TGLの昇降板で人の昇降は許されるか




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テールゲートリフター付きトラック

※ イメージ図(©photoAC)

テールゲートリフターの安全作業に関する厚労省のパンフレットには、安全のためのルールの1つとして「作業者は原則として昇降板に乗ったまま移動(昇降)しない」とされています。

このルールについて、「原則」には「例外」があるだろうということで、どのような場合であれば人が乗ったまま昇降板を昇降させることができるのかとの疑問を持つ方がおられるようです。

しかし、厚労省のパンフレットに「原則として」とされているのは、「理論上できる場合があり得る」からにすぎません。具体的には、「輸入されたテールゲートリフターの中に、人が乗ったまま昇降板を昇降させることが可能なものが絶対にないとは言い切れない」ということです。

現時点で、国産のテールゲートリフターを用いているのであれば、人が乗ったまま昇降板を昇降することは、安衛法違反(用途外使用)となります。




1 テールゲートリフターの昇降板で人が昇降してよいのか

執筆日時:


トラックドライバー

※ イメージ図(©photoAC)

テールゲートリフターとは、比較的大型のトラックの後部に取り付ける荷物専用の小型のリフトのことである。運送業務・配送業務の有力な効率化につながる有用な設備であるが、安全に関する基準やガイドラインがなく、労働災害が多発しているとの指摘もある(※)

※ 詳細は本サイトの「テールゲートリフターの安全作業入門」を参照されたい。

あくまでも荷物専用のリフトであるから、これに乗って人が昇降することは安衛法の用途外使用(安衛則151条の14)に該当するのは明らかで、安衛則151条の14の但書きに該当しない限り行ってはならないはずである。

ところが、厚労省のパンフレット(※)に、安全のためのルールの一つとして「作業者は原則として昇降板に乗ったまま移動(昇降)しない(下線強調引用者)」と書かれている。このため、「原則」には「例外」があるはずなので、人が乗ったまま昇降できる場合とはどのようなケースかという質問を受けることがある。

※ 厚生労働省「テールゲートリフターを安全に使用するために

そこで、本稿では、厚労省の資料に「原則」と書かれている理由と、人が乗ったまま昇降してはならない理由について解説する。


2 テールゲートリフターにおける人の昇降禁止の例外とは?

(1)厚労省のパンフレットの「原則として」とは

昇降板に乗ったまま昇降板を昇降させない

※ 昇降板に乗ったまま昇降板を昇降させない(illustACのイラストを利用)

確かに、厚労省のパンフレットには安全ルールの一つとして「原則として昇降板に乗ったまま移動(昇降)しない」とされ、絶対に行ってはならないとは明言していない。そうなると「原則」には必ず「例外」があるはずである。では、この場合の例外とは何だろうか。

実は、その答えは、同じパンフレットに書かれているのである。そのページの下部に「★ 詳細については各社取扱説明書を参照して下さい」と記載されている。すなわち、例外は、取り扱い説明書に「人が乗ったまま昇降してもよい」と書かれている場合ということである。それはそうであろう。もとより人の昇降用のテールゲートリフターというものがあれば、それで作業者が昇降しても問題があるわけがない。

しかし、現に国内に存在している国産のテールゲートリフターで、人が乗ったまま昇降してよいとされているものはない。そこで、パンフレットには「原則として」とした上で、人の昇降に用いることを禁止しているわけである。将来的にはできるものが製造されるかもしれないし、海外からそのようなものが輸入されている可能性もあることから断定的な書き方をしなかったのである。

この点について、日本自動車車体工業会「テールゲートリフター昇降作動時における人の搭乗禁止について」(2023年3月31日)も、テールゲートリフターは「あくまで荷物を載せる安全率で設計しており」「人が乗った状態での昇降作動を考慮した評価を製品開発時に実施しておりません」としている。

ヨーロッパのテールゲートリフター

図をクリックすると拡大します

※ 厚生労働省パンフレット「 テールゲートリフターを安全に使用するために」より

すなわち、現時点では、国産のテールゲートリフターについては、メーカーが認めていないのであるから人の昇降を行ってはならないのである。

あるとすれば、国外で製造された人の昇降が可能なものが国内で流通している場合である。しかし、国外産のテールゲートリフターのシェアは数パーセント程度といわれ、人の昇降が可能な国外産のテールゲートリフターが国内で流通している例は、現時点ではないようである。


(2)厚労省の通達の記述

厚生労働省の令和5年3月28日基発0328第5号「貨物自動車における荷役作業時の墜落・転落防止対策の充実に係る労働安全衛生規則の一部を改正する省令及び安全衛生特別教育規程の一部を改正する件の施行について」は、「テールゲートリフター製造者がテールゲートリフターの動作時に作業員の搭乗を認めていないにもかかわらず、当該テールゲートリフターの動作時に労働者を搭乗させることは、安衛則 151 条の 14 の主たる用途以外の使用に当たる場合がある」としている。

ここでも、人を載せてテールゲートリフターの昇降板を昇降させることは、用途外使用だと明確に言い切っていない。表現上、2か所で例外があることを示している。

【人の昇降板での昇降禁止の例外に関する表現】

  • 製造者がテールゲートリフターの動作時に作業員の搭乗を認めていないにもかかわらず
  • 主たる用途以外の使用に当たる場合がある

最初の例外はすでに説明した通りである。製造者がテールゲートリフターの動作時に作業員の搭乗を認めているものは、現時点では製造されていないので、この例外に該当するケースはない。

後者の例外の表現は、具体的なことは書かれていないので分かりにくい。製造者が認めていないような使用をすることが、用途外使用に当たらないということは、言葉の意味からはあり得ない。あえて「場合がある」としたのは、安衛則151条の14の但書きに該当することがあり得る(※)ということかもしれない。

【労働安全衛生規則】

(主たる用途以外の使用の制限)

第151条の14 事業者は、車両系荷役運搬機械等を荷のつり上げ、労働者の昇降等当該車両系荷役運搬機械等の主たる用途以外の用途に使用してはならない。ただし、労働者に危険を及ぼすおそれのないときは、この限りでない。

※ 厳密には、安衛則151条の14の但書は、「労働者に危険を及ぼすおそれのないときは用途外使用ではない」としているのではない。あくまでも「用途外使用であるが、法令では禁止しない」としているにすぎない。従って、行政の通達で「場合がある」と述べているのは、用途外使用とならない場合があると言外に認めているのであり、本条の但書のケースではなく、そもそも本条の適用がない場合があると述べているようにも思える。

しかし、本文でも述べたように、製造者が認めていないような用い方が用途外の使用にならないことは言葉の意味から考えにくい。従って、通達は、この但書きのケースがあり得るので「場合がある」としたのであろう。

しかし、本条の但書きに該当するのはどのようなケースかについて、行政の解釈は示されていない(※)。しかも、前述した日本自動車車体工業会の文書では、「数百 Kg の荷物を人が支えて昇降する作業は、荷物転倒時における人の落下や挟まれるリスクがあると判断しております」とされているのである。

※ 例えば、フォークリフトの用途外使用の但書きについては、昭和53年2月10日基発第78号「労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行について」に「「危険を及ぼすおそれのないとき」とは、フォークリフト等の転倒のおそれがない場合で、パレット等の周囲に十分な高さの手すり若しくはわく等を設け、かつ、パレット等をフォークに固定すること又は労働者に命綱を使用させること等の措置を講じたときをいう」との行政解釈が示されている。

このようなことから考えると、現時点で、本条の但書きに該当するケースがあるとは考えにくいというべきである。


3 最後に

トラックドライバー

※ イメージ図(©photoAC)

陸上貨物運送業では、2024 年と呼ばれるドライバー不足が目前の深刻な問題となっている。この問題の解決策の一つとしてテールゲートリフターが脚光を浴びている。

しかしながら、これを陸上貨物運送業の効率化の手段として、効果を上げるためには、何よりもそれによって労働災害が起きないことが必要である。

厚労省がテールゲートリフターの操作の業務を特別教育の対象とする安衛則の改正を行ったのは、まさにそのような理由であろう。

しかし、そのことは逆から見れば、現時点で必ずしも正しい使い方が行われていないからということでもある。

残念ながら、テールゲートリフタの昇降板に作業者が乗って、荷を満載したロールボックスパレットを押さえながら昇降板で昇降するケースは多いようである。

そして、これが特別教育の対象とされたためか、筆者は本稿で解説したようなご質問を数回にわたって受けたのである。

これに対する回答としては、「現時点では、作業者をテールゲートリフターの昇降板に乗せたまま昇降するべきではない」というしかないのである。


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