様々な危険要因による死亡者数は、我々が感じる「恐怖感」の大きさと必ずしも一致しません。もちろん、死者数だけで、様ざまなリスクのレベルが評価できるものではありません。
各種の危険要因に対処するためには、その危険性の大きさを正しく知る必要があります。そして、各種の危険要因のリスクの大きさの評価手段の一つとして死者数は有効なファクターとなります。
本項では、各種の危険要因による死者数について解説しています。
1 様々な原因(事故等)による死者数
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政府の統計による様々な原因による死者数をまとめてみた。なお、死者の定義が統計によって異なっており、単純に比較できるものではない。あくまでも「この程度」という感覚で見て欲しい。また、それぞれの死者には重複があり得ることをお断りしておく。
※ 肺炎(人口動態統計)
自殺者数(警察庁統計)
家庭内における主な不慮の事故(人口動態統計)
交通事故(警察庁発表資料)
火災(総務省報道発表資料)
労働災害(厚生労働省発表資料)
水難(令和4年における水難の概況/警察庁生活安全局生活安全企画課)
他殺(人口動態統計)
食中毒(令和4年食中毒発生状況の概要について/厚生労働省医薬・生活衛生局食品監視安全課)
なお、これらの死者数は年によってかなり変動する。できるだけ同じ年のものを示したかったので、2023 年のデータがある場合でも、2022 年の一年間の数値を示している。
ただし、「喫煙」及び「受動喫煙」の数値については各年ごとのデータは存在していないので、各種の研究による推定値を挙げていることをお断りしておく。
2 新型コロナによる死者数はどうなっているか
前項の表及び次図の「肺炎」による死者は新型コロナウイルスへの感染は含まれていない。因みに 2022 年の新型コロナによる死者数は、38,881 名(厚生労働省のWEBサイトによる)であり、従来型肺炎や、喫煙による死亡リスクに比べればかなり低いものの、自殺や家庭内の不慮の事故よりもかなり多い(※)ことが分かる。
※ 2023 年の新型コロナによる死者数は、現時点では公表されていないが、2022 年よりは下回るにせよ、2020 年の死者数を大きく上回るもの思われる。
もちろん、新型コロナの場合であっても、過度の対策を行って別なリスクが出るような愚は避けなければならない(※)。しかし、コロナウイルスによる感染のリスクは、死亡のみならず後遺症の残る者が多数あることも事実である。単純に死亡災害だけで、そのリスクを判断するべきものではない。
※ 5類になったからと言って、必要な対策は取るべきである。人込みの中ではマスクは着用するべきであるし、不要不急の人込みへの外出を避けることや、手洗い等の履行などの基本的な対策をとることは重要である。リスクを軽視するべきではない。
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※ 肺炎、インフルエンザ、自殺、他殺、交通事故及び家庭内における不慮の事故は「人口動態統計」より。火災は「総務省報道発表資料」より。労働災害は「厚生労働省発表資料」より。水難は「警察庁生活安全局生活安全企画課公表資料より。食中毒は、厚生労働省医薬・生活衛生局食品監視安全課の「食中毒発生状況の概要について」より。熊害は、2008年以降は環境省の「クマ類による人身被害について [速報値]」、2007年以前は「クマ類の出没対応マニュアル(改訂版)」より。新型コロナは内閣官房の新型コロナウイルス感染症対策のサイトに公開されている各日の死者数の累計から算出した。
なお、労働災害については、新型コロナウイルスへの罹患によるものを含んでいない。
また、最新年の数値には、一部、確定していない数値(概数)となっているものがある。
3 労働災害のリスクをどう捉えるべきか
冒頭に挙げた表を見ると、家庭は職場より危険だと思われるかもしれない。もちろん、そのような即断は誤りである。
- そもそも、労働災害の母集団は労働者のみであるが、他の死因は国民全体である。従って、同じ人口当たりでは、労働災害発生件数は数倍程度になる。
- 他の死因には、高齢者や乳幼児など、死亡リスクの高いグループが含まれるが、労働者は事故に遭いにくい青壮年のみでこれだけの死者が出ている。
- 他の災害は本人があえてリスクのある行動をとったことに起因するものもあるが、労働災害は必ずしもそうではない。
3番目について説明を加えると、例えば水難は自らダイビングなどの危険な行為を行ったことによるケースもあり、一方、労働災害は強制されたリスクである。後者のリスクは前者のリスクよりも低くなければならないのである。
死者数だけから、その対策にかけるコストの大小を決めることは正しいことではない。労働災害防止対策にかけるコストは、交通事故対策にかけるコストよりも3分の1程度で良いということにはならないのである。
4 最後に=正しく恐れるということ
冒頭に、様々な災害発による死亡者数をお示ししたが、どのような印象を受けられるだろうか。もちろん、死者数だけで、様ざまなリスクが分かるというものではないが、普段、我々が考える「危険性」よりも死者数から受ける印象は異なるだろう。
危険と言うものは、もちろん恐れる必要がある。危険を軽視するべきではない。それは、誰にでも起こり得ることなのだ。
しかし、恐れすぎることも、恐れなさすぎることも正しい態度ではない。危険は、正しく恐れる必要がある。これこそがリスク管理の第一歩なのである。