映画撮影時の喫煙シーンと役者の健康




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禁煙

映画の撮影をしていると、設定から喫煙をするシーンが必要になることがあります。しかしながら、嗜好品とはいえ、依存性のある有害な薬物であることに変わりはありません。

そのときのそれを演じる役者の健康問題を考えます。



1 タバコと映画

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本稿では、タバコと映画の撮影について述べたい。テレビではタバコを吸うシーンは少なくなってきたが、映画ではタバコを吸うシーンがまだかなりある。そのため、これが成年者の喫煙習慣に影響を与えるとして社会問題となることがある。

しかし、本稿では、映画を観る側への影響ではなく、喫煙シーンを演じる俳優の健康に悪影響を与えることについて考えてみたい。


2 映画撮影でどこまで喫煙を要求するのか

(1)煙草が抱える深刻な問題

一例だが、ある俳優が健康上の理由から禁煙をしていたにもかかわらず、1本くらい吸ったってどうってことはないでしょうと言われて、撮影のためにタバコを吸ったというケースがある。ところが、禁煙などというものは、1本でも吸うと失敗してしまうものである。結局、その俳優もそれがきっかけとなって、禁煙に失敗してしまったという。

嗜好品とはいえ、撮影の際にどこまで俳優にタバコを吸うことを求めてよいかは、映画撮影時の倫理の観点から、今後、深刻な問題となる可能性があると思う。


(2)未成年者の喫煙シーン

ア 宮崎あおいと「害虫」の喫煙シーン

また、未成年者がタバコを吸うシーンは、通常は成年者が未成年者の役を演じることが多い。ただ、あまりにも若い設定の場合はそうもいかない。「害虫」は2002年の日本映画であるが、主人公である中学生のサチ子がタバコを喫うシーンがある。これではさすがに大人が演じることはできない。この映画のサチ子は宮崎あおいが演じているが、このときの宮崎は中学生だったのではないかと思う。

未成年者の宮崎がタバコを喫うシーンがあったことで、映画の公開後に映画会社に抗議(非難)の電話があったらしい。ただ、実際の撮影では、タバコの形をした薬品を用いたようだ。宮崎は撮影時には面白がっていたらしいが、薬品だからといって害がないわけではない。ただ、そのことは本人も理解していた上で撮影に臨んだようではある。

しかし、宮崎のような未成年者の場合、その健康を考えれば、このようなシーンは、火の付いたタバコ状の薬品を手に持たせるだけで、編集で吸っているような印象を与えるようにするべきではなかったかと思う。

なお、タバコとは無関係だと思うが、宮崎はこの映画でナント3大陸国際映画祭の主演女優賞を受賞している。

イ 渡辺典子の「積み木くずし」の喫煙シーン

1983年の「積み木くずし」でも渡辺典子演じる穂波由布子がタバコを吸うシーンがあるが、このときもタバコの形をした薬品を用いたようだが、調べてみても確認はできなかった。もっとも、この頃は、映画で未成年者がタバコを吸うシーンがあってもあまり問題になることもなかったようだ。


(3)成人が演じる未成年者の喫煙シーン

ア 市川実日子の「ラヴァーズ・キス」の喫煙シーン

「ラヴァーズ・キス」は2003年に公開されたいわゆる単館系のややマイナーな日本映画である。この映画で、市川実日子演じる高校生の尾崎美樹がタバコを喫う(ように見える)シーンがある。しかし、よくみると火の付いたタバコを手に持っているだけで、同級生の水のグラスを灰皿代わりにしたりはするが、実際に喫ったりはしていない。

市川はこの映画が公開されたときは成人であるが、未成年者がタバコを喫うシーンでこのような演出をしたことには好感が持てる。実際に喫わなくても映画の表現上は問題がないのではないだろうか。なお、市川は同じ2003年に公開された「ぷりてぃ・ウーマン」では、成人の設定である木村真由美を演じているが、タバコを喫うシーンがあるので、本人がタバコを喫わないというわけではないようだ。

なお、市川の出演した2009年の「おと・な・り」は、同年の日本禁煙学会の無煙映画大賞(作品賞)を受けている。

イ 小西真奈美の「blue」の喫煙シーン

喫煙する女性

また、市川が主演した2003年の「blue」も高校生の設定であるが、この映画では同級生の遠藤雅美を演じる小西真奈美や、他校生役の高岡蒼佑(現:高岡奏輔)が演じる水内学がタバコを喫うシーンがある。もちろん、高岡も小西も当時すでに成人している。最近では様々な役をこなす小西だが、そのころは清純派という位置づけであり、ちょっと意外なシーンである。

なお、市川はこの映画で、モスクワ映画祭の主演女優賞を受賞している。モスクワの受賞会場でミカコイチカワと名前を呼ばれたので、前に出て行って賞を受けたのだが、ロシア語なので何の賞を受けたのか分からず、日本人記者のインタビューのとき記者に “すみません、私何の賞を頂いたんですか” と尋ねて記者を驚かせたというエピソードがある。


3 映画撮影における喫煙の在り方

(1)映画における喫煙シーンは忌避される傾向にある

最近では、映画は入場料だけでは営業的になりたたず、テレビ放映なども重要な収入源になっているが、未成年者がタバコを喫うシーンがあると、テレビ局に敬遠されるという傾向がある。

そのためか、映画でも未成年者がタバコを喫うシーンは減ってきているように思える。「櫻の園」は1990年と2008年に2度にわたって映画化された青春映画の傑作であるが、1990年版の方には、つみきみほ演じる杉山紀子がタバコを喫うシーンがある。というより、1990年版はタバコが大きなテーマのひとつになっていたのである。しかし、2008年版ではタバコを喫うシーンはでてこない。

ただ、どうみても1990年版の方が出来は良かったように思える。2008年版は興業的にも成功しなかったようだ。


(2)それでも喫煙シーンはなくならない

また、青春映画といっても、中には成人指定などを受けるものもある。このような映画でも必ずしも喫煙シーンがあるわけではない。1998年の「ラブ&ポップ」は援助交際をテーマにした映画でR指定を受けているが、未成年者が喫煙したり飲酒したりするシーンは出てこない。

鑑賞後にある種のさわやかさが残る映画である。私自身は青春映画の傑作だと思っている。

また、2005年の「失踪」や、2004年の「誰も知らない」「下妻物語」なども、テーマから考えるとタバコを吸うシーンがありそうな映画ではあるが、実際にはタバコを喫うシーンは出てこない(「下妻物語」ではタバコそのものは出てくる)。

必要がなければあえて未成年者がタバコを喫うという表現をしなくとも、作品としては成り立つのではなかろうか。また、そのような雰囲気が、映画界にも出てきているのかもしれない。

ただ、例えば2007年の「吉祥天女」には、必然性があるとは到底思えないシーンで高校生が喫煙をするシーンがある。必ずしもタバコの表現を減らすという意識が根付いているわけではないようだ。


(3)WHOの勧告

なお、WHOが2016年2月1日に、喫煙シーンのある映画やドラマを「成人指定」とするよう各国に勧告した。読売新聞がこれについてオンラインでアンケートをとったところ、反対が上回ったそうである。

タバコの害について弁護するつもりはないし、私自身タバコは吸わないが、表現・言論の自由という観点からは、いささかWHOも行き過ぎという気がしないでもない。





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