労働衛生コンサルタント試験 健康管理 2022年 問3

メンタルヘルス対策




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※ イメージ図(©photoAC)

 このページは、2022年の労働安全衛生コンサルタント試験の「健康管理(記述式)」問題の解説と解答例を示しています。

 各小問をクリックすると解説と解答例が表示されます。もう一度クリックするか「閉じる」ボタンで閉じることができます。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行いました。

 他の問題の解説をご覧になる場合は、「下表の左欄」、グローバルナビの「安全衛生試験の支援」又は「パンくずリスト」をご利用ください。

 柳川に著作権があることにご留意ください。

2022年度(令和4年度) 問 3 メンタルヘルス対策の基本的な内容を問うもの。問1及び2が難問だった分をここで取り戻したいところ。
メンタルヘルス対策
2022年11月08日執筆 2022年11月10日一部修正

問3 近年、職場環境が大きく変化しているなかで、仕事や職場に起因する悩みや強いストレスに対処するための労働者のメンタルヘルス対策が重要となっている。それに関し、以下の設問に答えよ。

  • (1)メンタルヘルス不調を予防するために「一次予防」、「二次予防」、「三次予防」がある。これらは何を目的とした取組であるか、それぞれについておおむね20 ~ 40 字程度で述べよ。

    • 【解説】

      職場のメンタルヘルス対策の体系
      ※ 柳川行雄「事業場における心の健康づくりのための事業場外資源の活用について」(産業精神保健2007年)
      図をクリックすると拡大します
      メンタルヘルス対策の「一次予防」、「二次予防」及び「三次予防」の目的の詳細については、当サイトの「メンタルヘルス対策の目的と手法」に詳しく述べているので参考にして欲しい。
      その他、職場のあんぜんサイトの「安全衛生キーワード メンタルヘルス対策」にも端的な説明がある。
      本来、職場のメンタルヘルス対策には、ヘルス・プロモーション(積極的な健康の保持増進)及びヘルス・プロテクション(仕事を原因とする健康悪化の防止)があり、これは「一次予防」、「二次予防」及び「三次予防」のすべてに当てはまり、目的は全く異なるのだが、現実には、ここがかなり混乱しているのが実態である。
      健康の保持増進について、「一次予防」、「二次予防」及び「三次予防」の目的を一言で言えば、次のようになる。
      ● ヘルスプロモーション
      〇 一次予防:健康増進(ポピュレーションアプローチ)
      〇 二次予防:個々の労働者の健康不全の早期発見、早期対処(ハイリスクアプローチ)
      〇 三次予防:再発・再燃の防止(職場復帰支援・治療への支援と職業との両立)
      ● ヘルスプロテクション
      〇 一次予防:健康保護(職場の問題の解決・解消)
      〇 二次予防:職場の問題の早期発見、早期対処
      〇 三次予防:再発・再燃の防止(職場復帰支援・仕事を原因とする再発の防止)
      それぞれについて、概ね30文字程度というのであるから、かなり短いが、解答例を参考に各自で問題文を作成して欲しい。なお、文字数の制限は、あまり深刻に考える必要はない。
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    • 【解答例】
      〇 一次予防
      職場労働者全体の健康の保持増進とともに、職場の問題点の解消を図る。(31文字)
      〇 二次予防
      個々の労働者の心の健康問題の早期発見・早期対処を図る。(27文字)
      〇 三次予防
      心の健康問題を抱える労働者の再発・再燃・増悪の防止を図る。治療への支援や人事上の配慮を含む。(46文字)
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  • (2)メンタルヘルス不調を招くものとして、近年特に注目されている職場の問題にはどのようなものがあるか(ハラスメントは除く。)。「業務負荷」、「人間関係」、「労務管理」のそれぞれに関して具体的事例を挙げよ。

    • 【解説】
      本問の「具体的事例」が、現に職場を原因として心の健康問題となった具体的な個別事例(電通事件のような)を挙げよというのか、「労働時間」「人事異動」「昇進」などの具体的な項目を挙げよというのか、やや不明瞭である。常識的には、後者であると考えられるが、前者の可能性もあるので、具体的な事例を挙げておく方がよいかもしれない。
      また、「近年特に注目されている」とあるのが、産業衛生学会や職場の衛生担当者の間で、具体的に話題になっているものという趣旨なのか、それほどの強い意味はないのかもややあいまいである。「近年特に問題になっているもの」という部分が、本問の重要な要素だとすれば、あえて上げるとすれば、次のようなものが考えられるだろうか。
      ● 業務負荷:働き方改革(労働時間)、兼業・副業、長時間労働などの過重労働
      ● 人間関係:新型うつ、(大人の)発達障害(※)
      ● 労務管理:在宅勤務
      ※ 「ハラスメントは除く」というのであるから、「人間関係」についての記述では注意が必要である。
      しかし、これらが「近年特に注目されている」かとなると、やや疑問も感じられる。ここ数年の産業精神保健学会や産業衛生学会の産業精神衛生研究会などの発表の項目を見ても、これらを解答するのはややリスクが高いかもしれない。
      むしろ、問題文中の「近年特に注目されている」とあるのをそれほど重視しないのであれば、労働衛生コンサルタント試験は、厚生労働省が実施するものであるから、国の基準に従って解答するべきである。平成23年12月26日基発1226第1号(最終改正:令和2年8月21日基発0821第4号)「心理的負荷による精神障害の認定基準について」の最後にある表(具体的出来事)に従って解答する方が、リスクは少ないかもしれない。
      「業務負荷」は、具体的出来事の「③仕事の量・質」の中から、「人間関係」は「⑥対人関係」から、「労務管理」は具体的な記述はないが解答例のようなものが考えられよう。
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    • 【解答例】
      【解答例1】
      〇 業務負荷
      仕事の量の大きな変化(増加及び減少)、1か月に80時間以上の時間外労働、2週間以上にわたる連続勤務、業務量の減少を伴わない人員(定員)の減少
      〇 人間関係
      上司・同僚・部下とのトラブル、理解してくれていた人の異動など
      〇 労務管理
      勤務内容・責任・権限が不明瞭、勤務の推進に裁量性がない、勤務に対しての支援がない、退職強要、望まない転筋など
      【解答例2】
      〇 業務負荷
      働き方改革(労働時間)、兼業・副業と長時間労働などの過重労働
      〇 人間関係
      新型うつ、発達障害などと職場の人間関係
      〇 労務管理
      在宅勤務が心の健康問題に与える影響
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  • (3)メンタルヘルス不調の原因となる行為にハラスメント(いじめ・嫌がらせ)がある。職場のパワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、マタニティハラスメントはそれぞれどのようなものであるか簡潔に述べよ。

    • 【解説】
      厚生労働省のWEBサイト「あかるい職場応援団」の「ハラスメントの定義」によれば、職場のパワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、マタニティハラスメントはそれぞれ次のように定義されている。
      職場のパワーハラスメントとは
      職場のパワーハラスメントとは、職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの3つの要素を全て満たすものをいいます。
      なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。
      ※ 厚生労働省「ハラスメントの定義」(太字、下線強調は原文)
      職場のセクシュアルハラスメントとは
      「職場」において行われる「労働者」の意に反する「性的な言動」により、労働者が労働条件について不利益を受けたり、就業環境が害されることをいいます。
      ※ 厚生労働省「ハラスメントの定義」(太字、下線強調は原文)
      職場の妊娠・出産・育児休業等ハラスメントとは
      「職場」1において行われる上司・同僚からの言動(妊娠・出産したこと、育児休業、介護休業等の利用に関する言動)により、妊娠・出産した「女性労働者」※2や育児休業・介護休業等を申出・取得した「男女労働者」2の就業環境が害されることをいいます。
      これらは、マタニティハラスメント(マタハラ)、パタニティハラスメント(パタハラ)、ケアハラスメント(ケアハラ)と言われることもあります。
      「職場」とは
      労働者が通常働いているところはもちろんのこと、出張先や実質的に職務の延長と考えられるような宴会なども職場に該当します。
      職場の妊娠・出産・育児休業等ハラスメントとは
      正社員だけではなく、契約社員、パートタイム労働者など、契約期間や労働時間にかかわらず、事業主が雇用するすべての労働者です。
      また、派遣労働者については、派遣労働者のみならず、派遣先労働者のみならず、派遣先事業主も、自ら雇用する労働者と同様に取り扱う必要があります。
      ※ 厚生労働省「ハラスメントの定義
      なお、参考までにいわゆるパワハラ防止法(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)第32条第1項を示しておく。
      【労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律】
      (雇用管理上の措置等)
      第30条の2 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
      2~6 (略)
      法的には、パワハラ防止法第30条の2第1項の下線部が、パワーハラスメント等の定義となる。
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    • 【解答例】
      〇 パワーハラスメント
      職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの3つの要素を全て満たすものをいう。
      なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しない。
      〇 セクシュアルハラスメント
      「職場」において行われる「労働者」の意に反する「性的な言動」により、労働者が労働条件について不利益を受けたり、就業環境が害されることをいう。
      〇 マタニティハラスメント
      「職場」において行われる上司・同僚からの言動(妊娠・出産したこと、育児休業、介護休業等の利用に関する言動)により、妊娠・出産した「女性労働者」や育児休業・介護休業等を申出・取得した「男女労働者」の就業環境が害されることをいいう。
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  • (4)職場の上司あるいは同僚が、部下あるいは同僚のメンタルヘルス不調に早期に気づくことが求められる。職場における「メンタルヘルス不調のサイン」としてはどのようなものがあるか、五つ挙げよ。

    • 【解説】
      職場におけるメンタルヘルス不調のサインとしては、「疾病性」のものと「事例性」のものがある。現実には、その双方について気づくことが求められるが、試験への解答としては「事例性」で答える方がよい。
      厚生労働省のパンフレット「職場における心の健康づくり」には「「いつもと違う」部下の様子」として以下の項目が挙げられている。これらがメンタルヘルス不調に気づける「事例性」の例である。
      ● 遅刻、早退、欠勤が増える
      ● 休みの連絡がない(無断欠勤がある)
      ● 残業、休日出勤が不釣合いに増える
      ● 仕事の能率が悪くなる。思考力・判断力が低下する
      ● 業務の結果がなかなかでてこない
      ● 報告や相談、職場での会話がなくなる(あるいはその逆)
      ● 表情に活気がなく、動作にも元気がない(あるいはその逆)
      ● 不自然な言動が目立つ
      ● ミスや事故が目立つ
      ● 服装が乱れたり、衣服が不潔であったりする
      なお、参考までに厚生労働省のWEBサイト「みんなのメンタルヘルス」の「こころの病気の初期サインに気づく」の「周囲の人が気づきやすい変化」に、こころの病気の初期サインに関する記述があるのを紹介しておく。
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    • 【解答例】
      ● 遅刻・欠勤が増え、その一方で、業務量に比して不自然に残業時間が増える。
      ● ささいなミスや事故が増える。
      ● 服装や身だしなみに気を使わなくなる。
      ● 同僚・上司・部下との付き合いを避けるようになる。
      ● あいさつしなくなる、声が小さくなる、意見を言わなくなるなど覇気がなくなる
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  • (5)メンタルヘルス不調のこう進に伴って懸念される症状や疾病・行為を三つ挙げよ。

    • 【解説】
      「懸念される症状や疾病・行為を三つ挙げよ」というのであるから、症状、疾病、行為をひとつづ挙げよという趣旨であろうか。
      行為で、最も懸念されることが、「自殺」であることは解説するまでもないであろう。しかし、「過度の飲酒」「病的な過食」などでも解答としては問題はないかもしれない。
      症状と疾病はどうであろうか。疾病は、いささか芸がないが「うつ病」でよいだろう。なお、「統合失調症」、「特定の依存症」などストレスによるとは限らないものは避けた方がよい。
      症状は、どうだろうか。「うつ状態」では、「うつ病」と重なる。ここは「不眠」又は「睡眠障害」が妥当なところだろうか。「食欲不振」でも誤りとはされないだろう。
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    • 【解答例】
      症状:睡眠障害
      疾病:うつ病
      行動:自殺
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  • (6)メンタルヘルスケアにおいて重要な「4つのケア」について、それぞれ 50 ~ 150 字程度でそれらの内容を説明せよ。

    • 【解説】
      本問は、2012年の労働衛生コンサルタント試験の「健康管理」の問3の(3)とほぼ同じ問題である。ただし、2012年のときは文字数の制限はなかった。
      4つのケアについては、「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(平成18年3月31日健康保持増進のための指針公示第3号)に示されている。それを要約して記述すればよいだろう。
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    • 【解答例】
      (1)セルフケア
       労働者自身がストレスに気づき、これに対処するための知識、方法を身につけ、それを実施することへの支援がセルフケアである。
       事業者は、労働者に対して、セルフケアに関する教育研修、情報提供を行い、心の健康に関する理解の普及を図る。また、相談体制の整備を図り、ストレスチェックの実施や、セルフチェックを行う機会を提供する。(144文字)
      (2)ラインによるケア
       管理監督者は、部下である労働者の状況を日常的に把握しており、また、個々の職場における具体的なストレス要因を把握し、その改善を図ることができる立場にあることから、職場環境等の把握と改善、労働者からの相談対応等を行う。
       このため、事業者は、管理監督者に対して、ラインによるケアに関する教育研修、情報提供を行う。(140文字)
      (3)事業場内産業保健スタッフ等によるケア
       事業場内産業保健スタッフ等は、セルフケア及びラインによるケアが効果的に実施されるよう、労働者及び管理監督者に対する支援を行う。また、心の健康づくり計画に基づく具体的なメンタルヘルスケアの実施に関する企画立案、個人の健康情報の取扱い、事業場外資源とのネットワークの形成等、心の健康づくりの中心的な役割を果たす。(146文字)
      (4)事業場外資源によるケア
       事業場が抱える問題や求めるサービスに応じて、メンタルヘルスケアに関し専門的な知識を有する各種の事業場外資源の支援を活用する。また、労働者が事業場内での相談等を望まないような場合にも、事業場外資源を活用する。(98文字)
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  • (7)メンタルヘルスの問題により休職した労働者が職場に復帰する場合、復職者の所属する部・課が心がけるべきこと、及び組織としてあらかじめ準備すべき支援体制について、100 字程度で述べよ。

    • 【解説】
      職場復帰支援については、「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援 の職場復帰支援の手引き」(平成21年3月23日基安労発第0323001号「改訂版「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」の送付について」)に示されている。それを要約して記述すればよいだろう。
      3 職場復帰支援の各ステップ
      (5)職場復帰後のフォローアップ のフォローアップ<第5ステップ>
        (略)
        職場復帰後は、管理監督者による観察と支援の他、事業場内産業保健スタッフ等による定期的又は就業上の配慮の更新時期等に合わせたフォローアップを実施する必要がある。フォローアップのための面談においては、下記のアからキまでに示す事項を中心に労働者及び職場の状況につき労働者本人及び管理監督者から話を聞き、適宜職場復帰支援プランの評価や見直しを行っていく。
        さらに、本人の就労意識の確保のためにも、あらかじめ、フォローアップには期間の目安を定め、その期間内に通常のペースに戻すように目標を立てること、また、その期間は、主治医と連携を図ることにより、病態や病状に応じて、柔軟に定めることが望ましい。
        なお、心の健康問題は再燃・再発することも少なくないため、フォローアップ期間を終えた後も、再発の予防のため、就業上の配慮についての慎重な対応(職場や仕事の変更等)や、メンタルヘルス対策の重要性が高いことに留意すべきである。
      (ア~キ 略)
      5 プライバシーの保護
        職場復帰支援において扱われる労働者の健康情報等のほとんどが、労働者のプライバシーに関わるものである。労働者の健康情報等は個人情報の中でも特に機微な情報であり、厳格に保護されるべきものである。とりわけメンタルヘルスに関する健康情報等は慎重な取扱いが必要である。また、周囲の「気づき情報」は、当該提供者にとっても個人情報であり慎重な取扱いが必要となる。事業者は労働者の健康情報等を適正に取り扱い、労働者のプライバシーの保護を図らなければならない。
       厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援 の職場復帰支援の手引き」(平成16年(最終改正:平成21年))
      「復職者の所属する部・課が心がけるべきこと、及び組織としてあらかじめ準備すべき支援体制」といわれても、あまりにも抽象的に過ぎるが、必要な事項(ポイント)を落とさないようにしよう。なお、解答例は表題を除いて151文字である。文字制限は「100字程度」だが、多少文字数が増えても減点される恐れは少ないので、必要なことは書いておいた方がよい。
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    • 【解答例】
      〇 復職者の所属する部・課が心がけるべきこと
      心の健康問題の偏見等に留意する。
      主治医の意見を参考に、復帰後の労働負荷を段階的に元へ戻す。
      管理監督者は、本人の相談にのり、健康回復を優先し、問題発生時の早めの相談をうながし、事業場内産業保健スタッフ等と連携する。
      〇 組織としてあらかじめ準備すべき支援体制
      職場復帰支援プランを作成し、衛生委員会で審議する。
      管理監督者や労働者の職場復帰支援への理解を高める。
      専門的な助言等のため事業場外資源を活用する。
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  • (8)メンタルヘルスに関する個人情報が適切に保護されないとどのようなことが起こりうるか、例を二つ挙げよ。

    • 【解説】
      これは、誰でも「何か」を答えることが可能な設問である。問題は、どのように答えれば加点され、どのように答えると加点されないかである。出題者がどのような採点基準を設定しているか、言葉を換えればどのような解答を期待しているのかを推定しないと「正答」できない。
      思いつくままに記述しても、次のような様々な解答が思いつく。
      〇 無関係でその情報を知る必要のない者が情報を知り、噂になったり、ときにはSNSなどに投稿したりして、その結果、本人が苦痛を感じたり、病状が悪化したりする。
      〇 本人の会社に対する不信感が醸成され、結果としてその個人に対するメンタルヘルス対策が適切に進まなくなる。
      〇 個人情報の保護に関する法律第23条等の違反で、個人情報保護委員会(同法第127条)より同法第145条第1項の勧告を受ける。なお、同勧告に従わない場合、さらに同条第2項の命令を受け、命令に従わなかった場合には同法第173条により罰則を受けることもあり得る。
      〇 情報の漏洩によって、損害を受けた本人から民法の不法行為責任(同法第709条第715条等)などにより損害賠償の請求を受ける。
      厚生労働省の公的な文書に関係する記述がないか探してみたが、あまりにも当然すぎるからか、関係する記述はほとんどなかった。わずかに厚労省のパンフレットに次のような記述がみつかったのみである。
      健康情報等の取扱いにより、労働者が人事上の不利益を被ることは、その目的に反することになります。そのような事態が生じる可能性がある場合、労働者は、事業者に対して健康上の不安について相談を行いたくとも、安心して行うことができません。
      労働者の不安を取り除くためにも、健康情報等を取り扱う目的は分かりやすく示す必要があるため、取扱規程には、事業場の業務内容等に応じて「健康確保措置の実施」や「安全配慮義務の履行」の具体的内容を記載することが求められます。
      ※ 厚生労働省「事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き
      解答例は、無難な解答を示している。どのように解答するべきかは、各自で考えて欲しい。
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    • 【解答例】
      〇 心の健康問題を抱えた本人の会社に対する不信感が醸成され、会社へ適切な情報を伝えなくなり、結果的に適切な対応ができなくなる。
      〇 情報が漏洩したことにより、本人の側に損害(苦痛感やそれによる病状の悪化等)が生じたとして会社が民事賠償請求で訴えられる。
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  • (9)事業者は、労働者に対してメンタルヘルスに関する情報を理由とした不利益な取扱いをしてはならない。この場合の不利益な取扱いにはどのようなものがあるか、二つ挙げよ。

    • 【解説】
      これも(8)と同様、誰でも答えることができる問題である。しかし、本小問には、固有の答え難さがある。というのは、「労働者に対してメンタルヘルスに関する情報を理由とした不利益な取扱いをしてはならない」ということの根拠が何かが記されていないからである。
      労働者のメンタルヘルス上の問題を根拠にして、労働者を不利益に取扱ってはならないという、普遍的な法令は、当然のことながら存在していない(※)
      ※ 安衛法第66条の10第3項による不利益取扱いの禁止は、面接指導の申し出に対するものであり、メンタルヘルスに関する情報とは無関係である。
      このように言われると、「心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」の10に次のような記述があるではないかと思うかもしれない。
      10 労働者に対する不利益な取扱いの防止
      事業者が、ストレスチェック及び面接指導において把握した労働者の健康情報等に基づき、当該労働者の健康の確保に必要な範囲を超えて、当該労働者に対して不利益な取扱いを行うことはあってはならない。このため、事業者は、次に定めるところにより、労働者の不利益な取扱いを防止しなければならない。
      (1)及び(2):略
      ※ 「心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針
      しかしながら、これは法令ではないということもあるが、そもそも「ストレスチェック」と「面接指導」の結果に限って、それを理由として不利益な取り扱いを行ってはならないとしているにすぎない(※)。安衛法によって国家が事業者に義務付けた「ストレスチェック」や「面接指導」の結果によって労働者が不利益を受けるようなことはあっては、結果的に国家が労働者に対して不利益を強要することになりかねない。そのようなことはあってはならないので、このような規定を設けたのである。
      ※ なお、ここで禁止しているのは、違法な不利益取扱いに限られない。禁止されるのはすべての不利益取扱いであって、違法性のないものであっても禁止される。
      普遍的に「労働者に対してメンタルヘルスに関する情報を理由とした不利益な取扱いをしてはならない」としたものではないのである。そもそも、メンタルヘルスに関する情報を理由とした不利益な取扱いなど、普通に行われていることである(※)し、公序良俗に反するようなものでない限り、とくに違法性もない。
      ※ 例えば、昇進の前提となる海外での勤務に誰かを派遣しなければならない場合や、一定の責任ある地位(部長や取締役など)に誰かを就任させる場合に、その人選に当たって、本人のメンタルヘルスの状況を考慮することなど普通に行われていることである。企業の命運を決するような事業の担当部長に、メンタル上の問題を抱える者を就けようという企業は多くはないだろう。
      なお、係長昇任などで、それまで同期の者を一定の年限の後で一斉に昇進させていた企業で、とくに業務上の支障や問題がないにもかかわらずメンタルヘルスを理由として特定の個人を昇進させないような状況では、違法性を帯びることはあり得る。また、一般社員が、他の職員と同様に勤務しており、とくに仕事上の効率などに問題があるわけではないのに、メンタル的な情報のみによって賃金などに差別をすることも違法となろう。
      このため、出題者が何をもって「労働者に対してメンタルヘルスに関する情報を理由とした不利益な取扱いをしてはならない」のか分からないので、答えようがないのである。
      なお、解答例には、無理のない表現で記述したが、上記指針の10の(2)のイの③に次のような記述があり、本問に「不利益な取扱いにはどのようなものがあるか」とされていることから、出題者はこの(a)~(e)に記述されているような解答を期待していたのかもしれない。
      ③ 面接指導の結果を理由として、次に掲げる措置を行うこと。
      (a)解雇すること。
      (b)期間を定めて雇用される者について契約の更新をしないこと。
      (c)退職勧奨を行うこと。
      (d)不当な動機・目的をもってなされたと判断されるような配置転換又は職位(役職)の変更を命じること。
      (e)その他の労働契約法等の労働関係法令に違反する措置を講じること。
      ※ 「心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針
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    • 【解答例】
      〇 労働者の健康の確保にとって必要であるとの合理的な根拠がないにもかかわらず、過剰な配慮(交代勤務の禁止、時間外労働の禁止、出張の禁止等)を行い、これにより本人の収入が減少すること。
      〇 とくに職務上の支障がないにもかかわらず、メンタルヘルスに関する情報を理由として、特定のもののみ定時の昇進・昇給をさせないなどの不利益な対応を取ること。
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