私有地での運転に免許は必要か




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ヘルメットをかぶった女性

※ イメージ図(©photoAC)

労働安全衛生法の就業制限業務(安衛法第61条/安衛令第20条)に定めるフォークリフトや建設機械などの運転は、道路上を走行させる運転は除かれています。これは、道路上を走行させる運転には道交法の免許が必要なので、二重にライセンスを取らせることを避けたためです。

逆から言えば、安衛法上の資格を有していても、フォークリフトや建設機械などを、道交法上の大型特殊などの必要な免許なしで道路上を走行させれば道交法違反になるわけです。

ところが「道路」とは「公道」のことであると誤解している方が多いようです。フォークリフトや建設機械を含む自動車を走行させるために、道交法の免許が必要な「道路」とは何かについて解説します。

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1 はじめに

執筆日時:


(1)安衛法の就業制限業務

労働安全衛生法(安衛法)同第61条は、一定の業務に従事するには、免許、技能講習修了等の資格を取得しなければならないと定められている。この業務は、労働安全衛生法施行令(安衛令)同第20条条に定められている。このうち、機械(車体)の走行を含むものとしては次のようなものの運転の業務がある。

種類 性能
11 フオークリフト 最大荷重1トン以上
12 移動式の建設機械(整地・運搬・積込み用機械、掘削用機械、基礎工事用機械及び解体用機械に限る。) 機体重量3トン以上
13 ショベルローダー又はフォークローダー 最大荷重1トン以上
14 不整地運搬車 最大積載量1トン以上
15 高所作業車 作業床の高さ10メートル以上

これらの運転については、いずれも「道路上を走行させる運転」については、安衛法では就業制限業務とはされていない。従って、道路上の走行には安衛法上の資格は必要はない。

しかし、これは道路を走行するには道交法上の免許が必要なので、二重に資格を取らせることを避けるための措置である。道交法上の免許は、当然に必要であるし、車体は車検をとる必要もある。


(2)道交法上の免許

運転する女性

※ イメージ図(©photoAC)

さて、道路交通法(道交法)第64条は、運転免許を受けないで自動車又は原動機付自転車を運転してはならないとしている。そして、同条の「運転」の定義は同法第2条第1項第17号にあり、「道路において、車両等をその本来の用い方に従って用いること」とされている。

すなわち、道路を走行するのであれば、運転免許を受ける必要がある(なお、道路運送車両法第58条により、自動車に車検を受ける必要もある。)こととなる。そこで、「道路」とは何かが問題となる。


2 道交法上の道路とは

(1)道交法上の道路の定義

道路の定義は、道交法第2条第1項第1号に、「道路法による道路及び道路運送法による自動車道及びその他の一般交通の用に供する場所」の3つ(※)であるとされている。

※ なお、道路運送車両法第2条第6項においても、ほぼ同様な定義が規定されている。

【道交法上の道路】

  • 道路法に規定する道路
  • 道路運送法に規定する自動車道
  • 一般交通の用に供するその他の場所

それでは、これらについてその意味するところをみてゆこう。


(2)道路法に規定する道路

道路法の道路については、その定義が同法の第3条に、次のものをいうと定められている。ここで示された道路はいわゆる「公道」のことである。

【道交法上の道路】

  • 高速自動車国道
  • 一般国道
  • 都道府県道
  • 市町村道

公道の自動車の走行に道交法の免許が必要なことは当然であろう。


(3)道路運送法に規定する自動車道

道路運送法第2条によると「自動車道」とは、「専ら自動車の交通の用に供することを目的として設けられた道で道路法による道路以外のもの」とされている。「道路法による道路以外のもの」とは「公道以外のもの道路」であり、私道は除外されていない。

【道路運送法】

(定義)

第2条 (1項~7項略)

 この法律で「自動車道」とは、専ら自動車の交通の用に供することを目的として設けられた道で道路法による道路以外のものをいい、「一般自動車道」とは、専用自動車道以外の自動車道をいい、「専用自動車道」とは、自動車運送事業者(自動車運送事業を経営する者をいう。以下同じ。)が専らその事業用自動車(自動車運送事業者がその自動車運送事業の用に供する自動車をいう。以下同じ。)の交通の用に供することを目的として設けた道をいう。

なお、この自動車道は、「一般自動車道」と「専用自動車道」に分かれており、専用自動車道については「自動車運送事業者が専らその事業用自動車の交通の用に供することを目的として設けた道」とされており、明らかに私道を指している。


(4)一般交通の用に供するその他の場所

「その他の一般交通の用に供する場所」については、法令に定義が示されておらず、行政による解釈もない。従って、それが何を意味するかを知るには判例を検討する以外にない。

これについて、奈良地判平成6年3月2日は、道交法2条1項1号にいう「一般交通の用に供するその他の場所」とは、現に不特定多数の人ないし車両等の交通の用に供されている場所をいい、以下の3つの要件が、原則として必要と解されるとしている。

【道交法上の道路】

  • 道路としての形態を備えていること(形態性)
  • 一般交通に利用されている状態が客観的に認められること(客観性)
  • 不特定多数の者の通行が許されている場所であること(公開性)

そして、この判決の判断基準は、その後の様々な判例において踏襲されている。判例で道路に当たるとされたものには、以下のようなものがある。

表1:道路に当たるとされた例
場所 判断 裁判所
盲学校の寮までの堤塘(堤防) 一般交通の用に供するその他の場所に当たる 奈良地判平成6年3月2日
本件駐車場は,本件各店舗を訪れる客の利用する駐車場として供され,本件駐車場中央部分は,同各店舗を訪れ,自車を本件駐車場に停め,又は停めようとする客ら及びその自動車の通行に供されており,これらの客及びその自動車が同所を通行するに当たって何らの制約はなく,かつ,現にこれらの客及びその自動車が自由に通行していた 道路交通法2条1項1号にいう一般交通の用に供するその他の場所とは,不特定多数の人や車両が自由に通行できる場所として供され,現に不特定多数の人や車両が自由に通行している場所を意味すると解される 大阪高判平成14年10月23日

一方、道路に当たらないとされたものには、次のようなものがある。

表2:道路に当たらないとされた例
場所 判断 裁判所
駐車場の中央部分(当該駐車場に駐車する不特定の車両が通行利用しまた右駐車場西側に隣接するホテルなどの利用客等も通行しているものである) 駐車位置区画線のない中央部分も、駐車場の一部として、該駐車場を利用する車両のための通路にすぎず、これをもつて道路交通法上の道路と解すべきものではない 最2小決昭和46年10月27日
コンビニエンスストアの駐車場の車輪止めと店舗外壁との間(近所に住んでいる人の中には,コンビニエンスストアのゴミ箱にゴミを捨てる人があり,そういった人がコンビニエンスストアを利用するわけでないのに,本件事故現場を通行する) 本件運転場所は,車輪止めと店舗外壁との間であって,店舗の屋根が途中まで張り出しており,店舗の軒下の延長ともいえる商業施設の敷地であり,車輪止めによって物理的に自動車の通行ができず,コンビニエンスストアの利用客以外の不特定多数人が通行する場所でもないことから,道路には該当しない 大阪地判平成23年1月17日
私有地の駐車場(私人が経営する比較的小規模な駐車場であって,その北側以外は畑や塀に囲まれて通り抜けもできない)

① 駐車区画以外の部分は,車両が通行できるものの,いずれも行き止まりとなって,通り抜けができない構造になっており,道路としての形態を備えているとまではいい難い

② 駐車場経営者が賃貸借契約もしていない付近住民に対して本件駐車場を自由に使用することを許すなどとは考え難い

③ 本件駐車場のうち市道と接する北西角付近のわずかな部分だけは,車両が馬入れからはみ出して通行したり,人が横切ったりするというにすぎず,そのことから,本件駐車場全体が一般の通行の用に供されていると見るのは相当でない

東京高判平成14年10月21日

3 結論

運転する女性

※ イメージ図(©photoAC)

工場敷地内の道路については、専ら自動車が走行することを目的とする場所を走行するのであれば、工場外へ出ないとしてもその運転には免許が必要であり、車両も車検をとっておく必要があると考えられる。

一方、工場建物内部などの専ら自動車が走行することを目的としない場所について、自動車等で運転するには免許の必要はなく、車両にも車検を取っておく必要はないと考えられる。

問題はスーパーマーケットなどの一般の方が使用する駐車場である。駐車場の通路部分(※)については、昭和46年の最高裁は否定しているが、平成14年の大阪高裁は肯定しており、ややあいまいな面もある。

※ なお、道路性を否定した平成23年の大阪地裁の判決は駐車スペースと道路の間の部分についてであり、参考とはならない。また、道路性を否定した東京高裁の例は「私人が経営する比較的小規模な駐車場であって、その北側以外は畑や塀に囲まれて通り抜けもできない」例である。

しかし、大型店舗の駐車場の通路部分については、もっとも最近の大阪高裁が道路性を肯定しているのであり、これが現時点での判例と考えるべきであろう。やはり、運転には免許が必要であり、車両も車検をとっておく必要があると考えるべきである。

以上をまとめると、以下のようになる。

場所 免許の必要性
工場の敷地内の自動車用の道路 必要(条文)
工場建物内の通路 不要(条文)
私人の経営する駐車場内 不要(東京高裁)
大型店舗の駐車場の通路部分 必要(大阪高裁)

工場内とスーパーマーケットの駐車場については、次図の赤矢印の箇所の走行には同工場の免許が必要だといえるだろう。

工場内の走行に免許の必要な場合

図をクリックすると拡大します

スーパーマーケットの駐車場内の走行で免許の必要な場合

図をクリックすると拡大します

スーパーマーケットの駐車場内や工場の敷地内では、つい私有地なので道交法上の免許は必要ないと考えがちであるが、必要であるので留意したい。

フォークリフト

※ イメージ図(©photoAC)

なお、これらの場所でフォークリフトを用いて荷の積み下ろしをする場合には、安衛法の資格と道交法上の免許の2つが必要ということになろう。

なお、その場合であっても、荷を積載したままの走行は可能であるし、当然のことであるが、道路の使用許可が不要であることはいうまでもない。





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