問1 事業場の安全衛生管理体制に関する次の記述のうち、労働安全衛生法令上、誤っているものはどれか。
(1)常時使用する労働者数が 200 人の運送業の事業場では、当該事業場においてその事業の実施を統括管理する者を総括安全衛生管理者として選任し、所轄労働基準監督署長に対し、遅滞なく、選任報告書を提出しなければならない。
(2)常時使用する労働者数が 900 人で、著しく寒冷な場所における業務に常時 30 人の労働者が従事し、深夜業を含む業務に常時 500 人の労働者が従事している事業場では、専任の衛生管理者を含めて3人以上の衛生管理者と当該事業場に専属の産業医を選任しなければならない。
(3)常時使用する労働者数が 50 人以上で産業医の選任を要する事業場において、厚生労働大臣の指定する者が行う産業医研修の修了等の所定の要件を備えた医師であっても、当該事業場においてその事業の実施を統括管理する者は産業医として選任することはできない。
(4)常時使用する労働者数が 100 人で、総括安全衛生管理者が選任されていない自動車整備業の事業場では、衛生委員会の議長は、原則として、当該事業場においてその事業の実施を統括管理する者又はこれに準ずる者のうちから委員として事業者が指名した者がなるものとする。
(5)衛生管理者及び産業医の選任は、選任すべき事由が発生した日から 14 日以内に行う必要があるほか、専任の衛生管理者又は専属の産業医が旅行等のやむを得ない事由により職務を行うことができないときは、それぞれ代理者を選任しなければならない。
このページは、2017年の労働安全衛生コンサルタント試験の「労働衛生関係法令」問題の解説と解答例を示しています。
解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。
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2017年度(平成29年度) | 問01 | 難易度 | 各級の管理者等の選任義務は基本中の基本。本問は正答できる必要がある。 |
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労働安全衛生管理体制 | 2 |
問1 事業場の安全衛生管理体制に関する次の記述のうち、労働安全衛生法令上、誤っているものはどれか。
(1)常時使用する労働者数が 200 人の運送業の事業場では、当該事業場においてその事業の実施を統括管理する者を総括安全衛生管理者として選任し、所轄労働基準監督署長に対し、遅滞なく、選任報告書を提出しなければならない。
(2)常時使用する労働者数が 900 人で、著しく寒冷な場所における業務に常時 30 人の労働者が従事し、深夜業を含む業務に常時 500 人の労働者が従事している事業場では、専任の衛生管理者を含めて3人以上の衛生管理者と当該事業場に専属の産業医を選任しなければならない。
(3)常時使用する労働者数が 50 人以上で産業医の選任を要する事業場において、厚生労働大臣の指定する者が行う産業医研修の修了等の所定の要件を備えた医師であっても、当該事業場においてその事業の実施を統括管理する者は産業医として選任することはできない。
(4)常時使用する労働者数が 100 人で、総括安全衛生管理者が選任されていない自動車整備業の事業場では、衛生委員会の議長は、原則として、当該事業場においてその事業の実施を統括管理する者又はこれに準ずる者のうちから委員として事業者が指名した者がなるものとする。
(5)衛生管理者及び産業医の選任は、選任すべき事由が発生した日から 14 日以内に行う必要があるほか、専任の衛生管理者又は専属の産業医が旅行等のやむを得ない事由により職務を行うことができないときは、それぞれ代理者を選任しなければならない。
正答(5)
【解説】
(1)正しい。総括安全衛生管理者は安衛法第 10 条で選任が義務付けられている。選任が必要な業種、規模は安衛令第2条に規定があり、運送業では 100 人以上の事業場に選任義務がある。そして、安衛則第2条によって、選任は選任すべき日から 14 日以内に行い、選任した後は遅滞なく労働基準監督署長に選任の報告書を提出しなければならないとされている。
【労働安全衛生法】
(総括安全衛生管理者)
第10条 事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定めるところにより、総括安全衛生管理者を選任し、その者に安全管理者、衛生管理者又は第25条の2第2項の規定により技術的事項を管理する者の指揮をさせるとともに、次の業務を統括管理させなければならない。
一~五 (略)
2及び3 (略)
【労働安全衛生法施行令】
(総括安全衛生管理者を選任すべき事業場)
第2条 労働安全衛生法(以下「法」という。)第十条第一項の政令で定める規模の事業場は、次の各号に掲げる業種の区分に応じ、常時当該各号に掲げる数以上の労働者を使用する事業場とする。
一 林業、鉱業、建設業、運送業及び清掃業 100人
二及び三 (略)
【労働安全衛生規則】
(総括安全衛生管理者の選任)
第2条 法第十条第一項の規定による総括安全衛生管理者の選任は、総括安全衛生管理者を選任すべき事由が発生した日から14日以内に行なわなければならない。
2 事業者は、総括安全衛生管理者を選任したときは、遅滞なく、様式第三号による報告書を、当該事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長(以下「所轄労働基準監督署長」という。)に提出しなければならない。
※ 安衛則第2条は2025年1月1日より改正されるが、届出の方法に関する改正なので本肢の正誤に影響はない。
ここで、選任義務の「14 日」と報告義務の「遅滞なく」を混同しないようにしなければならない。なお、総括安全衛生管理者の選任報告の要件である「遅滞なく」がどの程度の期間なのかについては、通達等にも示されていない(※)。判例では、一般論としてではあるが「遅滞なく」とされていれば、「正当な又は合理的な理由による遅滞は許容される(大阪高判昭和 37 年 12 月 10 日)」とするものがある。これは、逆からいえば「正当な理由、合理的な理由がない限りすぐに行わなければならない」という趣旨であろう。
※ 安衛法第 66 条の8第4項及び安衛則第52条の7により、事業者は、面接指噂の結果に基づき、労働者の健康を保持するために必要な措置について、面接指導が行われたときから遅滞なく、医師の意見を聴かなければならない。この「遅滞なく」とは、「労働安全衛生法等の一部を改正する法律(労働安全衛生法関係)等の施行について」(平成 18 年 2 月 24 日基発第 0224003 号)によれば「遅くとも面接指導を実施してから概ね1月以内に行うこと」(Ⅳの第2の12の(5)/リンク先の21頁17行)とされている。ただ、選任報告については、「1月以内」では「遅滞なく」とは言えないだろう。
なお、詳細は「直ちに・速やかに・遅滞なくとは」を参照されたい。
【大阪高判昭和 37 年 12 月 10 日】
…「すみやかに」は、「直ちに」「遅滞なく」という用語とともに時間的即時性を表わすものとして用いられるが、これらは区別して用いられており、その即時性は、最も強いものが「直ちに」であり、ついで「すみやかに」、さらに「遅滞なく」の順に弱まっており、「遅滞なく」は正当な又は合理的な理由による遅滞は許容されるものと解されている。
(2)以下により、本肢は正しい。
【衛生管理者について】
衛生管理者は安衛法第12条で選任が義務付けられている。選任が必要な事業場の規模は安衛令第4条に規定があり、必要な選任の人数等は安衛則第7条に定められている。
選択肢の事業場は常時使用する労働者数が 900 人であるから、安衛則第7条第1項第4号の規定により3人を選任しなければならない。さらに、「著しく寒冷な場所における業務」は労基法施行規則第18条第2号の業務に該当し、その業務に 30 人以上の労働者が従事していることから少なくとも1人の衛生管理者を専任としなければならない。
選択肢は「専任の衛生管理者を含めて3人以上の衛生管理者」を選任しなければならないとしているので、衛生管理者については正しい。
【労働安全衛生法】
(衛生管理者)
第12条 事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、都道府県労働局長の免許を受けた者その他厚生労働省令で定める資格を有する者のうちから、厚生労働省令で定めるところにより、当該事業場の業務の区分に応じて、衛生管理者を選任し、その者に第10条第1項各号の業務(第25条の2第2項の規定により技術的事項を管理する者を選任した場合においては、同条第1項各号の措置に該当するものを除く。)のうち衛生に係る技術的事項を管理させなければならない。
2 (略)
【労働安全衛生法施行令】
(衛生管理者を選任すべき事業場)
第4条 法第12条第1項の政令で定める規模の事業場は、常時50人以上の労働者を使用する事業場とする。
【労働安全衛生規則】
(衛生管理者の選任)
第7条 事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、都道府県労働局長の免許を受けた者その他厚生労働省令で定める資格を有する者のうちから、厚生労働省令で定めるところにより、当該事業場の業務の区分に応じて、衛生管理者を選任し、その者に第十条第一項各号の業務(第25条の2第2項の規定により技術的事項を管理する者を選任した場合においては、同条第1項各号の措置に該当するものを除く。)のうち衛生に係る技術的事項を管理させなければならない。
一~三 (略)
四 次の表の上欄に掲げる事業場の規模に応じて、同表の下欄に掲げる数以上の衛生管理者を選任すること。
事業場の規模 (常時使用する労働者数) |
衛生管理者数 |
---|---|
50人以上200人以下 | 1人 |
200人を超え500人以下 | 2人 |
500人を超え1,000人以下 | 3人 |
1,000人を超え2,000人以下 | 4人 |
2,000人を超え3,000人以下 | 5人 |
3,000人を超える場合 | 6人 |
五 次に掲げる事業場にあつては、衛生管理者のうち少なくとも一人を専任の衛生管理者とすること。
イ (略)
ロ 常時500人を超える労働者を使用する事業場で、坑内労働又は労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)第18条各号に掲げる業務に常時30人以上の労働者を従事させるもの
六 (略)
2 (略)
【労働基準法施行規則】
第18条 法第36条第1項ただし書の規定による労働時間の延長が2時間を超えてはならない業務は、次のものとする。
一 (略)
二 多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務
三~十 (略)
【産業医】
産業医は安衛法第 13 条で選任が義務付けられている。選任が必要な事業場の規模は安衛令第5条に規定があり、必要な選任の人数等は安衛則第 13 条に定められている。
選択肢の事業場は、深夜業を含む業務(安衛則第 13 条第1項第3号ヌ)に常時 500 人の労働者が従事している。従って、産業医を選任しなければならない(安衛令第5条)。また、人数は1名でよいが専属のものとしなければならない(安衛則第 13 条)。
選択肢では「専属の産業医を選任しなければならない」としているので、産業医についても正しい。
【労働安全衛生法】
(産業医等)
第13条 事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定めるところにより、医師のうちから産業医を選任し、その者に労働者の健康管理その他の厚生労働省令で定める事項(以下「労働者の健康管理等」という。)を行わせなければならない。
2~6 (略)
【労働安全衛生法施行令】
(産業医を選任すべき事業場)
第5条 法第13条第1項の政令で定める規模の事業場は、常時50人以上の労働者を使用する事業場とする。
【労働安全衛生規則】
(産業医の選任等)
第13条 法第13条第1項の規定による産業医の選任は、次に定めるところにより行わなければならない。
一及び二 (略)
三 常時1,000人以上の労働者を使用する事業場又は次に掲げる業務に常時500人以上の労働者を従事させる事業場にあつては、その事業場に専属の者を選任すること。
イ (略)
ロ 多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務
ハ~カ (略)
四 常時3,000人をこえる労働者を使用する事業場にあつては、2人以上の産業医を選任すること。
2~4 (略)
(3)正しい。安衛則第 13 条第1項第2号は、事業場においてその事業の実施を統括管理する者等以外の者から産業医を選任しなければならないとする(平成 29 年4月1日に改正(施行)されたものである)。従って、事業場においてその事業の実施を統括管理する者を産業医として選任することはできないので、本肢は正しい。
【労働安全衛生規則】
(産業医の選任等)
第13条 法第13条第1項の規定による産業医の選任は、次に定めるところにより行わなければならない。
一 (略)
二 次に掲げる者(イ及びロにあつては、事業場の運営について利害関係を有しない者を除く。)以外の者のうちから選任すること。
イ 事業者が法人の場合にあつては当該法人の代表者
ロ 事業者が法人でない場合にあつては事業を営む個人
ハ 事業場においてその事業の実施を統括管理する者
三及び四 (略)
2~4 (略)
(4)正しい。安衛法第 18 条第4項が準用する同第 17 条第3項には「安全委員会の議長は、第一号の委員がなるものとする」とされている。これを第 18 条が準用する場合においては「衛生委員会の議長は、第一号の委員がなるものとする」となる。ここに、第一号の委員とは、「総括安全衛生管理者又は総括安全衛生管理者以外の者で当該事業場においてその事業の実施を統括管理するもの若しくはこれに準ずる者のうちから事業者が指名した者」である委員をいう。
ここに、選択肢の事業場では、統括安全衛生管理者は選任されていないので、議長は「当該事業場においてその事業の実施を統括管理するもの若しくはこれに準ずる者のうちから事業者が指名した者」でなければならない。なお、選択肢には「原則として」とあるが、これは、第 18 条第4項が準用する同第 17 条第5項に「前二項の規定は、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合との間における労働協約に別段の定めがあるときは、その限度において適用しない」とあるためである。
【労働安全衛生法】
(安全委員会)
第17条 (第1項 略)
2 (柱書 略)
一 総括安全衛生管理者又は総括安全衛生管理者以外の者で当該事業場においてその事業の実施を統括管理するもの若しくはこれに準ずる者のうちから事業者が指名した者
二及び三 (略)
3 安全委員会の議長は、第一号の委員がなるものとする。
4及び5 (略)
(衛生委員会)
第18条 (第1項~第3項略)
4 前条第3項から第5項までの規定は、衛生委員会について準用する。この場合において、同条第3項及び第4項中「第一号の委員」とあるのは、「第18条第2項第一号の者である委員」と読み替えるものとする。
(5)誤り。衛生管理者は安衛則第7条により「選任すべき事由が発生した日から 14 日以内に選任すること」とされており、産業医については同第 13 条により「選任すべき事由が発生した日から 14 日以内に選任すること」とされている。従って、本肢が「選任すべき事由が発生した日から 14 日以内に行う必要がある」としていることは正しい。
さらに、総括安全衛生管理者について安衛則第3条により「旅行、疾病、事故その他やむを得ない事由によって職務を行なうことができないときは、代理者を選任しなければならない」とされており、これは同規則第7条第2項によりすべての衛生管理者に準用されているので専任の衛生管理者についても適用がある。
しかし、専属産業医について代理を選任しなければならないとの規定はない。専属産業医は、一時的に事業場を離れたからといって代理を選ばなければならないほどの緊急な職務が発生することは考えにくく、また別な医師を専属の産業医の代理として選任することはコストが大きく現実的ではないからである。
【労働安全衛生規則】
(総括安全衛生管理者の代理者)
第3条 事業者は、総括安全衛生管理者が旅行、疾病、事故その他やむを得ない事由によつて職務を行なうことができないときは、代理者を選任しなければならない。
(衛生管理者の選任)
第7条 法第12条第1項の規定による衛生管理者の選任は、次に定めるところにより行わなければならない。
一 衛生管理者を選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任すること。
二~七 (略)
2 第2条第2項及び第3条の規定は、衛生管理者について準用する。
(産業医の選任等)
第13条 法第13条第1項の規定による産業医の選任は、次に定めるところにより行わなければならない。
一 産業医を選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任すること。
二~四 (略)
2 第2条第2項の規定は、産業医について準用する。ただし、(以下略)
3及び4 (略)