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行政通達と民事責任の関係

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メンタルヘルス対策

産業保健担当が知っておくべき、労働関係の判例のネットを活用した探し方についてわかりやすく説明しています。

その他、判例を読むときの注意事項についても分かりやすく解説しています。




1 企業は行政通達って守らなくてもよい?

執筆日時:

最終改訂:

「行政から出される通達とは、行政の上級機関から下級機関に対して出される命令である。従って、国民(企業も国民が運営している)はこれを守る必要がない」と言われることがある。これは、本当だろうか?

実は、これは法的には正しいのである。事実、通達による行政指導に従わなかったからと言って、行政機関からなんらかの不利益な処分がなされることはない。

しかし、そのことを額面通りに受け取ってよいかとなると、実は、そうともいえないのである。むしろ、だったら通達に従う必要なんてないと考えることは、企業の活動を行う上で、大きなリスクとなるのである。


2 通達といっても種類がある。

労働安全衛生に関して、多くの通達が出されている。ただ、一言で、通達と言っても、法令の解釈を示した解釈通達と、法律から離れた労働災害防止のための活動を要請する指導通達では、ややその効果が異なると言える。


(1)法令の解釈を示す通達

法令の文章は、安衛法に限らず、どうしても抽象的だったり曖昧だったりする部分があることを完全には防げない。そのような箇所は解釈によらざるを得ないないのである。その解釈は誰がするかと言えば、最終的には裁判所だということになる。

しかし、法令が作られた(又は改正された)直後には、裁判所の判断はないし、裁判所は具体的な事件がないと判断はしないので、裁判所の判断が示されるまでの“暫定的な”解釈を示す必要がある。それこで、行政の上級機関が下級機関に対して、解釈の基準を示したものが解釈通達なのである。

従って、地方の行政機関はその解釈で、企業を指導するから、結果的に企業も従わざるを得ないということになる。もちろん、法的には、企業が行政の解釈に従ういわれはないが、行政の通達に反する解釈を企業が行ってそれに従って行動した場合、行政機関から是正を勧告され、場合によっては起訴されることもあり得る。

企業としては、その解釈が不満ということになれば裁判の場で争うしかない。しかし、裁判所で争うということは行政(検察官)から法違反で起訴されるか、行政処分を不服として訴訟をするなどの状況に陥っているのであるから、その時点で一定のリスクを負うことになる。

しかも、裁判所は行政通達に従って、判断をする傾向があるのが現実なのである。

従って、法的には。企業は行政の通達に従う義務はないのだが、よほどのことがない限り、通達に従うことが望ましいとはいえる。


(2)行政による指導通達

これに対し、法令から離れて、労働災害防止のための対策を指導する「指導通達」と呼ばれる通達はどうだろうか。このような通達は、関係事業者団体にも要請文が送付されてくることが多い。

これに違反したとしても、行政から是正を勧告されることもなければ、まして送検・起訴されるということはあり得ない。

では、これに従うかどうかは、企業が自由に判断してよいかと言うと、必ずしもそうではないのである。

まず、行政が行う様々な発注は、最近では競争入札等で行われることがほとんどである。行政通達に従っていないと、その入札に応じたときに、低い評価をされることがあり得るのである。これは、建設業の事業者にとっては深刻な問題だろう。

また、何らかの災害が発生し、通達を遵守していれば防げたはずだという場合にはさらに重要な問題が発生する。民事賠償請求訴訟を受けたときに、敗訴する可能性が出てくるのである。それは、次項で説明する。


3 民事賠償との関係

法令に違反する行為があって災害が発生した場合、安衛法違反で処罰されることがあり得ることは当然である。また、神戸地裁判決(平成2年12月27日)は次のように言う。

【神戸地裁判決(平成2年12月27日)】

(有機則の)各規定は、いわゆる行政的な取締規定であって、右各規定の定める義務は、使用者の国に対する公法上の義務と解される。しかしながら、右各規定の究極的目的は労働者の安全と健康の確保にある(労安法一条参照。)と解するのが相当であるから、その規定する内容は、使用者の労働者に対する私法上の安全配慮義務の内容ともなり、その規準になると解するのが相当である。

すなわち、安衛法令の内容は労働者に対する義務ともなるとし、それに違反して災害が発生すればそれによって生じた損害を賠償する義務があるとしたのである。

では、行政の指導通達に違反した場合はどうだろうか。広島地裁判決(平成元年9月26日)は次のように言うのである。

【広島地裁判決(平成元年9月26日)】

(労働省の腰痛予防の)通達は、行政的な取締規定に関連するものではあるけれども、その内容が基本的に労働者の安全と健康の確保の点にあることに鑑みると、使用者の労働者に対する私法上の安全配慮義務の内容を定める基準となるものと解すべきである。

すなわち、行政の指導通達が「労働者の安全と健康の確保」にある場合は、その内容は労働者に対する義務(安全配慮義務)の解釈の基準になるというのである。分かりやすく言えば、行政通達に違反して災害が起きれば、その損害を賠償する責任が発生し得ると言っているのである。

民事賠償の額は、最近では億単位になることさえめずらしくはない。下手をすれば、企業倒産の憂き目を見ることも出てこよう。

また、民法第715条第2項は会社事業を監督する個人の民事賠償責任を定めているし、また会社法第429条は企業の役員等にも責任を負わせることがあると定めている。簡単に、「通達だから守らなくて良い」と考えることは会社の事業運営にとって危険なのである。


4 行政通達も守る必要がある

結局、行政通達は法的には国民を拘束するものではないが、企業経営を行う上では法令と同じように守るべきものなのである。というより、労働安全衛生の分野においては、法令よりも重要なケースさえあると言ってよいのである。


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