労働衛生コンサルタント試験 2017年 労働衛生一般 問02

有機溶剤による健康影響等




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 このページは、2017年の労働安全衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2017年度(平成29年度) 問02 難易度 やや詳細な知識問題であるが、基本的な問題である。確実に正答しなければならない。
有機溶剤

問02 有機溶剤に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。

(1)有機溶剤の蒸気は、一般に比重が空気よりも大きく、低いところに滞留する傾向がある。

(2)有機溶剤の経気道吸収は、肉体的に激しい労働強度の労働を行うと多くなる。

(3)蒸気圧が低く、脂溶性が高い化学物質は、皮膚からの吸収に注意が必要である。

(4)日本産業衛生学会の許容濃度の数値は、毒性の強さの相対的比較の尺度として用いられる。

(5)テトラクロロエチレンは、発がん性が疑われている。

正答(4)

【解説】

(1)正しい。空気1モルの質量は約29gであるが、エタノールは約46g、メタノールは約32gである。一般に有機溶剤の蒸気の比重は空気よりも重い。このため、有機溶剤蒸気のセンサーは、一般的には天井の近くよりも床の近くに設置する方がよいとされている。また、有機溶剤を取り扱う作業場の全体換気装置の排気装置なども、一般論としては天井よりも床に設置する方がよい。

(2)正しい。職業暴露限界(管理すべき作業空間の気中濃度)を定めるときは、経気道吸収は、呼吸量に比例すると考えて算出する。肉体的に激しい労働では、呼吸量が増加するので、経気道吸収の量も増加すると考えるのである。

(3)正しい。蒸気圧が低い物質は空気中に発散しにくいため、一般的には危険性は低いといってよいが、液体として皮膚に付着すると、蒸発しにくいためかえって経皮吸収のおそれが高くなる。また、脂溶性が高い物質は、皮膚の角層実質を通過しやすく、また体内に蓄積されやすい。このため、そのような物質は、経皮吸収に注意しなければならない。

ただし、蒸気圧が高い物質は発散しやすく、作業空間の空気を介して皮膚に付着しやすいとも考えられ、皮膚からの吸収についてリスクが低いとは考えるべきではない。

(4)誤り。日本産業衛生学会は、許容濃度の数値を単純に、毒性の強さの相対的比較の尺度として用いてはならないとしている。

しかしながら、これは物質によって生体影響の種類が異なるということが理由である。日本産業衛生学会も「単純に」毒性の強さの相対的比較の尺度として用いてはならないとしているのであって、いかなる形でも用いてはならないとはしていない。また、現実には、生体影響の内容が同じであれば、職業暴露限界を毒性の強さを検討するにあたっての指標のひとつとして用いているのが実態である。回答に迷う問題だと言えよう。

(5)正しい。テトラクロロエチレンの政府のGHS分類結果は1Bである。また、特別有機溶剤等でもある。

2019年12月01日執筆 2020年03月08日修正