原明「エンジニアのための人間工学(改訂第5版)」(日本出版サービス:2013年)

もっとも、このことを知っていたからと言って、それがコンサルタントとしてどのような役に立つのか疑問なしとしない。コンサルタントの能力を試す試験として適切な問題なのだろうかという気はする。

(4)正しい。両耳で聞くときは片方の耳で聞くときよりも、物理的なラウドネス(音の大きさ)が3dB増加する。これは、心理的にも同様で、両耳に同じ大きさの音を聞かせると、3dB 大きく感じるという実験結果がある。

あまりにも当然のことなので、かえって迷うが、難聴者が補聴器を片耳にするより両耳にする方が、聞こえやすくなるだろうということは常識で分かる。もっとも、片方を恋人に渡したイヤホンで2人で聴くラブソングの方が、一人で寂しく両方のイヤホンを使って聴くバラードより、聴こえやすいなんてことはあるかもしれない。経験したことがないのでなんともいえないが・・・。

(5)正しい。一般に、視線の上下左右30度以内がグレアゾーンと言われ、この中に光源がに入ると作業者はまぶしさを感じる。なお、本肢については、コンサルタントとして必要な知識である。今後も出題の可能性があるので覚えておくこと。

2021年01月24日執筆