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2021年7月に厚労省は、「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会報告書」を公表し、自律的な化学物質管理制度のための法令改正が公布されました。
これに基づく2022年5月の改正安衛則には、化学物質管理者、保護具着用管理責任者、化学物質管理専門家、及び、作業環境管理専門家という4種類の管理者と専門家が規定されています。
本稿では、このうちの保護具着用管理責任者について、選任の要件、実施するべき職務、留意するべき事項等について解説します。
- 1 はじめに
- (1)「自律的な管理」を一言で表現すると
- (2)これまでの経緯
- 2 保護具着用管理責任者の制度の概要
- (1)保護具着用管理責任者の選任が必要となる2つの場合
- (2)保護具着用管理責任者を規定する新しい条文
- (3)選任にかかる留意事項
- (4)保護具着用管理責任者の要件
- 3 最後に
- 【参考】 関係条文
1 はじめに
(1)「自律的な管理」を一言で表現すると
執筆日時:
最終改訂:
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2021年7月に厚労省から「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会報告書」(以下「あり方報告書」という。)が公表された。これは職場における化学物質管理を「法令依存型」から「自律的管理型」に転換しようというものである。
その後、必要な手続きを経て、2022年2月24日に改正安衛令等が公布され、5月31日には改正安衛則等が公布されている。
その内容をごく単純に要約すれば、次の3点にまとめることができる。本稿では、このうち②の管理体制に必要な管理者・専門家のうち保護具着用管理責任者について解説する。
- ① 従来の表示・SDS制度やリスクアセスメント制度の整備(強化)を図る。
- ② 上記の確実な実施を確保するため、事業場内の管理体制を整備する。
- ③ ①の対象物を大幅に増加する。
2022年5月の改正安衛則には、化学物質管理者、保護具着用管理責任者(※)、化学物質管理専門家、及び、作業環境管理専門家という4種類の管理者と専門家が規定されている。
※ 保護具着用管理責任者の選任を義務付ける条文は安衛則の第1編第2章の安全衛生管理体制と、特別規則の作業環境測定結果の評価の部分の2パターンがある。これらは選任の要件や実施するべき職務等も異なっており、実質的には別な管理者(兼任することは問題ない。)だと考えられる。
これらは、職場の化学物質管理についてかなりの知識がなければ法定の職務は遂行できないと思われるが、保護具着用管理責任者も同様である。就任の要件のハードルは低いが、業務はかなり高度なのだ。
保護具について、防毒マスクや化学防護手袋などの正しい選択、適切な着用法、さらには適切な管理等に関するかなりの知識がなければならない。また、SDSを正確に読み取るための知識も必要となる。
(2)これまでの経緯
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一般論として、法令で新しい義務を課す場合、その前に通達等によって指導を行い、ある程度、定着してから法改正を行うことが多い。
実は、保護具着用管理責任者についてもこれまでに3つの通達等でその選任が指導されていたのである。しかし、必ずしも定着したとは言い難い状況なのである。
対象保護具 | 指導の根拠 | |
---|---|---|
1 | 化学防護手袋 | 平成29年1月12日基発0112第6号「化学防護手袋の選択、使用等について」 |
2 | 防毒マスク | 平成17年2月7日基発第0207007号「防毒マスクの選択、使用等について」 |
3 | 防じんマスク | 平成17年2月7日基発第0207006号「防じんマスクの選択、使用等について」 |
※ 厚生労働省は、今回の省令改正についてのパブリックコメントへの回答の中で、「保護具着用管理責任者とは、平成17年2月7日付け基発第 0207006 号『防じんマスクの選択、使用等について』等により示されている衛生管理者、作業主任者等の資格を有する等保護具についての知識及び経験を有する者とし、具体的には施行通達においてお示ししております
」などとしている。
すなわち、今回の改正による保護具着用管理責任者は、これらの通達等によって示されているものの「法律版」であるという位置づけなのである。
それらが効果を上げてこなかった最大の理由は単純なことである。ひとつには指導レベルだったので、少なくない事業者が本気にならなかったということもある。しかし、それよりも決定的な要因は、一部の大規模事業場を除けば、そのような業務ができる専門的な知識を持った者が事業場にいなかったのである。
ところが、今回の安衛則改正では、罰則付きの強行規定となっている(※)。しかし、法令で強制されたからといって、どこかから専門的な知識がわいてくるわけではない。さて、どうするべきだろうか。
※ 保護具着用管理責任者(安衛則及び特別規則)の選任規定の安衛法の根拠条文は、厚生労働省の公式文書では公表されていない。厚生労働省の化学物質対策課へメールで問合せをしたが回答はなかった。また、労働調査会「安衛法便覧(平成4年版)」には、2022年5月の改正省令まで載っていたが根拠条文は記されていなかった。厚労省は、今回の改正で新設した条文の根拠を公表しない方針かもしれない。詳細は、「省令の義務規定と法律上の根拠条文」を参照して頂きたい。
しかし、信頼できる筋からの情報によると、安衛則第 12 条の6の根拠条文は安衛法第22条(第一号)であり、有機則、特化則等の選任規定の根拠は第65条の2とのことである。第22条の罰則は6月以下の懲役又は 50 万円以下の罰金(第119条第1号)である。一方、第65条の2には罰則はない。
なお、現実に監督官が送検し、検察官が起訴するときは、違反条文として省令の条文の他、安衛法等の根拠条文を明らかにして行う。ところが、検察官の判断によっては、同じ省令の条文でも根拠とされる安衛法の条文が異なることがあるのが実態である。今回も、有機則、特化則等の選任規定の根拠が安衛法第 22 条であるとして、送検・起訴される可能性はあるので留意して頂きたい。
なお、今回、上記の通達が廃止されたわけではなない。保護具着用管理責任者が職務を行うに当たっては、これらの通達に基づいて対応する必要があることは言うまでもないだろう。
2 保護具着用管理責任者の制度の概要
(1)保護具着用管理責任者の選任が必要となる2つの場合
保護具着用管理責任者については、改正安衛則では以下の2つの場合に選任が必要となる。
【保護具着用管理責任者の選任が必要な場合】
- リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う事業場であって、リスクアセスメントの結果に基づく措置として労働者に保護具を使用させる場合
- 特化則や有機則等の特別則における、第三管理区分作業場について、作業環境の改善が困難と判断された等の場合
保護具着用管理責任者は、業種や規模にかかわらず、上記に該当する全ての事業場で選任しなければならないものであり、適切に職務が行える範囲で選任・配置する必要がある。
(2)保護具着用管理責任者を規定する新しい条文
ア リスクアセスメントの結果に基づく措置として保護具を選択する場合
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保護具着用管理責任者のうち、リスクアセスメントの結果に基づく措置として保護具を選択する場合については、改正安衛則では第1編通則の第2章安全衛生管理体制に新たに「第3節の3化学物質管理者及び保護具着用管理責任者」という節を設け、その中の新たな第12条の6に規定している。
第12条の6の条文はかなり長いので本稿の末尾に示した。第1項を要約すると次のようになる。
【安衛則:新第12条の6第1項】
- 化学物質管理者を選任した事業者は、リスクアセスメントの結果に基づく措置として、労働者に保護具を使用させるときは、保護具着用管理責任者を選任し、次に掲げる事項を管理させなければならない。
- 保護具の適正な選択に関すること。
- 労働者の保護具の適正な使用に関すること。
- 保護具の保守管理に関すること。
ここに「化学物質管理者を選任した事業者」とあるのは、「リスクアセスメント対象物を製造し又は取扱う事業者」と同じ意味だと考えてよい。リスクアセスメント対象物を製造し又は取扱う場合、リスクアセスメントを行わなければならないことは当然であるが、その結果に基づく措置(ばく露防止対策)として労働者に「保護具の着用」を行わせるときは、保護具着用管理責任者を選任せよというのである。
※ リスクアセスメント対象物については当サイトの「「自律的な管理」の対象とその問題点」を参照されたい。
本条は、人数や業種の限定はなく、条件に合致すれば輸送業、倉庫業のみならず中小規模の商店(※)などでも保護具着用管理責任者を選任する必要がある。
※ リスクアセスメント対象物には、主に一般消費者の生活の用に供される製品は含まない。また、一般的にリスクアセスメント対象物を運搬、保管する場合も「取り扱う事業場」に含まれるが、密閉している場合など、リスクアセスメント対象物のばく露が想定されないことにより保護具を使用しない場合においては、保護具着用管理責任者の選任は不要である。
なお、本条には「専任」についての規定はないので、適切に職務が行える範囲であれば、保護具着用管理責任者が職長と兼務することや、その他の職務と兼務することは可能である。
また、適切に職務が行える範囲で、それぞれの作業場所等で複数の保護具着用管理責任者を選任・配置してもよい。ただし、業務に抜けが発生しないよう、業務を明確に分担しておく必要があろう。
作業主任者は、保護具の使用状況を監視することが職務とされているのに対し、保護具着用管理責任者は、保護具の選択に関すること、労働者の保護具の適正な使用に関すること等が職務となる。なお、作業主任者が本条の保護具着用管理責任者を兼務することは可能である。
イ 作業環境測定結果が第三管理区分の作業場所の場合
今回の改正では、作業環境測定の評価結果が第三管理区分に区分された場合、作業環境の改善を図るため、当該事業場に属さない「作業環境管理専門家」から意見を聴かなければならないこととされる。
そして、作業環境管理専門家が改善困難と判断した場合や、改善が可能と判断されたにもかかわらず改善ができなかった場合に行うべき対策の一つとして、保護具着用管理責任者を選任し、呼吸用保護具に係る業務を担当させることがある。その関係条文を、本稿の末尾に示してあるので参考にされたい。
この規定は、特化則、有機則、鉛則及び粉じん則について、ほぼ同様となっており、保護具着用管理責任者の職務は、次の通りである。
【特化則等の規定による保護具着用管理責任者の職務】
- 次に掲げる措置に関する事項(呼吸用保護具に関する事項に限る。)を管理すること。
- 第3管理区分となった場所において、個人サンプリング測定等の結果に基づき労働者に呼吸用保護具を着用させること。
- 上記の呼吸用保護具(面体を有するものに限る。)について、適切に装着されていることを確認し、その結果を記録して3年間保存すること。
- 第3管理区分となった場所において、その後、6月以内ごとに1回、個人サンプリング測定等を行い、その結果に基づき労働者に呼吸用保護具を着用させること。
- 上記の呼吸用保護具(面体を有するものに限る。)について、1年以内ごとに1回、適切に装着されていることを確認し、その結果を記録して3年間保存すること。
- 第3管理区分となった場所において、作業の一部を請負人に請け負わせる場合は、その請負人に対して呼吸用保護具を使用する必要があることを周知させること。
- 特定化学物質作業主任者の職務(呼吸用保護具に関する事項に限る。)について必要な指導を行うこと。
- 呼吸用保護具を常時有効かつ清潔に保持すること。
※ 呼吸用保護具が適切に装着されていることを確認する方法は、厚労大臣が定める。
作業環境測定結果が第三管理区分となった場合の保護具着用管理責任者は、作業主任者を兼任することはできない(※)。
※ 令和4年5月 31 日基発 0531 第9号「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令等の施行について」の記の第4の2の(3)による。
なお、鉛則についても個人サンプリング測定等を6月に1回行うこととされていることに留意すること。
(3)選任にかかる留意事項
ア 選任は事業場の職員から行うべきか
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第12条の6第1項の条文には、「専属」に関する規定はない。従って、事業場ごとに選任されていれば、法令上は、外部のコンサルタントや他の事業場の者を選任することも可能である。
しかし、前項に述べたように保護具着用管理責任者の職務は、現場の業務と密接につながっている。そのため、事業場外の専門家では、業務の遂行は現実には難しいだろう。
零細規模の事業場などでは、社内の者で保護具着用管理責任者の職務を行う知識のある者を確保することは難しいかもしれない。しかし、事業場外の専門家と連携を図ることで適切に業務を行うようにすべきであり、保護具着用管理責任者は内部の者を選ぶようにするべきであろう。
イ 建設現場の場合
建設工事現場などの有期工事についても、保護具着用管理責任者は選任する必要がある。これについて、厚労省はパブコメの中で、明確に次のように述べている。
番号 | 御意見の要旨 | 御意見に対する考え方 |
---|---|---|
109 |
化学物質管理者の選任が必要となる事業場からは、有期の事業場が除かれると解するが、保護具着用管理責任者について、以下の内容についてご教授頂きたい。 ① 有期とは、どの程度の日数を指すか具体的に示して頂きたい。 ② ①の日数内での化学物質の取り扱いであれば、保護具着用責任者の選任は必要ないと考えていいか。 ③ 同じ事業者の事業場について、A事業場が①の期間内であって、B事業場でも①の期間内であったが、A事業場、B事業場の期間を合わせると上記①の期間を超える場合でも保護具着用責任者の選任は必要ないと考えていいか。 |
保護具着用管理責任者は、その事業場が有期か否かに関わらず、リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う事業場であって、リスクアセスメントの結果に基づく措置として労働者に保護具を使用させる事業場においては、選任することが義務付けられます。 |
有期事業においても、有害な化学物質を使用することはあるし、保護具の着用の指導や適切な管理は必要である。職長や作業主任者を保護具着用管理責任者として選任することが考えられよう。
(4)保護具着用管理責任者の要件
保護具着用管理責任者になるためには、とくに法令上の資格は必要はない。新安衛則第12条の6第2項等に「保護具に関する知識及び経験を有すると認められる者のうちから選任すること」のような定めがあるだけである。
そして、保護具着用管理責任者の「保護具に関する知識及び経験を有すると認められる者」として、令和4年5月 31 日基発 0531 第9号「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令等の施行について」は、次のように述べる。
(2)安衛則第12条の6第2項関係
本項第2号中の「保護具に関する知識及び経験を有すると認められる者」には、次に掲げる者が含まれること。なお、次に掲げる者に該当する場合であっても、別途示す保護具の管理に関する教育を受講することが望ましいこと。また、次に掲げる者に該当する者を選任することができない場合は、上記の保護具の管理に関する教育を受講した者を選任すること。
① 別に定める化学物質管理専門家の要件に該当する者
② 9(1)ウに定める作業環境管理専門家の要件に該当する者
③ 法第83条第1項の労働衛生コンサルタント試験に合格した者
④ 安衛則別表第4に規定する第1種衛生管理者免許又は衛生工学衛生管理者免許を受けた者
⑤ 安衛則別表第1の上欄に掲げる、令第6条第18号から第20号までの作業及び令第6条第22号の作業に応じ、同表の中欄に掲げる資格を有する者(作業主任者)
⑥ 安衛則第12条の3第1項の都道府県労働局長の登録を受けた者が行う講習を終了した者その他安全衛生推進者等の選任に関する基準(昭和63年労働省告示第80号)の各号に示す者(安全衛生推進者に係るものに限る。)
※ 令和4年5月 31 日基発 0531 第9号「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令等の施行について」
ここで、「安全衛生推進者等の選任に関する基準」が挙げられていることから、厚生労働省としては、10人~49人程度の事業場では、安全衛生推進者を保護具着用管理責任者として選任することを想定しているのであろう。
また、10人未満の事業場においては、「別途示す保護具の管理に関する教育」を受けた者を対象にすることを考えているものと思われる。
番号 | 御意見の要旨 | 御意見に対する考え方 |
---|---|---|
106 | 保護具着用管理責任者(保護具について一定の経験及び知識を有する者)について、「保護具について一定の経験及び知識を有する」の基準や教育、選任要件、および業務範囲と責務の在り方について具体的に示していただきたい。 | 保護具着用管理責任者とは、平成17年2月7日付け基発第 0207006 号「防じんマスクの選択、使用等について」等により示されている衛生管理者、作業主任者等の資格を有する等保護具についての知識及び経験を有する者とし、具体的には施行通達においてお示ししております。 選任要件として、前述の資格を有する者のほか、保護具に関する教育を受講した者を対象とする予定ですが、その教育の内容については、今後通達等によりお示ししたいと考えております。 また、業務内容については、有効な保護具の選択、労働者の保護具の使用状況の管理その他作業環境管理専門家が第三管理区分からの改善は困難であると判断した場合におけるフィットテスト結果を踏まえた保護具を着用しているかの管理等の保護具に係る業務を想定しています。 |
117 | 取り扱う化学物質の種類や取扱方法は多様であるため、何を基準に保護具の選択を適切とするか、保護具着用管理責任者の教育と合わせて具体的事例を示していただきたい。 | 保護具着用管理責任者について、選任要件として保護具に関する教育の受講を義務付ける予定はありませんが、受講することが望ましい教育については、今後通達等によりお示ししたいと考えております。 保護具の性能等については、使用させる化学物質の有害性の程度、作業態様、ばく露の程度等を踏まえ、マスクや手袋等の選択に係る通達等に基づき適切な保護具を選択いただくととともに、必要に応じて保護具製造者への相談、問合せ等により、必要な保護具を選択していただくようお願いいたします。 |
この研修会は、令和4年 12 月 26 日基安化発 1226 第1号「保護具着用管理責任者に対する教育の実施について」によって示されている。6時間(学科5時間、実技1時間)の研修で、講師は「対象となる保護具等に関する十分な知識を有し、指導経験がある者等、別表のカリキュラムの科目について十分な知識と経験を有する者」とされているのみで、とくに実施する者の要件も定められていないのである。
しかし、わずか6時間程度の研修を受けたからといって、保護具の適切な管理が確実に理解できるようになるとも思えない。
また、研修を適切に実施できる機関がそれほどあるとも思えないのである。厚生労働省は、災防団体に対して研修実施の要請を行ってはいる。しかし、適切なレベル・内容の話を分かりやすく伝えることができる教育機関がどれほどあるのだろうか。
化学物質の自律的な管理の制度が根付くためには、各事業場における化学物質管理や保護具着用の管理を行う者の知識レベルと、やる気と、企業内で実質的な権限が付与されるかどうかに関わっているだろう。
やや不安を感じざるを得ない。
3 最後に
すでに述べたように、保護具着用管理責任者の要件としては、最低でも6時間の研修を受ければよいのであるから、選任そのものは中小零細企業でも難しいことではない(※)。
※ 講習会を行う教育機関の数が十分にあればの話ではあるが。
しかし、保護具着用管理責任者が適切にその職務を実施できるかは、また別な話である。わずか6時間の研修(※)を受けさえすれば、保護具の選択と着用の方法が正しく理解できるようになったり、保護具の管理が適切に行えるようになるとは思えない。
※ その研修が適切に行われたとしてもである。場合によっては、講習そのものが不適切に行われる可能性もあろう。
自律的な管理においては、形だけ法律を守っていればよいと考えるべきではない。化学物質管理者が、適切に業務を行えるようにするために、その能力向上のために必要なコストをかけるという意識が必要である。
本サイトの「リスクアセスメントと判例」にも示したが、有害性のある化学物質を不適切に用いて災害が発生すれば多額の賠償金を請求されることもあるのだ。
事業者は、「自律的な管理」の「自律」の意味を自らに問う必要があるだろう。
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化学物質の「自律的な管理」について概略を解説しています。
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省令の規定と法律上の根拠条文の関係の他、化学物質管理者等選任の根拠条文等について解説しています。
【参考】 関係条文
【労働安全衛生規則】
(保護具着用管理責任者の選任等)
第12条の6 化学物質管理者を選任した事業者は、リスクアセスメントの結果に基づく措置として、労働者に保護具を使用させるときは、保護具着用管理責任者を選任し、次に掲げる事項を管理させなければならない。
一 保護具の適正な選択に関すること。
二 労働者の保護具の適正な使用に関すること。
三 保護具の保守管理に関すること。
2 前項の規定による保護具着用管理責任者の選任は、次に定めるところにより行わなければならない。
一 保護具着用管理責任者を選任すべき事由が発生した日から十四日以内に選任すること。
二 保護具に関する知識及び経験を有すると認められる者のうちから選任すること。
3 事業者は、保護具着用管理責任者を選任したときは、当該保護具着用管理責任者に対し、第一項に掲げる業務をなし得る権限を与えなければならない。
4 事業者は、保護具着用管理責任者を選任したときは、当該保護具着用管理責任者の氏名を事業場の見やすい箇所に掲示すること等により関係労働者に周知させなければならない。
【特定化学物質障害予防規則】
第36条の3の2 事業者は、前条第二項の規定による評価の結果、第三管理区分に区分された場所(同条第一項に規定する措置を講じていないこと又は当該措置を講じた後同条第二項の評価を行つていないことにより、第一管理区分又は第二管理区分となつていないものを含み、第五項各号の措置を講じているものを除く。)については、遅滞なく、次に掲げる事項について、事業場における作業環境の管理について必要な能力を有すると認められる者(当該事業場に属さない者に限る。以下この条において「作業環境管理専門家」という。)の意見を聴かなければならない。
一及び二 (略)
2 事業者は、前項の第三管理区分に区分された場所について、同項第一号の規定により作業環境管理専門家が第一管理区分又は第二管理区分とすることが可能と判断した場合は、直ちに、当該場所について、同項第二号の事項を踏まえ、第一管理区分又は第二管理区分とするために必要な措置を講じなければならない。
3 事業者は、前項の規定による措置を講じたときは、その効果を確認するため、同項の場所について当該特定化学物質の濃度を測定し、及びその結果を評価しなければならない。
4 事業者は、第一項の第三管理区分に区分された場所について、前項の規定による評価の結果、第三管理区分に区分された場合又は第一項第一号の規定により作業環境管理専門家が当該場所を第一管理区分若しくは第二管理区分とすることが困難と判断した場合は、直ちに、次に掲げる措置を講じなければならない。
一 当該場所について、厚生労働大臣の定めるところにより、労働者の身体に装着する試料採取器等を用いて行う測定その他の方法による測定(以下この条において「個人サンプリング測定等」という。)により、特定化学物質の濃度を測定し、厚生労働大臣の定めるところにより、その結果に応じて、労働者に有効な呼吸用保護具を使用させること(当該場所において作業の一部を請負人に請け負わせる場合にあつては、労働者に有効な呼吸用保護具を使用させ、かつ、当該請負人に対し、有効な呼吸用保護具を使用する必要がある旨を周知させること。)。ただし、前項の規定による測定(当該測定を実施していない場合(第一項第一号の規定により作業環境管理専門家が当該場所を第一管理区分又は第二管理区分とすることが困難と判断した場合に限る。)は、前条第二項の規定による測定)を個人サンプリング測定等により実施した場合は、当該測定をもつて、この号における個人サンプリング測定等とすることができる。
二 前号の呼吸用保護具(面体を有するものに限る。)について、当該呼吸用保護具が適切に装着されていることを厚生労働大臣の定める方法により確認し、その結果を記録し、これを三年間保存すること。
三 保護具に関する知識及び経験を有すると認められる者のうちから保護具着用管理責任者を選任し、次の事項を行わせること。
イ 前二号及び次項第一号から第三号までに掲げる措置に関する事項(呼吸用保護具に関する事項に限る。)を管理すること。
ロ 特定化学物質作業主任者の職務(呼吸用保護具に関する事項に限る。)について必要な指導を行うこと。
ハ 第一号及び次項第二号の呼吸用保護具を常時有効かつ清潔に保持すること。
四 (略)
5 事業者は、前項の措置を講ずべき場所について、第一管理区分又は第二管理区分と評価されるまでの間、次に掲げる措置を講じなければならない。
一 六月以内ごとに一回、定期に、個人サンプリング測定等により特定化学物質の濃度を測定し、前項第一号に定めるところにより、その結果に応じて、労働者に有効な呼吸用保護具を使用させること。
二 前号の呼吸用保護具(面体を有するものに限る。)を使用させるときは、一年以内ごとに一回、定期に、当該呼吸用保護具が適切に装着されていることを前項第二号に定める方法により確認し、その結果を記録し、これを三年間保存すること。
三 当該場所において作業の一部を請負人に請け負わせる場合にあつては、当該請負人に対し、第一号の呼吸用保護具を使用する必要がある旨を周知させること。
6~9 (略)
【有機溶剤中毒予防規則】
第38条の3の2 事業者は、前条第二項の規定による評価の結果、第三管理区分に区分された場所(同条第一項に規定する措置を講じていないこと又は当該措置を講じた後同条第二項の評価を行つていないことにより、第一管理区分又は第二管理区分となつていないものを含み、第五項各号の措置を講じているものを除く。)については、遅滞なく、次に掲げる事項について、事業場における作業環境の管理について必要な能力を有すると認められる者(当該事業場に属さない者に限る。以下この条において「作業環境管理専門家」という。)の意見を聴かなければならない。
一及び二 (略)
2及び3 (略)
4 事業者は、第一項の第三管理区分に区分された場所について、前項の規定による評価の結果、第三管理区分に区分された場合又は第一項第一号の規定により作業環境管理専門家が当該場所を第一管理区分若しくは第二管理区分とすることが困難と判断した場合は、直ちに、次に掲げる措置を講じなければならない。
一及び二 (略)
三 保護具に関する知識及び経験を有すると認められる者のうちから保護具着用管理責任者を選任し、次の事項を行わせること。
イ 前二号及び次項第一号から第三号までに掲げる措置に関する事項(呼吸用保護具に関する事項に限る。)を管理すること。
ロ 有機溶剤作業主任者の職務(呼吸用保護具に関する事項に限る。)について必要な指導を行うこと。
ハ 第一号及び次項第二号の呼吸用保護具を常時有効かつ清潔に保持すること。
四 (略)
5~7 (略)
【鉛中毒予防規則】
第52条の3の2 事業者は、前条第二項の規定による評価の結果、第三管理区分に区分された場所(同条第一項に規定する措置を講じていないこと又は当該措置を講じた後同条第二項の評価を行つていないことにより、第一管理区分又は第二管理区分となつていないものを含み、第五項各号の措置を講じているものを除く。)については、遅滞なく、次に掲げる事項について、事業場における作業環境の管理について必要な能力を有すると認められる者(当該事業場に属さない者に限る。以下この条において「作業環境管理専門家」という。)の意見を聴かなければならない。
一及び二 (略)
2及び3 (略)
4 事業者は、第一項の第三管理区分に区分された場所について、前項の規定による評価の結果、第三管理区分に区分された場合又は第一項第一号の規定により作業環境管理専門家が当該場所を第一管理区分若しくは第二管理区分とすることが困難と判断した場合は、直ちに、次に掲げる措置を講じなければならない。
一及び二 (略)
三 保護具に関する知識及び経験を有すると認められる者のうちから保護具着用管理責任者を選任し、次の事項を行わせること。
イ 前二号及び次項第一号から第三号までに掲げる措置に関する事項(呼吸用保護具に関する事項に限る。)を管理すること。
ロ 鉛作業主任者の職務(呼吸用保護具に関する事項に限る。)について必要な指導を行うこと
ハ 第一号及び次項第二号の呼吸用保護具を常時有効かつ清潔に保持すること。
四 (略)
5~7 (略)
【粉じん障害防止規則】
第26条の3の2 事業者は、前条第二項の規定による評価の結果、第三管理区分に区分された場所(同条第一項に規定する措置を講じていないこと又は当該措置を講じた後同条第二項の評価を行つていないことにより、第一管理区分又は第二管理区分となつていないものを含み、第五項各号の措置を講じているものを除く。)については、遅滞なく、次に掲げる事項について、事業場における作業環境の管理について必要な能力を有すると認められる者(当該事業場に属さない者に限る。以下この条において「作業環境管理専門家」という。)の意見を聴かなければならない。
一及び二 (略)
2及び3 (略)
4 事業者は、第一項の第三管理区分に区分された場所について、前項の規定による評価の結果、第三管理区分に区分された場合又は第一項第一号の規定により作業環境管理専門家が当該場所を第一管理区分若しくは第二管理区分とすることが困難と判断した場合は、直ちに、次に掲げる措置を講じなければならない。
一及び二 (略)
三 保護具に関する知識及び経験を有すると認められる者のうちから保護具着用管理責任者を選任し、次の事項を行わせること。
イ 前二号及び次項第一号から第三号までに掲げる措置に関する事項(呼吸用保護具に関する事項に限る。)を管理すること。
ロ 第一号及び次項
四 (略)
5~7 (略)
※ 安衛則第12条の6は、第1編第2章「安全衛生管理体制」の中に位置づけられ、特化則第36条の3の2等は作業環境測定の中に位置づけられている。
※ 有機則、鉛則、粉じん則は特化則とほぼ同様の規定であるため、保護具着用管理責任者の選任に直接かかわるところ以外は省略した。