労働衛生コンサルタント試験 2014年 労働衛生一般 問21

化学物質の有害性試験




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 このページは、2014年の労働安全衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2014年度(平成26年度) 問21 難易度 化学物質の有害性試験に関するやや高度な知識問題である。一般の受験生には難問だろう。
化学物質の有害性試験

問21 化学物質の有害性の調査に用いられる「微生物を用いる変異原性試験」及び「ほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験」に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。

(1)「微生物を用いる変異原性試験」は、がん原性の予測に用いられる。

(2)「ほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験」は、がん原性の予測に用いられる。

(3)「微生物を用いる変異原性試験」及び「ほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験」のいずれの試験も代謝活性化の系を導入することにより、代謝されて初めて活性を示すような化学物質の変異原性も検出可能である。

(4)「ほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験」では、染色体の構造異常と倍数体等の出現頻度を調べる。

(5)「ほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験」には、ラットの神経細胞が用いられる。

正答(5)

【解説】

(1)正しい。「微生物を用いる変異原性試験」は、Ames教授らが開発したことから一般にAmes試験と呼ばれる発がん性をスクリーニングする試験である。安衛法でも新規化学物質の毒性試験として用いられる。

遺伝子組換えで突然変異を起こしやすく変異させたサルモネラ菌や大腸菌の寒天培地に試験物質を作用させ、突然変異を引き起こしたコロニー数で変異原性の強さを調べる。この試験で陽性の結果が出れば、DNAとの反応性があることを示しているため、発がん性のスクリーニングとして用いられる。

(2)正しい。「ほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験」も、発がん性のスクリーニングに広く用いられる試験で、安衛法ではAmes試験で強い陽性を示した物質に対して行う。

ほ乳類の培養細胞に化学物質を加え、染色体の構造異常や数的異常を計測して染色体異常の誘発性の有無を調べる試験である。染色体異常を誘発する作用を調べることから、発がん性のスクリーニングとして用いられる。

(3)正しい。化学物質の発がん性は、それ自体が直接作用する場合のみならず、肝臓などに存在する薬物代謝酵素によって代謝活性化されて、その代謝物が作用する場合がある。

例えば、ベンゾピレンは、それそのものは変異原性がないが、代謝によって変異原性を有する物質に変化する。そこでげっ歯類の肝臓の抽出物を被験物質に加えて代謝活性化させることによって試験を行うのである。

なお、代謝活性化を導入する場合、試験化学物質に対して、代謝物のばく露量が適切でなければならないことはいうまでもない。

(4)正しい。(2)で解説した通り、「ほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験」では、染色体の構造異常と倍数体等の出現頻度を調べる。

(5)誤り。「ほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験」では分裂中期の細胞の染色体像を顕微鏡下で観察するが、そもそも神経細胞は細胞分裂をしないので、染色体異常試験に用いることはできない。通常は、チャイニーズハムスター肺細胞(CHL細胞)が用いられることが多い。

なお、平成9年9月29日基発第652号「ほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験による検査の基準及びほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験結果報告書様式の改正について」の別添1には、「試験に用いる細胞は、チャイニーズ・ハムスター線維芽細胞株、ヒト末梢リンパ球又はその他のほ乳類培養細胞の初代、継代若しくは株細胞とする」とされている。

2020年05月23日執筆