※ イメージ図(©photoAC)
職場では、仕事の打ち上げ、歓送迎会、忘年会・新年会など、各種の公式・非公式の懇親会が開かれます。
心の健康問題による休業から職場復帰した直後などで、制限された業務を行っている職員がいる場合、とりわけ、職場の同僚と進んでコミュニケーションをとるような様子がないと、懇親会に誘うべきかどうかで悩むことがあります。
メランコリー型のうつ病では、宴席を断ることに罪悪感を感じて無理に付き合い、それが負担になって病状が悪化することもあります。しかし、誘わないと排除されていると思われるのではないかと気になることもあるでしょう。
心の健康問題で休業した労働者の職場復帰の後、宴席に誘うことについての考え方を解説します。
- 1 心の健康問題を有する労働者を宴席に誘うことの是非
- (1)原則は宴席へ誘うことは避ける
- (2)接するときは自然に接することが望ましい
- 2 服薬とアルコールの影響
- 3 疾病とアルコールの影響
- 4 最後に(まとめ)
- (1)職場が職員を宴席への参加を強要する時代ではない
- (2)心の健康と宴席への参加
1 心の健康問題を有する労働者を宴席に誘うことの是非
執筆日時:
(1)原則は宴席へ誘うことは避ける
※ イメージ図(©photoAC)
心の健康問題で休業した労働者が職場復帰して、制限された業務に従事している場合、職場で懇親会を行うときに、職場復帰してきた同僚を誘ってよいかどうかで迷うことがある。
一般に、うつ病などでは、無理に気晴らしに誘うようなことは避けた方がよい。職場復帰した直後はもちろん、一定期間が過ぎたとしても、本人が同僚とコミュニケーションをとることが辛いようであれば、無理に誘うことは避けるべきである。
また、本人に出欠をストレートに尋ねると、病状によっては断りたくても断れないことがあることに留意しなければならない(※)。
※ もし、誘わないと排除されていると思われるのではないかと気になるようであれば、「制限業務を行っている場合は宴席には出ない」というルールを策定し、職場復帰の際に本人に伝えておけばよい。
そうすれば、排除しているのではなくルールに従っているだけという名目が立つ。なお、休業中は収入が減少するのが普通であり、また不公平だと感じさせないためにも職場会費などを徴収しないルールにしておく方がよい。
(2)接するときは自然に接することが望ましい
しかし、職場復帰をしてきた労働者に対して、腫れ物に触るように接したり、病人扱いしすぎたりすることは好ましくない。一般論としては、普通に接するようにして特別扱いしない方がよい。
また、非定型うつ病の場合など、懇親会などについて隠したりすると、本人が職場から拒絶されたと考えてて神経過敏になることもある。懇親会について本人に隠すことは避けるべきである。
予めルールが決まっていないのであれば、「今度、新人歓迎会があるけど、どうしますか。大変なら断っても良いと思います。無理はしないでください」などと尋ねてみる方が、変に隠すよりはよい結果をもたらす。
2 服薬とアルコールの影響
なお、抗うつ薬や睡眠薬など、精神科(だけではないが)で用いられる薬品の多くは、服用しているときにはアルコールの飲用を避けなければならない。
多くの場合薬効が強くなるばかりか、副作用も強くなる。このような状況は避けなければならない。
3 疾病とアルコールの影響
※ イメージ図(©photoAC)
またパニック障害などでもアルコールの飲用を避けた方が良い場合がある。そのようなケースでは、本人の希望で行事に参加したとしても、アルコールを勧めることはやめなければならない。
また、心の健康問題としてアルコール依存症を併発していた(る)場合は、職場復帰後どれほどの期間が経過していたとしても、酒席に誘ったりアルコールを勧めたりすることはしてはならない。どうしても誘いたいのであればアルコールの出ない食事会などにすることが望ましい。
アルコール依存症になった者にとってアルコールは依存性の強い非常に危険な薬物だと考えるべきである。もしアルコール依存症が「治って」いたとしても、アルコールを少しでも飲用すれば、それまでの治療の成果を無にすることになりかねず、場合によっては死に至ることになる。
4 最後に(まとめ)
(1)職場が職員を宴席への参加を強要する時代ではない
※ イメージ図(©photoAC)
宴席に参加することは、心の健康問題を有していない場合であっても、楽しいと感じる者もいれば、憂鬱に感じる者もいる。
宴席の好き嫌いは、個人の感じ方の違いであって、職業能力やまして人間性などとはなんの関係もない。筆者(柳川)は宴席は嫌いではないが、飲酒することは嫌いである。
筆者は、旧・労働省で旧メンタルヘルス指針の策定の担当をしていたとき、ある若い女性記者から取材を受けて
「宴席や職場旅行は、人間関係を円滑にすることもあるが、若い職員にとってストレスとなることがある」
と言ったことがある。するとその記者から、いかにも憤然とした調子で
「そうです。社員旅行というのは最低・最悪です」
と言われた。詳しくは話されなかったが、セクハラまがいのことがあったのではないかと感じた。
そもそも、宴席への参加を職員に強要して、職場の和を保とうなどという時代は終わりを告げているのである。日本人は、同調圧力が人権侵害になるという意識を持っていないことが多い。しかし、アルハラやセクハラだけではなく、同調圧力も状況によっては人権侵害になり得るということを意識するべきである。
(2)心の健康と宴席への参加
心の健康問題を有する労働者にとって、宴席に誘われることは、さらに大きなストレスとなることがある。これは、疾病の症状としてそうなるので、「たまには仲間同士で酒を飲んだ方がよい」などと簡単に考えてはならない。
場合によっては、宴席がストレスになるだけではなく、病状を悪化させ、最悪のケースに至ることもあり得るのだ。
職場復帰をする労働者を受け入れる職場では、少なくとも、宴席によって本院の病状を悪化させることのないよう、事前に職員に必要な知識の付与などに十分な留意を払う必要がある。
【関連コンテンツ】
病気休職の職場復帰は、完治後ではない
病気休職の職場復帰は、完全に治ってからするべきという考え方は医学的にも法律的にも大きなリスクがあります。職場復帰のときをどのように定めるべきかについて解説します。
職場復帰における試し出勤と労働者性
心の健康問題によって休業した労働者の職場復帰に当たり、試し出勤の期間中について、労働者との契約的な関係をどのように理解するべきかを解説しています。
職場復帰時の試し出勤等の趣旨と長さ
心の健康問題によって休業した労働者の職場復帰に当たり、試し出勤及び慣らし勤務の意味と、その長さをどのように決めるべきかを解説しています。
職場復帰の「リハビリ勤務」とその妥当性
試し出勤、慣らし勤務とリハビリ勤務の違いを明確にし、リハビリ勤務を行うことの問題点について解説します。