職場で新型コロナに感染した場合、労働災害として労働安全衛生法の死傷病報告を提出する必要がある場合や、労働災害として労災補償の請求を行うことが可能な場合があります。
ご留意ください。
1 労働災害とは
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職場で新型コロナに感染した場合、労働災害として労働安全衛生法の死傷病報告を提出したり、労働災害として労災補償の請求を行っているだろうか?
これだけ、感染者数が増加していれば、職場で感染したというケースも多いだろう。この場合、労働災害になるのだろうか?
そもそも労働災害とは、「労働者が業務に起因して負傷し、疾病に罹り又は死亡すること」であり、以下の4つの要件が満たされる“事件”のことである。
- 被災者が労働者であること(労働者性)
- 原因となった事情が“業務”であること(業務性)
- 業務と災害の間に因果関係があること(業務起因性)
- 負傷、疾病又は死亡していること
※ これをご覧になって、「業務遂行性」は必要ないのかと思う方がおられるかもしれないが、業務遂行性は、業務起因性を検討するときの前提条件であって、独立した条件ではない。
また、労働災害とは「事業者の支配下又は管理下にある危険性が現実化したと、経験上認められること」でもある。すなわち、業務起因性が認められるためには、その疾病(ここでは新型コロナへの罹患)が、「そのような仕事をしていれば、その疾病に罹るおそれがあるだろう」と思えるようなものでなければならないのである。ここでは、そのことが問題となる。
※ 労災補償されるためには、①療養(医師にかかって治療すること)し、➁療養のために休業し、③療養して治癒した後障害が残り、あるいは④死亡するなどの場合のみである。従って、軽症者や無症状者が医師に罹らなければ、たとえ体調不良で会社を休んだとしても労災補償の対象にはならない。
このように説明すると、職場で新型コロナに罹患すれば、労働災害になるのは当然ではないかと思われるかもしれない。しかし、感染症に罹患した場合、医療機関の職員(医師、看護師など)は、これまでも労災補償されてきたが、それ以外で職場でインフルエンザに罹患したとして労災補償されたケースはない。そのため、新型コロナについても、一般の職場で罹患した場合、労働災害になるのかが問題となるのである。
2 コロナに罹患した場合、労災補償され得る
まず、結論から述べよう。2020年7月10日、加藤厚生労働大臣が、記者会見で、小売店の販売員が新型コロナに感染したケースで労災補償を行ったと述べた。これによると、感染経路が特定できないケースだが、感染リスクが相対的に高いと考えられる労働形態だとして認定されたもので、医療従事者以外では初めてだという。
その後、労災認定件数は増加しており、厚生労働省のWEBサイトによると、2021年6月11日現在で、医療従事者以外でも1,731名(内死亡20名)の決定件数のうち1,672名(内死亡19名)が支給決定されている(※)。これは、決して少なくない数字である。
※ 最新のデータと詳細は、厚労省のWEBサイトのQandAを参照されたい。
令和2年4月28日基補発0428第1号「新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱いについて」は、医療従事者以外の労働者の感染者の労災の判断を「調査により感染経路が特定されない場合であっても、感染リスクが相対的に高いと考えられる次のような労働環境下での業務に従事していた労働者が感染したときには、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと認められるか否かを、個々の事案に即して適切に判断する
」としている。
医療業や社会福祉施設は言うに及ばず、製造業で職場の同僚に感染者がいたケースや、感染経路が明らかでなくとも宿泊業、飲食サービス業や運輸業、郵便業で認められたケースもある。
上図は医療保険業の休業4日以上の労働災害の発生件数の推移であるが、2020年は「その他」の型が急増している。これは新型コロナによるものであるが、医療保険業以外であっても新型コロナは、労災補償され得るのである。
3 職場での新型コロナに罹患は労災補償の手続きを
もし、職場でコロナに感染したと思われる事象が発生した場合、労働基準監督署へご相談されることを強くお勧めする。知らずに、健康保険で治療してしまうと、本人に不利になるばかりか、労災隠しになりかねないのである。
労災になるなんて知らなかったんだから、労災隠しではないと思われるかもしれない。しかし、少なくとも理論的には、職場でコロナに罹患したことを知っていて、死傷病報告を提出しなければ、それが労働災害だと知らなくとも、安衛法違反になり得るのである(※)。
※ 現実に司法処分されることはないと思うが、是正勧告書は切られる。また、知らなかったということ自体、企業の労務管理として好ましいことではない。
中小企業の場合、新型コロナへの感染を労働災害になると知らないケースも多いので、十分に注意をする必要がある。