労働衛生コンサルタント試験 2021年 労働衛生関係法令 問03

安衛法に基づく健康診断




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 このページは、2021年の労働安全衛生コンサルタント試験の「労働衛生関係法令」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2021年度(令和3年度) 問03 難易度 健康診断の規定の中ではやや難問の部類だろうか。確実に正答できるようにしたい。
健康診断等

※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上

問3 労働安全衛生規則に基づく健康診断等に関する次の記述のうち、法令上、正しいものはどれか。

(1)労働者は、雇入時の健康診断において、事業者の指定した医師が行う健康診断を受けることを希望しないため、雇入れ前6か月以内に受診した医師による健康診断の結果を証明する書面を提出したときは、当該健康診断の項目に相当する項目については、健康診断を受けなくてもよい。

(2)常時使用する労働者に対し、1年以内ごとに1回、定期に行う健康診断において、胸部エックス線検査や血圧の測定の項目については、厚生労働大臣が定める基準に基づき、医師の判断により省略することができる。

(3)事業者は、深夜業を含む業務に常時従事する労働者に対し、6か月以内ごとに1回、定期に、医師による健康診断を行わなければならないが、常時50人未満の労働者を使用する事業者は、定期健康診断結果報告書を所轄労働基準監督署長に提出しなくてもよい。

(4)離職の際に又は離職の後に、都道府県労働局長による健康管理手帳の交付対象となる者には、クロム酸を取り扱う業務に従事していた者、無機コバルト化合物を製造する業務に従事していた者及びベリリウム化合物を製造する業務に従事していた者が含まれる。

(5)事業者は、常時使用する労働者に対し、医師、保健師又は心理的な負担の程度を把握するための検査を行うために必要な知識についての研修であって厚生労働大臣が定めるものを修了した衛生管理者等による心理的な負担の程度を把握するための検査を行わなければならない。

正答(3)

【解説】

問3試験結果

試験解答状況
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(1)誤り。安衛法第66条第5項の規定は、雇入れ時等の健康診断にも適用がある。従って、労働者は、雇入時の健康診断において、事業者の指定した医師が行う健康診断を受けることを希望しない場合は、他の医師の行なう雇入れ時の健康診断に相当する健康診断を受けて受診した医師による健康診断の結果を証明する書面を提出したときは、雇入れ時の健康診断を受けなくてもよい。

しかしながら、安衛法第55条第5項の規定は、「これらの規定による健康診断に相当する健康診断」となっており、健康診断の項目ごとに可能とはされていない。また、安衛則第43条但書が「医師による健康診断を受けた後、三月を経過しない者」としている趣旨から解釈すれば「雇入れ前6か月以内に受診した」ものでは要件を満たさない(※)

※ このような解釈を行政が示しているわけではないが、条文の文理からそのように解釈できる。なお、安衛則第43条但書は、安衛法第66条第1項の「厚生労働省令で定めるところにより」を受けたものであり、同第5項とは関係のない規定である。仮に安衛則第44条但書が安衛法第66条第5項を受けたものだとすると、安衛則第44条にこのような但書がないことの説明がつかない。(反対解釈により)一般の定期健康診断には安衛法第66条第5項の適用がないという解釈も成り立ちかねない。

なお、安衛則第50条も、項目ごとに結果を記載したものでなければならないとしているだけで、一部の項目だけで良いとは書かれていない。

【労働安全衛生法】

(健康診断)

第66条 事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断(第六十六条の十第一項に規定する検査を除く。以下この条及び次条において同じ。)を行わなければならない。

2~4 (略)

 労働者は、前各項の規定により事業者が行なう健康診断を受けなければならない。ただし、事業者の指定した医師又は歯科医師が行なう健康診断を受けることを希望しない場合において、他の医師又は歯科医師の行なうこれらの規定による健康診断に相当する健康診断を受け、その結果を証明する書面を事業者に提出したときは、この限りでない。

【労働安全衛生規則】

(雇入時の健康診断)

第43条 事業者は、常時使用する労働者を雇い入れるときは、当該労働者に対し、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。ただし、医師による健康診断を受けた後、三月を経過しない者を雇い入れる場合において、その者が当該健康診断の結果を証明する書面を提出したときは、当該健康診断の項目に相当する項目については、この限りでない。

一~十一 (略)

(労働者の希望する医師等による健康診断の証明)

第50条 法第六十六条第五項ただし書の書面は、当該労働者の受けた健康診断の項目ごとに、その結果を記載したものでなければならない。

(2)誤り。常時使用する労働者に対して行う、一般の定期健康診断(1年以内ごとに1回、定期に行う健康診断)においては、安衛則第44条第2項の規定により、胸部エックス線検査等の項目については、厚生労働大臣が定める基準に基づき、医師の判断により省略することができるとされている。

しかし、血圧の検査はその対象とはされていない。血圧のような短期間で変化するおそれがあり、しかも容易に検査可能な項目を省略して良いとするはずがないだろう。

【労働安全衛生法】

(健康診断)

第66条 事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断(第六十六条の十第一項に規定する検査を除く。以下この条及び次条において同じ。)を行わなければならない。

2~5 (略)

【労働安全衛生規則】

(定期健康診断)

第44条 事業者は、常時使用する労働者(第四十五条第一項に規定する労働者を除く。)に対し、一年以内ごとに一回、定期に、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。

 既往歴及び業務歴の調査

 自覚症状及び他覚症状の有無の検査

 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査

 胸部エックス線検査及び喀痰かくたん検査

 血圧の測定

 貧血検査

 肝機能検査

 血中脂質検査

 血糖検査

 尿検査

十一 心電図検査

 第一項第三号、第四号、第六号から第九号まで及び第十一号に掲げる項目については、厚生労働大臣が定める基準に基づき、医師が必要でないと認めるときは、省略することができる。

3及び4 (略)

(3)正しい。本肢の健康診断は、安衛法第66条第1項及び安衛則第45条による特定業務従事者健康診断であり、安衛法第66条第2項による特殊健康診断ではない。

特定業務従事者健康診断も、安衛則第45条により6か月以内ごとに1回実施しなければならない。6か月以内ごとに1回実施しなければならないことは多くの特殊健康診断と同様である。

しかし、特殊健康診断とは異なり特定業務従事者健康診断では、常時 50人 未満の労働者を使用する事業者には、所轄労働基準監督署長への報告義務は課されていない。

なお、同規則第52条により、常時 50 人以上の労働者を使用する事業者は、特定業務従事者健康診断を行なったときは、遅滞なく、定期健康診断結果報告書を所轄労働基準監督署長に提出しなければならないとされている。

【労働安全衛生法】

(健康診断)

第66条 事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断(第六十六条の十第一項に規定する検査を除く。以下この条及び次条において同じ。)を行わなければならない。

2~5 (略)

【労働安全衛生規則】

(特定業務従事者の健康診断)

第45条 事業者は、第十三条第一項第三号に掲げる業務に常時従事する労働者に対し、当該業務への配置替えの際及び六月以内ごとに一回、定期に、第四十四条第一項各号に掲げる項目について医師による健康診断を行わなければならない。この場合において、同項第四号の項目については、一年以内ごとに一回、定期に、行えば足りるものとする。

2~4 (略)

(健康診断結果報告)

第52条 常時五十人以上の労働者を使用する事業者は、第四十四条、第四十五条又は第四十八条の健康診断(定期のものに限る。)を行なつたときは、遅滞なく、定期健康診断結果報告書(様式第六号)を所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。

(4)誤り。離職の際に又は離職の後に、都道府県労働局長による健康管理手帳の交付対象となる者は、安衛令第23条に定められている。

これには、無機コバルト化合物を製造する業務に従事していた者は含まれない。なお、クロム酸を取り扱う業務に従事していた者及びベリリウム化合物を製造する業務に従事していた者は含まれている。

【労働安全衛生法】

(健康管理手帳)

第67条 都道府県労働局長は、がんその他の重度の健康障害を生ずるおそれのある業務で、政令で定めるものに従事していた者のうち、厚生労働省令で定める要件に該当する者に対し、離職の際に又は離職の後に、当該業務に係る健康管理手帳を交付するものとする。ただし、現に当該業務に係る健康管理手帳を所持している者については、この限りでない。

2~4 (略)

【労働安全衛生法施行令】

(健康管理手帳を交付する業務)

第23条 法第六十七条第一項の政令で定める業務は、次のとおりとする。

 ベンジジン及びその塩(これらの物をその重量の一パーセントを超えて含有する製剤その他の物を含む。)を製造し、又は取り扱う業務

 ベータ―ナフチルアミン及びその塩(これらの物をその重量の一パーセントを超えて含有する製剤その他の物を含む。)を製造し、又は取り扱う業務

 粉じん作業(じん肺法(昭和三十五年法律第三十号)第二条第一項第三号に規定する粉じん作業をいう。)に係る業務

 クロム酸及び重クロム酸並びにこれらの塩(これらの物をその重量の一パーセントを超えて含有する製剤その他の物を含む。)を製造し、又は取り扱う業務(これらの物を鉱石から製造する事業場以外の事業場における業務を除く。)

 無機素化合物(アルシン及び 無機化ガリウムを除く。)を製造する工程において粉砕をし、三酸化素を製造する工程においてばい焼若しくは精製を行い、又は素をその重量の三パーセントを超えて含有する鉱石をポツト法若しくはグリナワルド法により製錬する業務

 コークス又は製鉄用発生炉ガスを製造する業務(コークス炉上において若しくはコークス炉に接して又はガス発生炉上において行う業務に限る。)

 ビス(クロロメチル)エーテル(これをその重量の一パーセントを超えて含有する製剤その他の物を含む。)を製造し、又は取り扱う業務

 ベリリウム及びその化合物(これらの物をその重量の一パーセントを超えて含有する製剤その他の物(合金にあつては、ベリリウムをその重量の三パーセントを超えて含有するものに限る。)を含む。)を製造し、又は取り扱う業務(これらの物のうち粉状の物以外の物を取り扱う業務を除く。)

 ベンゾトリクロリドを製造し、又は取り扱う業務(太陽光線により塩素化反応をさせることによりベンゾトリクロリドを製造する事業場における業務に限る。)

 塩化ビニルを重合する業務又は密閉されていない遠心分離機を用いてポリ塩化ビニル(塩化ビニルの共重合体を含む。)の懸濁液から水を分離する業務

十一 石綿等の製造又は取扱いに伴い石綿の粉じんを発散する場所における業務

十二 ジアニシジン及びその塩(これらの物をその重量の一パーセントを超えて含有する製剤その他の物を含む。)を製造し、又は取り扱う業務

十三 一・二―ジクロロプロパン(これをその重量の一パーセントを超えて含有する製剤その他の物を含む。)を取り扱う業務(厚生労働省令で定める場所における印刷機その他の設備の清掃の業務に限る。)

十四 オルト―トルイジン(これをその重量の一パーセントを超えて含有する製剤その他の物を含む。)を製造し、又は取り扱う業務

十五 三・三′―ジクロロ―四・四′―ジアミノジフェニルメタン(これをその重量の一パーセントを超えて含有する製剤その他の物を含む。)を製造し、又は取り扱う業務

(5)誤り。安衛法第66条の10によるストレスチェック(心理的な負担の程度を把握するための検査)の実施者は、安衛則第52条の10第1項に定められている。「心理的な負担の程度を把握するための検査を行うために必要な知識についての研修であって厚生労働大臣が定めるものを修了した者」としては「歯科医師、看護師、精神保健福祉士又は公認心理師」が挙げられてる。

衛生管理者は実施者とはされていない。そもそも衛生管理者は、その名の通り「管理」を行う者である。医療職でもない者にストレスチェックを実施させるはずはあるまい。

それにしても、本肢は長すぎて分かりにくい文章である。

【労働安全衛生法】

(心理的な負担の程度を把握するための検査等)

第66条の10 事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者(以下この条において「医師等」という。)による心理的な負担の程度を把握するための検査を行わなければならない。

2~9 (略)

【労働安全衛生規則】

(検査の実施者等)

第52条の10 法第六十六条の十第一項の厚生労働省令で定める者は、次に掲げる者(以下この節において「医師等」という。)とする。

 医師

 保健師

 検査を行うために必要な知識についての研修であつて厚生労働大臣が定めるものを修了した歯科医師、看護師、精神保健福祉士又は公認心理師

 (略)

2021年11月01日執筆