※ イメージ図(©photoAC)
厚労省は、自律的な化学物質管理をめざして2022年2月24日に改正安衛令等を公布し、同5月31日には改正安衛則等を公布しました。
この改正によって、「ラベル表示対象物を、自ら製造したり、自社内で他の容器に移し替えて保管する場合」には「ラベル表示・文書の交付その他の方法により、内容物の名称やその危険性・有害性情報を労働者に伝達しなければならない」と定められました。
この制度は、実は、これまでも「平成4年7月1日 労働省告示 第60号」によって指導されていたものが、法令事項となったものです。ただ、これまで、ほとんど定着してきませんでした。
本稿では、「事業場内での化学物質の小分け時のラベル表示等」について詳細に解説します。
1 はじめに
(1)化学物質の事業場内のラベル表示等の義務化
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※ イメージ図(©photoAC)
厚労省は、自律的な化学物質管理を志向して2022年2月24日に改正安衛令等を公布し、同5月31日には改正安衛則等を公布した。
この改正において、大きな改正の陰に隠れてあまり目立ってはいないが、事業者にとってかなりのコストを要するものとして、事業場内で別容器等で保管する場合の名称及び人体に及ぼす作用の明示がある。
これに関して新しく設けられる条文は次のようになっている。
【労働安全衛生規則】
第33条の2 事業者は、令第十七条に規定する物又は令第十八条各号に掲げる物を容器に入れ、又は包装して保管するとき(法第五十七条第一項の規定による表示がされた容器又は包装により保管するときを除く。)は、当該物の名称及び人体に及ぼす作用について、当該物の保管に用いる容器又は包装への表示、文書の交付その他の方法により、当該物を取り扱う者に、明示しなければならない。
分かりやすく言えば、事業場内で表示対象物(最終的に約2,900物質となる。)を自事業場内で取り扱う場合には、その容器等にラベル表示を付せということである(※)。これによって、それを取り扱う労働者に対して、その化学物質等の有害性に関する情報を伝えようというのである。
※ 当然のことながらこの明示義務は、実際に小分けを行いラベル表示対象物を使用する事業者に義務が課せられるものであり、製造者及び譲渡提供を行う者に義務を課しているものではないことは当然である。複数の小容器を大型の容器に入れて譲渡する場合、譲渡者にラベル表示が義務付けられるのは大型の容器のみである。小容器に表示を行う法的な義務は、あくまでも小容器を大型の容器から取り出す事業者に課せられる。
もちろん、ラベル表示のある容器等から他の容器等に小分けして、その場で使い切ってしまうような場合は、小分けした容器にラベル表示をする必要はない。あくまでも、いったん保管する場合に限られる。
(2)これまでの経緯
実は、この規制は、今回の改正で、いきなり義務付けられたわけではない。平成24年3月16日厚生労働省告示第133号「化学物質等の危険性又は有害性等の表示又は通知等の促進に関する指針」の第4条によって、すでに事業場内の労働者に化学物質を取り扱わせる場合の表示等についての行政指導が行われていたのである。
※ この告示は、その後、平成28年4月18日及び令和4年5月31日に一部が改正(令和4年の改正は、容器等の表示事項への「人体に及ぼす作用」の追加)されている。なお、関連する通達として平成24年3月29日基発0329第11号「化学物質等の危険性又は有害性等の表示又は通知等の促進に関する指針について」が発出されている。
この告示では、事業場内で労働者に化学物質等(※)を扱わせるときは、事業者は次のことを行うこととされている。
※ ここにいう化学物質等とは、表示/SDSの交付の義務又は努力義務の対象となるものをいう。なお、製造中間体を含むこととされていることに留意すべき。
- 表示に関して
- 化学物質等の容器又は包装への表示(困難な場合は、代替措置(※)も可能である)
- 容器・包装を用いない場合は、表示すべき内容を掲示
- 上記、表示、掲示、SDSの内容に変更が生じた場合の速やかな修整
- SDSに関して(安衛法101条2項(周知義務)に留意されたい)
- 自ら化学物質等を製造・輸入する事業者は、SDSの作成
- SDSの作業場のみやすい場所への掲示等による労働者への周知
- リスクアセスメントへの活用
- 安全衛生教育への活用
- その他
- 安全衛生委員会での審議
※ 代替措置としては、平成4年労働省告示第60号/平成24年3月29日基発0329第10号に、「当該容器等に名称を表示し、必要に応じ、GHS標章を併記すること」「表示事項等を、容器等を取り扱う労働者が容易に知ることができるよう常時作業場の見やすい場所に掲示すること」「表示事項等を記載した一覧表を作業場に備え置くこと」「表示事項等を、社内LANやハードディスク等に記録し、かつ、労働者がその内容をいつでも確認できるパソコン等を作業場に設置すること」等が挙げられている。
現実には、この告示が発出されるときに、事業者側から強い反対の声があったことも事実である(※)。そして、現実には、あまり広範囲に普及したとは言い難い状況があることも事実である。しかし、法令に義務として挙げられた以上、施行までに必ず実施できる体制を整えなければならない。
※ そのときの反対の大きな理由としては、「反応炉の中で一時的に生じるものまで表示する必要はない」「試験研究で試験管レベルで小分けするときにも表示しなければならないのは非現実的」などであった。そのため、このような場合の表示義務を大きく緩和する形で告示が定められた。
2 具体的な改正事項と留意事項
(1)事業場内の情報伝達の方法
本改正によって実施すべき事項は、ラベル表示、文書の交付、使用場所への掲示、必要事項を記載した一覧表の備え付け、記録媒体に記録しその内容を常時確認できる機器を設置すること等、各事業場での取扱い方法に応じて労働者に確実に伝達できる方法で実施すればよい。
これらの実施方法が難しければ、JIS Z 7253 の「5.3.3 作業場内の表示の代替手段」に示された方法(作業手順書又は作業指示書によって伝達する方法等)で構わない。JIS によることで、安衛法の規定を満たしたことになる。
なお、二次元コードで明示する方法もあるが、その場合には、その内容を確認することができるスマホを備えるなど、労働者が取扱い時に容易にその内容を確認できるような環境を社内に整えておかなければならない。
(2)情報伝達を行う対象
対象となるのは、ラベル表示対象物を他の容器に移し替えて保管したり、自ら製造したラベル表示対象物を容器に入れて保管する場合などである。他容器に一時的に移し替えるだけで保管せず、その場で使い切る場合等が対象とならないことはすでに述べた通りである。
具体的な対象物質については、本サイトの「リスクアセスメントの対象物とは何か」を参照して頂きたい。
なお、希釈又は混合したものを保管する場合については、希釈又は混合した物の名称及び人体に及ぼす作用を明示しなければならない。希釈又は混合することにより、人体に及ぼす作用が変化する(※)ことも考えられるからである。
※ 厳密には混合物の GHS 分類の方法によるべきであろう。具体的には、経済産業省の「GHS混合物分類判定システム」を用いることが考えられる。
そして、このことは、少なくない事業者にとって、かなり困難となるであろう。
3 最後に
※ イメージ図(©photoAC)
この改正は、従来から告示によって行政指導されていたものを法令に格上げしたものと考えることができる。従って、これまでも告示に従って表示等を行っていたのであれば、それほど対応は難しくはないだろう。
だが、冒頭にも述べたように、告示の内容が一般的に普及していたとは言いにくい状況がある。混合物や中間体について、これまで有害性を調査しないまま取り扱っていたような場合には、新たな対応を迫られることとなる。
混合物の有害性の調査は、先述したように経済産業省の「GHS混合物分類判定システム」を用いることが考えられる。
中間生成物については、新たに調査を行う必要が生じる場合もでてこよう。化学物質の有害性の調査は、専門家がいないと難しい面がある。
これまで、SDSの作成を行ってこなかった事業者は、早急に対象となる物質のリスト化を行い、施行日までには有害性の調査を行う必要がある。早急な対応が求められるということを理解して頂く必要があろう。
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