労働衛生コンサルタント試験 健康管理 2015年 問3

職場における心の健康障害防止対策




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 このページは、2015年の労働安全衛生コンサルタント試験の「健康管理(記述式)」問題の解説と解答例を示しています。

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 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2015年度(平成27年度) 問 3 職場における心の健康障害防止対策に関する基本的な知識を問う問題である。
メンタルヘルス対策
2018年10月21日執筆 2020年05月06日修正

問3 労働者700人の製造業の事業場において、35人の部署で新しい機械の設計を進めていたところ、2人がほぼ同時に「うつ状態」の診断で休業した。そこで、産業医が、休業者以外の33人の最近1か月間の勤務、生活などを聴取した結果は下表のとおりであった。なお、この事業場の所定労働時間は、8時30分から17時15分までである。

 

最小値あるいは最も早い時刻~

最大値あるいは最も遅い時刻

中央値
年齢 25歳~54歳 36 歳
勤務日の起床時刻 6時~7時45分 6時50分
   家を出る時刻 6時20分~8時10分 7時40分
   出社時刻 7時~8時30分 8時10分
   退社時刻 19時~24時30分 22 時
   帰宅時刻 20時30分~24時45分 22 時20分
   夕食の時刻 20時30分~25時 22 時30分
   就床時刻 23時30分~26時30分 24 時45分
平日の睡眠時間 4.5時間~7.8時間 5.5時間
休日の睡眠時間 5.0時間~13.8時間 7.5時間
朝食を食べない人 8人
疾病治療中の人 脂質異常症 9人、高血圧 4 人、Ⅱ型糖尿病 2人
その他の訴え

作業ミスが多い。居眠り運転をした。机上の照度が不足していた。

仕事が気になり眠れない。朝、出勤したくない日があった。

この部署の労働衛生に係る改善に関連して、以下の設問に答えよ。

  • (1)表から読み取れる労働衛生上の課題を具体的に五つ挙げ、合計100 字程度で説明せよ。

    • 【解説】
      1 統計の不備(問題点)
      表を見て、まず気付くことは労働時間についての記入がないことである。このため、あまり意味のない調査となっている。
      また、労働時間は労働者間の平均値や中央値を取ってもあまり意味はない。知りたいのは、ある時間以上の労働者の数や最も長い労働時間(最大値)なのである。もちろん、1月間の1日の労働時間の最大値をとっても意味はない。個々の労働者の1月間の平均値を調べて、その最大値を知ることには意味はあるが、全員についての1月間の最大値では、その最大値に該当する労働者が他の日には早く帰っている可能性があるので、あまり意味がない。
      この産業医の調査にやや問題があることが分かるが、それを言っても仕方がないので、表から分かることを記すしかないだろう。
      2 労働衛生上の課題
      (1)推測される労働時間
         先述したように、労働時間は調査していないが、推測される労働時間が長いとはいえる。はっきりしないが、所定労働時間が、8時30分から17時15分までということは、昼休みが45分で1日の所定労働時間は8時間と考えるのが自然であろう。
         すると、退社時間の中間値が22時ということは残業時間の中間値が、残業中の15分の休憩を除いて1日4時間30分になる。従って20日では90時間となる。これは中央値であるから、長い者では過労死ラインの100時間を超えているであろう。
         また7時に出社している者がいる。これは残業時間としてカウントされていない可能性があるが、実質的には残業時間であると考えられよう。
         さらにインターバル時間が少なくとも7時間25分より短いケースがあったことも明確である。これも問題と言えよう。
      (2)深夜勤務労働
         帰宅時間の中間値が22時であるから、22時以降の深夜勤務を行っている者が少なくとも半数いることになる。一方、全員が深夜勤務をしていると仮定すると、少なくとも半数の者は週に3日以上の深夜勤務があることとなる。これも労働衛生上の課題と言えよう。
      (3)睡眠時間その他生活習慣上の問題等
         そして、長時間労働と深夜勤務の結果として、睡眠時間が5.0時間に満たない職員がいる。このことは重要な問題といえよう。
         なお、日本産業精神保健学会編「精神疾患発症と長時間残業との因果関係に関する研究」(2004年)によれば、「4-5時間睡眠が1週間以上続き、かつ、自覚的な睡眠状態が明らかな場合は、精神疾患発症、特にうつ病発症の準備状態が形成されると考えることが可能と思われる」とされている。
         次に生活習慣として、朝食を食べない者が8名いることも問題であるさらに、脂質異常症9人、高血圧4人、Ⅱ型糖尿病2人という生活習慣病の者が多いが、これは長時間労働と相まって過労死や精神障害のリスクを高めているといえよう。
      (4)精神的な健康の問題
         作業ミスが多い・居眠り運転をした・仕事が気になり眠れない・朝、出勤したくない日があったなど、抑うつを伺わせる職員が存在しているが、精神障害発症のリスクがあると考えられよう。
      (5)作業環境上の問題
         机上の照度が不足していた。このような作業環境上の問題も、ストレスの原因となり得る。
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    • 【解答例】
      (1)推測される労働時間
         この職場では所定労働時間が8時30分から17時15分までとされているので、昼休みが45分で1日の所定労働時間が8時間と思われる。これを前提とするとかなりの長時間労働が行われていると考えられる。
         退社時間の中間値が22時であるから、残業時間の中間値は、残業中の15分の休憩を除いて1日4時間30分になる。従って20日では90時間となり、長い者では過労死ラインの100時間を超えていると考えられる。
         また7時に出社している者がいる。これは残業時間としてカウントされていない可能性があるが、実質的には残業時間であると考えられよう。
         さらにインターバル時間が7時間25分より短いケースがあったことも明確である。これも問題と言えよう。
      (2)深夜勤務労働
         帰宅時間の中間値が22時であるから、22時以降の深夜勤務を行っている者が少なくとも半数いることになる。一方、全員が深夜勤務をしていると仮定すると、少なくとも半数の者は週に3日以上の深夜勤務があることとなる。これも労働衛生上の課題と言えよう。
      (3)睡眠時間その他生活習慣上の問題等
         長時間労働と深夜勤務の結果として、睡眠時間が5.0時間に満たない職員がいる。このことは重要な問題である。
         また、朝食を食べない者が8名いることも問題であり、脂質異常症 9人、高血圧4人、Ⅱ型糖尿病2人という生活習慣病の者が多いことも問題であろう。
      (4)精神的な健康の問題
         作業ミスが多い・居眠り運転をした・仕事が気になり眠れない・朝、出勤したくない日があったなど、抑うつを伺わせる職員が存在している。
      (5)作業環境上の問題
         机上の照度が不足しているが、このような作業環境上の問題も、ストレスの原因となり得る。
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  • (2)休業した2人のうつ状態と業務との関係を明らかにするために調べるべき事項を具体的に八つ挙げ、合計200字程度で説明せよ。

    • 【解説】
      本問はやや意図が不明瞭ではあるが、要は精神障害の労働災害の認定基準である「心理的負荷による精神障害の認定基準」に従って、その内容を書けばよいこととなろう。
      なお、そもそも本問の「うつ状態」が認定基準の対象となる疾病かどうかであるが、認定基準の対象となる精神障害は、国際疾病分類第10回修正版(ICD-10)第5章「精神および行動の障害」に分類される精神障害であって、認知症や頭部外傷などによる障害やアルコール等による障害以外のものとされている。本問の場合の「うつ状態」は、気分(感情)障害と考えられると思われるのでとくに問題はないだろう。
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    • 【解答例】
      1 労働時間
      発病直前の3週間、1か月及び3か月の労働時間。
      2 仕事の裁量性の欠如
      過去6か月以内に「仕事が孤独で単調となった、自分で仕事の順番・やり方を決めることができなくなった、自分の技能や知識を仕事で使うことが要求されなくなった等」の出来事がなかったか。
      3 職場環境の悪化
      過去6か月以内に「騒音、照明、温度(暑熱・寒冷)、湿度(多湿)、換気、臭気の悪化等の職場環境の悪化」という出来事がなかったか。
      4 サポートの喪失、人間関係の問題
      過去6か月以内の状況として「仕事のやり方の見直し改善、応援体制の確立、責任の分散等、支援・協力がなされていない等の職場の支援・協力等(問題への対処等を含む)の欠如」がなかったか。
      パワハラ・セクハラ等の経験、上司・同僚とのトラブル、上司等の異動、昇進の遅れなどがなかったか。
      5 事故や災害の体験
      過去6月以内に、重度の病気やけがをしたことがなかったか、また悲惨な事故や災害の体験、目撃をしなかったか。
      6 仕事の失敗、過重な責任の発生、職場の状況の変化等
      過去6月以内に、業務に関して、重大な事故を起こしていないか、また重大な仕事上のミスをしたことはないかなど。
      昇進・昇格、部下の数の減少などがなかったか。
      7 仕事の量・質
      過去6月以内に、仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる 出来事がなかったか、2週間以上にわたって連続勤務を行うようなことはなかったか、勤務形態に変化がなかったかなど。
      8 業務以外の心理的負荷
      業務以外に心理的な負荷を生じる状況がなかったか。例えば、離婚などの夫婦のトラブル、妊娠、病気・けがなどをしなかったか。自分以外の家族の問題は起きなかったか、金銭的なトラブル、住環境の変化等がなかったかなど。
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  • (3)この部署に対するメンタルヘルスケアの原則的な実施方法のポイントを300字程度で説明せよ。

    • 【解説】
      解答例に示す通り。
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    • 【解答例】
      本部署に関しては、何よりも労働時間の軽減化を図ることが第一となる。労働時間の軽減化のためには、CADの導入などの生産性の向上や、不要不急な業務の削減、職場の意識改革なども重要である。しかし、本部署の場合、増員などの根本的な解決が必要と考えられ、予算や人事部門を含めた対応が求められる。
      また、全職員に対して、睡眠指導、食事指導などの保健指導を行うとともに、コーピングの方法や交流分析など、ストレスへの対処方法についての指導を行うことが重要となる。
      さらに、仕事が気になり眠れない、出勤したくない日があったなど、抑うつ傾向の者に対して専門医への受診を勧奨する必要もあろう。状況によっては、精神的面の健診命令を出すことも必要となる。
      最後に、休職した労働者の職場復帰への支援が重要となろう。
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  • (4)この部署で講ずべき生活習慣病対策を具体的に五つ挙げ、合計200字程度で説明せよ。

    • 【解説】
      やや意図がつかみにくい設問である。生活習慣病の「生活」には「職業生活」も含めて考えるべきであり、すでに(3)で回答している部分と重なるところがあるからである。しかし、脂質異常症、高血圧、Ⅱ型糖尿病及び抑うつ症に限定して回答するのは得策ではないように思える。
      ただ、本部署の生活習慣病対策としては、適度な運動、規則正しいバランスのとれた食事、十分な睡眠、ストレスの軽減が重要となろう。
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    • 【解答例】
      (1)規則正しいバランスのとれた食事への支援
      ① 職員が朝食を喫食するための労働時間の削減
      ② 夕食の時間を適切にするため、職場での喫食への対応
      ③ 栄養指導の実施
      (2)適度な運動
      ① 職員が適度な運動が可能となる労働時間の削減
      ② 運動指導の実施
      (3)睡眠指導
      ① 職員が十分な睡眠が可能となる労働時間の削減
      ② 睡眠指導の実施
      (4)ストレスへの対処
      ① 労働者のストレスへの気づきの支援
      ② ストレスコーピングのための指導
      (5)職場のストレスの軽減
      ① 仕事の量の削減
      ② 仕事の裁量性の拡大
      ③ 仕事上のサポート体制の充実
      ④ ストレスへの相談体制の整備
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  • (5)この部署に限らず、心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援のポイントを五つ挙げ、合計200字程度で説明せよ。

    • 【解説】
      筆者(柳川)は、職場復帰支援の手引きの平成21年改訂を主担当しているが、それでも職場復帰支援のポイントを5つと改めて言われると、さてなんだろうと思ってしまう。
      出題者の意図によって、正答も変わりかねないが、次のようなことであろうか。なお、(5)は外さないこと。
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    • 1 職場復帰プログラム等の制度・規定類の明確化
      本人が安心して休業・療養に専念できることが重要なので、関連制度等を明確にしておくこと。
      2 人事労務管理担当者との連携
      人事労務管理上の配慮のために人事労務管理担当者との連携が重要となること。
      3 主治医との連携・協力
      職場復帰への対応はケースごとに柔軟に行う必要があり、主治医との連携が重要となること。
      4 職場の理解
      同僚や管理監督者の理解を深める必要があるが、同僚等に過度の負担がかからないように配慮することも重要である。
      5 プライバシーの保護
      本人の健康情報や家族の状況に関する情報が重要であるが、プライバシーにも配慮する必要がある。
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