安全衛生コンサルタント事務所経営




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※ イメージ図(©videoAC)

労働安全衛生コンサルタント試験に合格した場合、現在の仕事をリタイアした後や副業として開業するケースは、今後、増えると思います。

労働安全衛生の化学物質管理の分野では、法令による管理から自律的な管理への脱却が求められています。これは、化学物質管理以外の労働安全衛生全般に広がってゆくものと思われます。このような中では、労働安全衛生に関する専門家への需要は着実に増加してゆくものと考えられます。

もちろん、資格を取っても、それだけで事務所の経営が成り立つわけではありません。何よりも必要なのは「営業力」です。

これからの労働安全衛生コンサルタントの経営に、どのような営業の方法が考えられるのかについてまとめてみました。




1 労働安全衛生分野の今後の需要動向

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(1)はじめに

口述試験のイメージ

※ イメージ図(©photoAC)

「開業する意志はありますか」というのは、労働安全衛生コンサルタント試験の口述試験の定番のといである。これに対して「あります」と断言するのが、これまた定番の回答である。

しかし、実際に具体的な開業を考えている受験生は少ないのが実際のところだろう。試験の性格から、受験者の多くは定職を持っており、収入の不確かな開業のリスクは簡単に負えるものではない(※)

※ 正直申し上げて、定職があるならいきなり開業することはお勧めしない。勤務先が副業を認めているなら副業から始めることが合理的であろう。

とは言え、すでに現役人生70歳の時代に突入しており、また働き方改革でも副業を推奨している。リタイア後や、現役時代に副業として開業する方は、今後、ますます増えてゆくだろう。

本稿では、実際に、コンサルタントとして開業した場合に、どのような営業方法があるかについての助言をまとめている。


(2)安全衛生分野での経営は十分に成り立っている

よく、訳知り顔で「労働安全衛生コンサルタントだけで経営が成り立っている事務所はほとんどない」などという人がいる。だが、これは正しくない。現実に経営が成り立っている事務所もかなり存在しているのである。

なぜ、「経営が成り立たない」と言われるかといえば、これまでのコンサルタントは、リタイア後に年金を受けながら事務所の経営をしていたり、医師、技術士、社労士などの他の資格を有する方が本業を補完するものとして位置づけていたりするケースが多いためである。

コンサルタントを収入の主力としていないために、逆に、営業に熱心にならず、必然的に収入が少なくなっているのである。

労働安全衛生コンサルティングを営業の主力に置いているコンサルタント事務所の方とお話しすると、安全衛生分野は事業として十分に成り立つと考えていることが多いのである。


(3)自律的管理の方向では、専門家の知識が求められる

化学物質管理の分野では、現在、関係法令が改正され「法規制による管理」から「自律的な管理」への転換が求められている。自律的な管理においては、事業者は法令に従っていればよいということにはならない。自ら考えて行動することへの転換が求められるのである。

自律的な管理で求められるもの

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そのためには、化学物質の管理について専門的な知識が強く必要とされるのである。


イ リスクアセスメントと情報の伝達の制度

また、近年、労働安全衛生の分野では、リスクアセスメントの実施や、機械や化学物質の危険有害性情報の伝達が求められるようになっている。これらに、法令の知識だけでなく、労働安全衛生に関する専門的な知識が重要となることはいうまでもない。

そして、これらは、いずれも化学物質管理の分野から始まって、労働安全衛生の他の分野に広まったものである。

自律的な管理も、今後、安全衛生の他の分野に波及してゆくことは、当然に予測されることである。

すなわち、労働安全衛生の分野において、コンサルタントが有する専門的な知識が求められる機会は、今後ますます増加してゆくと考えられるのである。


2 コンサルタント業の経営の基本的な姿

(1)資格は経営が成り立つための十分条件ではない

残念ながら、労働安全衛生コンサルタントの資格は、資格を取ってWEBサイトを公開すれば顧客が自動的に集まるというような業種ではない(※)

※ しかし、これは他の多くの資格=司法書士、社労士、行政書士などでも同じことである。資格を取りさえすれば営業が成り立つのは、弁護士、医師、公認会計士などごく一部の資格だけである。しかも、最近では弁護士も資格を取っただけでは簡単には経営が成り立たなくなってきた。

資格の取得は最低の要件で、求められるのは「営業力」なのである。個人事務所の経営では、何よりも、営業力がものをいうのだ。

営業というと、飛び込み営業やカネをかけた広告を思い浮かべるかもしれない。それも悪いとは言わないが、はっきり言って、コンサルタント業の場合、ほとんど効果はない(※)

※ というより、コンサルタントのみならず開業したばかりの個人事務所がやみくもに飛び込み営業を行ったり、新聞への折り込み広告を入れても効果はないのである。

営業を行うには、業界特有の方法とノウハウがあるのだ。


(2)営業に必要なのは、最初は人脈

事務所紹介のイメージ

※ イメージ図(©photoAC)

労働安全衛生コンサルタントを含む個人事務所では、最初は人脈を活かした営業を行うのが現実的である。その中で、実績を積んで信用されると、「お客様が他のお客様を招待する」状況になっていく。これが、成功している多くのコンサルタントが経た道である。

もちろん、前職で大手企業の安全衛生担当者などの実績があったり、労働基準監督署長や都道府県労働局長を経験していれば、それを前面に押し出すことで信用も得られやすいだろう。

その意味では、前職でも「仕事ができる人材」という評価を社内外の関係者から得ておくことは重要である(※)

※ だからといって前職の勤務中に、前職の企業の顧客に対して、売り込みを図ったり、便宜を図ったりすることは、状況によっては背任罪になりかねない。また、公務員の場合は公務員法違反になる。

あくまでも、前職の職務をきちんと果たして、そのことで評価を得ておく必要があるということである。

また、社労士や行政書士など他の資格もできればとっておいた方がよい。また、安全コンサルタントの場合、技術士や建築士の資格があるケースが多いので、それらの資格があればそれも前面に押し出せるだろう。

コンサルタントの営業の基本は、自らの専門知識と高い評価なのであり、それを武器にまずは評価を得ている企業に売り込みを図るということである。


(3)具体的な営業の方法は

ア 様々な機会を利用しよう

どれほど人気のあるコンサルタント事務所でも、事務所を開設した後の一定期間は、暇で何もすることがないという時間があるものである。

そういう時間は、営業に使うべきであろう。まずは、地元の商工会議所などの事業者団体や、都道府県労働基準協会(連合会の場合は支部)などの会員になって、様々な会合にはできるだけ顔を出すようにする。大学や高校の OB 会などにも可能な範囲でこまめに顔を出す必要がある。

名刺交換する女性

※ イメージ図(©photoAC)

業界団体などでも、労働安全衛生コンサルタントが加入しているケースは多くないので、名刺を配れば覚えておいてもらえることもある。

団体の定時総会後の立食パーティなどでも、飛び込み営業と違って、話しかけてもけんもほろろというケースはほとんどない。世間話の合間にでもそれとなく仕事の話をすればよい。

また、都道府県労働基準協会と労働基準監督署には、必ず、顔を出しておくこと。都道府県労働基準協会では、特別教育の講師など、得意分野や自分の経歴などを話しておけば、仕事が回ってくることもある。

なお、ホームページも必ず作成する必要がある。今は WordPress という、素人でも一定レベルのサイトが簡単に作れるシステムがある。なお、ホームページの策定については、別稿の「安全衛生コンサルタントのWEB活用法」を参照して欲しい。


イ 開業するなら業界団体にも入会しておく

日本労働安全衛生コンサルタント会にも加入しておいた方がよい。コンサルタント会は仕事を紹介するための機関ではないが、行政から委託事業を受けている場合などに仕事を割り振ってくれるケースもある。

また、地元の企業がコンサルタントに仕事を依頼するときや、労働基準監督署が地元企業にコンサルタントを紹介するときは、コンサルタント会の都道府県支部を通すことがある。

さらに、支部が WEB サイトを保有していれば、そこでコンサルタントの紹介をしており、そこから仕事の依頼が来るケースもある。

もちろん、コンサルタントとして大成するためには、いずれそのような依頼から卒業する必要があることはいうまでもない。しかし、最初はそれほどコスパの良い仕事ではなかったとしても、これらの仕事を積み重ねてゆくことで顧客獲得の方法も開拓できてゆくのである。


3 最後に

(1)最大の営業は信頼されるよい仕事をすること

結局、労働安全衛生コンサルタントは自由業である。自由業である以上、「良い」お客様とつながる必要がある。よいお客様とは、安全衛生に前向きで、かつ、専門家のコンサルティングを受けるためにコストをかける必要があると分かっているお客様である。そのような良いお客様から、このコンサルタントにはカネを払う価値があると納得して頂くのが真の営業なのである。

説明する女性

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一般のお客様が望むからといって、不正なことや安全のサボタージュの方法を教えるようなことはあってはならない。良いお客様と出会い、安全にコストをかけることが必要だということを納得して頂き、かつこのコンサルタントにはそのための十分な能力があるということを実績で認めて頂くことが必要なのである。

これができてこそ、「お客様がお客様を呼ぶ」ことになるのである。ここを忘れてはいけない。事業者に対して「法律に書いてあるからやれ」(※)というだけではそうはならないのである。

※ 一般のお客様の場合、ときにはそういうことが必要な場合もある。

コンサルタント試験の口述試験を受けた方は、多くの場合、試験官から「事業者が、コストがかかりすぎるから安全対策をとれないといったらどう説得するか」と聞かれたはずである。実は、これこそがコンサルタントとして、役に立つかどうかの境界なのである。

私はこう答えた。

【口述試験】<費用が高すぎると安全対策を渋る事業者への対応>への回答

  • 相手にもよると思いますが、最初は次のように「安全はペイする」という観点から説得したいと思います。
  • 安全な職場は働きやすい職場であり、生産性も上がります。危険な職場では、生産性は下がってしまいます。
  • また、安全にコストを掛けるところを見れば、労働者は自分たちが大切にされているとわかって、モラールが向上します。
  • 危険な職場では、労働者の不満も高まり、SNSなどで不満が書かれれば、よい人物は集まらなくなります。
  • さらに、死傷災害が起きれば、労働者やその家族に重大な被害をもたらすことになります。そうなれば、不満が高まってモラールが地に落ちることもあります。
  • そして、それでも納得して頂けなければ、災害が発生した場合のことも言ってみようと思います。
  • 実際に災害が起きて、安衛法違反や過失があれば、安衛法違反や業務上過失致死傷罪に問われることもあります。
  • また、民事賠償請求で億単位の損害賠償をさせられることもあります。安全にコストを掛けて潰れた会社はありませんが、民事賠償請求で会社が倒産した事例もあります。
  • さらに建設業では、行政罰として入札から外されることもあり、経営に重大な影響を受けることもあります。
  • 死傷災害が起きたというWEBでの報道や、SNS等で記事がいつまでも残れば、優秀な人材の採用や、大手企業との新しい継続的な取引が困難になることも考えられます。

実際には、そう簡単に説得できるものではないだろうし、とりわけ法規制のない安全対策を中小規模事業場に対して納得させることは難しいと思う。

ただ、それができるように様々な判例を学習したり、事故事例を学習することも重要になってくるだろう。それができなければ、本当の信頼を勝ち取って、「お客様がお客様を呼ぶ」状況にはなれないのである。


(2)新しい知識の習得は最重要事項

労働安全衛生コンサルタントという専門家に必要な知識は「労働安全衛生法令・告示・通達」の知識(だけ)ではない。必要なのは、「労働安全衛生」の知識なのである。

そして、労働安全衛生の知識も、他の多くの専門分野と同じように日進月歩で変化してゆく。一度、試験に合格したからといって、いつまでも労働安全衛生の知識が十分なままのはずはないのである。

とりわけ、ここ数年の化学物質管理に必要な知識は大きく変化している。例えば、化学物質関連の保護手袋をどのように選定して、どう破棄するのかについての知識がなければ、経皮吸収の恐れのある物質や皮膚腐食性のある物質を扱う事業場での指導はできない。

そんなところで、「保護手袋を着用させてください」とだけ指導しているようでは、専門家としては失格なのである。その事業場で使用している化学物質について、どういう種類・材質の手袋を用いて、どう管理し、どのタイミングで交換するのかまで指導しなければならない。

これは、労働安全衛生コンサルタントという、人の健康・生命にかかわることを、お金を頂いてコンサルティングをするという職務を行う以上、当然にできなければならないことなのである。


(3)最後に

接待を受ける女性

※ イメージ図(©photoAC)

ある司法書士の方がこう言っていた。「接待する専門家より、接待される専門家になれ」

言葉を換えれば、専門知識以外のこと(接待)でお客を引き留めるのではなく、専門知識によって事業者から接待してでも付き合いたいと思われるようになれということであろう。

顧客から接待されるようになれば一人前である(※)

※ ただし、やり過ぎれば安衛法第86条第1項に抵触しかねない。また、公務員だったコンサルタントは退職後しばらくは控えた方がよい。節度は必要である。

コンサルタント業の経営を行うには、何よりも営業と最新の専門知識の2つが重要になる。そして、この2つは密接に関係している。

それまで、公務員だったり、企業の労務管理や安全衛生担当だった個人には、最新知識を得ることはできても営業活動は難しい面はあろう。しかし、労働安全衛生の分野では専門知識を有する専門家への潜在的な需要はますます大きくなってゆく。

とは言え、潜在的な需要は営業で掘り起こさなければ、現実の収益には結びつかない。営業は不得意などとは言っていられないのである。

ぜひ、労働安全衛生コンサルタントの業界が、適正な営業活動によって健全に発展して頂きたいと思う。


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