
※ イメージ図(©photoAC)
2025 年3月 24 日よりマイナ免許証制度が始まります。警察庁は、直前の3月12になってようやく「マイナ免許証読み取りアプリ 専用サイト」から読み取りアプリのダウンロードが可能になるようにし、マニュアル(スマホ版、パソコン版)を公開しました。
民間企業等で、その業務の性格から、他人の免許証を確認しなければならないものは、レンタカー業界など数多いのです。警察庁の対応は、民間企業が十分な準備をするには不十分であり、あまりにも遅すぎるというべきです。
しかし、それよりもマニュアルを読んで感じる危惧は、これでは簡単に偽造アプリが作れてしまうということです。htmlと PHP(プログラム言語)などの他、画像処理の知識があれば、誰にでも簡単に偽造アプリが作れてしまいます。
そしてその不安が決して非現実的なものではないことは、(一社)レンタカー協会が、「マイナ免許証をお持ちの方へ」の中で、マイナ免許証の確認は利用者(運転者)の持参したスマートフォンでするとしていることからもいえます(※)。
※ レンタカー協会を批判しているのではない。同協会としては、顧客の機微な個人情報が記憶されているマイナカードを自社のシステムで読み込むことに不安を感じることは当然であろう。そのこと自体は十分理解できる。
しかし、顧客のスマートフォンを用いたのでは、免許を持たない顧客でも、偽造アプリを作成して存在しない免許の情報を提示することが可能であると思われ、国民の側からは無免許運転の不安がぬぐえません。その対策の重要性について、分かりやすく解説します。
- 1 はじめに
- (1)マイナ免許証の導入
- (2)マイナ免許証の読み取りアプリ
- (3)マイナ免許証の読み取りアプリの問題点
- (4)(一社)レンタカー協会によるマイナ免許証の確認方法への不安
- 2 どのように対応するべきか
- (1)免許証を確認するための方法
- (2)印刷した証明書等の紙の証明書、受講者のスマホでの確認は認められるか
- 3 最後に
1 はじめに
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(1)マイナ免許証の導入

※ イメージ図(©photoAC)
マイナカードの利用促進という狙いもあるのだろうとは思うが、政府(警察庁)は、2025 年3月 24 日より「マイナ免許証制度」を始めることとしている(※)。
※ 道交法の改正そのものは2022年(令和4年)4月 27 日に公布されている。その時点では3年以内の政令で定める日に施行されることとなっていた。
マイナ免許証とは、個人番号カード(マイナカード)に免許証の機能を持たせたものである。免許保持者は、従来の免許証を保有するか、マイナ免許証を保有するか、またはその双方を保有するかを自由に選ぶことができるようになる。
問題は、マイナ免許証を保有する場合、マイナカード(マイナ免許証)の券面には、免許証に関する情報は記載されないことである。免許証の情報は、マイナカードの IC チップに情報として記録される。
従って、ある民間企業が、顧客や従業員が免許を有しているかどうかを確認するためには、マイナ免許証の IC チップの情報を読み取る必要があるのだ。しかし、マイナ免許証の内容を見る限り、本人または取り締まりの警官が見ることを前提としたシステムで、他の民間人が免許証を見ることを想定していないのではないかと思える節がある。
そう思える理由は、偽造防止の方法があまりにも弱いことである。本人が見るだけなら偽造防止は必要がないし、警察官が見る場合も、直接、専用の端末でマイナカードを読むことができるだろうから偽造は不可能だろう。
しかし、免許証は、多くの民間企業も読む必要があるのである。
(2)マイナ免許証の読み取りアプリ
警察庁は、制度開始のわずか 12 日前の3月 12 になって、ようやく「マイナ免許証読み取りアプリ 専用サイト」から読み取りアプリのダウンロードができるようにした。また、同じ日になって、読み取りアプリのマニュアル(スマホ版、パソコン版)も公開している。
わが国には、レンタカー業界やバス・タクシー業界を始めとして、顧客や従業員の保有する免許を確認する必要のある民間企業が存在している。3月 24 日になればマイナ免許証のみを保有する者もいるのだから、それまでに適切に準備を行う必要がある。
警察の対応は、あまりにも遅きに失するというべきであろう(※)。
※ さらに言えば、「アプリに対応した IC カードリーダ一覧」を公表したのが3月1日で、しかも対応機種が 13 種類(macOSの場合は6種類)しかないのである。マイナンバーカードに対応したICカードリーダーの数よりもかなり少ない。
これでは、十分な対応の検討を行うために、到底、時間が足りないというべきだ。
(3)マイナ免許証の読み取りアプリの問題点
このマニュアルを読めばすぐに感じることであるが、簡単に偽造アプリを作成できてしまうのではないかという危惧の念を強く持つようなものなのである。htmlに関する知識と PHP か pearl など WEB プログラミングの知識があれば簡単に偽造が可能であろう。
そして、偽造したアプリを自分のスマートフォンにインストールすることは、自分のものなので簡単にできる。次に、第三者に免許を所有していると(虚偽に)示すには、マイナカードの読み取りアプリを立ち上げたふりをして、偽造アプリを立上げればよい。そして、その入力画面に(適当な)4桁の数字を入力すれば、偽造された免許証のPDFファイルを表示させるということが簡単にできてしまう(※)。
※ 少なくともマニュアルを読む限りでは、偽造防止対策がとられているとは感じられないのである。
また、自分でアプリを作れないでも、この後1、2箇月もすれば、海外のダークサイトに偽造アプリが複数アップされることもあり得るのではないだろうか。
偽造防止など、次に示すような方法で簡単にできると思えるのだが、なぜかそのような方法がとられていないのである。
【偽造防止のために考えられること】
- デジタル庁が実施している国家試験のオンラインデジタル化のデジタル資格者証のように、PDF ファイルに検証用QRコード(二次元コード)を印字するようにしておけば、偽造は事実上不可能になるだろう
- 免許証の PDF ファイルを秘密鍵でスクランブルして提供するようにし、公開鍵で閲覧できるようになっていれば、これも偽造は事実上不可能になる(ただし、この方法はオフラインでは使用できない)。
最近は、電子メールも(利用者が意識していないだけで)秘密鍵・公開鍵方式で暗号化されているケースが多いのである。なぜ、このような簡単で確実な偽造防止策がとられなかったのか理解に苦しむところである。
(4)(一社)レンタカー協会によるマイナ免許証の確認方法への不安
驚くべきことに、(一社)レンタカー協会が、「マイナ免許証をお持ちの方へ」の中で、マイナ免許証の確認は利用者(運転者)の持参したスマートフォンでするとしている(※)。
※ (一社)レンタカー協会のサイトでは、スマートフォンをレンタカー企業のものを用いるのか顧客のものを用いるのかが必ずしも明確ではない。しかし、いちいちリンクは張らないが、レンタカー業の個別企業のサイトでは、顧客のものを用いると明記してある。
おそらく、マイナカードを自社の端末で読むことや、自社の端末に4桁の数字を入力させることに、業界として不安を感じるためにこのような措置を採ったのであろう。それは、理解できなくもない(※)。
※ 筆者は、(一社)レンタカー協会の対応を批判しているのではない。マイナ免許証のシステムに問題があると考えているのである。
しかし、警察庁も国土交通省も、マイナ免許証の読み込みを、自社の端末で行うべきか、顧客の端末で行わせるべきかについての考え方を、少なくとも公開されたマニュアル等では示していない(※)。
※ 実際には、警察庁とレンタカー業界の間で口頭等での協議が行われている可能性はある。もちろん、確認のしようもないことではあるが。
運転免許を保有しているかどうかについて顧客のスマホで確認を行ったところで、偽造されたアプリが読み込まれている可能性を否定できないのではないだろうか。国民としては、無免許運転が横行する強い不安を感じざるを得ない。
2 どのように対応するべきか
(1)免許証を確認するための方法
筆者としては、マイナ免許証の読み取りアプリは、本人のスマートフォンで動作する場合は偽造されやすいものであると考えざるを得ない(※)。
※ もしかすると、偽造防止のための手段がとられているのかもしれないが、仮にそうだとしても公表されていない=マニュアルを見る限りでは簡単に偽造アプリが作れてしまう=のである。従って、免許証を確認する側にとっては、公表されていない偽造防止の方法を利用することはできない。従って、それなりの対応を取らざるを得ないのである。
そうである以上、マイナ免許証の確認は次のような手段を取るべきではないかと考える。
【無免許運転を防止するための免許証の確認方法(私案)】
- 基本的な考え方
- これまで免許証を確認していた方法と基本的な考え方は変える必要はない(従来の免許証がマイナ免許証に代わるだけ)。
- これまでの免許証は、直接、人が目で見ていた。マイナ免許証では、読取り用の端末(読み取りシステム)が人とマイナ免許証の間に入るだけと考える。
- これまで免許証のコピーを提出させていた場合は、マイナ免許証の場合は読み取ったPDFファイルを添付させるか、紙で添付させればよいが、確実な確認のためにはこれだけでは足りないだろう。
- 具体的な確認方法
- 受付の準備
- 〇 テンキーとカードリーダを受付け用の端末(パソコン等)に接続する。
- 〇 テンキーは、箱などで手前以外を囲い、キーが周囲の者から見えないようにする。
- 〇 テンキーとカードリーダを、顧客の側に設置する。
- 実際の確認方法
- 〇 受講生に、マイナ免許証をカードリーダへ挿入し、テンキーへ番号を入力するように依頼する。このとき「氏名等は表示しない」を選ぶ
- 〇 ただし、このとき画面上で番号を表示することが可能なので、受講生とトラブルを起こす可能性がある。画面上に番号を表示していないことを受講生に確認させるための、何らかの手だてが必要である
- 〇 自社の確認担当者が受付用端末で、免許情報を確認する(顧客にも確認させる)
- 〇 必要に応じ、免許情報の PDF ファイルの保存又は紙への印刷を行う。(それまで免許証のコピーを保存していた場合)
- マイナ免許証が読めない場合、又は顧客が番号を忘れた場合の対応
- 基本的に免許証を忘れたときと同じ扱いをする。ただし、マイナ免許証が読み取れない場合、(とりわけ最初のうちは)システム側に問題がある可能性を否定できないので十分な注意を要する。
確かに、マイナカードを自社の端末で読むことには抵抗を感じるかもしれない。しかし、無免許で運転されるようなことがあれば、それは国民の生命・身体にリスクをもたらすのである。
警察庁が、十分な偽造防止の方法を採っていない(あるいは公表していない)以上、自社の端末で読むしかないと筆者は考えるが、如何なものであろうか。
(2)印刷した証明書等の紙の証明書、受講者のスマホでの確認は認められるか
筆者は、紙ベース、PDFファイルベースでの確認は認めるべきではないと考える。必ず、マイナカード原本を、受付者側のシステムを用いて確認する必要がある。
その理由は以下の通りである
【自社の端末で確認しなければならない理由】
- 紙で印刷されたものは偽造が容易である。
- 免停前に印刷して、確認時には免停を受けている可能性も否定できない。
- 受講者のスマホの画面は偽造が容易である。
- 受講者のスマホでは偽造アプリの可能性が否定できない。
そもそも、従来型の免許証の場合も、確認をコピーだけで行うようなケースはまれであろう。マイナ免許証も紙ベースやPDFファイルベースで確認することは避けなければならない。
3 最後に

※ イメージ図(©photoAC)
さまざまな方面でデジタル化は進んでゆく。好むと好まざるとにかかわらず、それを押しとどめることはできないし、するべきでもない。
しかし、デジタル化は個人情報を不正に使用することを可能にする。一方で、デジタル情報はセキュリティの懸念を払しょくすることはできない。
マイナ免許証も、マイナンバーカードという機微な個人情報の含まれるものに、ときに民間企業が確認する必要のある免許情報が含まれることで、民間企業がその取扱いに苦慮している面があることは大いに理解できる。
しかも、マイナ免許証の読取りアプリのマニュアルなど、マイナ免許証を確認するときのイメージが公表されたのが、施行の 12 日前という直前だという状況も重なり、かなりの混乱が予想される事態となっている。
レンタカー業界やバス・タクシー業界など他人の免許証を確認しなければならない業界では、機微な個人情報を得る恐れのあるマイナカードにその情報が含まれるというのであるから、不安感は募るだろう。そのことは大いに理解できる。

※ イメージ図(©photoAC)
しかし、免許の確認に当たって、簡単に欺罔されるおそれのあるような手段を取るべきではない。無免許運転が横行すれば、それは国民の生命に関わるのである。
免許証の確認に当たっては、それ相応の「覚悟」を持って行うべきである。どちらにしても問題が起きる可能性はある(※)が、そうなった場合に責任を取る覚悟で免許証を確認する手段を決定するべきである。それが企業の責任者の、社会的への責任と言うべきものであろう。
※ 例えば、レンタカー業者が貸し出した車を無免許のドライバが運転して事故が起きれば、レンタカー業者も批判されることになろう(この場合、故意がないので道路交通法第 64 条3項(罰則第 117 条の2の2第1項二号)は適用されないだろうが、自動車損害賠償保障法第3条の責任は問われるだろう。)。
一方、マイナカードを自社の端末で読めば、不当に個人情報を集めているとのありもせぬ疑いをもたれて SNS 等で批判されかねない。
ただそれにしても、警察と国土交通省に、マイナ免許証の確認の方法のためのガイドラインを示すなど責任を持った対応が見られないことも残念なことだというべきであろう。民間に責任を押し付けるべきではないと最後に言っておきたい。
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