労働衛生コンサルタント試験 2016年 労働衛生一般 問03

石綿による健康障害とその防止対策




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合格

 このページは、2016年の労働安全衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2016年度(平成28年度) 問03 難易度 石綿による健康障害等に関する基本的な知識問題である。確実に正答できなければならない。
石綿による健康障害等

問03 石綿に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。

(1)石綿は、天然に産出する鉱物の一種で、耐熱性、耐薬品性及び絶縁性に優れている。

(2)建築物の吹付け石綿の除去の際には、作業場所に前室を設け、陽圧に保つ。

(3)吹付け石綿の除去作業では、電動ファン付き呼吸用保護具又はこれと同等以上の性能がある送気マスクなどを用いる。

(4)石綿小体は、胸膜プラークと同様、過去の石綿ばく露の重要な指標である。

(5)中皮腫による労災保険給付の支給決定件数は、平成23年度以降、500件を上回って推移している。

正答(2)

【解説】

(1)正しい。石綿の性質を表現している。

(2)誤り。石綿障害予防規則(以下「石綿則」という。)第6条は次のようになっている。吹き付け石綿の除去作業はいわゆるレベル1の作業であるが、作業場所に前室を設けて、負圧に保つようにする。従って、本肢は誤りである。

そもそも有害な化学物質の存在している場所は、外部へ漏洩させてはならないのであるから、その化学物質の拡散速度よりもはやい速度で空気が内部へ吸い込まれるようにしなければならない。そのためには内部を負圧にする必要がある。

前室は、外部と比較すれば石綿の存在している確率は高いのであるからそんな場所を陽圧にするはずがあるまい。

【石綿障害予防規則】

第6条 事業者は、次の各号のいずれかの作業に労働者を従事させるときは、次項に定める措置を講じなければならない。ただし、当該措置と同等以上の効果を有する措置を講じたときは、この限りでない。

 壁、柱、天井等に石綿等が吹き付けられた建築物又は船舶の解体等の作業を行う場合における当該石綿等を除去する作業

二及び三 (略)

 事業者が講ずる前項本文の措置は、次の各号に掲げるものとする。

一及び二 (略)

 石綿等の除去等を行う作業場所の出入口に前室、洗身室及び更衣室を設置すること。これらの室の設置に当たっては、石綿等の除去等を行う作業場所から労働者が退出するときに、前室、洗身室及び更衣室をこれらの順に通過するように互いに連接させること。

 石綿等の除去等を行う作業場所及び前号の前室を負圧に保つこと。

(3)正しい。石綿則第14条第1項により、正しい。

【石綿障害予防規則】

第14条 事業者は、石綿等の切断等の作業に労働者を従事させるときは、当該労働者に呼吸用保護具(第6条第2項第一号の規定により隔離を行った作業場所において、同条第1項第一号に掲げる作業に労働者を従事させるときは、電動ファン付き呼吸用保護具又はこれと同等以上の性能を有する空気呼吸器、酸素呼吸器若しくは送気マスクに限る。)を使用させなければならない。

(4)正しい。石綿小体とは、肺内に長期間滞留した石綿繊維の一部がフェリチンなどの鉄たんぱく質で覆われたものである。過去の石綿ばく露を推定する重要な指標となる。従って正しい。

なお、肺がんの発症リスクが、石綿にばく露されていない場合の2倍になるのは、石綿25[繊維/ml×年]のばく露量とされている。この量に相当すると判断すべき石綿小体の指標は、以下のとおりである。

① 乾燥肺重量1g当たりの石綿小体5,000本以上

② 乾燥肺重量1g当たりの石綿繊維200万本以上(繊維長5μm超)

③ 乾燥肺重量1g当たりの石綿繊維500万本以上(繊維長1μm超)

④ 気管支肺胞洗浄液(BALF)1ml当たりの石綿小体5本以上

⑤ 肺組織切片中の石綿小体(※)

※ 「肺組織切片中の石綿小体」とは、肺組織の薄切り試料の中に石綿小体が光学顕微鏡で確認された場合をいい、複数の肺組織切片を作製した場合にはそのいずれにも石綿小体が認められる必要がある。

石綿による健康障害の労災支給決定状況

図をクリックすると拡大します

(5)正しい。中皮腫による労災保険給付の請求件数、決定件数及び支給決定件数は、次表のようになっている(2021年6月公表(令和2年度の数値は速報値)まで)。

この表から分かるように中皮腫による労災保険給付の支給決定件数は、平成23年度以降、500件を上回って推移している。

かなり細かいことを問うているような気がするが、(2)が明らかに誤っているので問題としての難易度は低いと言ってよい。

  平23年度
2011年度
平24年度
2012年度
平25年度
2013年度
平26年度
2014年度
平27年度
2015年度
平28年度
2016年度
請求件数 579 587 593 561 578 595
決定件数 568 562 560 556 568 552
支給決定件数 543 522 529 529 539 540
  平29年度
2017年度
平30年度
2018年度
令元年度
2019年度
令2年度
2020年度
請求件数 571 649 677 617
決定件数 584 565 662 634
支給決定件数 564 534 641 608
2019年12月01日執筆 2021年09月20日最終修正