労働衛生コンサルタント試験 2016年 労働衛生一般 問11

尿中代謝物検査結果に影響を与える要因




問題文
トップ
合格

 このページは、2016年の労働安全衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

 他の問題の解説をご覧になる場合は、グローバルナビの「安全衛生試験の支援」か「パンくずリスト」をご利用ください。

 柳川に著作権があることにご留意ください。

2016年度(平成28年度) 問11 難易度 過去問にあまりない範囲の問題だが、実際には常識問題。試験場で考えて正答できなければならない。
尿中代謝物

問11 有機溶剤の尿中代謝物の検査結果に影響を与える要因に関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。

(1)馬尿酸の測定の場合、作業終了から採尿までの時間が長すぎると、一般に馬尿酸の値は上昇する。

(2)清涼飲料水や果実類を摂取すると、尿中代謝物の測定値に影響を与えることがある。

(3)業務外での塗料や接着剤の使用が、尿中代謝物の測定値に影響を与えることがある。

(4)飲酒によって、尿中代謝物の濃度が低下することがある。

(5)採尿した試料の保管温度が高いと、尿中代謝物の測定値は一般に低下する。

正答(1)

【解説】

(1)適切ではない。あり得ない話である。作業終了から採尿までの時間が長すぎて、尿中代謝物の濃度が上昇するわけがない。ばく露した後、時間の経過によりばく露指標の濃度は低下する。

そのため、特殊健康診断は、休日の直前の日の作業終了直後に行うのが望ましいとされている。休日明けの作業前に特殊健康診断を行うことは避けるべきである。このことは、有機溶剤に関する健康診断では、とくに注意しなければならない。

(2)適切である。トルエンに関する特殊健康診断を受ける場合の注意事項として、多くの健診機関は、安息香酸(保存料)を含む清涼飲料水や苺、李等を摂らないように注意している。

これは、馬尿酸は、トルエンのみならず安息香酸などの芳香族炭化水素化合物が体内へ取り込まれたときに肝臓で生成されて尿中排泄されるからである。そのため、安息香酸を使用した清涼飲料水や安息香酸を含有している苺、李、プルーン、クランベリーなどを摂取した直後には尿中馬尿酸が増加する。

(3)適切である。塗料や接着剤には有機溶剤が使用されているので、業務上外にかかわらず尿中代謝物の測定結果に影響を与える。実務においても、まれにそのような例を経験することがある。

(4)適切である。飲酒したり肝疾患の罹患があったりすると、代謝酵素の活性が影響を受ける。このため、例えば、職業上でトルエン等にばく露していても、代謝の遅れのために、ばく露初期には代謝物濃度が低値となり、その後の減衰は遷延する。すなわち、同じようにばく露していても、ばく露の直後には尿中代謝物の濃度が低くなることがある。

(5)適切である。これはやや難問かもしれない。有機溶剤特殊健康診断の制度が始まったとき、尿試料の保存方法をどうするかが議論になったことがある。有機溶剤の尿中代謝物の中には、馬尿酸やメチル馬尿酸などの分解しやすいものがあるため、冷凍保存することが望ましいにもかかわらず、冷凍保存が難しいケースがあるからである。

なお、最近では保存剤などが開発されており、冷凍保存の問題はやや緩和されている。

2019年12月01日執筆 2020年04月18日修正