技能講習修了証等を会社が返さない!




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基本方針

※ イメージ図(©photoAC)

労働安全衛生法の就業制限業務(安衛法第61条/安衛令第20条)に定めるフォークリフトや建設機械などの免許や技能講習修了の資格は、たとえ会社が費用を負担したとしても、本人のものです。

免許証や技能講習修了証は、その資格を証明するためのものですから、本人の所有物であって会社といえど取り上げることはできません。

しかし、本人が会社を辞めるときに、会社が費用を負担したという理由で本人に返さない会社があります。そのような場合にどうしたらよいかを解説しています。

柳川に著作権があることにご留意ください。



1 はじめに

執筆日時:

最終改訂:


(1)安衛法の様々な資格制度

建設機械と作業衣を着た女性

※ イメージ図(©photoAC)

労働安全衛生法(安衛法)には、都道府県労働局長から免許を受けたり、登録教習機関の行う技能講習を修了しないとできない次のような業務が定められています。そして、それらの業務を行うときは、免許証や技能講習修了証を携帯していなければなりません。

【資格がないとできない業務】

  • 発破のための、せん孔、装てん、結線、点火並びに不発の装薬又は残薬の点検及び処理
  • 制限荷重が5トン以上の揚貨装置の運転
  • ボイラー(小型ボイラーを除く。)の取扱い
  • ボイラー(小型ボイラーを除く。)又は第一種圧力容器(小型圧力容器を除く。)の溶接(自動溶接機による溶接、一部の管周継手の溶接等を除く。)
  • ボイラー(小型ボイラー等を除く。)又は第一種圧力容器(小型圧力容器等を除く。)の整備
  • つり上げ荷重が5トン以上のクレーン(線テルハを除く。)の運転
  • つり上げ荷重が1トン以上の移動式クレーンの運転(道路上を走行させる運転を除く。)
  • つり上げ荷重が5トン以上のデリツクの運転
  • 潜水器を用い、かつ、空気圧縮機若しくは手押しポンプによる送気又はボンベからの給気を受けて、水中において行う業務
  • ガス溶接等(可燃性ガス及び酸素を用いて行なう金属の溶接、溶断又は加熱)
  • 最大荷重が1トン以上のフオークリフトの運転(道路上を走行させる運転を除く。)
  • 機体重量が3トン以上の整地・運搬・積込み用機械、掘削用機械、基礎工事用機械又は解体用機械に掲げる建設機械で、動力を用い、かつ、不特定の場所に自走することができるものの運転(道路上を走行させる運転を除く。)
  • 最大荷重が1トン以上のショベルローダー又はフォークローダーの運転(道路上を走行させる運転を除く。)
  • 最大積載量が1トン以上の不整地運搬車の運転(道路上を走行させる運転を除く。)
  • 作業床の高さが10メートル以上の高所作業車の運転(道路上を走行させる運転を除く。)
  • 制限荷重が1トン以上の揚貨装置又はつり上げ荷重が一トン以上のクレーン、移動式クレーン若しくはデリックの玉掛けの業務

会社は、労働者がそれらの業務ができないと、仕事が進まなくなりますから、会社の費用で勤務時間中に資格を取りにいかせることがあります。そして、ほとんどの場合、「すぐに辞めるなら資格を取るのにかかった費用は本人に負担させる」などとは言いません(※)

※ 資格を取るときに、「資格取得後に短期でやめる場合は費用の一部を会社に返却する」という約束で資格を取っている場合は、その約束に従って費用を会社に返さなければならない場合もあります。

しかし、資格取得後に数年を経ている場合や、返還の費用が高額で退職が困難になるような場合、会社にとって必要なので命令で取得させたが労働者にとっては必要のない資格の場合、返還の費用が実費を上回るような場合は、このような約束は労働基準法第16条に違反しており、無効だと考えられます。

ところが、労働者が様々な理由で会社を辞めようとしたとき、これは会社の費用で取得したものだという理由で免許証や技能講習修了証を本人に返さないことがあります。

社長
社長

この資格は、会社のカネで取ったもんだ
修了証はお前には渡さない。

あなた
あなた

ええ?! そんな・・・

業務を行うときは免許証等を携帯していなければなりませんから、このままでは、資格が必要な仕事ができなくなってしまいます。

これでは困りますね。そこで、このような場合にどうすればよいかについて解説します。


(2)資格証を返さないのは違法

作業衣を着た女性

※ イメージ図(©photoAC)

まず、ご理解いただきたいことは、会社に命じられて取ったにせよ、資格そのものは、本人のものであって会社のものではないということです。また、会社が本人から資格をうばうこともできません。

従って、免許証等を取り上げられても、資格そのものが取り上げられてなくなったわけではありません。資格はありますので、まずは、安心してください。

また、免許証等は、その資格を証明するためのものですから本人の所有物です。また、公的なものですから、誰かに譲り渡すことはできません(※)し、誰かが取り上げることもできません。このような権利のことを「一身専属権いっしんせんぞくけん」といいます。

※ 仮に、「会社を辞めるときは会社に資格証を渡す」というような規則があったり、そのような約束をしていたとしても無視してかまいませんし、むしろ渡してはいけません。そのような規則や約束は民法第 90 条によって無効となりますから安心して無視してください。

そればかりか、安衛法の免許証を他人に譲渡すると、安衛法第74条第2項(第5号)及び安衛則第66条(第二号)により、免許が取り消されますので留意してください。

なお、道交法の免許証の所有権は、安衛法の免許証とは異なり本人ではなく公安委員会にあります。

そして、労働基準法第23条第1項は「使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があつた場合においては、七日以内に(中略)労働者の権利に属する金品を返還しなければならない」と定めています。

重要な条文ですから、条文をここに書き出しておきます。

【労働基準法】

(金品の返還)

第23条 使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があつた場合においては、七日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問わず、労働者の権利に属する金品を返還しなければならない。

 前項の賃金又は金品に関して争がある場合においては、使用者は、異議のない部分を、同項の期間中に支払い、又は返還しなければならない。

第120条 次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。

 (前略)第二十三条(中略)の規定に違反した者

二~五 (略)

従って、本人が会社に対して「免許証等を返せ」と言えば、7日以内に返さなければ労基法違反ということになります。そして、労基法第120条により、30万円以下の罰金が科される犯罪なのです。

その一方で、会社が辞めた労働者の免許証等を所有していても役には立ちませんから、返さないのは「嫌がらせ」程度の意味しかありません。会社も、返すべきものは返すべきなのですが、そうしてくれなかった場合にどうするべきかを解説します。


2 ではどのようにするべきか

(1)再交付の手続きをとろう

労働安全衛生法では、免許証や技能講習修了証を滅失めっしつ(※)又は損傷したときは、再交付を受けなければならないと定めています。(安衛法第67条(免許証)・第82条(技能講習修了証))

※ 滅失とは言葉の意味は無くなってしまうことです。どこにあるのか分からない状態や、落としてしまった場合ですね。会社が返してくれない場合は、どこにあるか分かっているので滅失ではないとする考えもあるようですが、会社側が頑として返さない場合は、実質的に滅失と考えてよいのではないかと思います。

免許証の場合は、免許証の交付を受けた都道府県労働局長又は、今住んでいる都道府県の都道府県労働局長に再交付申請書を提出すれば再交付してくれます。技能講習修了証の場合は、技能講習修了証の交付を受けた登録教習機関(※)に再交付申込書を提出すれば再交付してくれます。

※ 技能講習を受けた登録教習機関が業務を廃止しているときは、「指定保存交付機関」にお問い合わせください。なお、2022年には、富士通株式会社(詳細は後述します)が指定保存交付機関に指定されていますが、これまでも同社が指定されていました。


(2)受講した登録教習機関を忘れた場合など

困った女性

※ イメージ図(©photoAC)

従って、免許証等が再交付されれば問題はないのですが、技能講習については受講した登録教習機関が分からないと再交付の申請ができません。本人がどの登録教習機関で技能講習を受けたか覚えていないケースがあります。とりわけ、複数の資格区分で技能講習を受けていれば、そのようなケースは多いと思います。

そのときは、一緒に受講した人と連絡が取れるのであれば、その人の修了証を見せてもらって確認するという方法がありますが、実際にはその方法で確認できることはあまりないでしょう。

また、受講した場所が分かっていれば、その地域にあるすべての登録教習機関に尋ねてみるなどの方法で分かることもあります。しかし、建設業などで現場を転々としている場合はどの地域で取得したかさえ覚えていないことがあります。

さらに、受講した登録教習機関が分かっても、その登録教習機関から「会社が免許証等を返却してくれないことは、滅失に当たらないので会社から返してもらいなさい」と言われることがあります(※)

※ 滅失したのであれば、登録教習機関は再交付をしなければなりません。「会社から言われているので、あなたには再交付はしない」とは言えません。

そして、私(柳川)は、会社ががんとして返さないのであれば、滅失と同様に扱うべきだと考えています。しかし、会社が修了証を所持していて返してくれないときに再交付すると、修了証が2枚発行されることになりますので、このように言われるケースがあるようです。

しかし、登録教習機関が分からない場合や、再交付をしてくれない場合は、指定保存交付機関に依頼することで解決する場合がありますので、それも試してみましょう。


(3)指定保存交付機関での資格証明書の発行手続き

運が良ければ、登録教習機関が「指定保存交付機関」に受講者台帳を「提供又は引渡し」している場合があります。その場合、指定保存交付機関に問い合わせると、修了証等を再交付(※)してもらえることがあります。

※ 厳密には、修了証の再交付ではなく「証明書」の発行です。また、再交付の申請ではなく技能講習修了証明書交付申込書を提出することになります。しかし、証明書であっても安衛法上の効果は修了証とまったく同じです。

【指定保存交付機関(2022年)】

  • 富士通株式会社
  • 〒108-0014
  • 東京都港区芝 5-35-2 安全衛生総合会館 4階(地図
  • 電話:03-3452-3371、3372
  • FAX:03-3452-3349
  • 電話受付:9:00~17:00
  • 窓口受付:9:00~12:00、13:00~16:00
  • 休業日:土曜日、日曜日、祝日、年末年始(12 月 29 日~1 月 3 日)

しかし、登録教習機関が廃止されていれば受講者台帳は指定保存交付機関に引渡されているはずですが、そうでない場合、登録教習機関に提供されていない可能性があります。そうなると指定保存交付機関ではどうすることもできません。


(4)最後は労働基準監督署から返却を指導してもらおう

指定保存交付機関に台帳がなく、受講した登録教習機関も分からなければ、技能講習修了証を返してくれない会社を管轄する労働基準監督署に相談してみましょう。

その場合、予め会社に対して免許証等を返せと要求し、7日経っても返してくれなければ、労基法第23条違反だとして労働基準監督署に相談しましょう。そうすれば、労基署から会社に対して免許証等を返すように指導してくれるでしょう(※)

※ 監督署が取り返してくれるわけではありませんので、会社から受領するのはあなたがしなければなりません。

もちろん、事前に会社に対して「返せ」と要求したり、会社からの受取りをすることが嫌でなければ、再交付の手続きをせずに、最初から監督署に相談してもよいでしょう。

監督署の管轄は厚生労働省の「都道府県労働局(労働基準監督署、公共職業安定所)所在地一覧」で調べることができます。

会社は、労働基準法の規定で労働者のものは返さなければならないのですから、労働基準監督官が対応してくれるはずです。もっとも、シュレッダーに放り込まれている(※)と返却は困難になります。その場合は、取得した登録教習機関を教えて欲しいと頼んでみましょう。いったん監督署を通しておくと、会社側も早く処理したいので意外に教えてくれることがあります。

※ 他人から預かっているものを勝手に破損しているのですから、これも犯罪です。


3 最後に

免許の取得や技能講習の修了等の資格は、会社が費用を負担していたとしても、会社の都合で労働者に取らせたものでしょう。労働者に対する福祉として取らせたわけではありませんから、資格取得後にごく短期で労働者が辞めるのはけしからんという会社の気持ちは分からないでもありません。

怒る女性

※ イメージ図(©photoAC)

しかし、労働者が辞めるときに、免許証や技能講習修了証を本人に渡さないということは許されません。まして、数年間働いた労働者にまで資格証を渡さないというのは、同情すべき点はありません。

いずれにせよ、資格証を会社に取り上げられたとしても、前述したように資格がなくなるわけではありません。

頑張って、再交付を受けるか会社から取り戻すようにして下さい。なお、それまでは業務を行ってはならないことは当然です。





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