※ イメージ図(©photoAC)
「じん肺法施行規則等の一部を改正する省令」(令和6年3月18日厚生労働省告示第45号)により、安衛法等によって事業者に義務が課されている各種の報告のうち、報告数の多い労働者死傷病報告等の8つの報告について、2025年1月1日より原則として電子申請によることが義務付けられることとなっています(※)。
※ 令和6年3月28日基発0328第15号「じん肺法施行規則等の一部を改正する省令の公布について」参照
これにより、従来の紙ベースの様式(OCR 帳票)は廃止され、届出・申請等帳票印刷に係る入力支援サービスを利用した報告を行う必要があります。当分の間は改正省令の附則により、紙ベースの報告も認められます。しかし、紙ベースでの報告を行えば、労働基準監督署から(次回以降の)電子申請を強く要請されることとなるものと思われます(※)。
※ 厚労省のパンフレット「労働者死傷病報告の報告事項が改正され、電子申請が義務化されます」によれば、「経過措置として、当面の間、電子申請が困難な場合は書面による報告が可能です
(下線強調引用者)」とある。ただし、法令上は「電子申請が困難な場合」に限定されているわけではない。
入力は、「労働安全衛生法関係の届出・申請等帳票印刷に係る入力支援サービス」から行うことになります。政府のこの種の電子申請のシステムは、きわめて分かりにくいものが多いのが実態ですが、このシステムは数種類の報告に特化していることもあるのか、非情にわかりやすくできています。
本稿では、労働者死傷病報告等の電子申請の概要と留意点を解説します。
- 1 はじめに
- (1)労働者死傷病報告等の電子申請の義務化
- (2)電子申請が義務化される報告書等
- (3)社会保険労務士等による代理報告について
- 2 電子申請の方法
- (1)準備作業
- (2)使用方法
- (3)懸案事項
- 3 最後に
1 はじめに
(1)労働者死傷病報告等の電子申請の義務化
執筆日時:
一部修正:
※ イメージ図(©photoAC)
労働者死傷病報告(安衛則第97条)等については、かつては手書きで提出することが求められていたが、現時点では OCR 帳票での提出を原則としつつ電子申請も可能とされている(※)。
※ 現時点では労働安全衛生に関する申請・届出で電子申請が可能な手続きは、約 800 種類あるが、その活用は必ずしも十分ではなかった。
しかし、申請者が手書きで OCR 帳票に記入する場合は、入力漏れや形式的な入力ミスがあっても、提出を受けた行政機関の職員がチェックするか、OCR シートを電算機に読み込んで処理しない限り(※)、入力漏れや形式的な誤記入を発見することは困難である。
※ OCR 帳票は提出を受けた行政機関の職員によって、電算機に入力されて統計処理が行われている。
そのため、「じん肺法施行規則等の一部を改正する省令」(令和6年3月18日厚生労働省告示第45号)が公布され、安衛法等によって事業者に義務が課されている各種の報告のうち、報告数の多い労働者死傷病報告等の8つの報告について原則電子申請によることが義務付けられることとなった(※)。
※ 令和6年3月28日基発0328第15号「じん肺法施行規則等の一部を改正する省令の公布について」参照
電子申請の場合、申請者がデータを入力する時点で、記入漏れや形式的な誤記入はシステムでチェックできるため、これらを防止することができるばかりか、申請者が入力した時点でリアルタイムで統計を取ることが可能となる(※)。
※ 熱中症の発生件数など、リアルタイムでのデータが有効に活用できる場合がある。
(2)電子申請が義務化される報告書等
今回、電子申請が義務付けられるのは、以下の8項目である。なお、各項目に括弧書きで条文と共に付記している様式は、改正前に用いられている様式である。
- じん肺健康管理実施状況報告(じん肺則第37条、様式第8号)
- 総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告(安衛則第2条、第4条、第7条、第13条、様式第3号)
- 定期健康診断結果報告書(安衛則第52条第1項、様式第6号)
- 有害な業務に係る歯科健康診断結果報告書(安衛則第52条第2項、様式第6号の2)
- 心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書(安衛則第52条の21、様式第6号の3)
- 労働者死傷病報告(安衛則第97条、様式第23号、様式第24号)
- 有機溶剤等健康診断結果報告書(有機則第30条の3、様式第3号の2)
- 事業の附属寄宿舎内での災害報告(労基則第57条、様式第23の2号、安衛則様式第22号、様式第23号(※))
※ 令和6年3月28日基発0328第15号「じん肺法施行規則等の一部を改正する省令の公布について」には「労基則第57条、安衛則様式第23号、様式第24号
」とあるが、様式については誤植であろう。
分かりやすく言えば、通常の事業者が労基署長に対して提出することが義務付けられている報告のほとんど(※)が電子申請で行うことが必要となるのである。
※ 特殊健康診断報告書は、有機則によるもののみが電子申請を義務化され、特化則、鉛則等によるものは義務化されていない。これは報告数の多い有機則によるものから義務化しようというものであろう。いずれ他の特殊健康診断結果報告書も電子申請が義務化されるものと思われる。
この中でも、一般の事業者にとって重要なものが労働者死傷病報告であろう。厚労省も、とくに死傷病報告の電子申請化についての広報に力を入れているようである(※)。
※ 厚労省のWEBサイトでも、「労働者死傷病報告の報告事項が改正され、電子申請が義務化されます」というページが作成されている。また、パンフレット「労働安全衛生関係の一部の手続の電子申請が義務化されます」においても、労働者死傷病報告が前面に出されている。
(3)社会保険労務士等による代理報告について
※ イメージ図(©photoAC)
労働安全衛生法、労働基準法等の報告等については、社会保険労務士が提出の代行を行うことが認められている(安衛則第100条の2、労基則第59条の3など)。この場合、社労士等の電子署名・電子証明書がなくとも、提出代行に関する証明書(※)を PDF 形式などで添付することで、電子申請を行うことができる。
※ 社会保険労務士等が当該使用者の職務を代行する契約を締結していることにつき証明することができる電磁的記録。
なお、現時点では社会保険労務士証票のコピーを貼付する必要がある。今後、国家資格のオンライン・デジタル化が進めば、資格の電子証明が求められることもあると思われる。なお、国家資格のデジタル化については、当サイトの「国家資格等のオンライン・デジタル化」を参照されたい。
その場合の「提出代行に関する証明書」については、令和3年3月10日基政発0310第1号・基監発0310第1号・基賃発0310第3号「社会保険労務士等が労働基準法等に基づく手続について電子申請により提出代行を行う場合の取扱い」に、提出代行に関する証明書の参考様式が示されている。
2 電子申請の方法
(1)準備作業
ア アカウントの取得
これまで行政が作成した電子申請システムは、極端に分かりにくいものが多かったこともあるのか、今回の電子申請義務化についても不安感を抱く方が多いようである。しかし、労働者死傷病報告などに関して言えば、非情に分かりやすいシステムになっている。
まず、電子申請を行うためにはアカウントを登録(取得)することが必要となる。e-GOV アカウントは誰でも登録することができる。また、次のいずれかのオープンIDがあれば、それを利用することも可能なので、e-GOV アカウントの登録は不要である。
- GビズIDが提供する gBizID エントリー、gBizID プライムまたは gBizID メンバー
- 米国マイクロソフト株式会社が提供する Microsoft アカウント
- Google 社が提供する Google アカウント
※ GBizID は、法人の代表者又は個人事業主でないと取得できない。しかし、Microsoft アカウントや Google アカウントは、誰でも簡単に取得できる。
e-GOVアカウントを登録するには、メールアドレスが必要となる。なお、フリーメールでも登録は可能だが、一時的かつ使い捨ての電子メールアドレスを用いることは禁止されている。
登録のマニュアル「e-Govアカウントの登録方法」を参考にして、e-Govアカウント登録画面で、任意のメールアドレスを入力(仮登録)すれば、そのメールアドレスに e-GOV からメールが送られてくるので、1時間以内にメール本文内のリンクから本登録が可能である(※)。
※ 本登録に当たっては、パスワードの登録が求められる。それ以外の個人情報の入力は求められない。従って、企業の共有のメールアドレスでも登録できてしまうが、共有のメールアドレスの使用は避けるべきであろう。
これで、アカウントの取得は完了である。
このアカウントでログインすれば、過去の申請情報を確認することもできる。そのため、可能なら e-GOV アカウント専用のメールアドレスを作成し(※)、人事労務担当者が引き継ぐようにして、引き継ぐたびにパスワードを変更するべきであろう。
※ ホームページを公開するために有償の WEB サーバーを借りていれば、通常はメールサーバーも使用できる。そして、メールサーバーが使用できれば、レンタルサーバ―のマニュアルを参照すれば、容易にメールアドレスが作成できる。
イ ブラウザの設定
※ イメージ図(©photoAC)
ブラウザの設定は、ポップアップブロックを解除するだけである。
マニュアル「ポップアップブロックの解除」を参考にしてポップアップブロックを解除すればよい。
通常は、初期設定でポップアップブロックは「ブロック」になっている。セキュリティのために解除したくないという方もおられるだろうし、会社の規定で解除できない場合もあるだろう。
しかし、解除しないと、帳票を入力した後で申請ができないようである(※)。
※ 厚労省のマニュアルを読む限りでは、そのように読めるが、はっきりしない。しかし、まさか試してみるわけにもいかないので確認はしていない。
ただ、解除したとしても、セキュリティの重大な問題が生じるわけではないので、解除しておいた方がよいだろう(筆者の個人的な見解である。)。
なお、今回の報告等の電子申請はブラウザで可能だが、他の労務管理関連の電子申請にはアプリケーションのインストールが必要となる。その方法を参考までに示しておく。
【労務管理関係の電子申請のためのアプリケーション(参考)】
労務管理関連の e-Gov 電子申請には、アプリケーションをインストールする必要がある(※)。管理者アカウントが必要なので、企業のシステムにインストールを行う場合は、管理部門の許可が必要な場合があるだろう。
※ Windows 版では、「Microsoft .NET Framework (4.7.2以上)」がインストールされている必要がある。仮にインストールされていなければ、e-GOV アカウントのインストール時に、Microsoft .NET Framework のインストールが求められるので、「インストール」アイコンをクリックすれば自動でインストールされる。
また、CPU は 1GHz 以上、搭載メモリ 2GB 以上、使用可能ディスク領域 20MB 以上で、OS は、Windows は 10 又は 11、mac OS はmacOS 10.15 が必要である。ブラウザは、Chrome、Edge(Windows)、Firefox 又は Safari 13(mac) が必要となる。
インストールは e-GOV のサイトの「アプリケーションのインストール」からダウンロードして行う。
Windows 版とmac OS 版があるので、必要な方のインストーラをダウンロードする。インストールマニュアルも Windows 版と mac OS 版があるので、必要に応じて参照すればよい(※)。
※ 現実にはマニュアルなど参照しなくても、インストールは、ほぼ自動で完了する。なお、このアプリケーションではGoogleアカウントは使用できない。
(2)使用方法
ア ログインする
次に実際の申請の方法を解説する。まず、e-Govアカウントログインのページから、先ほど取得したe-GOVアカウントでログインしよう。
※ e-GOV のサイトの「アプリケーションのインストール」でインストールしたアプリケーションは、この手続きでは使用できないので誤解しないようにしたい。
初回ログオン時には、最初に「労働安全衛生法関係の届出・申請等帳票印刷に係る入力支援サービスがあなたのアカウントを利用することを許可しますか?」と問われるので、「許可」をクリックする(※)。
※ 2回目以降のログオン時には、前回のログアウトから時間がたっていると、「Session Error」と表示されるが、異状ではないので、「トップページへ戻る」をクリックしてトップページへ戻ればよい。
イ 申請する
ログインした次の画面(帳票作成メニュー画面)で、画面上部に表示されている必要な申請をクリックする。ここでは、「労働者死傷病報告」をクリックしてみよう。
入力画面が現れるので厚労省のマニュアル「電子申請サービス利用方法」に従って入力してゆけばよい(※)。
※ 労働者死傷病報告では、図面の添付が必要になる場合が多い。合計 15MB 以下であれば5件までのファイルが添付できる。手書きしたもので構わないので、スキャンしてPDFファイルにして添付することが望ましい。カメラで撮影して jpeg ファイルにしてもかまわないが、できれば PDF の方が行政機関としては便利だろう。なお、ファイル形式はとくに制限されていないようだ。
次に「内容を確認」のアイコンをクリックして内容を確認する。この段階では送信はされていないので、留意すること。
最後に「申請する」をクリックすると、「帳票入力データ」の保存を促す確認がポップアップされる。このポップアップに表示される「申請に進む」アイコンをクリックする。
電子申請が完了すると、「申請結果」ページが表示される。受け付けられた申請には「到達番号」が振られる。「メニューに戻る」をクリックすると「帳票作成メニュー」ページに戻り、申請が「申請案件一覧」に反映されていることが確認できる。
ウ 申請を取り下げる
報告を行った後でも、行政の審査完了前であれば、取下げが依頼できる。帳票作成メニュー画面で、申請を取下げる案件の「到達番号」をクリックして、「申請取下げを依頼する」ボタンをクリックすればよい。
そこで、「取下げ依頼者名」と「取下げ理由」を入力し、「内容を確認する」ボタンをクリックし、さらに「申請する」アイコンをクリックすればよい。最後に確認ダイアログが表示されるので「はい」をクリックする。
(3)懸案事項
このシステムだが、システムに慣れていない初期の頃は、「申請する」アイコンをクリックしただけで送信したつもりになり、「申請に進む」アイコンのクリック(送信操作)をし忘れるケース(※)が起きやすいシステムのように思えた。確かに、「申請結果」画面で確認すればよいのだが、送信操作をせずにログアウトしてしまえば確認も忘れてしまうだろう。
※ この場合、法的には報告をしないという故意がないので、形式的には過失による安衛法第 100 条(安衛則第 97 条)違反ということになる。しかし安衛法には過失を処罰する規定はないので、罪にはならない。
今後、労働者死傷病報告の未提出(労災隠し)事案で、被疑者に「確かに報告したはずだ、だがデータがないとすれば送信ボタンを押し忘れたのかもしれない」と言い張られると、捜査官(労働基準監督官)としては同僚等の証言から報告する意思がなかったことを証明しなければならないという困難な状況になるかもしれない。
また、その他の懸案事項としては、誤入力をして送信をしてしまったときの訂正の方法が分かりにくいように思える。
最初に使う時までに、その操作方法を十分に理解して、間違いのないようにしたい。
3 最後に
※ イメージ図(©photoAC)
労働者死傷病報告等の電子申請が義務化されることは、あまり注目を浴びていないのか、関係する専門誌等にもあまり載っていないようである。
また、電子申請の義務化を知らなかったとしても、当分の間は書類ベースでの提出でも、報告は有効とされる(紙ベースの書類のまま受理されて報告義務違反とはならない)。
しかしながら、電子申請であれば、申請の記録が残るため、記録の保存の必要がなくなる。これまでだと2枚提出して、そのうちの1枚に受領印を受けて返却してもらって保存する必要があったがその必要がなくなるのである。
また、監督署まで出かけたり、郵送したりする必要がなくなるので、業務の簡素化にもつながるだろう(※)。
※ 個人的には、事故を起こしたときくらいは、監督署に顔を出して口頭で事故の説明をしてもよいのではないかとは思うが。
そして、行政の統計を正確かつ迅速にとることにも資することとなる。
2025年の施行を待たず、できる限り早く電子申請に切り替えるようにしてゆきたい。
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