「危険」の認識とブロック塀倒壊事故




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地震によるブロック塀の危険性

2018年の大阪北部地震での小学校ブロック塀倒壊事故では、危険性は専門家によって指摘されていました。にもかかわらず、安易に「問題はない」と判断して放置した結果、一人の女子児童が亡くなりました。

問題は、このブロック塀に外見上の欠陥がありながら、責任者たちが放置していたという事実でしょう。専門家による指摘があったとき、専門業者に調査を依頼していれば危険は認識できたのではないでしょうか。

人びとは危険を無視するということをこの事故から学びます。




1 それは違法な建築物だった

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危険性は専門家によって指摘されていた。にもかかわらず、安易に「問題はない」と判断して放置した結果。女子児童が亡くなった。なぜこのようなことが起きたのか。

2018年の大阪北部地震で小学校のブロック塀が倒れ、女子児童がなくなるという事故が起きたことはよく知られている。問題は、このブロック塀に外見上の欠陥がありながら、責任者たちが放置していたということだ。

倒壊したブロック塀

※ クリックすると拡大します。

  高槻市学校ブロック塀地震事故調査委員会「高槻市学校ブロック塀地震事故調査委員会報告」(以下「調査委員会報告」という。)より。

建築基準法令が1981年に改正され、1.2mを超すブロック塀には、控え壁の設置が義務付けられているが、問題のブロック塀はこれを備えておらず、法令に違反していたのである(※)。また、同法ではブロック塀は2.2m以下でなければならないとされているが、基礎のコンクリート部分(1.9m)とブロック塀(1.6m)で地上から3.5mあり、この点でも違法状態ではないかとの指摘もあるようだ。

※ 報道によると、市はそのことを認識していた。なお、調査委員会報告を参照されたい。

さらに、文部科学省の調査で、基礎とブロック塀をつなぐ鉄筋と、ブロック塀内の鉄筋が繋がっていなかったという指摘もされている。


2 危険なことは指摘されていたが放置した

元気な女の子

この事件で、最も驚くべきことは、事故の3年前の2015年に、学校が招いた外部の専門家から危険性を指摘されていたということだ(※)。もし、そのとき適切な対応をとっていれば、女子児童は今も元気で中学校生活を送れていたはずだ。

※ 調査委員会報告によると、「PTA 学習会の開催前に、講師が通学路を見回った時に感じた地震発生時の危険箇所等に関して、当日、校長らに伝えたとされるほか、12 月7 日に同講師から寿栄小学校に電子メールで『学校通学路の安全確保』『危険個所の確認方法』等について記された資料が送付されている」。

ところが、校長から、危険性の指摘を受けたとの報告を受けた市教委は、安易に「問題なし」と判断をしてしまう。建築士などの資格を持たない市教委の職員2名が、別な用事で学校を訪問した際、校長からブロック塀を見て欲しいと言われ、外見を確認するとともに、棒で軽く叩いてみて安全だと判断したというのである(※)

※ 朝日新聞DIGITAL2018年6月21日「校長「塀の危険、3年前に伝えた」 市教委が安全と判断」、日本経済新聞2018年6月22日「大阪北部地震で倒壊の塀、資格ない職員が安全判断 高槻市」などによる。

これは、市教委の側も問題だが、校長にも責任がある。危険だという指摘をしたのは専門家である。これに対し、素人が外見を見て安易に「問題なし」と判断したことを、受け入れてしまったのである。


3 なぜ安全だと判断したのか

安全だと判断した職員は、いずれも素人である。そして、専門家が何故危険だと判断したのか、その理由を確認していないのである。おそらく、公的施設(学校)のブロック塀が、違法な状況の建築物だとは思わなかったのだろう。これでは、外見を見て「異常なし」と判断したのも無理はないかもしれない。

校長と市教委は、専門家が危険性を指摘した理由を確認するべきだったし、安全と判断するのであれば、その理由に反論できるだけの根拠を確認するべきであった。確認した職員の責任にすることは誤っている。

また、報道では、ブロック塀は3年に一度の法定点検を行っており、2017年1月にも実施されたというが、その結果は「異状なし」だったという。調査委員会報告書は、この法定点検で異状が見つからなかったことはやむを得ないという見方をしている(※)

※ 調査委員会報告によると、法定点検では「実際に適切に鉄筋が配置されているか等、ブロック塀の内部構造までも確認するよう求めているものではな」い。また「市教委が発注した法定点検には、点検対象の一部について、点検が実施されていなかったものの、仮に、これらが適切に行われていたとしても、法定点検の範囲において、寿栄小学校ブロック塀の内部構造の不良箇所を把握できたわけではなく、本件事故と法定点検の実施状況には、直接的な因果関係は認められない」とされている。

しかし、控え壁がないという、外見から判別できる明らかな違法状態が見過ごされていたのである。法定点検の実施時点で発行されていた「建築基準法定期報告調査・検査者必携 2008 年度版」には、「耐震対策の状況」の判断基準として、明確に「令第 61 条又は令第62条の8の規定に適合しないこと」とされており、控え壁がないことを指摘する必要があったのである(※)

※ 調査委員会報告書は、「令(建築基準法施行令:引用者)第62条の8ただし書に『構造計算によって構造耐力上安全であることが確かめられた場合においては、この限りでない』との規定があることから、控壁がないという外観だけをもって、ブロック塀が法に適合していないと判断することもできない」としているが疑問である。

調査委員会報告書は、「ただし書きに当たるものかどうかは、当初の設計図書が残存していないので確認できない」としている。法定点検の時点で確認できなければ、但書には該当しないだろう。

業者の知識が不足していたのか、そもそも過去の点検で「問題なし」とされたことを、新たに指摘する気がなかったのかは分からない。


4 防げる事故で人を死なせるな!

安全は、何物にも優先されなければならない。そのことは、安全の仕事をしている者にとっては、肝に銘じておかなければならないことである。だが、今回の事故は、専門家の指摘を無視し、素人判断でこれを放置した結果、一人の児童の将来が奪われてしまうという悲惨な結果となったのである。

この事件では、市教委も好調の側も、安易に「法違反はない」と判断し、「現実に危険があるかどうか」について判断しようとしなかったのである。そして、調査委員会報告書も、この点についての調査がきわめて甘いのである。

似たようなことは、大小さまざまなことが我々の周囲で驚くほど多く行われている。この事故で亡くなった児童の生命を無にしないためにも、もう一度、安全はすべてのことに優先するという言葉を再認識したい。





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