労働衛生コンサルタント試験 健康管理 2013年 問1

化学物質管理 有機溶剤業務の労働災害防止




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 このページは、2013年の労働安全衛生コンサルタント試験の「健康管理(記述式)」問題の解説と解答例を示しています。

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 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2013年度(平成25年度) 問 1 有機溶剤業務における労働衛生対策等について基本的な知識を問う問題である。
有機溶剤業務
2021年04月03日執筆

問1 ビルの外壁に沿って足場を組んで外壁の塗装を行うことがある。このような屋外作業場において、トル工ンやキシレンなどの有機溶剤を使う作業状況に関し、以下の設問に答えよ。

  • (1)この作業場で塗装作業に従事していた作業員が、頭痛・吐き気の症状を訴え、ふらついて倒れた。この健康悪化の原因は有機溶剤にあると推察されるが、このような急性症状を有機溶剤の性質に基づいて150字程度で説明せよ。

    • 【解説】
      本問は、「有機溶剤の性質に基づいて」「急性症状を説明せよ」となっている。急性症状がでる理由(中毒を起こしやすい理由)を有機溶剤の物理的性質に基づいて説明せよと言うのか、有機溶剤による症状そのものを有機溶剤の性質に基づいて説明せよと言うのか、どちらともとれる表現である。
      常識的には後者であろうが、前者の可能性もあるので、保険をかけておく(前者についても言及する)必要がある。
      なお、有機溶剤は空気よりも比重が高いため、工場内では床付近に滞留して高濃度となる原因となることがあるが、本件のような塗装のケースでは、やや考えにくい。近隣からの苦情を避けるために足場の周囲を覆うことがあり、空間内に滞留して蒸気の濃度が高くなった可能性があるが、そこまで書く必要はないだろう。
      下記の解答例で173文字である。
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    • 【解答例】
      有機溶剤は、揮発性が高いため、気化して蒸気となって気中に発散しやすく、作業者が吸入して急性中毒となりやすい。また、塗料に直接触れると、有機溶剤は脂溶性が高いため、経皮吸収されることがあり、これによって健康影響を受けることがある。
      体内でも脳は脂肪が多いため、脂溶性の高い有機溶剤が溶け込み、頭痛・吐き気の症状を訴え、ふらついて倒れたものと思われる。
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  • (2)有機溶剤の体内への取り込み量を調べる手段としてバイオロジカルモニタリング(生物学的モニタリング)がある。
    ① バイオロジカルモニタリングについて100字程度で説明せよ。

    • 【解説】
      バイオロジカルモニタリング(生物学的モニタリング)とは、一言で言えば、対象者の尿、血液、呼気中の有害な化学物質又はその代謝物の濃度を測定することにより、対象者がその有害物にどの程度ばく露していたかを推計する手法である。
      対象者のばく露量そのものを推定できるほか、すべての経路(呼吸器、消化器、皮膚)からのばく露を把握でき、保護具の効率も評価できるというメリットがある。
      一方、この手法によってばく露量の推定ができる化学物質はそれほど多くなく、ばく露してから測定までに時間がかかると正確な値が出ない、対象となる化学物質以外の食品の影響を受けるなどの課題も存在している。
      わが国でも、一部の化学物質について、特殊健康診断項目にこの手法が取り入れられている。
      下記の解答例で114文字である。
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    • 【解答例】
      バイオロジカルモニタリングとは、対象者の尿、血液、呼気中の有害な化学物質又はその代謝物の濃度を測定することにより、対象者がその有害物にどの程度ばく露していたかを推計する手法である。
      安衛法での特殊健康診断項目にこの手法が取り入れられている。
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  •   ② トルエンとキシレンを比較しながらバイオロジカルモニタリングの指標について200字程度で述べよ。

    • 【解説】
      トルエンもキシレンも芳香族有機溶剤であり、生体内運命はそれほど違いがあるわけではない。以下に示すように、トルエンの指標は馬尿酸、キシレンの指標はメチル馬尿酸が用いられる。
      トルエンは、吸収されやすい物質であり、呼吸器、消化器、皮膚のいずれの経路によっても吸収され、脳や肝臓などの脂質中に分布・蓄積される。吸収されたトルエンの約 20%は呼気中に未変化体として排泄される。残りは肝臓で P450 により代謝され、ベンジルアルコール及びベンズアルデヒドを経て安息香酸を生成する。安息香酸はグリシンと抱合して、馬尿酸になり、尿中に排泄される。
      キシレンも、同様に呼吸器、消化器、皮膚のいずれの経路によっても吸収され、脳や肝臓などの脂質中に分布・蓄積される。代謝・排泄は、メチル基が参加されてグリシンと結合してメチル馬尿酸となって尿中に排出される。呼気中に未変化体として排出されるのは5%程度である。
      トルエンと鉛のように生体内運命が大きく異なるものを比較しながらというなら、答えは書きやすい。しかし、トルエンとキシレンは生体内運命が似通っているので、解答はかなり慎重に書く必要があろう。
      なお、以下の表は試験までに覚えておくこと。
      物質名 検査内容
      トルエン 尿中馬尿酸
      キシレン 尿中メチル馬尿酸
      スチレン 尿中マンデル酸
      テトラクロルエチレン 尿中トリクロル酢酸又は総三塩化物
      1.1.1-トリクロルエタン 尿中トリクロル酢酸又は総三塩化物
      トリクロルエチレン 尿中トリクロル酢酸又は総三塩化物
      N.N-ジメチルホルムアミド 尿中N-メチルホルムアミド
      ノルマルヘキサン 尿中ヘキサンジオン
      血液中鉛、尿中デルタアミノレブリン酸
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    • 【解答例】
      トルエンもキシレンも芳香族有機溶剤であり、人体に吸収されやすいという特性がある。生体からの排出は、次のようになる。
      ① トルエンは、肝臓で P450 により代謝され、ベンジルアルコール及びベンズアルデヒドを経て安息香酸を生成する。安息香酸はグリシンと抱合し、馬尿酸になり、尿中に排泄される。
      ② キシレンはメチル基が参加されてグリシンと結合してメチル馬尿酸となって尿中に排出される。
      このため、トルエンの指標は馬尿酸、キシレンの指標はメチル馬尿酸が用いられる。
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  • (3)作業環境管理の一環として作業環境測定がある。作業環境測定における1)測定、2)評価の方法、3)評価後の措置について、①屋内作業場の場合と②屋外作業場の場合とを対比して500字程度で述べよ。(個別の細かな測定方法、測定頻度、測定点の数、測定時間等についての記述は不要)。

    • 【解説】
      安衛法においては、屋外における作業環境測定は想定されていない。屋外で測定を行っても天候(風力、気温、周辺状況)によって結果が左右されるため、あまり意味がないと考えられているのである。
      しかし、屋外作業における作業環境管理をどうするかについては、「屋外作業場等における作業環境管理に関するガイドライン」(平成17年3月31日基発第0331017号)が示されており、その中で屋外における測定についての考え方が示されている。
      従って、通常の屋内の作業環境測定の考え方と、このガイドラインの考え方を対比して答えればよいものと思われる。
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    • 【解答例】
      1)測定
      ① 屋内作業場においては、作業場の場の管理を目的として、作業場内の平均的な濃度を測定するA測定と、作業者が移動すると考えられる範囲内で最も濃度が高くなる場所・時間帯の濃度を測定するB測定がある。
      ② 屋外作業場においては、自然環境の影響を受けやすいため作業環境が時々刻々変化することが多いことから、個人サンプラー(個人に装着することができる試料採取機器)を用いて作業環境の測定を行う。
      2)評価の方法
      ① 屋内作業場においては、A測定の結果から第一評価値(単位作業場所において考え得るすべての測定点の作業時間における気中有害物質の濃度の実現値のうち、高濃度側から五%に相当する濃度の推定値)及び第二評価値(単位作業場所における気中有害物質の算術平均濃度の推定値)を算定し、これらの値とB測定の結果から、作業場の作業環境を第一管理区分から第三管理区分に分類する。
      ② 屋外作業場においては、作業環境の測定の結果の評価は、各測定点ごとに、測定値と管理濃度等とを比較して、測定値が管理濃度等を超えるか否かにより行う。
      3)評価後の措置
      ① 第三管理区分の作業場は作業環境を改善にして、第二管理区分又は第一管理区分としなければならない。第ニ管理区分の作業場は第一管理区分となるように努める必要がある。
      ② 屋外作業場において、評価の結果、測定値が管理濃度等を1以上の測定点で超えた場合には、ただちに作業環境を改善するため必要な措置を講じ、その場所の測定値が管理濃度等を超えないようにする。必要な措置が講じられるまでは労働者に有効な呼吸用保護具を使用させる等の措置をとる。
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  • (4)屋外作業場の場合の作業環境測定や評価の方法が屋内作業場とは異なる理由について100字程度で述べよ。

    • 【解説】
      これは、ガイドラインに書かれていることをそのまま記せばよいであろう。
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    • 【解答例】
      屋外作業場等については、自然環境の影響を受けやすいため作業環境が時々刻々変化することが多く、また、作業に移動を伴うことや、作業が比較的短時間であることも多いことから、屋内作業場等で行われている定点測定を前提とした作業環境測定を用いることは適切でない。
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  • (5)健康障害防護措置として呼吸用保護具の使用がある。有機溶剤使用時における防毒マスクの使用に関して留意すべき点を箇条書きで述べよ。

    • 【解説】
      平成17年2月7日基発第0207007号「防毒マスクの選択、使用等について」に防毒マスクの使用に当たっての留意事項が記されている。本問の趣旨は、これを問うものであろう。
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    • 【解答例】
      (1)防毒マスクは、酸素濃度18%未満の場所では使用してはならないこと。このような場所では給気式呼吸用保護具を使用させること。
      (2)防毒マスクを着用しての作業は、通常より呼吸器系等に負荷がかかることから、呼吸器系等に疾患がある者については、防毒マスクを着用しての作業が適当であるか否かについて、産業医等に確認すること。
      (3)防毒マスクを適正に使用するため、防毒マスクを着用する前には、その都度、着用者に、破損・変形の有無、密着性、気密性、吸収缶の状態等について点検を行わせること。
      (4)防毒マスクの使用時間について、作業場所における空気中に存在する有害物質の濃度並びに作業場所における温度及び湿度に対して余裕のある使用限度時間をあらかじめ設定し、その設定時間を限度に防毒マスクを使用させること。
      (5)防毒マスクの使用中に有害物質の臭気等を感知した場合は、直ちに着用状態の確認を行わせ、必要に応じて吸収缶を交換させること。
      (6)一度使用した吸収缶は、破過曲線図、使用時間記録カード等により、十分な除毒能力が残存していることを確認できるものについてのみ、再使用させること。ただし、メタノール、二硫化炭素等破過時間が試験用ガスの破過時間よりも著しく短い有害物質に対して使用した吸収缶は再使用させないこと。
      (7)防毒マスクを適正に使用させるため、顔面と面体の接顔部の位置、しめひもの位置及び締め方等を適切にさせること。また、しめひもについては、耳にかけることなく、後頭部において固定させること。
      (8)着用後、防毒マスクの内部への空気の漏れ込みがないことをフィットチェッカー等を用いて確認させること。
      (9)①タオル等を当てた上から防毒マスクを使用する、②面体の接顔部に「接顔メリヤス」等を使用する、③着用者のひげ、もみあげ、前髪等が面体の接顔部と顔面の間に入り込んだり、排気弁の作動を妨害するような状態で防毒マスクを使用するなどの着用を行わせないこと。
      (10)防じんマスクの使用が義務付けられている業務であって防毒マスクの使用が必要な場合には、防じん機能を有する防毒マスクを使用させること。
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  • (6)作業環境測定や呼吸用保護具のほかに、このような状況における作業において安全衛生上留意すべき点を箇条書きで述べよ。

    • 【解説】
      本問は建設業における有機溶剤予防対策に関するものであり、「建設業における有機溶剤中毒予防のためのガイドラインの策定について」によって解答すればよい。
      ただし、このガイドラインには、経皮ばく露対策が記されていないので、これを漏らさないこと。また、MSDSとあるのは、SDSと修正すること。
      なお、問題文が「安全衛生」となっていることから、爆発火災防止対策(火気の使用禁止など)、墜落防止対策(有機溶剤を吸入してふらついて墜落することがあるので、墜落制止用器具を着用させる)など安全面についても、書いておいた方がよい。
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    • 【解答例】
      1 作業主任者を選任し、作業手順書を作成させて、これに基づいて作業者を指揮させること。
      2 工事の一部を請負人に請け負わせている場合は、関係請負人に対する労働衛生指導を適切に行うこと。
      3 作業開始前における管理として以下のことを行うこと。
      イ 危険有害性が少ないことが明確な有機溶剤等を選択すること
      ロ 使用する工具の破損及び機会設備の故障がないか確認すること
      ハ 経皮ばく露を防止するための保護具(化学手袋等)を適切に選択すること
      ニ 経皮ばく露を防止するための保護具が人数分揃っていることをを確認すること
      ホ 経皮ばく露を防止するための保護具に破損がないか確認すること
      ヘ 経皮ばく露を防止するための保護具が適切に管理されているか確認すること
      ト 有機溶剤等の危険有害性を周知徹底すること
      4 作業中の管理として以下のことを行うこと。
      イ 経皮ばく露を防止するための適切な保護具を使用させること
      ロ 労働者が有機溶剤に直接ばく露されないようにすること
      ハ 作業手順書に従って作業を行うこと
      5 作業終了後における管理として以下のことを行うこと。
      イ 残存する有機溶剤等の容器及び空容器は作業を行った日ごと持ち帰ること
      ロ 残存する有機溶剤等の容器及び空容器を保管する場合は密閉した上で専用の保管場所に保管すること
      ハ 経皮ばく露を防止するための保護具を適切に管理しておくこと
      6 SDS等により使用する有機溶剤等の危険有害性を確認すること。
      7 雇入れ時の健康診断、定期健康診断及び有機溶剤に係る健康診断を実施すること。
      8 新たに有機溶剤を用いる業務に従事する労働者(労働者の作業内容の変更を行った場合を含む。)に対して有機溶剤に含まれる化学物質の危険有害性、健康管理、作業管理の方法、作業環境管理の方法、換気設備の使用方法、呼吸用保護具等の保護具の使用方法、関係法令等について特別教育に準じた教育を行うこと。
      9 有機溶剤等を用いる業務に従事する労働者に対して、機会あるごとに有機溶剤の危険有害性、換気設備の使用方法及び呼吸用保護具等の保護具の使用方法等について教育を行うこと。
      10 有機溶剤等による爆発火災事故を防止するため、火気の使用等を禁止すること。
      11 問題文にある足場が抱き足場、一側足場の場合、有機溶剤を吸入してふらついて墜落することがあるので、墜落制止用器具を着用させること。
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