法人格移転と登録教習機関の立場




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協議する男女

※ イメージ図(©photoAC)

会社法が商法から分離(2005年7月)し、法人格が移転した場合の権利・義務関係の継承が容易に行われるようになりました。その後、7年を経過し、近年では登録教習機関についても合併、分割等が行われることが増えてきました。

この場合、登録教習機関としての地位が承継されるかどうかが気になると思います。これによって、前法人のときに発行した修了証について、その後の修了証との統合修了証作成の可否や、前法人時の修了証の再発行が可能かどうかが変わってくることになります。

本稿では、この問題について解説しています。なお、柳川に著作権があることにご留意ください。



1 はじめに

執筆日時:

最終改訂:


(1)問題の所在

会社法

※ イメージ図(©photoAC)

2005年(平成17年)7月に、会社法が商法から分離し、このとき会社の合併、分割等が容易に行えるよう大規模な改正が行われた。登録教習機関においても、競争の激化に伴い、今後、合併や分割等により事業を別法人に移行するケースが増加することが考えられる。

会社法が商法から分離した当時、合併、分割等による法人格移転では、法令に明確な否定の規定がない限り、公法上の許認可や登録を受けた立場も承継するのではないかという考えが一部にあったことは事実である。

確かに、会社法に定める合併、分割等においては、権利義務関係を(一定の債権者保護制度の制約の下に)承継することが可能である。しかし、結論を言えば、技能講習機関の登録のような立場は、公的な制度上のものであり、かつ第三者との権利義務とは直接の関係はないものであり、特別な法的根拠がなければ、登録教習機関としての地位が法律上当然に承継されることはない(※)のである。

※ ここで述べるわけにはいかないが、本件についてはある事情のため、一部に誤解が生まれている。その誤解を解くために本稿は、詳細に条文の説明をしているが、ここに記したことが現在の行政の解釈である。誤解しないようにして頂きたい。

登録教習機関にとっては関心のあることだと思われるので、合併、分割等の場合の登録の承継に関する法令上の規定について解説する。


(2)法令のMandAの規定の概要

ア 会社法

並んで前を見る男女会社員

※ イメージ図(©photoAC)

会社法の第5編においては、MandA関連の規定として、吸収合併、新設合併、吸収分割、新設分割、株式交換及び株式移転の6種類について定めている。しかし、新設合併が行われることはきわめてまれ(※)であり、株式交換はたんに株主が変わるだけで新法人ができるわけではなく、また、株式移転では新法人はできるものの、これによって事業が新会社(持ち株会社)に移転することはない。

※ 会社が消滅すれば、権利義務関係を別な会社に移転しなければならない。債権者保護が面倒な上に、不動産の移転関係の登記のコストもかなりの額になる。そのため、2つの会社が消滅する新設合併ではなく、1つの会社だけが消滅する吸収合併を選ぶのである。もちろん、会社の名前は新しくすることも多いが、そのことは吸収合併か新設合併かとは関係のない話である。

従って、会社の場合は、実質的に吸収合併、吸収分割、新設分割のみを考えればよい。

イ 会社以外の法人

(ア)一般社団法人及び一般財団法人

一般社団法人及び一般財団法人については、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法人法」という。)の第5章に吸収合併及び新設合併について定められている。これは、一般法人法によって定められたものであり、それまでは定められていなかった。

なお、一般社団法人及び一般財団法人については、公益法人や特例民法法人との合併はできないものとされている。

(イ)公益財団法人及び公益社団法人

公益社団法人及び公益財団法人については、公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(以下「公益認定法」という。)の第2章第二節第四款に合併及び事業の譲渡について定められている。

なお、公益法人の営利法人等への転換に関する指針により、公益法人の営利法人への転換の手段として、公益法人から株式会社等への営業譲渡が行われることがある。

営業譲渡によって、登録教習機関の地位が移転することは考えにくい。登録教習機関である公益法人が営業譲渡によって、新設又は既存の株式会社に技能講習関連の営業を譲渡する場合は、いったん公益法人の側で登録を廃止し、株式会社が新たに登記をするしかない。

(ウ)会社以外の法人の分割

会社以外の法人については、一般法人法及び公益認定法には、分割についての規定がない。従って、従来の営業譲渡、営業出資、事後設立等の方法によらなければ、新法人を設立したり営業の移転を行ったりすることはできないものと考えられる。

営業譲渡によって、登録教習機関の地位が移転することはない。これは公益財団法人及び公益社団法人と同様である。


2 法律上の規定

(1)労働安全衛生法の規程

労働安全衛生法は、検査業者については第54条の5において、事業の譲り渡し、相続、合併若しくは分割について、その地位の承継についての規定を置いている。

【労働安全衛生法】

第54条の5 検査業者がその事業の全部を譲り渡し、又は検査業者について相続、合併若しくは分割(その事業の全部を承継させるものに限る。)があつたときは、その事業の全部を譲り受けた者又は相続人(相続人が二人以上ある場合において、その全員の同意により事業を承継すべき相続人を選定したときは、その者。以下この項において同じ。)、合併後存続する法人若しくは合併により設立された法人若しくは分割によりその事業の全部を承継した法人は、その検査業者の地位を承継する。ただし、当該事業の全部を譲り受けた者又は相続人、合併後存続する法人若しくは合併により設立された法人若しくは分割により当該事業の全部を承継した法人が第五十四条の三第二項各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。

 前項の規定により検査業者の地位を承継した者は、厚生労働省令で定めるところにより、遅滞なく、その旨を厚生労働大臣又は都道府県労働局長に届け出なければならない。

ところが、登録教習機関について定める同法第77条その他の条文には同種の規定がなく、また同条第3項も第54条の5を準用していない。

【労働安全衛生法】

(登録教習機関)

第77条 (第1項及び第2項 略)

 第四十六条第二項及び第四項の規定は第一項の登録について、第四十七条の二から第四十九条まで、第五十条第一項、第二項及び第四項、第五十二条、第五十二条の二、第五十三条第一項(第四号を除く。以下この項において同じ。)並びに第五十三条の二の規定は第一項の登録を受けて技能講習又は教習を行う者(以下「登録教習機関」という。)について準用する。この場合において、次の表の上欄に掲げる規定中同表の中欄に掲げる字句は、それぞれ同表の下欄に掲げる字句と読み替えるものとする。

  (表略)

4~7 (略)

また、「労働安全衛生法及びこれに基づく命令に係る登録及び指定に関する省令」(登録省令)第19条の17にも、検査業者のみについて承継の手続きを定めている。

【労働安全衛生法及びこれに基づく命令に係る登録及び指定に関する省令】

(登録事項の変更)

第19条の17 検査業者は、氏名若しくは名称又は住所について変更が生じたとき(法第五十四条の五第一項 の承継により変更が生じたときを除く。)は、遅滞なく、検査業者登録事項変更等申請書(様式第七号の四)に登録証及び書換えの理由を証する書面を添えて、所轄都道府県労働局長等に提出し、登録証の書換えを受けなければならない。

2及び3 (略)

すなわち、以下の2点から条文を解釈すれば、立法者の意思は登録教習機関については、合併、分割等によって地位の承継をさせないとしているのである。

  • 労働安全衛生法が、検査業者については、合併、分割等に関して地位の承継について定めながら、あえて登録教習機関については同種の定めをしなかったこと。
  • 労働安全衛生法及びこれに基づく命令に係る登録及び指定に関する省令に登録教習機関の承継に関する手続きが定められていないこと。

(2)通達等

登録教習機関がその事業の全部を譲り渡し、又は検査業者について相続、合併若しくは分割(その事業の全部を承継させるものに限る。)があったときに、その地位が承継されるかどうかについて明記した解釈例規等の通達は存在しない。


(3)他の許認可の制度等の例

協議する男女会社員

※ イメージ図(©photoAC)

他の制度では、会社分割によって、許認可等で承継されるもの、承継されないものについて、以下のような例がある。これらの例の多く、承継されるものについては、承継されるとの法律上の規定があり、承継されないものについては、承継されないという規定がある。その例外としては、古物商の許可があり、分割に関する規定はないが、分割によっては古物商の許可は承継しないものと考えられている。

すなわち、これらの例からも分かるように、合併、分割の際に許認可等を受けた地位が、別法人に承継されるためには、法律上の根拠が必要であり、根拠がない場合に合併、分割によって、その地位が法律上当然に承継されるわけではないのである。


(4)結論

ア 法人格の移転の場合

以上のことから総合的に考えると、登録教習機関がその法人格を移転した場合には、登録教習機関としての地位は移転しないのが正しい法解釈であると考えられる。

このことに関して通達類が発出されていないのは、会社法が公布された当時、当然のことなので通達に記述する必要がないと考えられたからであろう。

イ 個人の登録教習機関の場合

なお、登録教習機関が個人である場合に、相続によって権利義務関係を包括承継したときも、登録教習機関である地位が承継されることはない。

従って、登録教習機関が技能講習を実施している途中でその個人が死亡した場合、その講習について修了証を発行することは許されないこととなる。すなわち、その講習は完全な形で行われていない(死亡後は登録教習機関によって行われていない)ので、無効ということになる。


3 法人格が移転する場合の手続き

(1)登録の手続き

登録教習機関が、MandAによって法人格が移転する場合、あらかじめ前法人の登録の廃止の届出を、安衛法第77条第3項が準用する同第49条により、都道府県労働局長に対して行わなければならない(※)

※ 廃止の手続きは、前法人のときに前法人が行うべきである。ただし、前法人の手続きが間に合わなかった場合は新法人が手続きを承継して行うべきであろう。

もっとも、法人格が消滅するのであるから、手続きがされていないとしても、法律上、当然に廃止されることになる。たんに手続き違反(安衛法第121条)として処罰の問題が生じるだけである。

また、新法人が法人格移転後も技能講習を実施したいのであれば、新法人が新たに登録の申請を行うべきである(※)。当然のことながら、登録までの間は技能講習を実施することはできない。

※ 吸収合併、吸収分割などで、存続法人や分割承継会社などが、消滅する法人などと同じ技能講習の登録をすでに受けていた場合は、業務規程の変更のみでよい。


(2)受講者台帳の引継ぎ

前法人が行った技能講習の受講者台帳は、「労働安全衛生法及びこれに基づく命令に係る登録及び指定に関する省令」(登録省令)第25条により指定保存交付機関に引き渡さなければならない。

この引渡しにより、原本が移管されるので、仮に写しが残っていたとしても、それは引き渡しの時点での記録にすぎず、その後の氏名変更等は反映されないので台帳として用いることはできない。


(3)前法人時の修了証の再発行等

当然のことながら、新法人は前法人の行った技能講習の修了証の再発行を行うことはできないし、前法人の行った技能講習の修了証と新法人の修了証を合わせて統合修了証の発行を行うこともできない。

現実には、法人格が移行したとしても、受講生からみれば同じ場所で同じ従業員が技能講習を実施しており、場合によっては法人の名称も同じなのに修了証の発行ができないということでトラブルが起きることもある。

そこは、丁寧に説明するしかないだろう。前法人は、新法人とは別な人格であり、しかも台帳も移行しているのであるから、前法人の行った技能講習の修了証を発行することは許されないのである。

なお、前法人が行った技能講習の修了証の再発行は指定保存交付機関が行うこととなる。





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