安衛法の無資格運転と民事損害賠償等




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転倒したフォークリフト

※ イメージ図(©photoAC)

労働安全衛生法の免許及び技能講習には、作業主任者の資格と就業制限業務の資格の2種類があります。

このうち、就業制限業務の資格制度は、一定の危険有害な業務については、免許取得者、技能講習の修了者等でなければ就かせてはならないとするものです。

本稿では、これらの事前送検の事例を紹介するとともに、判例を挙げて、保険金の支払いや民事損害賠償請求に与える影響について解説しています。




1 就業制限業務に係る受講状況

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(1)就業制限業務に関する資格制度とは

労働安全衛生法の免許及び技能講習には、作業主任者の資格と就業制限業務の資格の2種類がある。

このうち就業制限業務の資格は、安衛法第61条により、一定の危険有害な業務については、免許取得者、技能講習の修了者等でなければ就かせてはならないとするものである(※)

※ なお、実務においては、特別教育が就業制限業務に関するこれらの制度の下位の資格制度と理解されている面があるが、法的にはこれらは「教育の受講」であって特別教育を受けたからと言って「資格」が取得できるわけではない。

受講者数は、次図に示すように年間数十万人に及び、新型コロナの影響で2020年以降は減少しているが、2021年でフォークリフトは約19万人、玉掛けは約15万人などとなっている。

技能講習(就業制限)修了者数

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これらに違反して必要な資格を有さずに無資格で業務を行っている件数はどの程度あると思われるだろうか。実は、意外に無資格での業務実施の件数は多いのである。

厚生労働省労働基準局が発行している「労働基準監督年報」によると、定期監督等において労働基準監督官が現認した就業制限業務に係る安衛法違反は、長期的には減少しているものの、最新の2020年のデータで1,104件という違反が確認されている。

違反状況、違反によって送検処分された数等の詳細は別稿「安全衛生資格・教育関連の違反状況」を参照して頂きたい。


(2)違反による送検の事例

ア 事前送検の事例

例えば、森山(※)は、就業制限業務違反に対して是正勧告を受け、虚偽の是正報告書を提出して違反を続けたケースについて、悪質として送検された事例を報告している。

※ 森山博子他「フォークリフトの無資格者運転で是正、再度の臨検時も違反あり事前送検」(労働安全衛生広報 2022.4.15)」

本件では、担当監督官は次のようにコメントしている。就業制限業務の無資格での実施は重大な違反行為であり、場合によっては司法処分され得るということである。

【担当監督官コメント】

監督署に虚偽の報告を行い、無資格者をフォークリフトの運転業務に従事させていたことは遵法意識の欠如であり、許されることではない。今後も同種事案に対しては、書類送検なども含め厳正に対処していきたい

※ 森山博子他「フォークリフトの無資格者運転で是正、再度の臨検時も違反あり事前送検」(労働安全衛生広報 2022.4.15)

この企業は、是正勧告を受けた後で、製造部門の係長に資格を取得させて、是正報告を提出しているのである。ところが、製造部門の係長は現場とは離れたところで勤務しており、フォークリフトの運転業務のたびに同係長が現場に赴くことは現実的ではなかった。そのため、その後も違反状態が続いたのである。

フォークリフト

※ イメージ図(©photoAC)

なぜ、現場の作業者に資格を取らせなかったのかは分からないが、現場の労働者は辞める可能性が高いためと考えるのが自然であろう。労働者が辞めるたびに資格を取らせるコストが発生することを嫌がったのではないだろうか。おそらく、辞める可能性の少ない係長に資格を取らせればよいと考えたのだろう。

再び監督が入ったとしても、係長の資格を提示すれば監督官を騙せると思ったのだろうか。しかし、そのような姑息な手段は通じないのである。

イ 公衆災害による送検の事例

ところで、公衆災害(無関係な一般市民を被災させる災害)が発生した場合には、業務上過失致死傷罪で警察当局によって司法処分が行われるケースが多い(※)

※ 死亡させた場合は、執行猶予が付かない実刑判決が出されて、実際に懲役刑や禁固刑に処せられるケースも少なくない。

一般公衆災害が発生した場合に、安衛法違反で送検されるケースはめったにないが、そのような例もあるので紹介しておく。

これは、無資格者にフォークリフトを運転させ、市道を走行しているときに歩行者に激突して死亡させた事例(※)である。この事件では、業務を命じた代表取締役が安衛法違反で送検されている。

※ 労働新聞社「フォークリフトに轢かれ住民死亡 無資格運転させた牧場送検 熊谷労基署」(2022年6月15日付記事)

もちろん、市道の走行には安衛法の資格は不要である。本件では、事業場内も走行していたことから、安衛法違反で送検されたものである。広い意味で「事前送検」といえよう。なお、フォークリフトを荷を積載して市道を走行しており、この意味で道交法に違反(※)している。

※ フォークリフトのフォークは、道交法第55条の「積載のために設備された場所」に該当しないので、荷を積載して運転してはならない。

労働新聞社の記事には、業務上過失致死傷や道交法違反で送検されたかどうかは記されていないが、本件のようなケースでフォークの運転者が業務上過失致死傷で送検されなかったとは考えにくい。

業務上過失致死罪等で送検されていれば、これらと安衛法違反の関係は併合罪(※)となる。

※ それぞれ別な犯罪として処理される。有期の懲役刑または禁錮刑の法定刑は加算されるが、最も長期の刑の 1.5 倍までで制限される。


2 無資格による法違反の安衛法以外の法的な問題

(1)保険の支払い拒否が認められたケース(エイ・アイ・ユー・インシュアランスカンパニー事件)

まず、必要な技能講習を修了せずに小型移動式クレーンを運転しているときの災害について保険金が支払われなかった事例を紹介しよう。

本件では、原告の会社と被告の保険会社の間で保険契約が締結されていたが、その免責事項として次のように記載されていた。

【傷害保険契約の免責事項】

① 当会社は、次の各号に掲げる事由によって生じた傷害に対しては、保険金を支払いません。

(4)被保険者が法令に定められた運転資格(運転する地における法令によるものをいいます。)を持たないで、または酒に酔ってもしくは麻薬・大麻・あへん・覚せい剤・シンナー等の影響により正常な運転ができないおそれのある状態で自動車又は原動機付自転車を運転している間に生じた事故

【自動車保険契約の免責事項】

① 当会社は、次の傷害については、保険金を支払いません。

(2)被保険者が法令に定められた運転資格を持たないで、または酒に酔ってもしくは麻薬、大麻、あへん、覚せい剤、シンナー等の影響により正常な運転ができないおそれがある状態で被保険自動車を運転しているときに、その本人について生じた傷害

※ 東京地判 1997 年3月 13 日(下線協調 引用者)

そして、原告の会社では、必要な技能講習の修了をしていない者が小型移動式クレーン(※)の運転の業務を行っていて、同小型移動式クレーンを転倒させて下敷きとなって死亡する災害が発生したのである。

※ 判決文ではたんに「本件クレーン」と標記されているが、安衛法上の小型移動式クレーンである。

電卓のゼロを示す女性

※ イメージ図(©photoAC)

この災害について、被告の保険会社は、免責事項を根拠として保険の支払いを拒否した。

これに対し、原告会社は、次のように主張して保険金の支払いを求めて訴えた。訴えの根拠は、被害者の行っていた移動式クレーンの操作は「運転」に該当せず、また技能講習の修了は免責条項にいう「資格」に当たらないというものである。

【原告の主張】

  • 本件各免責条項にいう免責の対象となる傷害は、「被保険自動車を運転しているときに、その本人について生じた傷害」と規定されており、亡義隆は、自動車を停止させたままの状態でクレーンだけを移動させていたのであるから、運転していたとはいえず、そもそも免責条項の適用はあり得ない。
  • 本件各免責条項にいう「法令に定められた運転資格」とは、右各契約の文言上これに続く「自動車を運転している間に生じた事故」という文脈と関連して、自動車の運転についての資格を意味すると解するべきであるから、クレーンの操作についての資格はこれに該当しない。
  • 小型移動式クレーンの運転についての技能講習は、これを受講するだけで修了でき、かつ、その修了者については公的機関による資格取得者の名簿管理もなされていないのであるから、このような比較的軽い資格は、右にいう「法令に定められた運転資格」には該当しない
  • 仮に、クレーン操作の資格が本件各免責条項にいう「法令に定められた運転資格」に該当するとしても、免責条項は保険募集の取締に関する法律(以下「保険募集取締法」という。)一六条一項一号にいう「保険契約の契約条項のうちの重要な事項」に当たり、被告はその内容を原告会社に説明、告知すべきであったにもかかわらず、何らの説明もしなかったのであるから、被告は免責されない。
※ 東京地判 1997 年3月 13 日(下線協調 引用者)

これに対し、裁判所は次のように述べて、原告の訴えを退けた。

【裁判所の判断】

  • 原告らは、本件各免責条項にいう免責の対象となる場合は、「被保険自動車を運転しているとき」と規定されているところ、亡義隆は、自動車を停止させたままの状態でクレーンを操作していたので、免責の対象となる運転とはいえないと主張する。しかし、前記のとおり、本件各免責条項にいう「法令に定められた運転」を道路交通法上の挟義の運行に限定して解すべき理由はないのであるから、原告の右主張は、前提において失当である。
  • (安衛法の規定は:引用者)クレーンの操作には、転倒や衝突の危険があり、クレーン作業に従事している者のみならず、周囲の労働者や一般公衆にまで被害が及ぶおそれがあることから、クレーンの操作をする者に対し必要最小限の知識と技能を修得させ、知識と技能を修得した者にのみクレーンの運転業務に従事させることにより、このような災害を未然に防ぐこととしたものと解される。そうだとすれば、本件各免責条項にいう「法令に定められた運転資格」に、労働安全衛生法六一条に基づくクレーンの操作についての資格が含まれると解するのが相当である。
  • 確かに、本件クレーンのように吊り上げ荷重が一トン以上五トン未満の小型移動式クレーンを操作するためには、小型移動式クレーンの運転についての技能講習を修了しさえすれば足りるものではあるが、たとえ、資格取得のための手続が比較的簡易なものであったとしても、前記の趣旨に照らすならば、小型移動式クレーンの操作に求められる資格が、本件各免責条項にいう「法令に定められた運転資格」に当たらないということはできない
  • クレーン操作についての資格が、本件各免責条項にいう「法令に定められた運転資格」に当たるか否かについてまでは、同号所定の告知義務の対象とはならないと解すべきである。
※ 東京地判 1997 年3月 13 日(下線協調 引用者)

この免責事項の規定は特殊なものではなく、損害保険約款の多くに付けられているものとそう変わりはない。技能講習を修了せずに、小型移動式クレーンの運転を行っていると、災害がおきたときに保険金が支払われないことがあり得るということは理解をしておいた方がよい。


(2)民事賠償請求が認められたケース

ア 名古屋地判2003年8月29日(N興業事件)

次に、労働者に無資格で就業制限業務を行わせていて災害が発生し、被災者から損害賠償請求を受けた事例を紹介しよう。

原告は、被告会社の下請け企業の労働者であった。原告が雇用されていた下請け企業はすでに倒産している。その後、原告は被告会社に雇用された(※)

※ 被告は、原告を雇用していないと主張したが、裁判所は原告の主張を認めて、原告は被告に雇用されているとした。

天井クレーン

※ イメージ図(©photoAC)

そして、つり上げ荷重4.9トンの床上操作式クレーンを用いて、原告ら玉掛け技能講習未受講者が玉掛けを行い、クレーン運転特別教育を受講していない操作者がクレーンを操作して、クレーン作業を行っていたところ、ワイヤロープが外れて原告が骨折する災害が発生した。

原告は、安全配慮義務の不履行を理由として、被告会社に対して損害賠償を求めて訴えた。

これに対し、裁判所は、無資格運転をさせていたこと等が安全配慮義務違反に当たるとして、損害賠償請求を認めた

【裁判所の判断】

  • 前記認定のとおり、被告会社は、本件事故時において、原告を雇用していたものであり、雇用契約に付随する義務として、労働者である原告の生命、身体を危険から保護するよう配慮する義務(安全配慮義務)を負っていたものと解される。
  • 原告が本件事故時に行っていたクレーンを使用しての作業については、つり下げ(ママ)荷重が1トン以上のクレーンの玉掛けの業務に、技能講習を修了していない原告を就かせていたこと、つり下げ(ママ)荷重が5トン未満のクレーンの運転(床上操作)を行う原告に対し、法定の特別教育を行っていないことという労働安全衛生法違反の事実があったことが認められる。
  • 被告Bにおいて,原告の玉掛け資格やクレーン運転(床上操作)の特別教育受講の有無を確認することなく,本件事故時に行っていたと同様のクレーン作業に従事させたものであり,日々の作業について,原告らを監督する者はおらず,その安全を確保するための教育,注意,指導等を行うことも全くなかったことが認められる。
  • 以上によれば、被告(代表取締役=引用者)は、原告の使用者として、原告に対する安全確保のための教育、注意、指導等を全く行うことなく、監督者も置かず、玉掛けの技能講習の修了やクレーン運転(床上操作)の特別教育の受講が必要で、本来原告が行うことのできない業務に原告を従事させていたものであるところ、前記認定の本件事故の態様に照らせば、玉掛けのワイヤーを外してクレーンを上昇させた際に本件事故が発生しているのであるから、本件事故の原因は、被告(代表取締役=引用者)の安全配慮義務違反に起因するものといわざるを得ない。
※ 名古屋地判 2003 年8月 29 日(下線協調 引用者)

なお、被災者はかなり危険な動作をしており、無資格であったとしても、事故が発生し得ることは分かったはずであるとして、3割の過失相殺を行っている。

無資格者に対して就業制限業務を行わせることが、事業者の安全配慮義務違反となることを認めたことは妥当と言えよう。

イ 大阪地判平成 23 年3月 28 日

本件は、被告Z会社の物流センターにおいて、派遣社員として被告Y会社の作業に従事していた原告が無資格でフォークリフトを用いた業務を行い、停止中に、これも無資格の者(戊田)が運転する他のフォークリフトに衝突されて負傷(骨折)した事例である。この社員は、Y会社及びZ会社に対して損害賠償を求めて訴えた。

※ 本件では訴えられたY会社が、労働者側の訴えは根拠がないことを知りながら提起したもので不法行為に当たると主張して反訴を起こしている。

本件で原告側が安全配慮義務違反の根拠として挙げたのは次の点である。

【Y会社の安全配慮義務違反の内容とZ会社の安全配慮義務の存在(原告側主張)】

  • 本件事故当時、(中略)作業計画(安衛則151条の3)は作成されておらず、作業の指揮者(安衛則151条の4)も存在しなかったのであるから、被告Y会社の安全配慮義務違反は明らかである。
  • 被告Y会社は、フォークリフトの運転資格を有しない原告にその運転を要する作業をさせていたものであるから、安全配慮義務違反は明らかである
  • 被告Z会社は本件事故当時、原告を自己の従業員に対するのと同様の立場で支配し、従属させていたといえるから、原告に対して安全配慮義務を負う。
※ 大阪地判平成 23 年3月 28 日(引用者において箇条書きとした。なお、括弧内の記述及び下線強調は引用者による)

これに対して被告側は次のように反論した。すなわち、お互いの主張は真っ向から対立していたのである。

【被告側の反論】

  • 被告Y会社は、フォークリフトの運転を要する作業を行う者に対しては、作業計画を定め、これを周知させ、また作業の指揮者も定めてその者に作業の指揮をさせていた。
  • 被告Y会社は、原告及び戊田に対し、ハンドリフトを使って行う冷凍食品の仕分け作業を行わせており、フォークリフトの運転を要する作業を行わせていた事実はない。被告Y会社の現場のリーダー等は、原告や戊田がフォークリフトを運転しているのを見かけた場合には、注意をしていた。
  • フォークリフトの運転資格を有していなかったのに、休憩時間中に原告車を運転し、戊田車を運転していた戊田とふざけて、車両同士でぶつけ合って遊んでいたときに本件事故を起こし、負傷したものである。したがって、原告の負傷は、原告自身が招いたものであり、被告Y会社の安全配慮義務違反によるものではない。
  • 被告Z会社が原告に対して安全配慮義務を負う関係にないことは明らかである。
※ 大阪地判平成 23 年3月 28 日(引用者において箇条書きとした。下線強調は引用者)

これに対し、裁判所は複数の証拠から、「被告Y会社側の供述等には、次のように、証人相互間で食い違いがある部分があり、その内容も原告本人の供述と比べて非常に不自然な部分が多いから、そのまま信用することはできない」として、原告の主張を認めた。そして、次のように判示したのである。

【裁判所の判断】

1 被告Y会社の安全配慮義務違反

  • 本件物流センターでフォークリフトを使用する場合には、フォークリフトの運転者が運転を誤り、又は作業所内でのフォークリフトの走行経路と作業員の歩行経路とが複雑に交差して事故が発生する危険性があるものということができるから、H会社の作業において、労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、上記のような事故が発生することのないよう、上記法規制の趣旨・内容をも勘案の上、〈1〉前記のようなフォークリフトによる作業計画を定め、これを作業員に周知し、これに従って作業を行うこと、〈2〉作業に当たっては指揮者を定め、上記作業計画に基づき作業の指示を行わせること、〈3〉フォークリフトの運転を要する業務は、同資格を有する者のみに担当させること、などの安全対策を講ずべき義務があったと解すべきである。
  • それにもかかわらず、前記認定事実によれば、被告Y会社は、本件事故当時、〈1〉前記のようなフォークリフトによる作業計画を定めていたとは解されず(平成22年2月時点の証拠(略)のような作業計画が、本件事故当時も作成されていたとは解されない。)、〈2〉また、作業の指揮者についても、H会社の作業に関するリーダーが明確ではなく、アルバイト従業員である原告が実質的に作業を取り仕切っており、〈3〉さらに、フォークリフトの運転資格を有しない原告及び戊田に、その運転を要する業務を担当させていたものである。
  • したがって、被告Y会社には安全配慮義務違反があり、その結果、戊田がフォークリフトの運転を誤る事態を引き起こし、本件事故を生じさせたものというべきである。

2 被告Z会社の安全配慮義務の有無

  • 原告を含む被告Y会社の作業員は、基本的には同被告から直接の指揮監督を受けていたものの、一定の範囲では、被告Z会社の従業員からも直接に指揮監督を受ける立場にあったというべきである。特に、被告Z会社が所有し、提供していたフォークリフト等の機具を用いて行う作業に関しては、同被告の従業員は、日常的にその様子を目にしており、作業に危険な点があった場合には、いつでも注意をすることができる立場にあった
  • したがって、被告Z会社は、原告に対し、特にフォークリフト等の機具を用いて行う作業に関しては、指揮監督権を行使することができる立場にあり、実質的に労務の供給を受ける関係にあったと解されるから、信義則上、原告に対し安全配慮義務を負うものといえる。

3 過失相殺

  • なお、原告が運転資格を有しないのにフォークリフトを運転していた点については、前記のとおり被告Y会社の指示によるものと認められるから、これをもって原告の過失割合を加重することは相当ではない
※ 大阪地判平成 23 年3月 28 日(引用者において箇条書きとした。下線強調は引用者)

本件では、証人の証言などの各証拠を見る限り、被告側の主張を認めなかった判断は妥当なものと思われる。なお、本件では、労災保険請求の際に「通勤災害」とされており、労災隠しの行われたケースである。

また、本件では原告自身が無資格で業務を行っていたことは、被告の指示によるものとして過失相殺を認めていない(※)。無資格で業務が行われた場合に、会社(被告)側の「指示していない」という主張は容易に認められないことを示したものといえよう。

※ 被告が自ら指示したことについて、原告の側の過失であると主張しても認められないことは当然である。

本判例からも分かるように、就業制限業務違反は、自ら無資格で運転していた被害者に対しても安全配慮義務違反となり得るのである。


3 最後に

女性弁護士

※ イメージ図(©photoAC)

以上、説明したことから分かるように、安衛法の就業制限業務を無資格で行うことは、労働安全衛生法違反になることはもとより、災害が発生した場合に保険金の支払いが行われなくなったり、多額の民事賠償請求が認められることなのである。

労災保険による保険金は、労働災害の損害をすべて保証するものではない。賃金については損害の6割(休業特別支給金が2割あるので実質亭には8割)(※)であり、慰謝料なども支払われることはない。

※ 損害賠償の金額は、労災保険が支払われた場合はその分は控除されるが、休業特別支給金は控除されないので損害賠償額は4割となる。

一旦、災害が発生し、訴訟となれば訴訟に必要なコストだけでも極めて大きなものであり、敗訴すれば多額の損害賠償をもとめられるケースもあるのだ。

免許や技能講習を修了することは、災害防止に直結しているのである。無資格で、就業制限業務を行わせることは、企業を持続的に存続させるためにも重要なものであることを改めて強調しておきたい。





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