労働衛生コンサルタント試験 2015年 労働衛生一般 問21

化学物質の有害性




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 このページは、2015年の労働安全衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2015年度(平成27年度) 問21 難易度 化学物質の有害性に関するやや高度な知識問題。ただし、本問は実務に必要な知識を問うている。
化学物質の有害性

問21 化学物質の有害性などに関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。

(1)皮膚腐食性とは、皮膚に対する不可逆的な損傷を引き起こす性質をいう。

(2)遺伝子変異を誘発することで発がん性を示す物質では、通常、閾値が存在しないとの考え方から、リスク評価では実質安全量(VSD)が用いられている。

(3)感作性とは、感受性の強い人に対し、初回ばく露において特異的な反応を起こす性質をいう。

(4)生殖細胞変異原性とは、次世代に受け継がれる可能性のある突然変異を誘発し、次世代における疾患の原因となり得る性質をいう。

(5)発がん性とは、正常な細胞を自己増殖性の極めて強い異常な細胞に転化させる性質をいう。

正答(3)

【解説】

(1)正しい。皮膚への影響は、皮膚腐食性、皮膚刺激性、皮膚感作性があると覚えておく。本肢の記述は皮膚腐食性の説明として正しい。

なお、皮膚刺激性とは、試験物質の4時間以内の適用で、皮膚に可逆的な損傷を生じさせる性質をいう。試験対策としては、“腐食性⇒非可逆”、“刺激性⇒可逆”と覚えておく。これに対し、皮膚感作性とは化学物質の皮膚接触によってアレルギー反応を引き起こす性質をいう。

なお、産業衛生学会の許容濃度の勧告で「皮」と記されているのは、皮膚と接触することにより、経皮的に吸収される量が全身への健康影響または吸収量からみて無視できない程度に達することがあると考えられる物質である。皮膚への影響とは直接は関係がないので誤解しないこと。

(2)正しい。遺伝毒性は、重要な発がんメカニズムの1つである。DNAに作用しない非遺伝毒性発がん物質は一般に閾値があると考えられている。これに対して、DNA反応性を持つ遺伝毒性発がん物質と評価されたものは閾値が存在しないと考えられている。

そして、閾値があれば許容されるばく露量は閾値よりも低い値として設定する。閾値がなければ、使用を禁止するか、人の生涯リスクとして許容し得る確率となるように、ユニットリスクから実質安全量(VSD:Virtually Safe Doze)を計算する。

(3)誤り。感作とは抗原体反応で用いられる用語である。アレルギーのことだと考えればよい。ある抗原に対してばく露したことにより、その抗原に対して敏感な状態になり、その後で再びその抗原にばく露するとアレルギー反応が起きる。最初に抗原に遭遇してからアレルギーを獲得する準備期間がないとアレルギー反応は起きないので、初回ばく露で症状が現れることは、ほとんどない。本肢は、初回ばく露とされているのが誤っている。

(4)正しい。ヒト生殖細胞に経世代突然変異を誘発することが知られているか、又は経世代突然変異を誘発すると見なされている化学物質の性質を“生殖細胞変異原性”という。

(5)正しい。これは解説するまでもないだろう。

2019年12月01日執筆 2020年05月05日修正