人権感覚の欠如は企業のリスクとなる




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炎上して困る

※ イメージ図(©photoAC)

インターネットが大きな影響力を持つ現代社会において、人権問題による炎上が企業のリスクとして無視できないものとなっています。

人権問題とは思わずに行ったことが大きく炎上することもあり、またSNS等で従業員が人権問題を引き起こして会社に問題が降りかかることもあります。

企業としても、また社員に対しても人権感覚を磨くことが企業としても重要となっています。




1 人権問題で企業が炎上問題を起こす2つのパターン

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(1)意図的なヘイトを行うケース

ヘイトスピーチ

企業が引き起こした最初の炎上事件としては、PCデポの問題がよく知られている。この事件では同社は、炎上後に株価が半額程度まで急低落した(※)。この事件は、高齢者相手に必要とは思えないような契約をし、家族が解除しようとしたところ高額の解約料を請求したというもので、ネット上で世間の批判を浴びたケースであった。

※ 吉野 ヒロ子「炎上する社会-企業広報、SNS公式アカウント運営者が知っておきたいネットリンチの構造」(弘文堂 2021年)

人権に絡んで炎上を引き起こしたケースとしては、ロフトバレンタイン広告事件(※1)、AGF卒牛式ムービー事件(※2)、タカラトミー勝手に暴露事件(※3)などがある。人権問題で炎上を起こす企業の行動には、2つのパターンがあるように思う。

※1 HUFFPOST2019年02月02日「ロフトのバレンタイン広告が物議で取り下げに。 「女は陰湿という考えが透けて見える」「なんの意図?」」など

※2 日経ウーマンオンライン2015年10月13日「容姿差別?セクハラ?「牛の擬人化CM炎上」のワケ」など

※3 PRESIDENT Online2020年11月06日「タカラトミー「リカちゃん」炎上に学ぶ、致命的なNG投稿と話題になる投稿の紙一重の違い」など

ひとつは、あからさまなヘイトを行う事例である。アパホテルの社長が、南京大虐殺や慰安婦問題をねつ造だとする著書を客室に置いたケースや、最近ではDHC会長が在日韓国・朝鮮人に対する差別的な文章をネットにアップした事件などがある。

DHC事件では不買運動が広がり(※1)、地方自治体の中には同社との関係を見直すケースも続出した(※2)

※1 AFP2020年12月17日「DHC会長、人種差別的文章を掲載 不買運動広がる」など

※2 毎日新聞2021年6月23日「DHC会長の差別文章 動いた関係自治体と取引先 効果と限界も」、BUZZ Feed JAPAN2021年6月23日「DHC会長の在日コリアン差別、協定解消の自治体も。『容認できない』『社会的影響は大きい』21市町に独自調査」など

また、報ステのコマーシャル「こいつ報ステを見ているな」も同様であろう。女性差別の解消運動を行う人々に対する、あからさまな侮蔑の言葉が含まれていたケースである。

これらは“確信犯”であり、批判を覚悟の上で意図的に行ったものであろう。彼らの行為は、たんに批判に値するだけである。



(2)意図的でなくヘイトを行うケース

そして、もうひとつは意図的ではなく、というよりそれがヘイトだということが理解できずに、差別的な言動を行うケースである。しかし、それは、ときとして意図的なヘイトよりも、強い嫌悪感を持たれることがあるのだ。

企業のケースではないが、森前五輪委会長の性差別発言事件(※1)で批判を浴びたのが典型的な例である。その後の森氏の言動を見ていると、自分の発言がなぜ批判を浴びたか、理解できていないように思える。五輪に反対の人々に付け入られたという意識なのだ(※2)。だからこそ、差別意識がないということを示すつもりで「五輪委の女性はわきまえている」などと言ってのけるのである。

※1 朝日新聞2021年2月3日「『女性がたくさん入っている会議は時間かかる』森喜朗氏」など

※2 読売新聞2021年2月13日「恨み節残し途中退席、森会長『意図的な報道があった』」など

企業の幹部や社員がこのような差別言動を行って、炎上して企業イメージを損なうことは、ネット社会における企業の新しいリスクとなっている。



2 意識せずに差別的な言動を行うことの問題点

「差別はいけないことだ」と言いながら、差別そのものというべき言動をする人がときどきいる。彼らは、なぜ、それが差別なのかが理解できていないのである。

一つの例だが、ある講習会で「こういうことをするとセクハラと言われるからやってはいけない」と話した講師を見たことがある。それだけなら、セクハラでもなんでもないと思われるだろうが、講師の言う「こういうこと」があまりにもバカバカしい内容なのである。
本人は意識していないようだったが、“セクハラと言って騒ぐ連中は、くだらない上げ足をとる連中だ”という意識が背景にあるのだ。正直言って、聴いていて気分の良いものではなかった。

また、「〇〇について差別することはよくないことだ。僕は〇〇とだって、平等に付き合えるし、支援をしたい」などと言いつつ、差別意識丸出しの言動をする人がいる。“自分は、〇〇よりも高いところにいて、〇〇は低いところにいる可哀そうな連中だ”という意識が背景にあるのだろう。

こういう人々は、差別意識を指摘されても認めようとしない。杉田水脈議員が、SOGI(LGBTQ)に対する差別意識丸出しの文章を新潮45に書いたとき、LGBTの人「だったりしても、私自身は気にせずに付き合えます(※)と書いていた。杉田議員の場合、特権意識があって、特権階級の自分が付き合ってやるのだから自分は慈善家だという意識なのだろう。もちろん、この文章は意図的なヘイトそのものの例である。

※ 杉田水脈「『LGBT』支援の度が過ぎる」(新潮45:2018年8月)より。太字強調は引用者。

【杉田水脈氏の差別文書から】

しかし、LGBTだからと言って、実際そんなに差別されているものでしょうか。もし自分の男友達がゲイだったり、女友達がレズビアンだったりしても、私自身は気にせず付き合えます。職場でも仕事さえできれば問題ありません。多くの人にとっても同じではないでしょうか。

※ 杉田水脈「『LGBT』支援の度が過ぎる」(新潮45:2018年8月)

そして、もうひとつのパターンが差別をジョークのネタにする人々である。悪気はないのかもしれないが、他人を傷つけることが平気だという意味では悪質と言えよう。最近では、日本テレビの番組スッキリが起こした事件(※1)や、五輪でのルッキズム演出の案(※2)などがその例である。彼らを擁護する人びとは「お笑いは人権派の批判によって面白くなくなった。言論の自由を認めろ」などと主張することがある。しかし、冗談のネタにして良いことと悪いことがあるのだ。

※1 東洋経済2021年3月17日「スッキリ『アイヌ差別発言』流した現場の実情」など参照。なお、週刊現代2021年4月4日「『スッキリ』での「アイヌ差別発言」、日テレが隠し続ける「当日の台本」の中身」は、この差別発言はアドリブではなく台本に基づくものだとしている。

※2 東京新聞2021年3月22日「ルッキズムの残酷さ知ってほしい 五輪式典統括の辞任騒動で容姿侮辱の経験者から声」、毎日新聞「東京五輪、侮辱演出 「ルッキズム、日本は疎い」 専門家、問題意識の低さ懸念」など参照。

このような例は、冒頭にも述べたが、直接的な差別よりも人々に強い嫌悪感を与えることがある。そのため、怒りを呼んで炎上しやすいのである。



3 社員に真の人権意識を持たせることの必要性

最近の人権問題で炎上事件を起こした企業を見ていると、炎上を起こしてからしばらくして、「私は間違っていないのに批判を受けた」という意識をにおわせながら「不快に思った方がいることをお詫びしたい」という誤り方をして、さらに火に油を注ぐケースがある。

なぜ、批判を浴びているか理解できていないのである。その典型的な例としては、森前五輪委会長の差別発言が挙げられよう。

こういう企業は、必ず、同じ誤りを繰り返す。森前五輪委会長も、前の差別発言への批判が収束していないうちに「女性というには、あまりにもお年」という発言(※)をして批判を浴びた。ここまでくるとあきれるばかりだが、人権についてなにも理解していないのである。

※ 時事通信2021年3月26日「『女性と言うにはあまりにも年』 森氏発言、蔑視と批判も」など。

たんなるテクニックとしてではなく、本当の意味での人権意識を育てなければならない。そうしないと、一方で、やたらに腫れ物に触るようなことをしておきながら、その一方で、人権問題を引き起こして炎上することになる。



4 真の人権意識を持つために

真の人権意識を持つために必要なことは、まず、他人の痛みを理解する努力をすることである。そのためには、学習も必要なのだ。そして、近代的な権利意識を持つことである。自分も他人も、誰しも幸福に生きる権利があるのだ。

さらには、自分の言動が他人にどのように思われるかという想像力を働かせることだ。そして、そのためには、その他人が受けている差別の歴史と実情を理解する必要がある。

「差別をしなければいいんだろう。簡単なことさ」などと軽く考えてはいけない。差別問題で炎上事件を引き起こさないためには、十分な学習をしなければならないのである。



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