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ネットを利用した判例の探し方

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メンタルヘルス対策

産業保健担当が知っておくべき、労働関係の判例のネットを活用した探し方についてわかりやすく説明しています。

その他、判例を読むときの注意事項についても分かりやすく解説しています。




1 はじめに

執筆日時:

最終改訂:


(1)判例を読むときの注意事項

産業保健関係、とりわけメンタルヘルス関係の解説書や雑誌の記事を読んでいると、判例を引用してあることがよくある。判例があるのだから、似たような事件が起きれば、同じような判決が出るのだろうと思うかもしれないが、事業場の産業保健の実務家が判例を見る場合にはいくつか注意すべき点がある。

まず、判例を読むときになにを目的に読むべきかである。事業場の実務家は法律家ではないのだから、おのずと法律家とは異なる目的で読む必要がある。産業保健の実務家が判例を読むときの目的としては、以下のことに留意すべきである。

【判例を読む目的】

  • 訴訟リスクは、企業が抱える重要なリスクのひとつである。判例を読むときは、まずは「訴訟になったときにどうしておけば負けないか」を考える。
  • しかしながら、そのことは重要ではあるが、それに拘泥しすぎないことが重要である。
  • 基本は、あくまでも「労働者の安全・健康を守るためにどうすればよいか」であり、「訴訟に負けないこと」ではない。
  • なお、本題からはずれるが、メンタルヘルス対策において適切な対応をとるべきことは重要である。しかしながら、訴訟リスク(敗訴リスク)を重視するあまりに、過度な対応をとると企業の活力を削ぐことがあるので留意すべきである。

ところが、紹介される判例は、「法律家の眼から見て価値のある判断をされたもの」が多い。そこは留意しておかなければならない。すなわち、

【判例を読むときに注意すべきこと】

  • 訴訟の目的は、法的な争いの解決(労働災害が訴訟になるケースでは、通常は損害賠償責任の存否の判断)であって、再発防止のための原因の究明ではない。(後知恵は許されないなど)。また、そもそも民事訴訟の目的は真実発見ではない。
  • 民事訴訟では、(主要な事実関係については)当事者(原告と被告)が主張(陳述)したこと以外は、判断の材料としないし、調べもしない。当事者双方が同じ嘘をつくと、たとえ嘘だと判っていても、その嘘は事実であると判断される。つまり、当事者双方が、知らなかったり自らの利益にならないと考えた事情は、判決文に反映されていない可能性が高い。
  • 訴訟の世界に特有の思考方法があり、一般社会の眼で見ると、やや非常識と思われるような面があることも事実。(例:「長時間労働がうつ病の原因となる」という理論は、訴訟の世界では確立されているが、医学的・科学的エビデンスがあるかはやや疑問)

このため、

【判例においては】

  • 法律的にみて、災害(事故)発生に責任がある(とされた)者とその責任の内容が特定されてしまうと、「これで判決文は書ける」ということになり、事故の遠因や背景事情の調査などまでは行なっていない可能性が高いこと。
  • 裁判では、関係者が事故の原因や関連する事情を隠している可能性があること。むしろ、当事者は、自らの責任を問われるようなおそれのあることは言わなくてもよいというのが訴訟法の基本的な考え方である。
  • 推定した事実や推測による解説を書くことは許されないので、「判明」した事実関係だけが書かれていて、わかりにくいことがあること。再発防止の目的をした調査であれば、推測も役に立つから書かれることがある。
  • また、実際に損害が発生しないと裁判にはならないので、インシデントに関する判例が出されることはない。

ということに留意しなければならないのである。

また、その他にも技術的に注意しなければならない事項として

【判例を読むときの技術的な留意事項】

  • 民事訴訟の判決では、(正当にも)個々の事件についての結論の妥当性を求め、それに向けて法理論を組み立てる傾向がある。従って、結論だけをみたり、また判決文の表面的な事情や引用された破片(部分)だけをみて、過度の一般化をしてはならない。
  • 判例は、変更があり得るし、下級審判決は必ずしも統一されていないことがある。(後の下級審判例を優先する)
  • 最近ではかなり改善の動きはあるが、基本的に判決文は、法律の専門家がみることを前提に書かれていると考えた方がよい。従って、解釈には専門的な知識が必要になることもある。

よく「判例が変更された」と言われる場合でも、よく読んでみると、前の判例も後の判例も、「その個別事情についてはこうだ」と言っているだけで、お互いに矛盾はせず、前の判例もそのまま有効だということがある。


(2)判例表示の意味

なお、判例には「名古屋地判平成○○年○月○日○○事件(民集54巻5号1737頁)」などと書かれていることがある。これの説明をしておこう。

まず、名古屋地判平成○○年○月○日の意味は分かるであろう。名古屋地方裁判所が平成○○年○月○日に出した「判決」という意味である。この「判」が「決」となっていれば、判決ではなく決定ということである。

最高裁の場合、最大判とか最三小判などと書かれるが、最判と書かれることもある。この「大」とは大法廷、三小とは第三小法廷を指す。大法廷で判決が出されることはめったにない。憲法違反や判例変更など特殊な場合のみに用いられるので、「大」と書かれていれば、判例が変更になっている可能性があることが分かる。なお、小法廷については、裁判官はひとつの小法廷に所属しており、同じ裁判官が日によって別な小法廷を使うということはない。労働関係では第三小法廷に所属する裁判官が担当することが多いようである。

なお、これはトリビアに近いが、最高裁が上告を棄却するときは、当事者が参加する期日(当事者が裁判所へきて裁判官の前で討論する日にち)は設定しないことが多い。従って、最高裁から期日の呼び出しを受けたら、被上告人が敗訴するという可能性が高い。実務では、どうせ負けるなら無駄なことはしたくないというので、被上告人は呼び出しに応じないこともある。

また、上告を棄却するときは、判決を出す日を当事者には知らせないのが原則であり、知らされなければ当事者は裁判所に出てこれない。従って裁判官は誰もいない法廷で判決を言い渡すことになる。誰もいないからと言って、言い渡しを省略することはできないからだ。なお、下級審では当事者に判決日を知らせるが、民事訴訟の場合は当事者がいなくても判決の言い渡しはできるので、やはり判決の言い渡しの日に当事者(や代理人)が出てくることはめったにない。

さて、話を戻そう。ある日にある裁判所が出した判決が1つだけなどということは通常はあり得ない。そのため、裁判所名と日付を書いただけではどの判決文だか特定できないし、また、パッと見ただけでは専門家でもどんな判例か思い出せないことが多い。そこで「○○事件」と追記するわけである。ただ、この事件名は判決文に書いてあるわけではなく、たんなる俗称にすぎない。従って同じ事件でも、微妙に異なる事件名が付くことがある。また、「○社事件」と書かれていても、「○社事件」は他にもあることがあり、同じ「○社事件」でも、まったく別な事件だったりすることもある。

通常の企業は、自社名のつく判例が出ることを嫌がることが多い。私が存じ上げている産業医の方で、自分が産業医をしているときは、自分の会社名の付いた事件が判例集にのることは避けたいと言っておられた方がいた。このため、中には「K省事件」とか「B財団法人事件」などと具体的な組織名を避けた事件名が用いられることもある。なお、このKはイニシャルだが、Bはイニシャルではない。また、負けそうだとなったときには、判例にすることを避けるため、予想される判決よりも相手側に有利な形で和解してしまうこともある。

なお、実際に判決文に書いてある公式な事件名は「(平成○年(■)第○○号 出向無効確認請求事件」などとなっている。■の部分は事件記録符号と呼ばれるもので、(一部を除き)民事訴訟では片仮名1文字が入り、刑事事件では平仮名1文字が入るが、産業保健の実務家がこの意味を知る必要はない。

最後の「(民集54巻5号1737頁)」は、どの判例集等から引用したかを示している。もちろん、すべての判決文が判例集等に掲載されるなどということはなく、「判例集未登載」となっているケースもある。その場合は、執筆者が関係者から判決文を入手したものであろう。

なお、「民集」とは最高裁判所民事判例集(大審院民事判例集の可能性もなくはない)のことで、他によく見かけるものとしては、判タ(判例タイムズ)、判時(判例時報)、百選(判例百選)などがある。労働関係では「労民」(労働関係民事裁判例集)、労判(労働判例)、労旬(労働法律旬報)、労経速(労働経済判例速報)などがあるが、労判、労旬はともかくとして他はめったにみかけることはない。


(3)知っておくと便利なこと

その他、知っておくと便利なことを数点あげておく。

ひとつめは用語の問題である。法律学特有の言回しや用語があり、一般の感覚とは違っていることがあるので、注意を要する。

一つの例を挙げれば、「善意」、「悪意」、「社員」、「事実」などがある。「善意」、「悪意」などは一般にも知られるようになってきたが、ある事実を知らないことが「善意」で、知っていたら「悪意」である。また、会社法や団体等に関する判例の中で「社員」という言葉が出てきたら、それは労働者という意味ではなく、株主とか会員とかいう意味である。また、「事実」という言葉は、必ずしも“本当のこと"という意味ではない。最近では分かりやすい言葉を使おうと、改善の努力がされつつあるが、かえって判りにくくなったという声もある。

ふたつめは、法律家なら誰でも知っているため解説書などには載っていないが、知っていると意外に便利なことである。判決文の原本には、当事者(原告と被告)や第三者の氏名などはすべて本名が書かれているのだが、判例集などに載るときは原則として記号などでおきかえる。このとき、原告は「X」、被告は「Y」で表す習慣がある。また、原告や被告が複数いれば、X1、X2、X3・・・、Y1、Y2、Y3・・・などと表す。従って、労働関係の判例中に、Xとあれば労働者やその家族、Yとあればその会社であると見当がつくことが多いのである。

また、当事者以外の第三者は、A、B、Cなどとなっていたり、頭文字が使われたりすることが多い。従って「A」とか「訴外A」となっていれば、たとえ原告に対して違法なことをしているように見えても、訴訟の当事者ではないことになる。

一方、すでに亡くなった方(労働災害の被災者など)は、プライバシーの問題がないとの考えでまれに本名を使うこともあるが、やはり同じように記号で置き換えることが多い。また、男性の場合は「太郎」や「一郎」に、女性の場合は「花子」とすることもある。亡くなった方の名前が「太郎」などとなっていれば、仮名である可能性が高い。


2.役に立つWEBサイト

さて、雑誌や新聞の記事などで関心のある判例があったとき、原典はどのようなものだったのかを知りたいときがある。あるいは自分か抱えている問題に関してどのような判例があるかを調べてみたいこともあろう。そんなときに便利なWEBサイトを紹介しよう。

なお、この他にも、大学の研究室や、個々の弁護士事務所や社労士事務所で個別の判例の紹介をしているところもあるので、一般の検索サイトで検索してみるとかなりのものがヒットする。このほか、ここではあえて紹介していないが、個人で労働者側が勝訴した有名な判例の全文をHTML形式で紹介している有名なサイトもあり、誤植等はほとんどないようである。


(1)判例を調べたいとき

ア 最高裁判所の判例検索システム

まずは、産業保健に限ったものではないが、最高裁判所の判例検索システムが挙げられる。このサイトでは判例は全文が紹介される。従って、判例がどのような事情の下でその判断をしたのかを理解するためにはきわめて有効なものといえる。ただし、解説などは一切つけられていない。また、いわゆる事件名が記載されていないので、その点はやや不便ではある。

なお、このシステムには労働事件に特化した検索サイトも用意されており、検索結果を労働事件に絞りたい場合はこちらを使うとよいだろう。

イ 全国労働基準関係団体連合会の判例検索

労働関係で内容が充実しているものに、全国労働基準関係団体連合会の判例検索がある。判決文は、重要なところだけが抜き出してあり、短時間で理解することができる。また、事案の概要や関係する法条文も記載されている。

ウ 女性就業支援バックアップナビ

また、女性就業支援全国展開事業の一環である女性就業支援バックアップナビにある女性労働関連情報の中の判例データベースが有効である。内容は、事件の概要、主文、判決要旨に分かれており、これも短時間で理解することができる。女性労働関連情報となっており、原告が女性の場合に限られていると誤解されることがあるが、そのようなことはない。

エ 労働保険審査例(厚生労働省)

また、判例ではないが労働保険審査例(厚生労働省)も参考になるサイトである。ただ、年度別に分かれており、個別の検索ができないのがやや不便と感じられる。

オ 中央労働委員会の労働委員会関係 命令・裁判例データベース

判例と中労委の命令のデータベースである中央労働委員会の労働委員会関係 命令・裁判例データベースがある。どちらかといえば、労働組合関係なので、産業保健と関係のないものが多いが、参考になるサイトである。

サイトのデザインが驚くほど古臭いのが難点だろうか。


(2)関係する判例の解説サイト

ア 労働政策研究研修機構の個別労働関係紛争判例集

労働政策研究研修機構の個別労働関係紛争判例集が非常に役に立つ。必要な情報は、目次から探すと便利かもしれない。

なお、同機構が提供している情報として、労働政策研究研修機構データベースも参考にされたい。

ロアユナイテッド法律事務所

ロアユナイテッド法律事務所には、様々な法律関係の解説が充実している。解説は、QandAの形でされており、判例の引用をしながら分かりやすく解説されている。

ウ こころの耳の事例

厚生労働省のこころの耳事例紹介には、数はそれほど多くないが、裁判となった事例も紹介され、判例の解説もある。執筆しているのが法律の専門家ではないこともあり、法律的な観点からは首をひねりたくなるようなものもなくはないことは事実である。しかし、逆に、法律の専門家ではまず書かないような、産業保健の専門家が知りたい部分に解説の焦点が当てられている。産業保健の専門家が読む場合には、その意味できわめて役に立つものといえる。


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