予想されていたことですが、2020年の自殺者数は11年ぶりに増加に転じました。とりわけ、女性と若年齢者の増加が著しくなっています。
この原因としては、コロナ禍による景気の後退によって、非正規労働の割合の高い層に影響が出ていると考えられます。
自粛に対する補償の拡大が望まれます。
1 警察庁が「令和2年中における自殺の状況」を公表
執筆日時:
最終改訂:
予想されていたことではあるが、2020年の自殺者数は大幅に増加した。警視庁の「令和2年中における自殺の状況」による確定数値が3月16日に公表された。
下図は、私のサイトに掲示したもので、自殺者数を労働者と労働者以外に分けてグラフ化したものである。
これを見れば分かるように、労働者以外の自殺者数は14,339人で前年に比べて712人(5.2%)増加し、11年 ぶりの増加となった。なお、「被雇用者・勤め人」は6,742人で前年に比べ200人(3.1%)の増加となり、4年連続の増加となっている。
また、職業別にみると、学生・生徒等の増加が大きいが、被雇用者・勤め人の増加も目立っている。
なお、この統計とは別なことだが、3月15日に報道各社は、2009年に自殺した労働者について、福岡地裁がパワハラが主要な原因だったとして、福岡中央労基署の労災不支給の決定を取り消したと報じた。また、その前日の14日には、東芝系企業のSEが2019年に自殺したのは長時間労働が原因だったとして、川崎南労基署が労災を認定したとの報道が行われている。
業務に起因する自殺者の増加も危惧される所である。
2 コロナ禍と自殺者数の増加
この自殺者数の増加について、コロナ禍が影響しているのではないかと指摘する声は多い。
※ 例えば、日本経済新聞 2021年3月16日「自殺11年ぶり増 コロナ影響か、女性や若者が増加」、日本財団ジャーナル「新型コロナ禍で急増する女性、若者の自殺。ライフリンク清水さんが説く『自殺は個人ではなく社会の問題』」など。
警察庁の自殺統計を詳細にみると、自殺者全体では、21,081人で対前年比912人(約4.5%)増となっている。一方、2020年の新型コロナによる死者数は、3,492名(NHKのWEBサイトによる)であるから、これに比較しても自殺者数の増加についても無視できない値となっている。
自殺者数は景気変動の影響を受けやすいと言われており、コロナ禍による景気変動が影響を与えている可能性は否定できない(※)。
※ ただし、自殺の動機・原因別では、「経済・生活問題」を原因とするものは、179人の減少となっている。なお、最も大きく増加したのは「健康問題」で、334人の増加となっている。なお、自殺の動機・原因は、自殺を裏付ける資料により明らかに推定できる原因・動機を3つまで上げていることに留意しなければならない。
また、男女別にみると、男性は11年連続の減少だが、女性は15.4%と大きく増加している。コロナ禍の経済的影響は、女性に大きく影響を与えたと報じられているが、その影響が否定できない。これにつては、今後の分析が必要だろう。
一方、年齢別では50歳台、60歳台が減少しているのに対し、10歳台が17.9%増、20歳台が19.1%増と、若者の大きな増加が目立っている。職業別でも「学生・生徒」が8.7%増と大幅な増加を示した。若者の自殺対策が急務となっている。
※ 10歳台の自殺の動機・原因では学校問題が234人、健康問題が166人となっており、20歳台では、健康問題が799人、経済・社会問題が417人、勤務問題が409人などとなっている。
3 自殺問題の解決のために
自殺問題は、社会全体として取り組むべき課題である。2020年の増加は健康問題が大きいとはいえ、非正規労働者であれば、健康問題が与える影響は正規のそれよりも深刻になるということを忘れてはならない。若者の自殺者が急増していることの背景には、非正規労働者の拡大が大きな影響を与えていることは否定できないのである。
「いのち支える自殺対策推進センター」が「コロナ禍における自殺の動向に関する分析」を公表している。これを見ても、コロナ禍が、女性の非正規労働者の解雇やDV被害の増加などを深刻化させ、健康問題が最後に女性の自殺者数の増加に影響を与えた可能性があるというべきだ。
貧困の問題は、家庭の問題、経済・社会の問題に大きな影響を与えるのである。単純に、コロナ禍による健康影響が自殺者増に影響を与えたと考えてはならない。竹中平蔵氏と自民党政府が推し進めた非正規労働の解消を図ることこそ、自殺防止の根本対策につながると指摘しておく(※)。
※ 自殺防止対策に関するものでは、野党である日本共産党の「自殺防止に全力を尽くし、自殺者をつくりださない社会をめざします」が政府のものよりも説得性があるように思える。
また、最後に、こころの健康相談統一ダイヤル(0570・064・556)を紹介しておく。