労働衛生コンサルタント試験 2014年 労働衛生一般 問06

酸素欠乏症及び硫化水素中毒




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合格

 このページは、2014年の労働安全衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2014年度(平成26年度) 問06 難易度 酸素欠乏症及び硫化水素中毒に関する基本的な知識問題。確実に正答できるようにしたい。
酸素欠乏/硫化水素中毒

問06 酸素欠乏症、硫化水素中毒及びそれらの予防等に関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。

(1)酸素欠乏にもっとも敏感な部位は脳である。

(2)酸素欠乏危険場所の作業環境測定は、測定者の他、補助者の監視の下に実施すべきである。

(3)上層に不透水層があり、含水の少ない砂れき層に接する井戸の内部は酸素欠乏危険場所である。

(4)硫化水素は硫黄酸化菌の作用で生成される。

(5)硫化水素は、約 700 ppm 以上の濃度では頸動脈小体の化学受容器を刺激し、呼吸麻痺を引き起こす。

正答(4)

【解説】

(1)適切である。脳は体内全体の酸素の消費量の約25%を占め、その一方で筋肉のような酸素を蓄える機能もない。そのため、酸素の血液からの流入の欠乏に、きわめて敏感な器官でもある。

岩崎1)は、「人工呼吸等の蘇生処置で助かった場合でも、酸素欠乏状態が強いほど、また救出に要する時間が長いほど、特に脳に対するダメージが大きくなります。それにより、後遺症として、言語、運動、視野、麻痺、幻覚、健忘などの障害が残ることがあります」と警告している。

(2)適切である。昭和57年6月14日基発第407号「労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令及び酸素欠乏症防止規則等の一部を改正する省令の施行等について」によれば、酸素欠乏危険場所の作業環境測定は、「必ず測定する者の監視を行う者を置いて行わなければならないこと」とされている。

(3)適切である。安衛令別表第6第一号(イ)により、上層に不透水層があり、含水の少ない砂れき層に接する井戸の内部は酸素欠乏危険場所となる。

【労働安全衛生法施行令】

別表第6 酸素欠乏危険場所(第6条、第21条関係)

 次の地層に接し、又は通ずる井戸等(井戸、井筒、たて坑、ずい道、潜函、ピツトその他これらに類するものをいう。次号において同じ。)の内部(次号に掲げる場所を除く。)

 上層に不透水層がある砂れき層のうち含水若しくは湧水がなく、又は少ない部分

ロ~ホ (略)

二~十二 (略)

【酸素欠乏症等防止規則】

(定義)

第2条 この省令において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

一~五 (略)

 酸素欠乏危険作業 労働安全衛生法施行令(昭和四十七年政令第三百十八号。以下「令」という。)別表第六に掲げる酸素欠乏危険場所(以下「酸素欠乏危険場所」という。)における作業をいう。

七及び八 (略)

(4)適切ではない。硫黄酸化菌は文字通り硫黄を酸化する働きをする。そのため、硫化水素その他の悪臭物質に対する脱臭への応用が研究されている2)

「硫黄酸化菌」という名称でも分かるだろうが、硫黄を酸化して硫化水素が生成されるわけがない。水素と結びつくのは酸化ではなく還元である。

(5)適切であるとしておく。動脈血中の酸素分圧(PaO2)は大動脈小体と頸動脈小体で感知されている。これが延髄の呼吸中枢を刺激して換気を促進させる。また、げっ歯類で頸動脈小体における硫化水素濃度を上昇させると、頸動脈小体の神経活動が促進されるとの報告がある3)

硫化水素が約700ppm以上の濃度で頸動脈小体の化学受容器を刺激するという根拠は見当たらなかったが常識的には正しいだろう。しかし、頸動脈小体の化学受容器を刺激されることによって呼吸麻痺を引き起こすとは考えにくい。

だが、硫化水素が約700ppm以上の濃度になれば呼吸麻痺を引き起こすことは正しいとしてよい。(4)が明らかに誤っているので、本肢は適切であるとしておく。読者諸賢のお知恵をお借りしたいので、掲示板を利用してご教示いただければありがたい。

  1. 1)岩崎明夫「酸素欠乏症とその対策」(産業保健21 2014.4)
  2. 2)新田実他「硫黄系悪臭の生物脱臭と硫黄酸化細菌」(1994年)
  3. 3)Guoxiang Yuan et al.「H2S production by reactive oxygen species in the carotid body triggers hypertension in a rodent model of sleep apnea」(Sci. Signal. 16 Aug 2016:Vol. 9)
2020年05月18日執筆