※ イメージ図(©photoAC)
テールゲートリフター(TGL)を用いる業務が安衛法の特別教育の対象となったことから、テールゲートリフターの安全に注目が集まっています。
テールゲートリフターの安全で、意外に見落とされがちなのがキャスタストッパの選択です。後部格納式(背負い式)、床下格納式のテールゲートリフターには、ほぼすべてにキャスタストッパが設置されています。
後部格納式と床下格納式のテールゲートリフターのキャスタストッパは、左右に分かれている場合がほとんどです。これは、左右が連動して動くタイプ、個別に動くタイプ、その混合型に分かれます。また、足で抑えたときに収納位置で固定することが可能なものと、できないものがあります。
これがロールボックスパレットなどのキャスタ付きの荷を扱う場合に、安全な作業に大きな影響を与えることがあります。どのような作業を行う場合にどのようなタイプを選ぶべきかについて解説します。
中古のトラックを購入する場合など、キャスタストッパについても十分にご留意ください。
- 1 キャスタストッパの様々な動作の種類
- (1)テールゲートリフターのキャスタストッパの種類と操作性
- (2)キャスタストッパの種類
- 2 荷の積卸時のキャスタストッパの操作
- (1)荷を積むとき
- (2)荷を卸すとき
- 3 最後に
1 キャスタストッパの様々な動作の種類
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(1)テールゲートリフターのキャスタストッパの種類と操作性
テールゲートリフターとは、トラックの荷台の後部に設置された荷物用のリフトである。フォークリフトがなくても荷の積卸が可能なことから急速に普及している。
ただ、これによる事故が増えていることもあり、2024年の2月からは特別教育の対象となるなど、これによる労働災害の防止に注目が集まっている。
ここで、意外に見落としがちなのがキャスタストッパの作動形式なのである。新しくテールゲートリフターを設置するときは、メーカが説明して希望を尋ねてくれるだろうが、中古だとそうもいかない。
注意するべきことは次の2点である。詳細は次項から説明する。
【キャスタストパの作動の種類】
- キャスタストッパは、後部格納式(背負い式)と床下格納式では、左右に分かれている。この左右のストッパの動きが、連動するのか個別に作動するのか。
- キャスタストッパが出ている状態でキャスタストッパを足で抑えてから放したたとき、キャスタストッパを収納位置に固定できるか。
(2)キャスタストッパの種類
ア キャスタストッパの分割と左右の連動
図の左上のキャスタストッパは一体であるが、後部格納式と床下格納式のテールゲートリフターのキャスタストッパは、左右に分かれている場合がほとんどである(※)。
※ 垂直昇降式とアーム式の場合は、キャスタストッパが設置されていない場合がほとんどである。また、設置されていても、全体が一体型で、左右に分割さていないことが多い。
左右に分かれていても、次のように、左右が連動して動くタイプ、個別に動くタイプ、その複合型に分かれるので注意が必要である。
【キャスタストパの左右の連動】
- 連動型:左右のキャスタストッパは連動して作動する。すなわち、左右に分かれていると言っても、実際には中央部で連結されており左右に分かれていないのと同じである。
- 個別型:左右のキャスタストッパは独立して作動する。すなわち、左右のキャスタは連結されていない。
- 複合型:左側のキャスタストッパが右側のキャスタストッパを上から押さえるようになっている。このため、キャスタストッパの左側を押さえて収納すると右側も連動して動作する。しかし、キャスタストッパの右側を押さえても左側は動かない。また、右側のキャスタストッパだけを単独で使用することはできない。
これが後ほど述べるように、作業性に大きな影響を与えるのだ。
イ キャスタストッパ切り替えレバーの有無
また、足でキャスタストッパを押さえたときに、収納位置で固定させることが可能なものとできないものがある。
これができるタイプでは、切り替えレバーによって、次のように作動形式を切り替えることが可能となる。
【キャスタストパの作動状態の切り替え】
- 切り換え可能。キャスタストッパが出ている状態でキャスタストッパを足で押さえてから放したたとき、そのまま収納位置で固定されるか再び出てくるかの切り替えが可能。
- 切り換え不能。キャスタストッパが出ている状態でキャスタストッパを足で押さえてから放したたとき、常にキャスタストッパが出てくる。
これは次項で示すように、荷を積むときはどちらでも同じなのだが、切り替えができないものは荷を降ろすときに操作性がかなり悪くなるのである。
もちろん、どちらであっても完全に格納して出てこないようにする(使用しない)ことは可能である。
2 荷の積卸時のキャスタストッパの操作
(1)荷を積むとき
さて、ロールボックスパレットをテールゲートリフターの昇降板(プラットホーム)に積卸をする場合を例にとって、キャスタストッパの操作方法について説明しよう。
ロールボックスパレットを昇降板に積むときは、キャスタストッパを出したままにしておく。キャスタストッパの切り替え装置は、キャスタストッパが常に出るようにしておく(押さえても収納位置で固定されないようにする)。
この状態で、ロールボックスパレットを地上から昇降板に載せれば、ロールボックスパレットのキャスタがキャスタストッパを通過するときにキャスタストッパは押さえられていったん収納位置に戻るが、キャスタが通過すると再び出てくるので、キャスタストッパにロールボックスパレットのキャスタが当たる位置まで戻して止めればよい。
※ 昇降板にロールボックスパレットを載せる
この場合、昇降板中央に1個のロールボックスパレットを載せる場合は、左右が連動して動いたとしても問題ではない。問題は、昇降板に2個のロールボックスパレットを載せる場合である。後部格納式や床下格納式のテールゲートリフターは昇降板を地上位置に下げたとき、昇降板が後ろ側に傾いているのである。
このため、まず1個目のロールボックスパレットを昇降板に載せてキャスターストッパで停止さえ、次に2個目のロールボックスパレットを載せるためにキャスタストッパを押さえると、1個目のロールボックスパレットのキャスタストッパも押さえられるため昇降板から滑り降りる可能性があるのだ(※)。
※ ロールボックスパレットのキャスタのストッパを掛けていても、若干は位置がずれる。また、ロールボックスパレットのキャスタのストッパを掛け忘れていると完全にずり落ちてしまう。
従って、この場合、昇降板にロールボックスパレットを2個載せるのであれば、個別型か複合型でないと操作性が極端に悪くなることとなる。なお、ロールボックスパレットを1個しか載せないのであればどちらでも問題はない。
(2)荷を卸すとき
ア キャスタストッパの左右の連動か個別か
※ 昇降板からロールボックスパレットを卸す
昇降板からロールボックスパレットを卸すときは、キャスタストッパを一旦格納しなければならない。そこで、ロールボックスパレットを荷台側にわずかに押して、キャスタをキャスタストッパから離し、その状態でキャスタストッパを足で押さえて格納する。
しかし、一人の作業者が同時に2個のロールボックスパレットを操作することはできない。このため。2個のロールボックスパレットを昇降板に載せているときは、左右のキャスタストッパが個別に動かないと操作性が極端に悪くなる。従って、個別型か連動型でないと操作は困難である。
一方、1個のロールボックスパレットを昇降板の中央に載せているときは、左右が連動しないと、左右両方のキャスタストッパを同時に足で押さえなければならない。このため、左右の中間部を足で押さえることとなるが、このとき押さえたロールボックスパレットの坂下側に足を置くこととなる(※)ので、ロールボックスパレットがずり落ちると足を轢かれるおそれがでてくる。
※ キャスタストッパが連動するなら、ロールボックスパレットの脇(横側)を足で押さえればよい。そうすればロールボックスパレットがずり落ちても足を轢かれることはないので、安全に作業を行うことができる。
すなわち、荷を降ろすときは、ロールボックスパレットを2個同時に昇降板に載せるのであれば、個別型か複合型でないと操作性が極端に悪くなることとなる。一方、ロールボックスパレットを1個しか載せないのであれば、連動型か複合型でないと操作性は悪くなる。
従って、昇降板にロールボックスパレットを2個載せることもあれば、1個載せることもあるのであれば、複合型にすれば、操作性が悪くなることはない。
イ キャスタストッパの切り換え
また、荷を降ろすときは、キャスタストッパは、一度、足で押さえて収納位置まで戻したときそのまま収納位置で固定されている方が望ましい。もし、収納位置で固定されずに再び飛び出してくると、ロールボックスパレットの前輪と後輪を通すために、2度押さえなければならなくなる。
現実には、両手でロールボックスパレットを支えているので、前輪と後輪をキャスタストッパを通過するために、2度キャスタストッパを押さえるには、作業者はロールボックスパレットの横に立っていなければならない。
このため、作業効率がひどく落ちるばかりか、操作性も悪いので、腰をひねりやすくなるのである。
テールゲートリフターで扱うロールボックスパレットのキャスタは、4輪のすべてが車輪の方向を自由に変えることができる(上から見たときに車輪の向きが自由に回転する)タイプがほとんどである(※)。
※ キャスタの2輪が固定されていると、昇降板のような狭い場所では、操作性が極端に悪くなる。
このタイプは「4輪自在」と呼ばれるが、狭い場所で扱うときの操作性は良いが、床に坂があったり左右どちらかを押さえていたりすると、まっすぐに進みにくいという特性がある。
このため、ロールボックスパレットの横に立って、キャスタストッパを2度にわたって押す作業を行うとき、ロールボックスパレットがまっすぐに進まないことがあるのだ。
従って、荷を降ろすときは、キャスタストッパは、足で押さえて収納位置まで戻したときそのまま収納位置で固定できるタイプが望ましい。
3 最後に
※ イメージ図(©photoAC)
テールゲートリフターにも様々な種類があり、後部格納式、床下格納式、アーム式、垂直昇降式などがある。これらは、それぞれに特性があり、荷の種類によって操作性が異なることはよく知られている。
一方、キャスタストッパについては、様ざまな種類があることが意外に知られていない。しかし、現場で実際に作業を行うときには、この種類によって操作性や作業効率が大きく変わることになる。そして、操作性と作業効率は、安全衛生と直結しているのである。
どのようなタイプのキャスタストッパを用いるかについては、本稿の記述をまとめれば次のようになろう。
【キャスタストッパの種類をどう選ぶか】
- ロールボックスパレットなどキャスタのある荷を運ぶときは、連動型、個別型、複合型の選択を慎重に行う必要がある。
- 昇降板で常に1つの荷しか昇降させないのであれば、個別型か複合型を選ぶ。2個の荷を昇降させるのなら個別型か複合型を選ぶ。1個運ぶことも2個運ぶこともあるのなら複合型を選ぶ。
- キャスタストッパを、足で押さえて収納位置まで戻したときそのまま収納位置で固定されているか元の位置に戻るかの切り替えができるタイプがよい。
実際に、新しいテールゲートリフターを導入するのであれば、後部格納式や床下格納式は足で押さえたときの動作が切り換え可能なものがほとんどである。一方、垂直昇降式やアーム式はキャスタストッパが付いていないものが多いが、付いていても切り換え式となっていないものがほとんどである。
現実にテールゲートリフターを導入する場合、荷を運ぶときになって後悔しないよう、注意深く選びたい。
また、新しいテールゲートリフターの多くは、左右の動作は複合型であることが多い。複合型であれば、キャスタのついた荷が1個の場合でも2個の場合でも問題なく操作できる。
問題は、中古の製品を導入した場合である。自らが購入したキャスタストッパの動作の種類は確認した方が良い。
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