労働衛生コンサルタント試験 健康管理 2014年 問4

一酸化炭素による健康障害の防止




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 このページは、2014年の労働安全衛生コンサルタント試験の「健康管理(記述式)」問題の解説と解答例を示しています。

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2014年度(平成26年度) 問 4 一酸化炭素による健康障害とその防止対策に関する基本的な知識を問う問題である。
一酸化炭素による健康障害
2020年05月27日執筆

問4 一酸化炭素(以下「CO」という。)及びそれによる健康障害とその防止に関し、以下の設問に答えよ。

  • (1)我が国のCO中毒による労働災害の発生状況について述べよ。

    • 【解説】
      本問はやや意地の悪い問題と言える。というのは、CO中毒による労働災害の発生件数は、公開されていないからだ。厚生労働省のサイト「化学物質による災害発生事例について」に個別事例がまとめられているが、これがすべてとは限らないようだ。
      平成27年8月18日基安化発0818第22号「一酸化炭素中毒による労働災害の発生状況等について」や平成28年12月6日基安化発1206第1号「一酸化炭素中毒による労働災害の発生状況等について」に、通達発出前の3年間の災害件数等がまとめられているが、「化学物質による災害発生事例について」にある件数とは一致していない。
      なお、この2つの通達をまとめると表のようになる。
      表 CO中毒による休業4日以上死傷災害
      平成24年 平成25年 平成26年 平成27年
      労働災害の発生件数(件) 30 35 20 36
      死傷者数(人) 43 58 35
      また、平成23年7月22日基安化発0722第2号「一酸化炭素中毒による労働災害の防止について」には「現在、我が国の化学物質による中毒の労働災害の発生状況をみると、一酸化炭素(以下「CO」という。)によるものが1~2割を占め、休業4日以上の被災労働者数は毎年30名以上で推移するなど、減少の傾向がみられないところである」とされている。
      これらの通達に示された数字で回答するしかないだろう。
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    • 【解答例】
      一酸化炭素による休業4日以上の労働災害は、近年は毎年20から40件程度発生し、30名から60名程度が被災している。
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  • (2)労働環境においてCOが発生する具体例(作業例)を三つ挙げよ。

    • 【解説】
      (1)の解説で示した厚生労働省のサイト「化学物質による災害発生事例について」の個別事例からまとめればよい。
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    • 【解答例】(3つ解答すればよいが①~⑤の中で選ぶのが無難だろう)
      労働環境において、COが発生する具体例としては、以下のようなものがある。
      ① 換気の悪い場所における内燃機関の使用
      ② 飲食店の厨房における調理器具の不完全燃焼
      ③ 狭隘な場所における炭酸ガスアーク溶接の使用
      ④ 高炉の修理作業などでの高炉ガスへのばく露
      ⑤ 寒冷地におけるコンクリートを養生するための練炭等
      ⑥ 事務所、休憩所等における換気を止めての暖房器具の使用
      ⑦ 換気の悪い場所におけるガス切断装置の使用
      ⑧ 食料品製造業等におけるフライヤー等の不完全燃焼
      ⑨ 還元ガスとして使用される一酸化炭素の漏洩
      ⑩ 燃料ガスとして使用される一酸化炭素の漏洩
      ⑪ 換気の悪い場所におけるガスを用いた乾燥設備の使用
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  • (3)CO中毒が発生しやすい原因となるCOの性状(物性)について述べよ。

    • 【解説】
      物性とは「物理的な性状」をいう。気体の場合、分子量や分子の大きさなどであるが、色や臭いなども含めて解答すればよいが、毒性や発生しやすさはここで答えるべきことではないだろう。
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    • 【解答例】
      COは、無色透明なガスであり、空気中の濃度が危険なレベルになっても気付きにくい。また、空気とほぼ同じ重さなので空気中に滞留しやすい。
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  • (4)COの毒性が発現する機序について説明せよ。

    • 【解説】
      厳密に言えば、CO中毒の機序は明確に分かっている訳ではないが、よく知られていることを書いておけばよい。MSDマニュアルプロフェッショナル版1)によると、以下のものが関与すると考えられるとされている。あとはどう答えるかだろう。
      ① ヘモグロビンからの酸素の置換(COはヘモグロビンに対して酸素より高い親和性を有するため)
      ② 酸素-ヘモグロビン解離曲線の左方シフト(酸素のヘモグロビンから組織への遊離の低下— 酸素解離曲線
      ③ ミトコンドリア呼吸の阻害
      ④ おそらく脳組織への直接的な毒性作用
      1)MSDマニュアルプロフェッショナル版「一酸化炭素中毒
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    • 【解答例】
      COは、血液中のヘモグロビンと結合して、カルボキシヘモグロビン(COHb)を形成する。COのヘモグロビンやミオグロビンとの親和性は、酸素の270倍程度(ミオグロビンとの親和性は220倍程度)あるため、COの濃度が酸素より低くてもヘモグロビンは酸素と結合せずに一酸化炭素と結合してしまう。
      また、COの濃度上昇により、酸素解離曲線が右へシフトする(P50が上昇する)ため、ボーア効果によりヘモグロビンは酸素を離しやすくなる。
      このため、ヘモグロビンはCOと結合して、酸素の運搬能力が減少し、臓器の低酸素状態を生じる。
      この他、COが、直接細胞に働いて、免疫・炎症性メカニズムによる障害を発生させることが近年になって分かってきている。
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  • (5)急性CO中毒の症状を五つ挙げよ。

    • 【解説】
      波呂1)によると、CO中毒の急性症状は「低酸素に感受性の強い、心臓や脳等に症状が現れやすく、重症になると、その他の臓器障害も認める。低酸素の程度、暴露状況、年齢、基礎疾患により症状もさまざま である」とし、以下に示すようなものとされている。この中から、5つ選んで解答すればよいだろう。
      1 軽症
      悪心、嘔吐、眩暈、頭痛、倦怠感、疲労、息切れ、視野障害
      2 中等症 COHb10-25%
      強い頭痛、眩暈、悪心、嘔吐、失神、頻脈頻呼吸、それに続く徐脈徐呼吸、顔面紅 潮、チアノーゼ、注意力、思考力の低下、反応性鈍麻、視力障害、運動失調、耳鳴り、 傾眠、幻覚、心血管障害、横紋筋融解症
      3 重症 COHb20%以上を示す事が多い
      痙攣、錯乱、見当識障害、失禁、手掌・足底の水泡、心機能障害、心室性不整脈、 循環障害低血圧、ショック、肺水腫、呼吸不全、意識消失、昏睡、死亡
      なお、解答例はモデルSDSの一酸化炭素の項目から記した。
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    • 【解答例】
      急性CO中毒の症状としては、錯乱、めまい、頭痛、吐き気、意識喪失などがある。
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  • (5)CO中毒を防止するために必要な基本的事項を5項目に分けて説明せよ。。

    • 【解説】
      これは、(1)の解説でも触れた平成23年7月22日基安化発0722第2号「一酸化炭素中毒による労働災害の防止について」に「1 基本的事項」として5項目が示されている。出題者は、おそらくこれを答えて欲しかったのだろう。解答例にはそれをそのまま記した。
      ただ、基本的事項を5つ挙げろと言われて、このような解答ができるかはやや疑問もある。
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    • 【解答例】
      1 労働衛生管理体制
      作業責任者の選任、作業手順書の作成と遵守
      2 作業管理
      作業開始前の燃焼装置等の点検、作業中の換気、CO 警報センサーの携帯、呼吸用保護具の使用、異常時の措置
      3 作業環境管理
      濃度測定の実施、換気装置の性能確保
      4 健康管理
      健康診断又は健康測定の実施
      5 労働衛生教育
      雇入れ時及び作業内容変更時等あらゆる機会を活用した計画的かつ継続的な教育の実施
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