労働衛生コンサルタント試験 2021年 労働衛生一般 問08

騒音による健康影響




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 このページは、2021年の労働安全衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2021年度(令和3年度) 問08 難易度 騒音による健康影響に関する基本的な知識問題である。医師である受験生は正答できなければならない。
騒音による健康影響

※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上

問8 騷音性難聴に関する次のイ~ニの記述について、適切なものの組合せは(1)~(5)のうちどれか。

イ 極めて大きな音によって短時間で起こる急性の難聴である。

ロ 牛の有毛細胞が障害されることにより生じる。

ハ 無声子音(s、k、t 等の音)が聞こえにくくなる。

ニ 一般にめまいを伴う。

(1)イ  ロ

(2)イ  ハ

(3)イ  ニ

(4)ロ  ハ

(5)ハ  ニ

正答(4)

【解説】

問8試験結果

試験解答状況
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イ 誤り。騒音性難聴とは、慢性的に激しい騒音(85dB(A)程度以上)に長期間(1日8時間、5年程度以上)ばく露することによって発症する聴覚障害である(※)。爆発音などの強大音へのばく露によって急激に起こる難聴は「音響外傷」と呼ばれる。

※ 例えば、佐々木毅「建設業労働者の健康障害予防のための追跡研究」(安衛研ニュースNo.96 2016年)、和田哲郎「騒音性難聴の最近の知見(疫学,基礎など)」(日耳鼻 2007年)など参照。

なお、昭和61年3月18日基発第149号「騒音性難聴の認定基準について」によれば、「著しい騒音にばく露される業務に長期間引続き従事した後に発生したものであること」が、労働災害として騒音性難聴を認定する要件となっている(騒音性難聴以外の難聴は労働災害として認定しないということではない)。

耳の断面図

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ロ 正しい。騒音性難聴は、蝸牛の有毛細胞の障害によって起きる(※)。なお、有毛細胞は再生されないため不可逆的な疾患である。

※ 例えば、山下大介「騒音性難聴」(IRYO Vol.62 No.3 2008年)は「騒音性難聴における障害部位は内耳にある感覚器細胞(とくに外有毛細胞)である。強大な音エネルギーは鼓膜を振動させ、その振動が耳小骨連鎖を経て内耳に至り、基底板上の感覚器細胞にダメージを与え、最終的に細胞死に陥り感音難聴となる」、「またヒト側頭骨病理標本からも騒音のある職場に長期就労した場合、高音域の閾値上昇に一致し基底回転において、外有毛細胞を中心とした感覚器細胞の高度な変性や消失(Fig.3 矢印)といった形態学的変化が認められる」としている。

ハ 正しい。無声子音は高い周波数成分で音も小さいので、典型的な騒音性難聴の聴力像では聞こえない部分に入る(※)

※ 茨城県産業保健総合支援センター「騒音性難聴に関わるすべての人のためのQ&A」(2018年)のQ1-4は、「無声子音(s、 k、 t 等の音)は高い周波数成分で音も小さいので、典型的な騒音性難聴の聴力像ではちょうど聞こえない部分に入ってしまいます。この結果、例えば、佐藤(Sato)さんと加藤(Kato)さんを聞き違いしてしまうというようなことが起こりやすくなります」などとしている。

ニ 誤り。上記の「騒音性難聴に関わるすべての人のためのQ&A」のQ2-5に「騒音性難聴は内耳の疾患ですが、難聴のみで、一般にめまいは伴いません」とされている。「一般に」ということであれば、騒音性難聴にめまいは伴わないとしてよい(※)

※ もちろんめまいを伴う騒音性難聴の例がないとしているわけではない。例えば、池田元久他「めまい・平衡障害をともなう騒音性難聴の6症例」などは、めまいを伴う騒音性難聴のケースを報告している。

2021年11月23日執筆