※ イメージ図(©photoAC)
労働衛生に関する最新の統計データをグラフにして掲示しています。
労働衛生コンサルタント試験を受験する上でも、だいたいの傾向を覚えておくべきものです。試験までに記憶しておくようにしましょう。
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最新の労働衛生の統計情報
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1 職業性疾病の発生状況
(1)疾病別職業性疾病の発生状況
業務上疾病発生状況等調査による職業性疾病の発生件数の推移は次図のようになっている。
2020年以降、「病原体に起因」が急増しているが、これはいうまでもなく新型コロナウイルスへの罹患によるものである。これではグラフが見にくいので、「新型コロナウイルスによるもの」を除くと、次のようになる(※)。
職業性疾病の発生件数は長期的には減少傾向にあったものの、2016年以降は増加に転じている。なお、2019年まで「病原体に起因するもの」は100~250件程度で推移している。
2022年は、7,081件が負傷に起因する疾病であり、その内の5,959件が災害性の腰痛である。これらは2013年以降増加傾向にある。この図の赤い折れ線グラフは、職業性疾病全体に占める災害性腰痛の割合を示してい。災害性腰痛の割合は、約6割で推移しており2004年から2022年まではわずかな増加傾向がみられる。(※)。
※ 現実には、2020年以降、新型コロナによる「病原体に起因」が急増したため腰痛の割合が減少した。
また、異常温度環境による疾病は、全体の割合は低いものの長期スパンでは増加傾向にあり、2018年には熱中症が急増して1,200件程度発生している。
なお、この数値は労働者死傷病報告とじん肺管理区分決定の2つのデータによっているため、化学物質による慢性疾病の他、脳・心臓疾患や精神障害の一部が含まれていないことに留意が必要である。
(2)業種別職業性疾病の発生状況
次に、業務上疾病発生状況等調査による業種別の業務上疾病の発生件数の推移を示す。
ここで「その他の業種」が2020以降に急増しているが、これも「保健衛生業(社会福祉施設及び医療保健業)」で新型コロナウイルスに罹患したものが急増しているからである。これではグラフが分かりにくいので「その他の業種」を除いてみると、次図のようになる(※)。
※ 厚生労働省は業種別の長期スパンの統計では、新型コロナウイルスに罹患したものを除いた統計を公表していない。短期のスパンでは公表されているので、それについては後述する。
2020年以降は、各業種とも新型コロナウいる市に罹患したものが急増しているが、それを除くと、かつては「製造業(金属工業)」、「鉱業」、「建設業」等で多数の業務上疾病が発生していたが、近年ではこれらの業種の災害発生数は改善され、その他の業種において増加している。なお、その他の業種において増加しているのは、上で見た腰痛等である。
しかし、業務上疾病の発生件数は、その業種の労働者数によるところも大きい。そこで職業性疾病年千人率の長期の推移(上左図)でみると、鉱業が極めて高く、次いで貨物取扱業となっている。
鉱業の業務上疾病の多くはじん肺及びその合併症であり、貨物取扱用では災害性の腰痛がきわめて多い。なお、鉱業を除いた短期のグラフを上右図に示す。
さて、2004年(平成16年)以降については、詳細な業種別の業務上疾病の発生件数が公表されているので、次図に示す。
とはいえ、これも新型コロナウイルスによるものが2020年以降急増しており、あまりにも分かりにくいのでここでも新型ウイルスによるものを除いたグラフを次に示す。
この図によると、「商業・金融・広告業」及び「保健衛生業」が長期にわたって増加しているが、業界全体の雇用者数の増加と高齢化に伴って、腰痛等が増加しているためである。
なお、「保健衛生業」は新型コロナウイルスによるものを除いても、長期には増加傾向にあることが分かる。
(3)職業性疾病ごとの業種別職業性疾病の発生状況
ア 負傷に起因する疾病
前節で見たように、近年の職業性疾病の多くを占めるのが負傷に起因する疾病である。この負傷に起因する職業性疾病の業種別災害発生状況をみると、次図のようになっている
負傷に起因する職業性疾病の業種別災害発生状況をみると、保健衛生業の発生割合が高く、ほぼ一貫して増加していることが分かる。製造業、建設業等はわずかではあるが、この期間中に減少傾向がみられる。
また、次図は、負傷に起因する疾病のうち、災害性の腰痛を抽出したものであるが、災害性腰痛についても同様な傾向がある。
イ 異常温度環境に起因する疾病
(ア)異常温度環境に起因する疾病全般
また、異常温度環境による職業性疾病が、2004年以降の期間で急速に増加する傾向がみられている。
(イ)熱中症の発生状況
厚生労働省では、2005年以降のみであるが、業務上疾病発生状況等調査などの正規の統計情報とは別に、熱中症の発生状況を業種別等に公表している。
これを見ると、休業4日以上の死傷災害はこの間に大きく増加している。これは気候変動による気温の上昇が一因となっているとみられ、とくに2018年以降は熱中症が多発している状況にある。
※ 2011以降は福島第一原発の事故収束作業員のものが含まれている可能性がある。辻他によると、福島労働局が把握した福島原発事故収束作業員の2011年3月22日から9月16日までに発生した熱中症事案は43例となっている。また、経済産業省のサイトにある「東京電力ホールディングス(株)の2019年11月付けの資料」によると、福島第一原発関連の2011年~2019年の熱中症の発生件数は89件であるとされている。しかし、この数には不休災害や休業3日内の災害が含まれている可能性がある。なお、厚生労働省によると、2011年~2019年の福島県全体の熱中症による死亡災害は5件(全国189件)である。
また、2010年(平成22年)以降は、業種別の発生件数が公表されているので、次図に示す。
これによると、建設業、製造業、運送業、警備業などの割合が高いことが分かる。2019年には製造業が建設業を抜いている。2018年は、ほとんどすべての業種で増加しているが、警備業、商業等の増加が目立っている。また、2018年以降は清掃・と畜業も増加している。
また、厚生労働省は、熱中症の死亡災害の業種別発生状況も併せて公表している。
これによると、死亡災害では建設業の割合が高くなっている。また、製造業及び警備業もかなりの割合を占めている。警備業については、労働者の高齢化が、熱中症の重症化に影響を及ぼしているものと思われる。
厚生労働省は年齢階層別の熱中症の被災状況を公表している。
これをみれば分かるように、50 歳以上の災害がここ6年で 2,678 件と全体(5,460件)の 49.0 %と半数近いのである。また、65 歳以上だけをとっても、この6年間の合計で825件と全体の 15 %強となっている。熱中症対策は高齢者の発生件数が多いことがここからも分かる。
次に死亡災害についても年齢構成別の推移を見てみよう。
死亡災害は件数の絶対値が少ないが、ここ6年間の合計を見ると 50 歳以上が 84 件と全体(156件)の 53.8 %と半数を超え、65 歳以上で 29 件と 18.6 %を占めているのである。
また、参考までに月別の休業4日以上死傷災害と死亡災害の発生状況を示しておく。
8月と7月の発生が熱中症災害のほとんどを占めている。これをみると、8月と比して意外に7月の発生件数が多いことが分かる。これは、7月は熱さに慣れていない状況(暑熱非順化)で高温にさらされるためである。
なお、業務上疾病発生状況等調査でも、2014年(平成26年)以降は熱中症についても公表している。こちらの業種分類は他の疾病分類と合わせてあるため、必ずしも熱中症の多い順とはなっていないが、参考までに示しておく。
ウ 作業態様による疾病(手指前腕の障害及び頸肩腕症候群)
古典的な職業性疾病である作業態様による疾病(手指前腕の障害及び頸肩腕症候群)もまた、減少傾向がみられていない。
業種としては製造業が多い。商業・金融・広告業は、レジ作業によるものであろうが、減少傾向はみられない。保健衛生業は、配膳業務が大きな要因であるが、医療機関では注射器など指を扱う業務が多く、業種そのものの急成長もあり、増加傾向がみられている。
2 脳・心臓疾患/精神障害の労災補償状況等
(1)いわゆる過労死の労災補償状況
脳・心臓疾患による認定件数(※)は2007年をピークに長期的には減少傾向にある。しかし、2022年以降は2年連続で増加した。また、今なお200名以上の方が発症し、100名近い方が死亡していることは重大な問題であろう。
※ 必ずしも疾病の発症や死亡時に申請されるとは限らず、また申請された年に認定されたとも限らない。従って、発症等の年は、認定の年よりもかなり早い可能性がある。
なお、審査請求事案の取消決定等による支給決定件数はこのグラフには含まれていない。
労働災害全体の死亡災害は1,000件を下回っていることを考えると、この数値は決して無視できるものではない。
(2)精神障害とそれによる自殺の労災補償状況
精神障害等による認定件数(※)は2012年まで、ほぼ一貫して増加している。その後は 2019年 まで高止まりの傾向にあったが 2020 年以降は再び増加に転じている。
※ 必ずしも疾病の発症や死亡時に申請されるとは限らず、また申請された年に認定されたとも限らないのは脳・心臓疾患と同様である。
なお、審査請求事案の取消決定等による支給決定件数が毎年 20 件前後あるが、このグラフには含まれていない。
なお、請求件数は2012年以降も一貫して増加傾向にある。過労自殺に関する国民の理解が深まる中で請求件数が増加し、その一方で認定率が減少している傾向が読み取れる。
(3)脳・心臓疾患及び精神障害のうち裁量労働制対象者に係る労災補償状況
2022年に2021年までの「脳・心臓疾患及び精神障害のうち裁量労働制対象者に係る労災補償状況」が公表された。それも合わせて示しておく。
(4)労働者等の自殺者数の推移
自殺者数は2010年以降は減少傾向にあったが2022年は28,355名(2021年:20,840名)と急増している。なお、警察庁が統計の職業別分類を2022年に変更したため、2022年と2021年で統計の連続性が失われている。また、ここ数年は、労働者以外に比して、労働者の増加が目立っている。
精神障害への対策の必要性は、決して低くなってはいないのである。
2020年の自殺者数の増加は、コロナ禍の影響の可能性があるといわれている。男性の自殺者数がわずかではあるが減少している中で女性の増加率が目立っている。また、年齢階層別では若年者の増加が目立つ。
また、職業別にみると、学生・生徒等の増加が大きいが、被雇用者・勤め人の増加も目立っている。
(5)ストレスとなっていると感じる事柄がある労働者の割合
厚生労働省の「労働安全衛生調査(実態調査)」は、毎年ではないが「現在の仕事や職業生活に関することで、強い不安やストレスとなっていると感じる事柄がある労働者の割合」を調査している。
これによると、「強い不安やストレスとなっていると感じる事柄がある労働者の割合」は、2021年まではほぼ50%強で、2人に1人以上の労働者がストレスを感じていた。
2022年には急増して 80 %を超え、ほぼ5人に4人がストレスを感じているという状況になっている。
3 化学物質/酸素欠乏等/粉じん等による労働災害発生状況
(1)化学物質による労働災害発生状況
イ 労働者死傷病報告による災害発生状況
労働者死傷病報告による化学物質による労働災害発生件数を示す。
長期的には徐々にではあるが着々と減少している。しかし、今なお、毎年、300件を超える労働災害が発生している状況にある。
なお、本図をみても分かるように、化学物質による労働災害の発生状況では、危険性によるものよりも有害性によるものが多いことに留意しておく必要がある。
また、災害の型が「有害物等との接触」(※)である労働災害発生件数を業種別の推移は次図のようになっている。
※ ここにいう「有害物等との接触」には、放射線による被ばく、有害光線による障害、CO中毒、酸素欠乏症ならびに高気圧、低気圧等有害環境下にばく露された場合を含む。
災害の型が「有害物等との接触」(※)である労働災害発生件数を業種別の推移は上図のようになっている。製造業が圧倒的に多く、かつては半数近くになったこともあるが、近年では横ばいで推移している。
建設業もかなりの件数が発生しているが、換気の悪い場所での内燃機関による一酸化炭素中毒や塗装時の有機溶剤中毒が多いのではないかと思われる。その他、保健衛生業、接客娯楽業、清掃・と畜業でもかなりの数が発生している。
イ 業務上疾病発生状況調査による業務上疾病者数
業務上疾病発生状況調査による化学物質による疾病者の数は、200名台でここ数年は減少傾向がみられず、労働者死傷病報告によると、毎年、数名の方が亡くなっている。なお、このグラフの死亡者数には、慢性疾病による死者数は含まれていない。
内訳は公表されていないが、おそらく、一酸化炭素中毒がかなりの割合を占めているのではないかと思われる。
これを業務上疾病発生状況調査でみたのが次図である。同調査では、2004年以降は製造業以外の業種の詳細が公表されている。
これを見ると、建設業、商業・金融・広告業、接客娯楽業が目立つが、換気が不十分なところでの内燃機関や調理器の使用等による一酸化炭素中毒がかなりの割合を占めているものと考えられる。
(2)化学物質による慢性障害の発生状況
化学物質の慢性障害の発生状況は、各年の統計は公表されていない。2013年の報告書に記されたものがあるので、参考に掲示しておく。
このときまで、毎年70~80件の被災者がおられた。
(3)石綿による疾病別労災補償状況
石綿による疾病別労災補償状況(支給決定件数)の推移を示す。なお、これ以前の数値は公表されていない。
2005年のクボタショックで2006年に労災認定件数が急増したが、その後は極端な変化は見られない。
(4)酸素欠乏症及び硫化水素中毒
次に、酸素欠乏症及び自然発生した硫化水素中毒による休業4日以上の死傷災害の発生件数を示す。被災者数は数十件程度であるが、死者の割合がきわめて高いという特徴がある。
なお、労働災害統計では一つの事件で複数の労働者が発生した場合、災害発生件数は被災者の数で表している。しかしながら、酸欠・硫化水素中毒では、災害発生件数として事故の数を表すという特徴がある。
これらのグラフを見れば分かるように、災害発生件数よりも被災者の方がかなり多くなっている。酸素欠乏症や硫化水素中毒は、ひとつの事故で複数の労働者が被災する例が多いのである。
(5)じん肺による労働災害発生状況
イ じん肺管理区分の決定状況
じん肺健康診断における有所見者数(管理2以上の者)及び有所見率ともに、近年では急速に改善されており、2014年度以降は有所見率は1%以下となっている。
また、次図にじん肺健康診断における新規の有所見者数を示す。
なお、2018年度の数値は、管理2:1,161名、管理3:195名、管理4:10名となっており、合併症罹患者数は3名である。
じん肺では、労災補償の対象となるのは、管理4及び合併症り患者であるが、この数も長期的には減少傾向にあり、近年では20名を下回っている状況にある。
ロ 業務上疾病発生状況調査によるじん肺及び合併症数
業務上疾病発生状況調査による業種別に見たじん肺及び合併症の職業性疾病者数は、ほとんどすべての業種で大きく減少している。かつての建設業、鉱業の割合は大きく減少し、相対的に製造業の割合が増加している。
かつて「溶接工肺」という用語は、アーク溶接によるじん肺は比較的重篤化しないという意味で用いられていたが、製造業のじん肺の原因にはアーク溶接によるものが、かなりの割合を占めるものと思われる。
4 定期健康診断の有所見率の推移
(1)一般の定期健康診断の有所見率の推移
一般の定期健康診断の有所見率は、一貫して増加している。なお、1999年に血糖検査の項目が追加されており、また有所見と判断する基準も変化しているので、単純にこのグラフから労働者の健康状態の推移を評価することはできない。
しかしながら、血中脂質、肝機能、血圧などの生活習慣病に関する項目が増加していることは、我が国の発展にとってきわめて深刻な状況であるといえ、予防医学の重要性がきわめて大きいことを示していると言えよう。
(2)特殊健康診断(定期)の実施状況及び有所見率の推移
最後に、特殊健康診断(定期)の実施状況をお示しする。なお、有機溶剤、鉛健康診断は平成元年10月より項目等が変更されており、1995年のデータは公表値を修正している。単純にこのグラフから有所見率の推移を評価することはできないことは一般の定期健康診断と同じである。
この図から分かるように、有所見率は5%程度で推移している。なお、この所見は、有害な作業による健康影響とただちに結論できるものではない。