カジノ法と産業保健

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メンタルヘルス対策

カジノ法の真の目的とその問題点について論じ、それが働く労働者にどのような影響を与えるかを論じています。

労働者の心の健康は、企業の実績に直結します。企業としても、必要な対応を考えるべき時に来ているというべきです。




1 はじめに

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最終改訂:


(1)西日本豪雨の災害の中、カジノ法が成立

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2018年7月20日、過半数の国民が反対している(※)にもかかわらず、賭博場(カジノ場)創設を可能とする特定複合観光施設区域整備法案(カジノ法)が、自民党、公明党及び日本維新の会の賛成によって成立した。これにより、国内で最大3か所において、一定の要件の下にではあるが、刑法の賭博罪、常習賭博罪及び賭博場開張等図利罪の適用がされずに、賭博等が行えるようになる。

※ 2018年に行われたカジノ法案に関する世論調査を見ると、いずれも反対などが過半数を上回っている。いくつかの例を挙げると、日本経済新聞(調査期間(以下同じ)6月22~24日):賛成33%、反対53%、時事通信社(7月6~9日):賛成22.1%、反対61.7%、朝日新聞社(7月14~15日):今の国会で成立させるべきだ17%、その必要はない76%、その他・答えない7%など。

西日本豪雨の影響で、二桁の行方不明者の捜索が続いており、また多くの被災者が避難所における生活を余儀なくされ、復旧が何よりも優先されるべき状況での愚行であった。

ところで、この豪雨で気象庁が緊急会見で警戒を呼び掛け、68万人に避難勧告・指示を出している中で、安倍総理と政府高官は酒席を開いておられた。危機に瀕するおそれのある多くの国民の生命及び財産の保護を優先させなければならないとき(※)にである。しかも、官房副長官にいたっては大雨警報が続く中、宴席の楽しげな写真を2枚SNSにアップした。残念なことではあるが、我が国の政府高官は、国民の安全よりも、宴席に出て酒を飲むことや、賭博の方が大切だと思っておられるようだ。

※ 2018年7月13日朝日新聞記事「防衛相『災害対応、支障はなかった』赤坂自民亭問題」など。なお、2018年7月18日朝日新聞記事によると、防衛相は「防衛省からは随時連絡が来ており、その都度指示を出していたので特に支障はない」と発言している。しかし、7月19日の朝日新聞には「小野寺氏が出席した30分間に災害対応の指示を出したか確認。防衛省の担当者は『出していない』と説明した」とされていることを指摘しておく。


(2)日本人と賭博罪

ア 日常生活における賭博への寛容性

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さすがに最近では一流企業や公務所などではありえないことだが、つい数十年前までは、かなりの大企業ばかりか、公務所や大学ですら賭け麻雀が行われるのは普通のことだった。賃金支払い日には、その清算でかなりの金額が動くようなこともあったのである。

また、ゴルフでは、いわゆる「にぎり」が横行していることも公然の事実であろう。さらに、野球の勝敗などでいわゆるトトカルチョのようなものが行われたり、企業の親睦ボーリング大会などでも勝敗をめぐっても同様のことが行われたりしていたのである。

これらの賭け事は、金銭が賭けられれば、すべて刑法の賭博罪の対象となる犯罪行為である。しかし、我が国の“企業文化”の中で、賭けられる金銭は少額にせよ、このような賭け事が、数十年前まで半ば公然と行われていたのだ。もちろん、賭け事に加わらない者もいたが、彼らもそれを問題化しようとはしなかったのである。

さらに、日本全国どの市町村でも見かけるパチンコ・パチスロも、建前上は金銭を賭けて行われることはないことになっているが、現実には金銭が賭けられていることは、誰もが知っている事実である。

このように、日本人は“賭博”について、一定の範囲内であれば、かなり寛容な国民だということができよう。

イ 公営ギャンブルはなぜ存在しているのか

(ア)公営ギャンブルと“専売”の目的は同じ

しかも、我が国(だけではないが)には、公的に認められた賭博(ギャンブル)が存在している。競馬、競輪及び競艇である。いわゆる「公営ギャンブル」と呼ばれるものだ。では、賭博罪という刑法で禁じられたことを、公的に経営している理由はなんだろうか。

その理由は、簡単なことである。それは、かつて塩、煙草、アルコールが専売だったことと同じ理由なのだ。

(イ)“専売”の目的とは

塩は、生きていくために必要不可欠なものである。自ら造ることを禁じられれば、いくら価格が高くても他から買うしかない。そのため、国民に製造することを禁止して、国が独占的に製造販売をすれば、国は確実な歳入が得られるのである。また、煙草とアルコールは嗜好品ではあるが、依存性があるため、やはり国が独占販売をすることにより確実な歳入が得られるわけだ。

分かりやすく言えば、国民の必要性や依存性から確実な需要が見込め、製造原価より売価をかなり高くしても売ることができる商品なのである。これを国家が独占的に販売することにより、国民から金を吸い上げる確実な仕組みが「専売」なのである。煙草は国民の健康に害があることが明白であるにもかかわらず、多くの国で禁止されないのは、それが国の歳入を得るための有力な手段となっているからなのだ(※)

※ 現在は、国が独占販売をするのではなく、高率の税金をかけることによって歳入を得ているが、本質は変わらない。

(ウ)公営ギャンブルの目的

公営ギャンブルもこれと同じである。国民の射幸心を煽り、賭博に対する依存を利用して、国や地方自治体が確実な歳入を得ることを目的としているのである。

違いは、国民の必要性や依存性に依拠しているか、射幸心に依拠しているかということだけなのである。

ウ 贈賄としての賭け

かつて旧日本軍に殺害された張作霖は、死ぬ間際まで賭け麻雀をしていたことが知られている。そのため、日本では、張作霖の人間性が低劣だったかのように言われることがある。だがそうではない。張作霖は中国東北部に実力で君臨した傑出した人物だった。実は、軍閥の領袖にとって、賭け麻雀をすることは重要な仕事だったのである。

お金を差し出す人物

※ イメージ図(©photoAC)

麻雀は意図的に振り込むことができる。かなりの大金をかけているから、振り込まれた方の利益は大きい。この方法で、信頼できる部下や、友好関係を保ちたい他の軍閥の領袖に金を贈るのである。露骨に金を贈るのは、贈る方にとっても、受け取る方にとっても憚られるのだ。そこで博打の形をとるのである。形式的には、勝負は時の運であるから、一方的に金を贈与されたわけではないという言い訳が立つ。

我が国でも、あまり堂々とすることができない金銭贈与の手段として賭け麻雀が利用されることはよくあることだ。これは、公務員よりもマスコミ関係者が対象になることが多いとの指摘もある(※)。なお、私の経験では、ごく特殊な一部の人物を別にすればだが、私の知り得た範囲内では公務員で民間業者と賭け麻雀をするような者はいなかった。

※ 例えば、志村嘉一郎「東電帝国 その失敗の本質」(文藝春秋2011年)など。

いずれにせよ、“賭博”が、一種の贈収賄の手段として用いることができるものだということは、カジノの問題を理解する上で知っておいた方がよい。

エ 日本人とギャンブル依存

(ア)ギャンブル依存症の実態
苦しむ男性

※ イメージ図(©photoAC)

樋口(※)によれば、我が国のギャンブル依存症の推定有病率は、2013年調査で男性8.7%、女性1.8%、2008年調査で男性9.6%、女性1.6%であるとされ、いずれの調査でもギャンブルの種類としてはパチンコ・パチスロが8割以上を占めているとされている。

※ 樋口進「成人の飲酒と生活習慣に関する実態調査研究」(2009年)

一方、諸外国におけるギャンブル依存症の生涯有病率は、調査年齢などの違いはあるが、1%前後と言われている。この調査を見る限りでは日本人のギャンブル依存症の割合は、驚くほど高いのである。

なお、パチンコ・パチスロは、比較的寛解しやすいともいわれ、ギャンブル依存症者の約半数が1年以上の自然寛解を示したとする調査(※)もある。しかし、専門家は、ギャンブル依存は寛解しても3、4年後に再発する例が多いと指摘する。

※ 例えば、秋山久美子他「DSM-5を用いたパチンコ・パチスロ遊技障害の検討」(アディクションと家族 32(2) 2017年)など

我が国にとって、ギャンブル依存が深刻な問題であることは間違いのない事実である。

(イ)日本人のギャンブル依存症の多い理由

我が国のギャンブル依存症の割合が高い理由を田辺(※)は次の3点から説明する。ひとつは、我が国のギャンブルが High risk high return の傾向が高く射幸性が上昇していること、もうひとつは娯楽やストレス発散のためにギャンブルに走る人々が増加していること、最後は依存性のあるAgentを入手しやすい傾向である。また、カードキャッシングや消費者金融の普及でギャンブルの資金の獲得をしやすくなっていることも指摘されている。

※ 田辺等「ギャンブル依存症」(生活人新書 2002年)

そして、その一方で、ギャンブル依存への対応ができる専門医が少ないことも指摘されている。


2 カジノ法の具体的な内容

(1)基本的な構造と目的

ア 基本構造

カジノ法案の正式な名称は「特定複合観光施設区域整備法案」である。特定複合施設とは、一言で言えば、カジノ施設、会議場施設、レクリエーション施設、展示施設、宿泊施設などの施設が一体となったものということだ。たぶん法案作成者を含めて、誰も信じてはいないだろうが、建前では国際会議や国際展示会などが開催できる施設ということになっているのである。

なお、この特定複合施設の数は、全国で最大3箇所とされている。ただし、この箇所数については、最初の認定の7年後に見なおすこととされている。

さて、このカジノ法であるが、本文251ヵ条、附則16ヵ条の膨大な法律である。また、この関連法=といってよいだろう=としてギャンブル等依存症対策基本法案があるが、こちらは本文が36ヵ条、附則が3ヵ条である。合計で300以上の条文なのである。

さぞかし、本法は多くの条文で詳細に規制がかけられているのだろうと思われるかもしれない。しかし、実際には、具体的事項のかなりの部分を政省令によって定めるものとしている(※)。すなわち、具体的な部分は、政府が自由に定められる仕組みになっているのである。例えば、ギャンブルの種類も、法律に明記されていない。ルーレットやスロットマシン、カードゲームなどが考えられるが、これはときの政権が自由に決められるのである。

※ カジノ法の本文中に「政令で定める」という語句が64か所、「省令で定める」という語句が45か所出てくる。

イ 法律の目的

カジノ法の目的は、その第1条に「我が国において国際競争力の高い魅力ある滞在型観光を実現するため、・・・(略)・・・観光及び地域経済の振興に寄与するとともに、財政の改善に資することを目的とする」と明記されている。すなわちこの法律の目的のひとつは国の財政の改善なのである。

分かりやすく言えば、国民の持つ資金を動かすことにより、その一部を国家が吸い上げることが目的なのである。このことは、納付金(いわゆるカジノ税)がカジノ収入の30%(国庫納付金15%+認定都道府県等納付金15%)となっていることからも明らかであろう。(第192条及び第193条参照)

自己破産

※ イメージ図(©photoAC)

政府は、外国人と富裕層の国民に対して、楽しみとしての賭博の場を提供すると主張しているが、貧困層の人々がその生活を破壊するような賭博をすることはないという保証はどこにもない。あるいは退職後の高齢者が老後の貯えを失ってしまうということもあり得るだろう。

要は、国家が国民から金を吸い取ることが、確実にできる仕組みにするための法律にすぎないのである。


(2)カジノ事業者と海外資本

ア 特定複合観光施設区域の設置運営

特定複合観光施設区域の設置運営を行う民間事業者は都道府県の公募で選ばれることとなる。これは海外事業者も排除される仕組みにはなっていない。すなわち、外国資本が基本的な運営を行うことが可能な仕組みになっているのだ。

イ カジノ事業者と海外資本

また、カジノ事業についても、第39条で「認定設置運営事業者は、カジノ管理委員会の免許を受けたときは、当該免許に係るカジノ施設において、当該免許に係る種類及び方法のカジノ行為に係るカジノ事業を行うことができる」とされている。ここでも海外資本は排除されていないことにご留意頂きたい。

出井(※)によれば、「ラスベガス系のカジノ運営企業は、マカオとシンガポールで中国人を捕まえ、莫大な利益を得た。しかし今後、両都市は大きな成長が望めない。そんななか、彼らがアジア最後の『フロンティア』として狙うのが日本である」という。また、小池(※)は、カジノに海外資本が入り込むことについて「外資事業者は短期的な利益を追求する傾向があり、その結果、公共性、周辺産業への波及効果が抑制され、超過利益の海外流出(日本国内に再投資されない)が懸念される」としている。

※1 出井康博「外資カジノが"1兆円投資"を発表した思惑」President Online 2018年3月19日

※2 小池隆由「なぜ日本のカジノは莫大な利益を生むのか」(東洋経済Online 2014年7月9日)

結局、国民の保有する資産が海外へ流出し、その結果、国内での消費が衰退したり、破産や生活保護の増加による社会的な負担が増したりするリスクがあるのだ。このこともカジノ法を考えるにあたって理解しておくべきことである。


(3)金銭の貸付

カジノ事業には「顧客の金銭を受け入れる業務」及び「顧客に金銭を貸し付ける業務」が含まれている。

この顧客に金銭をカジノ事業者が貸し付ける仕組みがある点が、多くの批判を浴びているところである。これは、前述した田辺の指摘を待つまでもなく、ギャンブル依存症の罹病者にとってきわめて危険な仕組みだといえるであろう。


(4)入場制限等

ア カジノ事業者のとるべき措置

第68条は、カジノ事業者は一定のギャンブル依存防止の措置を取らなければならないものとなっている。その措置とは、家族その他の関係者の申出による入場制限、カジノ施設を利用させることが不適切であると認められる者のカジノ施設の利用の制限、相談窓口の設置などである。

【カジノ事業者のとるべき措置】

1 入場者又はその家族その他の関係者の申出により当該入場者のカジノ施設の利用を制限する措置

2 1の他、カジノ行為に対する依存による悪影響を防止する観点からカジノ施設を利用させることが不適切であると認められる者のカジノ施設の利用を制限する措置

3 カジノ施設の利用に関する入場者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他のカジノ施設の利用に関する入場者の適切な判断を助けるための措置

4 上記のほか、カジノ行為に対する依存による悪影響を防止する観点から必要なものとしてカジノ管理委員会規則で定める措置

※ 1及び2は第69条の入場禁止対象者には含まれていない。このことは、本条が実質的に意味を持たないことを示唆している。

ここで、具体的な事項はカジノ管理委員会規則によって定めることとされている。なお、カジノ管理委員会とは、内閣府に置かれる委員会である。

ところで、日本中央競馬会でも家族等の申出により入場制限の措置をとっている。家族等の申告があれば、競馬場や場外馬券場でも入場を禁止できるという措置を、昨年末に決めたのだ。しかし、その方法たるや「家族から提出された顔写真でチェックする」という非現実的な方法なのである(※)。こんな方法で効果があると考える者は、よほどのお人よしであろう。まず役には立つまい。

※ 田中紀子「カジノ法案成立で最も損をするのは誰か?」(2018年4月6日iRONNA記事)による。

一方、カジノ場合には、家族等の申し出のあった者について、どのように利用を制限するかは明確にされていない。しかし、そもそも第69条の入場制限者に含まれていないのであるから、まず効果は望めないと言ってよい。

イ 入場制限

また、第69条は入場規制について定め、入場を制限される者を以下のように定める。この入場制限をしたことをもって、政府は、ギャンブル依存症の対策になると主張している。しかし、専門家は、これについてギャンブル依存症対策としては、全く役に立たない非科学的な手法であると批判している。

【入場禁止対象者】

1 20歳未満の者

2 アルコール、麻薬、大麻、あへん又は覚醒剤の中毒者

3 日本人で入場料(国3,000円+都道府県3,000円 計6,000円)を納付しない者

4 日本人又は本邦内に住居を有する外国人で、カジノ施設に入場し、又は滞在しようとする日から起算して過去7日間に入場等回数が3回に達しているもの(最後に入場してから24時間以外の場合を除く)

5 日本人又は本邦内に住居を有する外国人で、過去28日間における入場等回数が既に10回に達しているもの(最後に入場してから24時間以外の場合を除く)

※ 4及び5の入場回数は、一度入場して、その後24時間以内であれば何度か出入りしても、1回と数える。ただし、最初の入場から24時間を経過しても滞在していれば、滞在したままであっても2回と数えることになる。(第176条参照)

ウ 入場の確認

そして、第70条では、カジノ事業者は、入場者の入退場の時に、個人番号カード、旅券等の提示を受け、入場禁止対象者ではないことの確認をしなければならないとされている。また、その際、一定の事項について記録を作成し、これを保存しなければならない。

ただし、これはあくまでも第69条の入場禁止対象者を対象とする制度であって、第68条によって利用を制限すべき者は含まれていない。ここは、誤解してはならない。すなわち、第68条によって利用を制限すべき者は、実質的に、フリーパスになる可能性が高いのである。


3 カジノ法の問題点

(1)ギャンブル依存症

ア カジノ法は倫理に反する

カジノ法の最大の問題は、ギャンブル依存である。だが、その前にそもそも倫理的な問題があろう。刑法が賭博行為を禁止しているのには、十分な意味があるのである。博打とは、ゼロサムゲームに過ぎず、誰かの損失によって別な誰かがもうかり、胴元がその一部を巻き上げるという、ある意味で反社会的な仕組みなのである。

賭博は、製造業や建設業のように、新たな価値を生み出す産業などではない。また、映画・演劇や旅行業などの多くのサービス業のように、人々に幸福や楽しみをもたらすものでもない。また、カジノ参加者にとって、努力や勤勉によって収入を得るのではなく、偶然によって金を得るのである。

その意味で、全くの反社会的、反倫理的な仕組みなのである。

イ カジノ法はギャンブル依存患者を生み出す

(ア)カジノ法の依存対策は無意味である
ルーレット

※ イメージ図(©photoAC)

政府は、依存を生まないための措置をとっているという。だが、それは全く意味のない措置に過ぎない。まず、ギャンブル等依存症対策基本法案は、きわめて抽象的な内容であり、ほとんど意味がないと言ってよい。

また、先述した「入場禁止対象者」についても、ほとんど意味のないものである。20歳未満の者の入場禁止はともかく、入場料の6,000円など、依存症のものにとってはなんの障害にもならない。こんなものを依存対策になるなどという主張するのは、依存というものについて理解と知識のない人間だけである。

考えてみていただきたい。パチンコ・スロット依存症の罹病者は、1回に6,000円以上は負けないように賭けをしているとでもいうのだろうか。あまりにもばかげた議論としか言いようがない。そもそも、毎月の賃金を受け取っている会社員や、会社を辞めて退職金を受けとった者にとって、依存になってしまえば6,000円という金額にはどんな意味もないのである。

また、入場回数制限についても、1週間で3日、28日で10日、カジノに出入りできるのである。これでは意味がない。週休2日で、すべての休みにカジノに出入りしても、まだ余裕があるのだ。競馬でも競輪でも、28日の間に10日も開催してはいない。それでも依存は起きるのである。

カジノ法にビルトインされた入場制限など、依存対策としては何の意味もないのである。

(イ)パチンコ・パチスロがあるからカジノがあっても同じ?

こんなことをいうと、カジノがなくてもパチンコやスロットがあるのだから、カジノができても同じことだという反論があるかもしれない。だがそれは違う。

パチンコとカジノでは動く金額が桁違いなのである。パチンコ・パチスロは、建前上は金銭を賭けた賭博行為ではないので、極端な大金が動くことはない。

企業を退職した者が、最初はちょっとした遊びだけのつもりでカジノに入場して、最初に10万円を儲けてから20万円を失ったとしよう。そこでカッとなり、それを取り戻そうと躍起になってしまえば、老後のための数千万円の貯えを消失してしまうのに、数日もかからない。このようなことは、パチンコの場合だと数日では起きにくいのである。

なお、お断りしておくが、筆者は、パチンコ・パチスロが健全な遊戯だなどと主張しているのではない。これらによる依存症の弊害も、先述したようにきわめて深刻である。筆者は刑法の賭博罪はパチンコ・パチスロにも厳格に適用されるべきだと考えている。

その有害なパチンコ・パチスロに比較してさえ、カジノの害は大きいと主張しているのである。

(ウ)カジノ業者の金貸しの機能は危険である

しかも、パチンコ店が顧客に金銭を貸し付けたりはしないが、カジノ業者は金銭を貸し付ける仕組みがカジノ法の中に組み込まれているのである。賭博場という雰囲気の中で、返済能力以上に金を借りて、破産する危険性はきわめて高いといえよう。

変な話だが、博徒の類は、どのような人間に金を貸すと金が戻ってこないかについてのノウハウ(経験と知識)を持っている。そのため、金持ちの道楽息子相手ならいくらでも金を貸すが、破産しそうな生活困窮者などには金を貸そうとはしない。生活困窮者は、犯罪まがいのことをして取り立てても金が戻ってこないからだ。これでは、コストパフォーマンスが悪すぎる。

ところが、カジノ業者にはそのようなノウハウはない。そのため、生活困窮者にでも金を貸してしまうおそれがある。このため、破産者や自殺者を多く創出することになりかねないのである。


(2)マネーロンダリング

カジノでのマネーロンダリングの手口は単純なものである。まず、汚れた金を持っている者がカジノへ行き、金をチップに交換する。次に、自分自身か仲間が、勝負に勝ってチップを得たようなふりをしてチップを金に交換するのである。そのとき、カジノが発行する勝利して得た金額だという証明書を受け取っておく。カジノにはチップの交換のレートの差を手数料として支払うだけでよい。

これだけで、汚れた金が、カジノの勝利による“正当な”金に化けてしまうのである。ただ、この方法ではカジノ事業者から怪しまれると失敗してしまう可能性がある。

より確実に行うには、汚れた金を持っている者が仲間とカジノへ行き、仲間とカードで勝負して、故意に負ければよい。すると、仲間はカジノの勝利による“正当な”金を得ることができる。後は、仲間から資金を適当な理由を立てて受け取ればよいのである。この場合はカジノからテラ銭を取られることになるが、カジノのテラ銭はそれほど大きくないので、元の汚れた資金のかなりの部分を“正当な”資金に変えることができるのだ。

これらの方法は、カジノ業者にとっても利益になることであり、捜査当局から調べられても、知らなかったと言ってしまえばそれまでなので、有効な対策を取ることは困難であろう。


(3)賄賂

そして、先述したようにカジノは賄賂の手段としても使えるのだ。ある高級公務員に対して、あまり芳しくない依頼をしたい者がいるとしよう。そしてその公務員がカジノに出入りしているという情報を得たとする。

それだけで、お膳立てはそろうのだ。彼がカジノでカードゲームに手を出すのを待って、すかさず彼が顔を知らない男が参加する。その日は、適当に彼に勝たせた後で、挨拶して名刺を渡しておけばよい。

そのときに、この公務員が、これはまずいと考えて金を返してしまえば問題はない。だが、単純に賭けに勝っただけだと思うかもしれない。そうなると、そんなことが何度か重なって、勝った金額がかなりのものになって、何か変だと気が付いたときは、すでに遅いという状況になっている。

そのうちに、賭けに負けた男が、やや強面の雰囲気を持った人物といっしょにいるときに、「まあ、あなたもご存じだったんでしょう。言わずもがなですが、お分かりですよね」くらいのことは言うかもしれない。

もちろん、名刺をもらった時点で分かってはいただろう。その後、この公務員の“裁量の範囲”で、許認可や政策の変更が行われることになるかもしれない。

カジノは、芳しくない贈与の手段となり得るのである。そして、我が国の行政や政治が、歪むおそれもあるのだ。


(4)健全な観光産業の衰退

ア 反社会集団の進出

ギャンブル依存になるのは男女を問わない。しかし、カジノとはつまるところ“賭博”であり、“賭博”と言えば、そこにやってくるのは、やはり男性が多いのではないだろうか。そして、彼らの中には、一定の割合で儲かるものもいる。あぶく銭を持って気が大きくなっている男たちが多数いるのだ。彼らがその金で何を求めるかを想像することはそれほど難しいことではない。

そこへやってくるのは、特殊な職業の女性たちである。我が国に貧困が存在している限り、それを止めることは不可能だ。それを彼女たちの責任に帰するのは妥当ではない。その責任は、政治家たちと、彼女たちを利用する男たちにある。

そして、そのような職業に身を染める女性たちの後には、彼女たちを食い物にしようとする反社会的な集団がやってくる。道に落ちた砂糖の塊に群がるアリの群れである。それを止めることは不可能に近い。彼らの表立った抗争が始まる可能性も否定はできないのである。

イ 健全な観光産業の衰退

(ア)旅行客の減少

すなわち、それまで健全なイメージだった観光地が犯罪地帯というイメージになってしまうおそれもある。そうなると、最初にやってこなくなるのは修学旅行客である。意外に思うかもしれないが、修学旅行客はホテル業にとっては極めて収益性の高い重要な顧客なのだ。その重要な顧客の親によって、その地域が敬遠されることになる可能性は高い。

次にやってこなくなるのは、家族連れや女性のグループである。このような顧客は、修学旅行客ほどにはホテルには利益はもたらさないかもしれない。だが、重要な顧客であることに違いはない。そして、最後にはまともな企業の社内旅行客=これもホテル業にとっては利益をもたらすグループである=も寄り付かなくなる。

(イ)風評被害は同一県内に広がる

また、ある地方の都市に住んでいて、その県内の別な場所にカジノがあって問題が起きていたとしても、問題はその地域のことであって自分たちには関係はなく、まして県全体の問題ではないと思えるだろう。だが、その県から離れた都道府県に住んでいれば、その県はすべて同じに見えるのである。

米国同時多発テロのとき、私は沖縄に住んでいた。住居のすぐ近くに米軍基地があり、テロの直後は機関銃を構えた装甲車が入り口に陣取っているなど、ものものしい雰囲気はあったが、恐怖心などはまったく感じなかった。しかし、東京に行くたびに、怖くないですかと聞かれたものだ。そして、実際に修学旅行客が激減して沖縄の経済が冷え込んだのである。

カジノが設立されて、反社会集団の抗争でも起きれば、あまり好ましくない地域という風評が起きることはあり得る。法の目的にある「観光及び地域経済の振興に寄与する」どころか、観光地としての健全な発展が望めなくなる可能性さえあるのだ。


4 産業保健としてどうかかわるか

(1)カジノが企業活動へもたらす問題点

さて、カジノは一般の企業の産業保健活動にどのような問題をもたらすだろうか。その答えは簡単である。従業員のギャンブル依存である。ギャンブル依存は、次のような問題をもたらす。

【ギャンブル依存が企業にもたらす影響】

1 該当する従業員の生活を荒れさせ、生産性を著しく下げる。

2 彼らによる犯罪の遠因ともなる。

3 該当する従業員は事故を起こすリスクが高まる。

生産性の低下がもたらす悪影響は説明するまでもないだろう。従業員による犯罪は、会社のイメージを大きく損なうことになる。また、会社の財産が犯罪の対象となれば、会社に直接のダメージを与えることになる。金銭的な被害ばかりではない。会社の信用を損なうのである。

また、従業員が事故を起こせば、その被害が社内にとどまる場合ばかりではない。社外の一般人を巻き込む恐れもある。そうなると、その損害は計り知れないのだ。


(2)疾病への対応

ア 産業保健と疾病

産業保健が担うメンタルヘルス対策として、疾病への対策はその範囲外である。しかし、そのことは社員の疾病の管理が重要でないことを意味しない。

これまで、産業保健におけるメンタルヘルス対策においても、さまざまな精神上の疾病が話題となってきた。職場のメンタルヘルス対策は、最初は、“うつ病”が念頭に置かれていた。やがて、いわゆる“新型うつ”が話題になり、最近では、産業保健の現場でも発達障害が大きな問題となりつつある。また、統合失調症にも、多くの産業保健関係者の目が向けられていた。

そして、アルコール依存も重要な問題であった。米国の労働衛生分野においては、アルコール依存と共に薬物依存も大きな問題となっている。そして、ギャンブル依存にも目が向けられていた。

しかし、我が国では、アルコール以外の薬物依存とギャンブル依存について、これまで産業保健の場では、あまりかかわってこなかったと言ってよい。

イ ギャンブル依存にも、目を向けよう

わが国においても、アルコール以外の薬物が、危険ドラッグ(かつての脱法ドラッグ(※))を中心に、若者の間での不気味な広まりが話題となりつつある。だが、本稿の目的は危険ドラッグではないので、その話はこれくらいにしよう。

※ 脱法という言葉のイメージから合法と誤解されることがあるが、脱法ドラッグの多くは違法である。また、これを使用しての運転などの行為も違法である。

本稿での問題はギャンブル依存症である。“ギャンブル依存症”というと経営者の方の中には、「そこまでは対応はできない、それは労働者個人の問題だ」などと考える方がおられる。だが、そのように考えるべきではない。なぜなら、問題が発生すれば、先述したように、生産性に悪影響を与えるばかりか、直接的な損害を被る場合もあるからだ。

ギャンブル依存の問題は、今後、ますます大きくなる可能性がある。であれば、そうなる前に対策を取っておく方が、問題が大きくなってから対策を取るよりもコストは少なくて済む。何も完璧な対策を取る必要はない。コストパフォーマンスを考えながら、できることから手を付けてゆけばよいのだ。十分に、ペイする対策があるのではないかと、私は考えている。

ウ どのような対応を取るべきか

(ア)基本的な対応

ギャンブル依存への対応というと、難しいと考えて敬遠されることもあるが、ギャンブル依存の対応も、基本的な実施事項は他のメンタルヘルス対策とそう大きく変わるものではない。

①社外の講師を中心とした労働者への教育・研修の実施、②信頼できるEAP機関と連携した相談窓口の設置、③上司による生活態度、仕事への態度の評価と問題がある場合の組織としての対応などである。

もし、メンタルヘルス対策を今も行っているのなら、その資源の一部をギャンブル依存対策に振り向ければよいのである。

(イ)人権上の配慮

注意するべきことは、生活態度や職務態度に乱れがある場合の職場としての対応について、個人情報管理や人権上の問題を発生させないことである。これは、他のメンタルヘルスの対策でも同じであるが、カジノにおける賭博そのものは、違法な行為ではない(※)のだから、過度に行うと個人の人権を侵害する恐れが出る可能性はあろう。

※ 公営ギャンブルも同じだが。

だが、職務態度や仕事の能率、事故の発生件数、突発的な遅刻など、職場における問題(事例性)が発生するようなら、その情報を社会通念の範囲内で必要な職制の者が共有し、合理的な対応をとることそれ自体には問題はない。

要は、①不必要な者に情報を渡さないということと、②目的が合理的な内容のものであり、③手段が社会通念の範囲内であれば、あまり過度に気にする必要はないと言ってよい。

(ウ)情報管理上の配慮

また、従業員の依存の可能性のある私生活上の合法的な賭博行為に関して、その上司が同僚などから情報を得た場合、これを会社に告げることについて違法性があると解する余地もなくはない。その点、十分な留意は必要である。

個人情報保護法

※ イメージ図(©photoAC)

しかしながら、社内での情報の共有に留まっていれば、少なくとも個人情報保護法上の問題はない。また、情報の管理に注意した上で、適切な目的のために用いるのであれば、ただちに違法性はないと考える。


5 最後に

それにしても、カジノ法などという、国民の過半数が支持していないことが明らかな法案を、大災害の対策が急務となっているときに、国会における多数の力で押し通してしまうことは、如何なものであろうか。

しかも、それの弊害についての、きちんとした検証も行わずに、刑法で禁止している賭博罪を一部地域で合法化するという法案なのである。弊害は依存の問題だけではない。我が国の国民の持つ資産を、海外の資本によって吸い上げられ、我が国内の消費を衰退させるおそれや、破産者が増加して社会的なコストを引き上げることになりかねないのである。

森友、加計問題についても、国民の疑惑は解消されてはいない。これが、欧米その他の民主国家であれば、政権の崩壊につながっているだろう。このような中での安倍政権のこの強引な政治姿勢には辟易とさせられるということを指摘しておきたい。




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